反物質を反動物質とする宇宙船の場合、その「物質」はどう呼んだら良いのでしょう?
【ただいま読書中】『蟬の女王』ブルース・スターリング 著、 小川隆 訳、 早川書房(ハヤカワSF文庫822)、1989年、408円(税別)
目次:「巣」「スパイダー・ローズ」「蟬の女王」「火星の神の庭」「〈機械主義者/工作者〉の時代」
宇宙に進出した人類は、遺伝子工学で身体を改造する〈工作者〉と機械で改造する〈機械主義者〉の二大派閥に分裂、お互いに相手の息の根を止めようと過酷な競争をしていました。そこに登場したのが、人類よりもはるかに進歩した科学技術を持つ異星人〈投資者〉。
我々が知っている「人間」とはずいぶんかけ離れた存在となった未来の人類ですが、欲望とか陰謀とかは健在です。しかし、宇宙環境は過酷で、人の精神世界は宇宙と同じように荒涼としたものになってしまっているように見えます。人命とか自分の身体の価値とかは、非常に軽くなってしまっているのです。そういった「未来の世界」で繰り広げられるいくつもの物語は、あまりに異質だからこそ、かえって「人間とは何だろう」という疑問を読者に突きつけてきます。
今では廃刊になっていて古本にはずいぶん高い値段がついていますが、復刊してくれないかなあ。ちっとも古びていないので、今でも十分読む価値がある本だと私には思えます。