どんなに薄っぺらくても大丈夫。紙と同じで、ひっくり返したら「裏」に何かを書くスペースはありますから。
【ただいま読書中】『文具の流儀 ──ロングセラーとなりえた哲学』土橋正 著、 東京書籍、2011年、2400円(税別)
ロングセラーの文房具38アイテムが取り上げられています。「物語」というと「ものがたること(ものがたられるもの)」のことですが、本書では「物について語られること」と解釈しても良さそうです。
最初はトンボ鉛筆「8900」。ここで早速仰天の事実が。1945年に発売された8900の一つ前製図用鉛筆8800には6H~6Bの硬度が用意されていました。これは、細かい図面を完成させるとき、時間が経って紙が吸湿してコンディションが変化しても鉛筆を替えることで常に同じ太さ同じ濃さで書けるようにするためだった、というのです。戦争中も鉛筆改良は行なわれ、芯を微粒子化し、さらに黒色のワックスを含ませて滑らかさとより濃く書けるようにされたのが8900です(それまでの鉛筆では書いているうちに芯が薄くなって、湿らせるためになめたりしていましたが、8900からはその“作業”は不要になりました)。戦後も改良は続けられ、芯の滑らかさを出すためにチョコレートの材料粉砕機械が導入されたりしています。鉛筆では他に、ステッドラーの「マルス ルモグラフ」、三菱鉛筆の「ユニ」、ファーバーカステルの「カステル9000」も本書で取り上げられています。
鉛筆があれば当然消しゴムも。シードの「レーダー」です。日本で初めてのプラスチック消しゴムを作ったメーカーのロングセラー消しゴムですが、これにも“物語”がしっかりございます。
シャープペンシルの芯は、はじめは鉛筆とほぼ同じ製法で作られていました。そのため最小でも1mm。もっと細いものを、ということで開発されたのがぺんてるの「0.5mmのシャープペンシルの芯」です。ぺんてるはさらに、その芯を使うシャープペンシルも開発しています。
そうそう、「マジックインキ」は、インクが補充可能でペン先も交換可能、ってご存じでした?
とんでもないロングセラーは「ヤマト糊」。本誌執筆時に112年のロングセラーだそうです。できたのはなんと明治時代。まだ遠くなっていない明治もあったんですね。ただし材料は、はじめは米、戦争中はダリアや彼岸花の球根、今はタピオカだそうです。
ページをめくって、かつて自分が使ったことがある(今でも使っている)文房具の写真が登場すると、ちょっと興奮してしまいます。何も知らずに「これは使いやすい」と思って使っていただけのものがほとんどですが、それぞれにちゃんと「物語」があったんだな、と納得します。
私は銀座では文房具の伊東屋が一番好きな店なのですが、ひさしぶりに行ってみたくなりました。そのうちに「伊東屋ミニオフ」でもやりましょうかねえ。しかし、ぞろぞろと店に行って、何をするのやら。やっぱり「物語」?
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます