私が首都高を運転したのは1回だけですが、その経験だけで十分でした。渋滞がひどくてずいぶん長い駐車場だなあ、と思っていると、急に流れ始め、左右から合流車がどかどかやってきます。さらに自分がどこに行きたいか、そのために右の車線にいればいいのか左がいいのかがわかりません。泣きそうになっていると、トンネルに入り、なんとトンネルの中でも合流があります。もう勘弁してくれ、のオンパレード。
ということで、私は東京都民になることはすっぱりあきらめました。そしてその決心を後悔したことは……あまりありません。
【ただいま読書中】『首都高速の科学 ──建設技術から渋滞判定のしくみまで』川辺謙一 著、 講談社ブルーバックス、2013年、900円(税別)
首都高最初の区間(京橋~芝浦)は1962年に開通、都心環状線の開通は67年でした。東京オリンピックが64年ですから、「オリンピックのために首都高(と新幹線)は作られた」とも当時言われましたっけ。実際には戦前から計画があり、ちょうどタイミングが良かった、ということだったようです。
首都高はヨーロッパともつながっています。「アジア・ハイウェイ」は、東京日本橋を起点として、釜山・ソウル・北京・ハノイ・ニューデリー・テヘラン・イスタンブールを経て、トルコとブルガリアの国境カピキュレでヨーロッパハイウェイと接続しているのです。つまり首都高はヨーロッパへの入り口、でもあるのです。
欧米ではまず「都市間」の高速道路が発達してそれから都市高速が作られましたが、日本ではまず首都高が建設され、それから都市間が作られた点が違っています。それだけ首都の交通量が多くて何とかする必要があった、ということでしょう。
建設技術の進歩はすごいものがあります。交通管制や情報収集や表示にもハイテクが駆使されています。
事故対応も大変です。首都高では1日平均30件の交通事故が発生します。通報から首都高パトロール隊が現場に駆けつけるまで、平均10分。早いですねえ。パトロール隊は落下物にも対応します。こちらは1日平均80件。多いのはベニア板や角材、鉄くずなどですが、珍しいところで怪獣の足(撮影用)なんてものもあったそうです。
トンネルからの排気も芸が細かい。山手トンネルでは、まず有害物質を除去した上さらに「音(トンネル内の騒音)」も消音装置で小さくしてから地上に排気されているそうです。そのために山手通りに設けられた換気塔の高さは45m。でっかい(ハイテク)煙突です。
立体構造は複雑です。立体交差やジャンクション、パーキングエリアなどが、土地が限られた都心部にコンパクトに収められています。トンネルでさえ立体構造を考える必要があります。地下に埋設されたパイプや地下鉄、川底などを避けて上がったり下がったり曲がったりするトンネル工事が行われています。
映画「惑星ソラリス」のオープニングで、首都高のドライブシーンが登場しました。当時は“あれ”が「未来都市のイメージ」だったのです。2020年にはまた東京オリンピックが開催されます。さて、そこで首都高はどんな役割を果たすことが期待されているのでしょう。そして、「未来都市のイメージ」は、こんどは何になるのでしょう?