【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

インテリの問答

2017-01-11 07:05:19 | Weblog

 よくテレビで「インテリ○○軍団」を集めてのクイズ番組をやってます。だけど「本物のインテリ」とはクイズだったら、「クイズに正しく答える人」ではなくて、「人が思いつかないような問いを立てることができる人」ではありませんか?

【ただいま読書中】『ペトログラード行封印列車』オーエン・セラー 著、 松田銑 訳、 文藝春秋、1981年、1500円
  
 第一次世界大戦、ヨーロッパではアメリカの参戦が囁かれ、ロシアではラスプーチンが暗殺されたばかりの頃。スイスには革命を願う亡命ロシア人たちが集まっていました。その中でスイスの秘密警察が特に注視していたのが、ヴラジーミル・イリイッチ・ウリヤーノフ(レーニンの本名)でした。
 「レーニンの封印列車」は「歴史を変えた列車」として有名ですが、本書はその史実をベースに小説、それもスパイ小説化したものです。
 ロシアでは食糧と燃料が不足し、暴動寸前で、それが軍の志気にも悪影響を与えていました。二正面作戦を戦うドイツとしては、ロシアの離脱はありがたいことなので、革命を起こそうと陰謀を巡らします。イギリスの諜報員(「モーム」という名前ですから、サマセット・モームのことでしょうね)もドイツがロシアに関して何らかの大規模な陰謀を企んでいることを察知します。ロシアの諜報機関も体制を守るために動きます。しかし、ヴラジーミル・イリイッチ・ウリヤーノフは動きません。ロシア革命を夢見る様々なセクトの人間がすべて自分の“手下”にならなければ“出馬”する気は無いのです。
 ドイツの工作員エーラーは、若いときにレーニンの著作を読んで強い影響を受けていました。しかし「レーニンの著作」と「レーニンの人物像」には大きなギャップがありました。それでもエーラーは粘り強く交渉を進めます。ところが、ロシアで暴発的に革命が起きてしまいました(事件は会議室ではなくて現場で起きるもので、革命はスイスではなくてロシアで起きるものだったようです)。レーニンは焦ります。自分を抜きにして革命が進行してはならない、とロシアに早急に帰ろうとします。ドイツの外相(エーラーの上司)は、ドイツが表に出ないのだったらレーニンの通過を認めても良い、と言います。レーニンとしても、“敵国”ドイツを無事に通過することにはリスクがあります。下手すると敵と通じた反逆者と呼ばれる可能性がありますから。
 ロシア皇帝は退位しましたが、臨時政府の基盤は脆弱です。フランス革命の時と同様、反革命(王政復古)の動きがあります。ソビエット(労働者、農民、兵士の代表が集まった評議会)は言わば烏合の衆です。だからレーニンはソビエットの指導者になって臨時政府を倒そうと目論んでいました。しかしそれを望まない勢力もロシア国内外にいます。だから複雑な折衝が繰り返されました。そして、やっと帰国のための列車が動き出します。ドイツ国内では列車は「封印」をされて、「敵国人とは一切の交渉をしない」ことでロシアに対する「身の潔白」を示す、という露骨な政治的パフォーマンスをしながらの帰国です。しかし、ロシア帝国に忠誠を誓っていたロシア秘密警察は「革命の成就」を望まず、レーニン暗殺を狙う刺客が列車に紛れ込んでいました。ただ、その真の動機は……
 はらはらどきどきを乗せながら列車は進みます。レーニンが無事にロシアに入ったという史実はわかっていますが、その過程でレーニンが見せる「現実主義」は、小説とはわかっていますが、いかにもありそうなものです。純朴な共産主義者は本書を読んで怒り狂うかもしれません。私は楽しんでしまいましたが。