【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

愚問よりも

2019-06-09 08:30:43 | Weblog

 明らかに人を怒らせた後になってこわごわと「怒ってる?」と確認している人がいます。これって「怒ってないよ」と答えても「いや、やっぱり、怒ってる」と言うし、「怒ってる」と答えたら「やっぱり怒ってる」となります。そんな愚問をしている暇があったら、さっさと謝罪をした方がいいんじゃないか、なんてそのそばで思っている私は、局外者だからそうやって冷静に判断できているだけかもしれませんが。

【ただいま読書中】『星群艦隊』アン・レッキー 著、 赤尾秀子 訳、 東京創元社(創元SF文庫)、2016年、1200円(税別)

 表面上はなんとか平穏を保っていたアソエク星系にも、ついに沸騰の泡が立ち始めました。人類の仇敵であるエイリアンのプレスジャーの通訳士がまた出現、アソエクのステーションに潜んでいた(失われた戦艦の)属躰も一人発見されます。そして、(おそらくブレクをここに送り込んだ皇帝に対立する側の)皇帝がアソエクにやって来ます。
 母艦(と自分自身のほとんど)を失ってしまったAI(たち)、愛する艦長を失った艦、自分自身が勝手にいじられてしまうことを意識しているAI、人間とは全く違う世界の見かたをするエイリアン、自分自身と戦っている皇帝たち、そういった「自分とは異質な存在」の異質さを理解しようとしない人たち……実に様々な立場の人(あるいは人にあらざる存在)が、それぞれの思惑で、それぞれにできる限りのことをしようとします。何をするかと言えば、戦争です。
 静かな戦いが始まります(宇宙空間ですから、そもそも音は発生しないのですが)。それと同時に、第一巻から展開されていた「AIと人の間に友情や愛情は成立するのか」の問題が、さらにスケールアップされて展開され続けます。
 ブレクが艦長となった艦内、赴任した星系のステーション、下界(地表)などに様々な人がいます。そして彼女ら(彼ら)は大まかに二分できるように私には感じられました。「自分が何者であるか」「自分の行為の正当性」に疑いを持てる人と持てない人と。そしてブレク(と彼に魅力を感じる人たち)は疑いを持てる人であるようです。
 そうそう、「お茶(の淹れ方)」に対するこだわりや、まるで将棋の振り駒のような占いにも、私は「日本」を感じてしまいました。もしかしたら他の文化圏の人も「ここに自分の文化が」といろいろ見つけられるのかもしれません。
 実に“豊か"な世界が創造されています。しかもこれは、「将来の人類の世界」とある程度重なってしまいそうなところが、この世界の“リアルさ"を下支えしています。著者は「3部作」だから、もうブレクが主人公の作品はない、と言っているそうですが、ということは、脇役だったらまだ出てくる可能性があると言うことに? まあ、楽しみにしながら次作を待ちましょう。
 なお本巻には『主の命に我従はん』という短編がおまけでついています。これがまた、ブレクの過去と重なる雰囲気で、でも(例によって)詳しい解説が全くなしで放り投げられているものですから、読者は自分の力で“補完"するしかありません。いやあ、楽しいなあ。




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