思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

お姉さんたちのお仕置き

2010-09-26 10:39:43 | 7.夏は恥辱の季節
 サドルの下の取っ手に掴まる僕は、軽快に自転車を漕ぐお兄さんの背中に隠れて、正面から吹きつける夜風を顔や胸に直接に受けずに済んだものの、自分が一糸まとわぬ裸であることは、痛いほど意識させられていた。路上に人がいるとお兄さんはわざと速力を落とし、後ろに身を縮める全裸の僕をたっぷりと見せつけるのだった。
 無視する人、まったく気付かぬ素振りの人もいたけど、大抵の人は驚いた様子で声を掛けてきた。僕の身に起こった災難を察して同情し、優しい言葉で保護を申し出てくれるのだが、お兄さんはどれも丁重に断った。自分こそが保護者であり、きちんと家まで送り届ける責任があるのだと、一途に言い張った。お兄さんの純粋を装った正義の論理に、保護を申し出た人は簡単に欺かれ、お兄さんに声援を送った。挙句、僕の裸の背中を叩いて、「立派な人に助けられてよかったな」と、満足そうな笑みを見せつけたりした。
 心の底では僕のことなんか助けたくはなかったんだと思う。お兄さんの、よく吟味すれば矛盾だらけの説明をそのまま受け入れ、自分が助ける必要のないことを確認して安心したがっている。良心の呵責を覚えずに、真っ裸で町中を引き回されている僕を見過ごすことができれば、これに越したことはないのだろう。
 自分の虚栄心を満足させるとともに、僕を恥ずかしめることにも成功したお兄さんは、隠し持つ嗜虐生を一気に爆発させる状況へと自らを導いた。大きな川沿いの道に出ると、川に向かって一段低くなっている脇道へ自転車のハンドルを切った。しばらく行くと、コンクリートの階段が川まで続いていて、そこに腰かけている集団の影が見えた。
「やあ、ここに来ればいると思ったよ」
 お兄さんが朗らかな調子で告げると、集団の影がざわついた。
 若いお姉さんたちが六人ほど並んで、夏の夜のとりとめのないお喋りを楽しんでいた。お兄さんの知り合い、というか同じ高校の仲間らしい。お兄さんは自転車を止め、僕の腕を引っ張り、彼女たちの前へ連れ出した。いきなりお姉さんたちの前へ引き摺られた僕は、自由の利く一方の手でおちんちんを隠し、布切れ一つ覆うものがない素っ裸の身を縮める。お姉さんたちは会話を中断し、驚いた顔をして僕に視線を向けた。
 たっぷり間を置いてからお兄さんが事情を説明した。それは保護を申し出た人たちに対するのと違い、事実に基づいていた。ただ重要な一点だけが事実に反していたため、それまでのお姉さんたちの、どちらかと言えば同情的な態度が一気に僕を非難する厳しいものへと変わった。妹に勃起させたおちんちんを見せつけて脅した、とお兄さんが僕を顎でしゃくりながら憤懣やる方ない調子で語るのだった。お姉さんたちの表情が強張った。
 まだ小学生の上がったばかりの女の子に性的なトラウマを与え、それがために、楽しくて人生をどれほど豊かにするか計り知れない性の喜びの体験が妨げられたら、その責任は、生涯をかけて負い続けなければならない程に重いと言わざるを得ない。そんなことはお姉さんたちに説教されなくても分かっている。ただ、僕自身が自ら進んでおちんちんを見せつけたのではないことは是非ともお姉さんたちの耳に入れておきたかった。しかし、なにしろ多弁かつ口達者が六人も揃って、次々と僕を非難するので、その機会はなかなか与えられない。そのまま、「目には目を」の大昔の法典に従った罰則が下されることになった。いきり立った小太りのお姉さんに髪の毛を掴まれ、前へ引き寄せられた。
 女の子の前でしたことをやってみろ、と命じる。女の子にしたように私たちにも見せなさい、と有無を言わせぬ怒声だった。怖くなって足がぶるぶると震えた。わざとやったんじゃない、と息も絶え絶えに弁明すると、これが火に油を注ぐ結果になった。
