「彼女がその名を知らない鳥たち」
沼田まほかる
陣治の恋は強烈だ。そして見苦しい(とさえ思っていた)
相手にどう思われる?なんて全然考えない。
ただ、ただ十和子に向けて自分の世界がある。
陣治、なにやってんだよ、止めろよーと目を背けたくなる。
だが・・・終章で一気に陣治に心奪われ引っかき傷を負わされてしまった。
読み終わってから数日、未だ癒えず。
陣治は見事なくらい冴えない中年の男(50才~)である。
生活習慣がとても同居に耐えられるような男ではない。
だが、複雑に屈折した背景をもつ十和子は彼と同居を始める。
連日、十和子は暴言の限りを尽くし徹底的に陣治を痛める。カス・ゴミ同然に詰られる
のだが、それでもこの関係は続いていく。
やがて、十和子の昔の恋人の失踪に陣治が関わっているのでは?という疑問が浮上
してくるのだが・・・。
僅かな単語の連なりで二人の心情を深く切るときがある。だから、流し読みが
できない。
途中から十和子の終わりのないような過去の男への未練と生活態度に嫌気が差し、
陣治の尽くしすぎる習慣にもワタシは限界がきていた。こちらのテンションが
ぐんぐん下がってきて、早く読み終えないと”まずい”と感じていた。
囚われてしまっていたのだ。この二人から解放されたかった。
そして、終章で陣治の恋のあり方が明かされる。「えっ」とそのページで
立ち尽くすのみ。抉られるような痛みが走る。