【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

足に軽傷

2010-07-15 17:23:56 | Weblog
この豪雨で、ローカルニュースははじめは「避難勧告が××地域にでた。負傷者は○人」と報じて、負傷の内容も「逃げようとしてガラスを踏んで足に軽傷」などとけっこう詳しく言っていましたが、そのうちに「死者が○人、避難した人が×千人」などと言うようになりました。最初に「足に軽傷」で報じられた人、なんだかちょっと気の毒に思えます。もちろん亡くなった人はもっと気の毒なのですが。

【ただいま読書中】『ハジババの冒険(1)』J・モーリア 著、 岡崎正孝・江浦公治・高橋和夫 訳、 平凡社(東洋文庫434)、1984年、2100円(税別)

これは、イギリスから種痘が世界中に広がり始めた時代のお話です。
ペルシアのエスファハンで床屋の息子として生まれたハジババは、教育も受け、腕の良い床屋になりますが、冒険心を押さえられず、隊商に加わって冒険旅行に出発しました。しかし一行はトルコ人の盗賊に襲われハジババは捕虜になってしまいます。盗賊に取り入って一緒に行動し、なんと生まれ故郷を襲撃する手引きまでやってからやっと脱出したハジババは、別の街で水売りになって成功し、ついで煙草売りになります。そこでひどい目にあったハジババは、行者(要するに詐欺師)になろうとして結局やめ、テヘランに流れ着いて侍医頭に召使いとして仕えることになります。西洋からの医者が王に取り入ろうとするのを撃退したり恋に落ちたり、それなりに忙しい日々を送っています。しかし恋に落ちた相手は、仕えている医者のハーレムにいる美しのゼイナブ。ちょっと障害がありすぎます。それでも二人の心は接近しますが、そこにもっと大きな障害が。王が恋敵として登場したのです。これは敵いません。ハジババはゼイナブの幸せ(と無事(王の不興を買ったら、即座に死刑なのですから))を祈ります。
ハジババの人生は、ちょっと上がるとすとんと落とされ、そこからまたちょっと上がるとまたすとん、の繰り返しです。なかなか素直にわらしべ長者のようなコースは歩めません。ただ、その場その場で小ずるい手を使っては何とかしてしまうところが、笑えます。ハジババは小悪党なのです。
さて、失恋直後のハジババは、何を思ったか医者のふりをして、そのまま刑吏となります。いくらでたらめに職を転々とするとはいっても、ちょっと極端すぎますが、そこでも彼は本領を発揮、うまく権力者に取り入っていきます。

本書は、著者が「ペルシアの物語を翻訳した」体裁で著したものだそうです。つまりは、西洋人による『千一夜物語』もどき。そのせいでしょう、雰囲気はたしかにペルシア風ですが、たとえば詩の掛け合いのところなどは、味わいの点で『千一夜物語』には遠く及びません。ハジババの小悪党振りはなかなか魅力的ですが、それを引き立てるだけの“ライバル”が力不足です。ただ、西洋の読者には「異国風味」が強烈で、それだけで十分だったのかもしれません。さらに登場するのが小物ばかりだったら、西洋の優越性も満足できますから。