【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

○かさ

2015-07-23 06:29:28 | Weblog

 若者には、経験も知恵も豊かさもあまりありません。だったらせめて馬鹿さのない若さに、なんの価値があります?

【ただいま読書中】『チェーホフ短編集』チェーホフ 著、 沼野充義 訳、 集英社、2010年、1600円(税別)

目次:「かわいい」「ジーノチカ」「いたずら」「中二階のある家」「おおきなかぶ」「ワーニカ」「牡蠣」「おでこの白い子犬」「役人の死」「せつない」「ねむい」「ロスチャイルドのバイオリン」「奥さんは子犬を連れて」

 私はチェーホフで読んだことがあるのは『桜の園』と『シベリアの旅』程度のチェーホフ初心者なので、単純に作品だけを楽しみましたが、本書では各短編ごとに訳者の詳細な解説がつけられています。下手すると解説の方が本編より長かったりします。中には雑誌初出時との異同比較なんてものも。ですから、チェーホフ入門として作品と解説を合わせて読んで“学習”するという使い方も本書にはありそうです。ただ、初心者が最初からあまりに詳細な解説を読んでしまうと「自分なりのチェーホフのイメージ」を持てなくなって他人のイメージを借用するだけの人生になってしまう危険性もありますが。それが嫌な人は、作品だけを読めば良いでしょう。
 チェーホフに限りませんが、優れた短編は一つの鋭い疑問符なのかもしれません。チェーホフの短編は、読者に疑問符を次々突きつけているような気がします。それを発見してその疑問符に対して自分なりの回答を試みるのも読書の楽しみでしょう。「他人の回答」を読むのは、自分の人生の楽しみにはなりません。
 「私の回答」も一つ示しておきましょう。冒頭の「かわいい」では、何回も結婚するがそのときの夫によって自分の意見や生き方をころころ変える女性オーレンカが主人公です。これを「女の愚かしさ(かわいさ)」と捉える人もいるでしょうが、私は「人間の愚かしさ(かわいさ)」と捉えました。男でも女でもそんな人はいる、と。そして、「自分の意見」を持たないことによって得る「安定」は実は「不安定」だ、とも感じました。たとえば最近の日本だったら「郵政民営化」「政権交代」「アベノミクス」でつねに「多数派」に属した人は「オーレンカ」の一種ではないかな。