1 材木の持ち上げ
材木を組んでいくには、材木を持ち上げなければならない。
柱材は抱え上げて枘穴へ落とし込むことができるが、
横架材は自分の背より高い所へ持ち上げて枘穴へ入れこまねばならない。
機械力に頼らず、人力のみで一人で建てることを考えていたので、
設計の段階から、構造材1本の重量は、
できるだけ持ち上げられる範囲内に抑えようとした。
一本もので済ましたいところを、継手を使って小さいピースに分けることもした。
それでも、梁(240×120×4000)だけは、
1本が60~70㎏になってしまうことは避けられなかった。
その他の桁や母屋などは、自分で担ぎ上げられる重さと長さだが、
梁だけは、道具を使わねば上げられないと思っていた。
60~70㎏と言えば、
自分の体重と同じだから、抱えるぐらいは大丈夫と思っていたが、
搬入された時に梁材を試みに持ち上げようとしたら上がらない。
腰を据えて下腹に力を入れて最大の力でようやく持ち上がった。
加工する時には、20mほど抱えて運ばねばならない。
ヨタヨタと持って歩いたが、最初は15m程のところで取り落としてしまった。
足の上は免れた。
次からは10m程のところに仮置きして一旦一息いれらるように枕木をおいた。
運び終えると、腰がジンジンと鳴った。
これ程の重さのものを柱の上に載せるには、相当の吊り上げ力が必要だ。
クレーン車は使わないことにしていた。
一日何万円もの賃料を支払う気もないし、
何よりも、建前にどれぐらいの日数がかかるのか分からないのだから。
本によれば、ジンポールクレーンと言って定置式のクレーンを自作して、
ログハウスの組み立てに使うとあったが、少し大がかりだ。
ログハウスの丸太は、大きいものなら200~300kgはありそうだから、
当初からこれぐらいのことは考えておかねば組み上げられないのだろう。
当初の考えでは、三又にチェーンブロックを据えようとしていた。
造園工が庭木や庭石を吊っているあれだ。
鎖をジャラジャラと引っ張ると、何トンもの大きな岩が持ち上がる。
その話を近所の人にすると、
自分の家に滑車があるから貸してくれると。
渡りに舟だ。
チェーンブロック(プロはチンブロと略して呼ぶらしい)では、
吊り上げ高さに限界があるようなので、滑車なら自由が効きそうだ。
60kg位のものを上げるなら、
チェーンブロックより滑車を使う方がうまくいきそうだ。
また軽いので、簡便で機動性もありそうだ。
柱建て始め
三又と滑車
2 三又
三又はミツマタではなく、サンサでもなく、サンマタと呼ぶ。
1回目の練習で三又を立てようとして立てられなかった。
これは先端を3本まとめて縛ったからだった。
6mの足場丸太は3本まとめては持ち上げられないので、
先に2本縛りつけてどこかへ立てかけておき、
それへ3本目を縛りつけてから、足を開けばうまく3脚に立った。
考えていてもわからないので、何度も試行しながらようやく解決した。
3脚に立てば、後は1本づつ動かせていけば3脚を歩かせることができる。
脚を広げれば低く、狭めれば高くなる。
丸太が3本あるのだから三又で使うことしか頭になかったが、
場所と場合によっては、二又や1本で使うこともできる。
これは滑車を貸してくれた近所の人に教えてもらった。
この人は元船乗りさんで、船を作っていたこともあるそうで、
色々と教わることが多い。
二又の時は、もう1本はロープで引っ張る。
1本の時は、何かに添え立てて使い、1本吊りと言う。
どっちも試してみた。
特に1本吊りの方は軽いものを上げるのにとても簡単で便利だった。
短い梁の1本吊り
梁1本吊り 手前のカタマリは助手(妻)
3 滑車
元船乗りさんに借りた滑車は、錆びないようにモーターオイルに漬けてあった。
さすがに道具を大事にしている人だ。
2重輪滑車 と 単輪滑車 と一つずつ借りた。
その時にロープのかけ方も教わった。
重量は3分の1になると聞いた。
家に持ち帰り、滑車のにわか勉強。
中学校で習った筈だが、今の私の頭の中にある知識は、
せいぜい定滑車と動滑車が一つずつの図があるだけ。
”動滑車が1つ増えるごとに、重量は半分ずつに減っていくのだ”
ということぐらいを、一つ覚えしているだけだから、
重量が "2分の1", "4分の1" になるのは理解できるが、
"3分の1になる"
おまけに2重輪の滑車があるとは
色々調べてみて、なんとか納得。
2重輪滑車を定滑車、単輪滑車を動滑車とすれば
重量はやはり3分の1になる。
60kgの梁を20㎏で持ち上げることができる。
ただし3mの高さに上げるのにロープはその3倍の9mが必要となる。
買っておいた綿ロープは10m巻きだからなんとかいけそうだ。
ただ困ったことに
教わったロープのかけ方を次の日にはすっかり忘れてしまい、
何度かやり直してようやくうまくいった。
試みに軽い桁を上げるとスルスルと軽快に上がってくれた。
滑車と三又
長い梁の据え付け
滑車へのロープかけ
三又での梁の吊り上げ
4 組み立て順序
土台組み立ての時の失敗を繰り返さないように、
組み立ての順序を事前に検討した。
梁の継ぎ手の台持ち継ぎの上木と下木の関係や
桁の追掛大栓継ぎの上木と下木の関係から
建方順序が制限され、
北西角の "いの9" の柱から建てねばならないことがわかった。
柱を土台の枘穴へ建て込む。
貫板があるので柱と同時に組み立てる。これが難しい。
貫板は最多で4段だが区間により段数が違う。
コーナー柱は片鎌、長柄の楔止めとしているので真上から落し込むのではなく、
手前で落し込んでスライドさせる必要がある。
このため貫板があるととてもやりづらい。
それぞれの枘の遊びを利用して少しずつ少しずつはめ込んでいく。
貫板を差し込んでから、下へ落し込むと柱が安定する。
柱の下枘が長枘でもあるので、この状態でもしっかりしている。
梁を載せる前に直角方向の柱も建てて貫をつなぐと
仮筋違いを打たなくてもいい程に安定するが、
仮筋違いを打って、強固にしておく。
1列目の梁方向の柱が建つと、
梁を滑車を使って吊り上げて柱の上枘へ落し込む。
すべての梁が据わると
次に梁と直角方向の桁と梁つなぎを据えて
1階部分の建前が完了する。
仮筋違いで止めているところ
梁の設置が完了
付記 妻より
「建前の時は、手伝うで」
「グレン (クレーン車) 貸しちゃるで」
近所の人も知人も友人も、しきりに声をかけてくれた。
それに対して
「一人でやってみたいんです」「手助けのいる時はお願いします」
夫は、いつもいつも、そう答えていた。
「クレーン車貸したげるって。借りたらいいやん」
と、勧める私を無視し、
夫は、いつのまにか
中学の社会の教科書で「昔の道具」として紹介されていたような
“代物”組み立てていた。
「それって、井戸のつるべ?」
「そうや、でも、ちょっと違う」
と、嬉嬉としていた。
その代物 つまり、三又と滑車で、
試しに、材木を持ち上げて
「ホントや、Aさんの言うとおりや。Aさん、よう知っとるわ」
としきりに、滑車を借りた元船乗りさんのことを感心していた。
建前開始は、2006年4月19日
私は、夏野菜の植え付け準備やハーブ苗の植え付けで
菜園やハーブ園をウロウロしていた。
夫は、時どき、呼びにきては
「ちょっと、ロープを持っていてくれ」
と頼んだ。
やはり、自分一人ではできないらしい。
「妻と建てる木組の家やな」
と、恩に着せては、ロープを持っていた。
なのに、夫から、
”カタマリ” (助手)扱いをされるとは