 首をお姉さんの脇の下で押さえ付けられた僕は、腰を曲げてお尻を突き出す格好になった。小太りお姉さんが僕のお尻を平手打ちする。痛くて悲鳴を上げる。動くな、じっとしてろ、と叱声が飛ぶ。涙で頬を濡らしながら、痛みに耐えるけども、尻叩きはいつまでも終わらない。僕は何度も反省の言葉を言わされた。それが事実と異なることであったが、事実と認めない限り、お尻はずっと叩かれる。おちんちんの袋にも手が当たって、ついに僕は膝を落としてしまった。
「これは痛いだろうな」
「痛いの? 分かんない」
「俺は男だからね。これは痛い」
 呻き声を上げてくの字になって横たわる僕を見下ろしながら、お兄さんとお姉さんが呑気そうに話をしている。と、お兄さんがすぐそばの川からバケツで水を汲んでくるのが見えた。あっと思った瞬間には、もう僕の全身は川のぬるぬるした水で濡れていた。早く立たないと、更にバケツ一杯分の水が僕の裸にぶちまけられる。今度は頭の上に直接落ちてきた。おちんちんの袋に小太りのお姉さんの人差し指が当たった痛みがなかなか引かない。都合四回もバケツの水をかけられて、ようやく立ち上がる。ふらふらした足元に水滴がぽたぽたと落ちる。
 自らの手で勃起させるように命じられたが、おちんちんを両手で隠したまま立ち竦んでいた。さんざん叩かれて赤くなったお尻を丸出しにした素っ裸のまま、おちんちんの袋まで打たれた痛みに震えているずぶ濡れの僕を見て、一見極めて普通の感じがするお姉さんたちは、いずれ許してくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いた。このまま恥ずかしがっていよう、これ以上僕をいじめるのはお姉さんたちの良心が許さないのではと考えたのだが、性的な好奇心やそれに伴う嗜虐心は、通常であれば機能するところの倫理感覚を別の次元へ運んでしまうらしかった。
 業を煮やしたお姉さんたちは、僕を羽交い絞めにした。小太りのお姉さんがしゃがみ込み、おちんちんへ肉付きの良い指を伸ばした。お姉さんたちの面白がる黄色い悲鳴がコンクリートの堤防に響いた。
 程なくおちんちんは大きくなってしまった。その慣れた手つきに対して寄せられたお姉さんたちの賞賛の言葉を、小太りのお姉さんは照れ臭そうに受け留めた。それから、紅潮した顔で僕を睨みつける。
「気持ちいいのか」
 小太りのお姉さんが男の人みたいにぶっきらぼうな物言いをし、お兄さんが吹き出した。
「どこでそのテクニックを覚えたのよ」
 お兄さんが茶々を入れると、小太りのお姉さんは品を作って笑い返した。
「こんな子どものおちんちんでも、精液は出るの?」
 後ろからおちんちんを覗き込んだお姉さんが呟いた。試してみようということになり、小太りお姉さんが再び手をおちんちんへ伸ばした。性的な刺激を受けても精液は長い時間、出していなかった。あっという間に射精寸前まで追い込まれ、悶える僕にお姉さんたちが寄り沿い、乳首やお腹、背中やお尻を撫でたり抓ったりしながら、精液が出る瞬間をこの目で捉えようと息を凝らすのだった。
 見られたくなかった。どこの高校に通っているのかも分からない、名前も知らないお姉さんたちの慰みに射精を強制されるのは、麻痺しかかっている僕の屈辱と羞恥の感覚を新たにする。
「お願い、やめて、見ないで、見ないでください」
 そんな風に叫んだような気がする。最後まで言い切らない内に精液がおちんちんの先っぽから飛び出し、お姉さんたちが感嘆の声を放った。中には、男の子が精液を出すのを初めて見た、と興奮気味に語るお姉さんもいた。
 コンクリートに落ちた精液を掬って、がっくりと首を垂らす僕の胸やお腹に塗りたくる。
「面白かったね。もう一回出してみようか」
 誰かがそう言うと、うんうんと頷く。お姉さんたちは楽しくてたまらないようだ。コンクリートの段にお尻を乗せた僕の足首を掴むと、ぐいと引っ張り上げる。踵が耳たぶに触れる近さにあった。自分の体の柔軟さが恨めしい。おちんちんだけでなくお尻の穴まですっかり丸見えになってしまい、お姉さんたちが次々と顔を寄せてくる。
 面白がってお尻の穴に息を吹きかけては、短い叫び声を上げるお姉さんたちに、僕は精一杯身悶えして抵抗を示したが、がっしりと足首を押さえられて、されるがままの状態は変わらなかった。精液を出して元の大きさに戻ったおちんちんも、また小太りのお姉さんの分厚い手の中で転がされると、少しずつ性的な気持ち良さを蓄積して、形が変化してくる。
