図書館の本に平気で線を引く人がいます。面白いのは、その線がみごとに「ポイント」を外していることが多いことでしょう。「こんなのただの修辞だぞ」というところに念入りに線が引いてあって、「これが著者の主張のキモだろう」は無視されていることがけっこうあります。
そもそも「図書館の本に線を引く」というピントのずれた行為を平気でする人間だから、文書読解もポイントを外すのは当然のことなのかもしれませんが。
【ただいま読書中】『世界のあやとり』東京書店 編、東京書店、1998年、1700円(税別)
東京書店ではこれまでにも「あやとりの本」を出版していて、本書はその“完結編”としての位置づけだそうです。世界のあちこちで収集した「あやとり」の中から厳選された「高度なあやとり」が何十種類も収録されています。
私はあやとりは幼少児期にしかやったことがありませんが、本書に出てくるのはもう「児戯」ではなくて「技術」「芸術」と言いたくなるものばかりです。特に驚いたのは、クラマス・インディアン(オレゴン州)の「走り回る2人の少年」。14も経過図を用いてできたものは、右手で一本の糸を操作すると「2人の少年」が本当に走っているように見えるのだそうです。クラマス・インディアンのあやとりには「ガラガラヘビと少年」という、ガラガラヘビが少年を襲うものも紹介されています。
日本の「三段ばしご」と同じものがカロリン諸島では「サケの網」とか「3つのダイヤ」と呼ばれているそうです。ニューギニアの「カニ」はその形が見事に写し取られていますし、「ウナギ」は形はあまり似ていませんがそのするりとした動きが見事です。帝国主義の時代から二十世紀まで「未開人」などと人を貶める言い方が流行っていましたが、その「未開人」は自然を抽象化し文化にする力をしっかり持っていたわけです。それを理解できない方が、たぶん「未開人」の名にふさわしいのではないかな。