材木を組んでいくには、材木を持ち上げなければならない。
柱材は抱え上げて枘穴へ落とし込むことができるが、
横架材は自分の背より高い所へ持ち上げて枘穴へ入れこまねばならない。
機械力に頼らず、人力のみで一人で建てることを考えていたので、
設計の段階から、構造材1本の重量は、
できるだけ持ち上げられる範囲内に抑えようとした。
一本もので済ましたいところを、継手を使って小さいピースに分けることもした。
それでも、梁(240×120×4000)だけは、
1本が60~70㎏になってしまうことは避けられなかった。
その他の桁や母屋などは、自分で担ぎ上げられる重さと長さだが、
梁だけは、道具を使わねば上げられないと思っていた。
60~70㎏と言えば、
自分の体重と同じだから、抱えるぐらいは大丈夫と思っていたが、
搬入された時に梁材を試みに持ち上げようとしたら上がらない。
腰を据えて下腹に力を入れて最大の力でようやく持ち上がった。
加工する時には、20mほど抱えて運ばねばならない。
ヨタヨタと持って歩いたが、最初は15m程のところで取り落としてしまった。
足の上は免れた。
次からは10m程のところに仮置きして一旦一息いれらるように枕木をおいた。
運び終えると、腰がジンジンと鳴った。
これ程の重さのものを柱の上に載せるには、相当の吊り上げ力が必要だ。
クレーン車は使わないことにしていた。
一日何万円もの賃料を支払う気もないし、
何よりも、建前にどれぐらいの日数がかかるのか分からないのだから。
本によれば、ジンポールクレーンと言って定置式のクレーンを自作して、
ログハウスの組み立てに使うとあったが、少し大がかりだ。
ログハウスの丸太は、大きいものなら200~300kgはありそうだから、
当初からこれぐらいのことは考えておかねば組み上げられないのだろう。
当初の考えでは、三又にチェーンブロックを据えようとしていた。
造園工が庭木や庭石を吊っているあれだ。
鎖をジャラジャラと引っ張ると、何トンもの大きな岩が持ち上がる。
その話を近所の人にすると、
自分の家に滑車があるから貸してくれると。
渡りに舟だ。
チェーンブロック(プロはチンブロと略して呼ぶらしい)では、
吊り上げ高さに限界があるようなので、滑車なら自由が効きそうだ。
60kg位のものを上げるなら、
チェーンブロックより滑車を使う方がうまくいきそうだ。
また軽いので、簡便で機動性もありそうだ。
柱建て始め
三又と滑車
2 三又
三又はミツマタではなく、サンサでもなく、サンマタと呼ぶ。
1回目の練習で三又を立てようとして立てられなかった。
これは先端を3本まとめて縛ったからだった。
6mの足場丸太は3本まとめては持ち上げられないので、
先に2本縛りつけてどこかへ立てかけておき、
それへ3本目を縛りつけてから、足を開けばうまく3脚に立った。
考えていてもわからないので、何度も試行しながらようやく解決した。
3脚に立てば、後は1本づつ動かせていけば3脚を歩かせることができる。
脚を広げれば低く、狭めれば高くなる。
丸太が3本あるのだから三又で使うことしか頭になかったが、
場所と場合によっては、二又や1本で使うこともできる。
これは滑車を貸してくれた近所の人に教えてもらった。
この人は元船乗りさんで、船を作っていたこともあるそうで、
色々と教わることが多い。
二又の時は、もう1本はロープで引っ張る。
1本の時は、何かに添え立てて使い、1本吊りと言う。
どっちも試してみた。
特に1本吊りの方は軽いものを上げるのにとても簡単で便利だった。
短い梁の1本吊り
梁1本吊り 手前のカタマリは助手(妻)
3 滑車
元船乗りさんに借りた滑車は、錆びないようにモーターオイルに漬けてあった。