 おちんちんが形状変化する過程までもじっくりとお姉さんたちに見られ、逐一、実況中継されるのだった。聞きたくなくて、首を横に振りながら目を瞑るが、どうしても耳に入ってしまう。と、口の中に指が入ってきて、しゃぶらされた。唾液で濡らした指でお尻の穴の周りを撫でられる。執拗に撫でる指がついにお尻の穴に近づき、すぽっと押し込まれた。長い喘ぎ声を上げてしまったのは、指がどんどん奥へ入るからだった。指を入れるお姉さん自身も驚いている。すごい、どんどん先まで行くよ、と言いながら指の先を曲げようと試みる。
「やだな。この子、お尻の穴を責められておちんちんを大きくしてる」
 指の間におちんちんを挟んで振動を加えている小太りのお姉さんが驚いていた。急激な形状変化は、お尻の穴にぬるぬると指が入って以降のことだった。お姉さんたちは黄色い声で笑った。
「変態だわ、この子。お尻が随分開発されてる」
 お尻の穴に入れた指がスムーズに出し入れできる。感心したようにお姉さんが呟いた。
「お尻の穴で遊んでるでしょ?」
 身を乗り出したお姉さんが僕の首や耳の辺りに息を吹きかけながら低い声で訊ねる。僕は黙っていたが、返事をしないとお尻の穴を広げられる痛みが増大する。堪え切れず、ついに、喘ぎながらも告白した。僕がいじめに遭って興味本位でお尻の穴に異物や川の水を入れられたり、広げられたりしたことを知ると、お姉さんは、
「せっかくだから開発しなさいよ。素質あるから」
 と、励ますのだった。
 下腹部に力を抜いたのはお尻を傷つけられないための防衛でしかないのに、お姉さんたちは、僕が性的な快感をむさぼったと思ったらしい。尤もお尻の中を指でかき回された状態でおちんちんを扱かれ、あっけなく二回目の射精を迎えてしまったのだから、お姉さんたちがそう思うのも無理からぬことかもしれない。とにかく、もう勘弁して欲しい。お尻に挿入された指をしゃぶらされながら、切実にそう思った。が、お姉さんたちは僕に三回目の射精まで求めるのだった。
「やめて。もう許して」
 必死の願いも通じる見込みはなかった。隙をついて逃げ出した僕をお兄さんが追った。すぐ隣りでは街灯に照らされた川面が黒々と流れていた。全裸裸足では走るのも圧倒的に不利だ。すぐに捕えられ、連れ戻された。かすかな風が僕の剥き出しの皮膚を撫でるように過ぎた。この場にはお兄さんを含めて七人がいるけど、今夜の風がいつも以上に生暖かいのに気付いたのは、一人素っ裸のままでいる僕だけではないかと思った。お姉さんたちがじろじろと僕を見つめる。逃げた僕を罵る声がして、上を向くと、腕が振り下ろされた。小太りのお姉さんから激しく往復ビンタを食らった。
 コンクリートで固められた川岸に仰向けに寝かされた。無理矢理広げられた四肢をお姉さんたちが押さえ付ける。腰をうねらせて悶える僕の体を、上の方からオレンジの灯が照らした。道路沿いに設置されたオレンジの街灯だった。小太りのお姉さんがおちんちんの皮を引っ張ったり、剝いたりしていたが、やがて勃起させようと様々な刺激を与え始めた。しかし、続けて2回射精したばかりなので、そんなに簡単には大きくならない。おちんちんやおちんちんの袋を好き放題にいじられる気持ち悪さが先立つばかりで、僕は涙を流しながら許しを乞うのだった。
 精液を出すまで許さないのだとお姉さんが言った。こんな真似をするのは自分たちが性的な欲望に突き動かされているからではないと力説する。単純に僕へのお仕置きなのだと語気を強めた。僕が二度と幼い女の子に性的ないたずらをしないよう、その性的欲望の種を根絶やしにしてやるのだと気炎を吐いた。精液をお姉さんたちが許すまで出し続けなければ、僕はここから自由になれないとのことだった。こんな場所で朝を迎えたくなければ観念してとっとと射精しろよ、と小太りのお姉さんが両手の凄まじい握力で開けさせた僕の口の中へ唾を垂らした。
