大学卒業後、夢を追って入ったフリーカメラマンへの道。アシスタントで働き始めたが雇用契約書はおろか、タイムカードも給与明細も雇用保険もない。月収10万円未満。休日は日雇い派遣で食いつなぐしかなかった。
「写真の仕事に関われるだけでも」。そう自分を納得させ続けたが、ミスのたびに受ける暴力と「おまえなんていつ辞めても構わない」という暴言。辞める意思を伝えた数日後の深夜、自宅ファクスがはき出した。「あなたがいた事で迷惑を被ったので損害賠償請求します」
山田真吾さん(32)が駆け込んだ先が今、自身が事務局長を務める首都圏青年ユニオンだった。解決困難に思えたが、ユニオンを介し交渉を申し込むと、くだんのカメラマンはすぐに請求を撤回。あっけなく解決に向かった。
遠い日の苦い記憶が、働く悩みを抱えた人々の支援へと突き動かしてきた。山田さんは「もし労働法を守らないようなブラックな会社、使用者の下で働いていると気づいた後でも対処法はいくらでもある」と力強い。
最近対処したのは転職サイトを利用し、正社員としてコールセンターに勤めた男性の事例。初月から賃金未払いや社会保険未加入があって退職を申し出たが、人手が足りなくなることの損害賠償と会社が転職サイトに支払った紹介料20万円を求められた。
ユニオンで団体交渉に動いたが、会社側は不当に拒否。行政機関の労働委員会によるあっせんも拒まれる。最終的に「社前行動」と呼ばれる会社近くの街頭での抗議活動を行ったところ、請求の取り下げを認め、未払い給料全額を取り戻せたという。
「知られていないだけで法律は労働者の多くの権利を保護している。社内に解決手段がないなら、抱え込まずに社外に救いを求めることだ」と山田さん。
現実はしかし、会社からの報復を恐れ、被害を訴えられない人が多いのではないか。「会社は悪くない、適応できない自分が悪いという意識の集合がブラック企業を存続させている。黙認することは新たな被害者を生む。黙って耐えるだけでは本人もいつか過労死や精神疾患で壊れることになる」。小さくとも声を上げましょう、と。
相談に訪れる人によく問うことがある。「今、あなたらしく生活できていますか」。もし答えがノーなら
ブラック企業考 大学就活解禁を前に(下) 入社後の対処法 辞め方で闘う道もある