圧力をかけるのに、国際世論が一致して当たらないと効果がない、という意見があります。ところで北朝鮮の方は……
1)国際世論が一致しない場合……だから自分がやっていることには意味がある(味方がいる)、と考えて従来の路線をますます推し進める。
2)国際世論が一致した場合……完全に孤立して追い詰められた気分で、ますます従来の路線に固執する。
……あれ?
【ただいま読書中】『エクソン接収』リチャード・ローマー 著、 矢野徹 訳、 集英社、1978年、1200円
アメリカ大統領は「カナダ併合」を宣言します。カナダ人にはすべてにアメリカの市民権を贈り、各州はアメリカの州と同等にしてやる、今から各主要都市に軍を送り込むから、素直に受け入れろ、と。カナダ首相は「まず経済制裁だろう」と予想していましたが、カナダ軍の参謀総長は軍人として「軍事行動」を予測し(だってカナダ軍は常備軍がたった5万、装備もへなちょこなんですよ。アメリカからはちょろい目標に見えます)、あらかじめ準備していた「レセプション・パーティー作戦」でアメリカ軍を迎え撃つことにします。アメリカ軍が核兵器や都市への爆撃をしない(だってカナダにある「アメリカの資産」が破壊されたら困りますから)こととカナダ軍を甘く見ていることを大前提に、予想外の動きで攪乱するつもりです。
これが中南米の小国への軍事侵攻だったら、まずレーダー基地を叩いたり首脳を暗殺したり、空挺部隊がパラシュート降下したりヘリであちこちに降下したり、でしょうが、基本的に“友好国”だしできるだけ無傷で丸ごと手に入れたいし国際的な非難も受けたくない、ということで、「圧倒的に有利」なはずの強腰のアメリカにも実はけっこう“シバリ”がかかっていました。なんと輸送機で編隊を組んで堂々と空港に強行着陸です。「レセプション・パーティー」によって滑走路上で飛行機(と1万5千の兵士)はミサイルに狙われ、身動きが取れなくなってしまいます。橋やトンネルは爆破され、ハイウェイからの陸軍侵攻もストップさせられます。
トロントの空港でカナダ軍はアメリカ軍に「最後通告」をせざるを得ませんでしたが(その結果死者が生じています)、ホワイトハウスにはソ連から「最後通告」が。アメリカ大統領は,自分がしたことをまるでブーメランのように自分自身にくらうことになってしまいます。
そして、フランスまで巻き込んでの和解交渉。
さて、「カナダ占領」の話は終わりましたが、本書はまだ半分以上残っています。
実は本巻では前巻の『最後通告』から主人公が交代しています。こちらの主人公はドガスペ。カナダ国有石油会社「ペトロ・カナダ」の社長ですが、カナダ市民軍(予備役)大佐で、「レセプション・パーティー作戦」ではトロント空港での指揮官でした。彼が「カナダのエネルギーの自立」のためには、豊富な原油などの地下資源を自分たちで開発・運送・製油・販売をする必要がある、と考え、そのための手段として「エクソン買収」を思いついてしまいます。無茶苦茶です、というか、この無茶苦茶なアイデアを小説にするために「アメリカによるカナダ占領」なんて話が必要になったのでしょう。強引な国有化とか接収ではなくて、株式の50.1%の買収を「カナダ政府」が行う、というのです。その話を聞かされた人は、みなまず卒倒しそうになります。しかしドガスペはスイスの銀行から融資の契約を取り付け、カナダとアメリカでの代理人を選定し、カナダ政府と経済界を説得し、ついにアメリカに乗り込みます。エクソンの経営陣は、「外国人にアメリカのトップ企業が支配されてはならない」と裁判や議会に訴えてでも抵抗する構えです。それどころか、脅迫・買収なんでもあれ。
ここで私は立ち止まってしまいます。カナダが目指すのは「買収」です。しかし本書のタイトルは「接収」。あれれ?
新しいアメリカ大統領はユダヤ人でした。ところが石油問題ではどうしても「アラブ」が関係してきます。本書でも、大統領とサウジの石油大臣が面と向かって(敵対種族としての)感情的な瞬間を迎えるシーンがあります。そして、石油大臣の提案は、大統領にとってびっくり仰天のものでした。
まるで冒険小説のような政治経済小説です。この人の作品を読んだのは初めてですが、ちょっと他のも探して読みたくなってきました。