週刊誌の広告に「悪質スカウトマンに欺されて風俗に堕ちた女子大生たち」といった文言がありました。記事の焦点は「女子大生」にあるようですが、私は「悪質スカウトマン」が具体的にどんな奴でどんな手口を使うのか、の方に興味を持ちました。私には娘はいませんが、娘がいる人はそちらの方に興味を持つんじゃないです?
【ただいま読書中】『ぼくらの村からポリオが消えた ──中国・山東省発「科学的現場主義」の国際協力』岡田実 著、 佐伯印刷株式会社、2014年、1500円(税別)
「ポリオ」は日本語では「小児麻痺」ですが、小児でなくても感染します(第二次世界大戦時のアメリカ大統領ルーズベルトは39歳ころ感染しました)。日本でも昭和の時代に大流行したことがあります(興味のある方は「鉄の肺」で検索をしてください)。1980年から日本では野生株ウイルスによるポリオは発生していないので、もう知らない人の方が多いかもしれませんが。
1988年WHOは「世界全体でポリオを根絶する」決議を行いました。それを受けてWHO西太平洋地域事務局は「1995年までに西太平洋地域からポリオを根絶する」ことを決議し、対策をスタートさせました。
1990年、全世界のポリオ発生数は2万3483件。うち25%が西太平洋地域で、さらにその中の85%が中国でした。ただし中国ではサーベイランスが不十分だったため、実数はその数倍(以上)とWHOは推測していました。そこでWHOはサーベイランスに関したトレーニングを重視したパイロットプロジェクトを中国で先行させました。同時にユニセフはコールドチェーン(ワクチンを安定した品質のまま流通させることが目的)の構築と人材養成を開始しました。そして、1990年日本の小児ウイルス病の専門家千葉を団長とするJICA予備調査団が中国に派遣されます。
千葉は「アクティブ・サーベイランス」をまず山東省に導入します。それまでの「行政は病院からの報告を待つ」ではなくて「県防疫センターが能動的に現場に出向いて患者の出現(あるいは出現しないこと)を監視する」態度のサーベイランスです。これは病院からは「ずっと監視されている」ようで煙たいものでもあったようですが、ポリオ根絶のためには大変有効でした。辺鄙な場所ほどサーベイランスの網から漏れていることを考え、千葉たちは「未開放地区(外国人は立ち入り禁止の地域)」にも出向きます。サーベイランスの精度を上げられるだけ上げてからやるのが、ワクチンの一斉接種。
これはかつて日本でうまくいったやり方(役所の鈍重な手続きを待たず、NHKの放送網を使ってポリオの発生状況をアクティブに集め、大量のワクチンを一斉に投与することで、ポリオウイルスの野生株での病気発症を押さえ込みました。)をもう少し科学的にブラッシュアップして使っています。
ポリオの場合、患者が一人いたらそのまわりに「感染をしているが症状が出ていない人(不顕性患者)」が100人〜200人いる、と言われています。つまり、患者を一人見逃すことは感染者を200人見逃すことになってしまいます。だから徹底的なサーベイランスが必要なのです。さらに、麻痺の患者が本当に小児麻痺かどうかの検査態勢を整えることも必要です。そして最後にワクチン(生産、輸送(コールドチェーン)、貯蔵、接種)。日本も中国も、官僚のお役所仕事は根性が入っていますが、WHOの関係者は粘り強く働きかけて日中の政府を動かし、中国の態勢と日本からの無償資金協力を整備、まずは山東省、ついでその周辺の四省で態勢を整え、93年にはとうとう中国でのポリオワクチン全国一斉投与を実現させてしまいます。この「粘り強い働きかけ」の内輪話がちらりと紹介されていますが、いやあ、担当者の大変さがよくわかります。ここに書けなかったレベルではもっとすごい話もあるのでしょうけれど。
北方五省での成果は、ハイリスクの南方五省にも適用されることになりました。特に雲南省の山間部は交通が不便で、特別な努力が必要でした。さらに、国境を越えて侵入するウイルスに対する対策も必要となります。
最終的に、2000年の会議で「中国ではポリオ撲滅に成功した」と公式に認定されました。政治の場合には「妥協」が必要でしょうが、科学(特に感染症対策)の場合に妥協をするとそこから病気はいくらでも再発を繰り返します。妥協をしないことも必要です。中国要人の「虚偽があれば、報いは倍になって返っている」という言葉が印象的です。今の日本の官僚の仕事では、統計を誤魔化したりデータを隠蔽したり捨てたり、が横行しているようですが、その内中国から学ばなければならなくなる日が来るのではないかしら。
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