日本政府のふだんからの主張通り「自助」と「共助」がメインなんですね。
【ただいま読書中】『空気と人類 ──いかに〈気体〉を発見し、手なずけてきたか』サム・キーン 著、 寒川均 訳、 白楊社、2020年、2800円(税別)
地球は気体でできた、と話が始まります。もちろん星間ガスが集まって星ができた、ということです。地球ができて数億年、我々にはひどく暮らしにくい環境でした。「大気」はありましたが、主に火山が噴き出したガスで、呼吸は無理です。しかし、火山のガスの中に含まれていた窒素は安定していて他のガスに比べると分解されにくく少しずつ大気の中に蓄積していきます。そして、その次に登場するのが、酸素です。
こう書くと、地球の歴史を悠々と語る本のような印象になってしまいますが、もちろん全然違います。登場するのは、頑固さのために火山爆発犠牲になった人、第一次世界大戦での毒ガス製造、銀行強盗……非常に生き生きとしたエピソードの連続で、飽きることがありません。
真空や水蒸気からは、蒸気機関の話が生み出され、さらに爆発物に展開されます。爆発とは極めて短時間に固体または液体からエネルギーが放出され多くの気体分子が生み出される現象ですが、著者はこの「気体が生み出される」に注目しています。そして話は、火薬・ニトログリセリン・ダイナマイト、と爆発規模が大きくなり、話の面白さも拡大していきます。
「シーザー(あるいは歴史上著明な人)の人生最後の息」に含まれている空気の分子を現在私たちが吸っている確率が非常に高い、という計算が示されますが、この計算を使えば「かつて地上(あるいは空中)で行われた実戦や実験で爆発した核爆弾によって生じた放射性原子」を吸っている確率もまた簡単に計算できます。というか、「シーザーの最後の一息」よりもこちらの方がはるかに大量です。もちろん「自然の放射線(バナナなどに含まれているカリウム40、大気に含まれているアルゴンやラドン、宇宙からの自然放射線など)もありますが、大気中の核実験によって新しく生み出された炭素14などは、現在でもせっせと我々の細胞の中でDNAの破壊作業を行っています。ただし「バナナの放射能」で倒れるためには2000万本のバナナを食べる必要があるのですが、これだけ一気に食べたら放射能ではなくて食べ過ぎで死ぬでしょうね。
(あの)アインシュタインと(核分裂の連鎖反応の原理を発見した)レオ・シラードが共同で「冷蔵庫」を開発して特許も取っていた、というのは意外なトリビアでした。
あ、もちろん「体内の空気」つまりおならの話も登場します。かと思うと「異星の空気」というスケールの大きな話も。著者は楽しんでいますねえ。いや、私も楽しめたから良いのですが。