【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

和式トイレ

2017-01-16 06:57:22 | Weblog

 私がイメージするのは「ぽっとんトイレ」や「金隠し付きでしゃがんで使う便器」ですが、最近の地球では「暖房便座温水温風乾燥その他オプションたっぷり付きのトイレ」のことらしいです。

【ただいま読書中】『奇食珍食糞便録』椎名誠 著、 集英社新書、2015年、760円(税別)

 安心して排便できる環境が整っている日本は、世界では“異色の存在”なのかもしれない、ということで、著者は世界中で排便して回ります。中国の公衆トイレには仕切りがありません。皆ずらっと並んでお尻を出しています。中国ではトイレは「開放」されているのです。(私が20世紀の最後頃に上海に行ったときには、ちゃんと個室でしたが、それは通ったコースが西洋文明化されていただけかもしれません。著者は21世紀になっても仕切りのないトイレで排便をしています)
 排便の話は「下ネタ」に分類されるのかもしれませんが、「野生動物は排便時間はとても短く、始末に紙を必要としない」ということから「人間という動物についての考察」が展開されることもあります。中途半端なところで考察を終わらせるのが著者らしい、とは言えますが。
 チベットの「開放トイレ」も中国とは違った強烈さを持っています。私はこちらはちょっと無理かもしれません。
 南の島は「豚便所」でした。野糞をしようとジャングルに入ると、豚の群れがついてくるのです。目的はもちろん新鮮な便の争奪戦(ここでは人糞は豚の餌だったのです)。豚に見つめられながらの排便は、なかなか落ち着かないものだそうです。ところが数日経つと著者は豚たちに見放されてしまいました。味が気に入らなかった?などと著者は悩みます。しかしその理由は……
 モンゴルでは、著者は排便中に犬に囲まれます。そういえば平安京では、路上の人糞は犬の餌でした(貴族の日記にその記述があります)。ではその犬や豚の糞は、誰の餌になるんでしょう?
 世界各地の(標準的な日本人にとっては)過酷なトイレ事情を見ていると、「トイレ」を成立させるのは「ハードウエア(建物や便器や水洗などの設備)」だけではなくて「メインテナンス(清掃、故障時の対応)」であることがよくわかります。日本では公衆トイレと言えば、暗い・汚いのネガティブなイメージがつきまといますが、実は世界基準から見たら「とっても素晴らしいもの」のようです。
 本書の後半は「出す」方ではなくて「食べる」方で、これまたけっこう強烈な食体験が並べられていますが、私は「出す」方だけでもう十分“お腹いっぱい”になれました。いろんな意味で“お得”な本です。