さすがに道具を大事にしている人だ。
2重輪滑車 と 単輪滑車 と一つずつ借りた。
その時にロープのかけ方も教わった。
重量は3分の1になると聞いた。
家に持ち帰り、滑車のにわか勉強。
中学校で習った筈だが、今の私の頭の中にある知識は、
せいぜい定滑車と動滑車が一つずつの図があるだけ。
”動滑車が1つ増えるごとに、重量は半分ずつに減っていくのだ”
ということぐらいを、一つ覚えしているだけだから、
重量が "2分の1", "4分の1" になるのは理解できるが、
"3分の1になる"
おまけに2重輪の滑車があるとは
色々調べてみて、なんとか納得。
2重輪滑車を定滑車、単輪滑車を動滑車とすれば
重量はやはり3分の1になる。
60kgの梁を20㎏で持ち上げることができる。
ただし3mの高さに上げるのにロープはその3倍の9mが必要となる。
買っておいた綿ロープは10m巻きだからなんとかいけそうだ。
ただ困ったことに
教わったロープのかけ方を次の日にはすっかり忘れてしまい、
何度かやり直してようやくうまくいった。
試みに軽い桁を上げるとスルスルと軽快に上がってくれた。
滑車と三又
長い梁の据え付け
滑車へのロープかけ
三又での梁の吊り上げ
4 組み立て順序
土台組み立ての時の失敗を繰り返さないように、
組み立ての順序を事前に検討した。
梁の継ぎ手の台持ち継ぎの上木と下木の関係や
桁の追掛大栓継ぎの上木と下木の関係から
建方順序が制限され、
北西角の "いの9" の柱から建てねばならないことがわかった。
柱を土台の枘穴へ建て込む。
貫板があるので柱と同時に組み立てる。これが難しい。
貫板は最多で4段だが区間により段数が違う。
コーナー柱は片鎌、長柄の楔止めとしているので真上から落し込むのではなく、
手前で落し込んでスライドさせる必要がある。
このため貫板があるととてもやりづらい。
それぞれの枘の遊びを利用して少しずつ少しずつはめ込んでいく。
貫板を差し込んでから、下へ落し込むと柱が安定する。
柱の下枘が長枘でもあるので、この状態でもしっかりしている。
梁を載せる前に直角方向の柱も建てて貫をつなぐと
仮筋違いを打たなくてもいい程に安定するが、
仮筋違いを打って、強固にしておく。
1列目の梁方向の柱が建つと、
梁を滑車を使って吊り上げて柱の上枘へ落し込む。
すべての梁が据わると
次に梁と直角方向の桁と梁つなぎを据えて
1階部分の建前が完了する。
仮筋違いで止めているところ
梁の設置が完了
付記 妻より
「建前の時は、手伝うで」
「グレン (クレーン車) 貸しちゃるで」
近所の人も知人も友人も、しきりに声をかけてくれた。
それに対して
「一人でやってみたいんです」「手助けのいる時はお願いします」
夫は、いつもいつも、そう答えていた。
「クレーン車貸したげるって。借りたらいいやん」
と、勧める私を無視し、
夫は、いつのまにか
中学の社会の教科書で「昔の道具」として紹介されていたような
“代物”組み立てていた。
「それって、井戸のつるべ?」
「そうや、でも、ちょっと違う」
と、嬉嬉としていた。
その代物 つまり、三又と滑車で、
試しに、材木を持ち上げて
「ホントや、Aさんの言うとおりや。Aさん、よう知っとるわ」
としきりに、滑車を借りた元船乗りさんのことを感心していた。
建前開始は、2006年4月19日
私は、夏野菜の植え付け準備やハーブ苗の植え付けで
菜園やハーブ園をウロウロしていた。
夫は、時どき、呼びにきては
「ちょっと、ロープを持っていてくれ」
と頼んだ。
やはり、自分一人ではできないらしい。
「妻と建てる木組の家やな」
と、恩に着せては、ロープを持っていた。
なのに、夫から、
”カタマリ” (助手)扱いをされるとは