 両の乳首を抓られ、あまりの痛みに涙を流す。幾つもの手がおちんちんの袋を揉んだり、おちんちんの皮を引っ張ったりした。三回目の射精は、優しい愛撫に変わってすぐだった。お姉さんたちが拭った精液を舐めさせられた。人差し指が口の中で活きのよい魚のように暴れる。その指をお尻の中へ再び入れられた。呻き声を漏らしながら哀願したが、お姉さんはやめてくれなかった。不意にお腹が重くなった。長いことお尻の穴が刺激されたことで催してしまった便意を告げると、あっさりと指が抜かれた。下腹部を押さえながらのろのろと起き上がる僕を、お姉さんたちが遠巻きに見つめる。
 トイレの場所を訊ねても誰も答えてくれない。ここでしなさい、の一点張りだった。街灯の届かない茂みへ行こうとしたら、小太りのお姉さんに捕まり、お尻を川に向けた状態で四つん這いの姿勢を取らされた。お兄さんの高笑いが聞こえた。みんなの視線が僕のお尻に向けられていることは明白だった。僕がうんちを出すのを待っている。
「もっとお尻を突き出さないと、コンクリートにうんちが垂れるよ」
「とっととしなよ。見ててあげるから」
 観念しながらも悔しさと恥ずかしさに涙が止まらない僕に対して、容赦のない罵声が響いた。うんちがそのまま川を流れるように、お尻を後方へ移動させる。両膝がコンクリートの岸から離れ、足と腕の間がぐっと縮まる。こんな不安定な格好でうんちをするのは初めてだった。下腹部を圧迫する便意は限界に近かった。どうせ粘ったところで時間の問題に過ぎない。嘆息の声を上げると同時に、便意を一気に解消する物体がお尻からぬるぬると出てきた。お姉さんたちの悲鳴と笑いを混ぜ合わせた声がいつまでもうんちを出し続ける僕を惨めにした。
 すっかりうんちを出し切った僕は脱力して、両膝を付いて上体を前へ倒した。みんなが興味本位で見ている前で精液を出したり、うんちをしたりするのは、心に深いショックを与える。羞恥体験を重ねてきたから慣れると思う人もいて、実際にY美とかは、射精させられるのをいやがる僕を訝って、「もういい加減慣れなさいよ。私たちはあんたのおちんちんも、お尻の穴も、射精するところも、うんちやおしっこするところも、全部見てるんだから」と言うのだけど、そういう訳にはいかない。同じ経験をさせられる度に以前の辛い経験、思いだしたくないことなどが脳裏に蘇り、心の傷が一層激しく痛む。だから、小太りのお姉さんが手を鳴らして、
「じゃ、四回目、やろうか」
 と言った時、
「いや。もうやめてください」
 と叫んで、電流が体を流れたかのように、一気に裸体を起こすことができた。
 ついさっきうんちを落とした川へ足を入れた僕は、川岸に並ぶお姉さんたちから後退りしつつ、川の中に逃げたのは正解だと思った。お兄さんもお姉さんたちも服を着て靴を履いているから、川の中までは追って来ない。膝までの深さの水は温くて羞恥に火照った体には心地よかった。川底もコンクリートでぬるぬる滑りやすい。後退する程に深くなり、太腿までも川の水が纏わる。
 戻るようにお姉さんたちが腕を振りながら命じるのだが、僕は従わなかった。この川は途中から深くなって流れも速いので遊泳禁止なのだと知らされても、気持ちは変わらない。四回目の射精を強いられるくらいなら川を流されたほうがよいと思った時、がくっと深くなって、頭のてっぺんまで川の中に入ってしまった。底に足が届かない。流れも急に速くなった。もう僕の意志とは関係なく、どんどん体が流されてゆく。
 ふと岸を見ると、お姉さんたちが手を振っていた。「戻れ」ではなく、「さようなら」を意味していた。
 この川の名前は知らないけど、今日一日僕が繋ぎ止められていたみなみ川と比べると、水質は明らかに劣っていた。ぬるぬるした水は人間の生活の臭いがした。川幅だけはやけに広くて、この流れの速さではとても向こう岸まで泳ぎ着けそうにない。泳いでも流されるままになっているのと変わらないので、体勢を保って、沈んだり浮いたりしながら流れに身を任せる。お尻の穴を自分の指で広げると、川の水が侵入して、うんちをすすぎ落とした。周囲の景色が幹線道路から町に変わった。土手を歩く人が何人も見えたけど、誰にも気づかれなかった。汚い川には光が行き渡らないから、夜の川を流されても発見されることは少ないかもしれない。
 やがて、両側のコンクリートが壁のように高く立ちはだかり、周囲の景色が見えなくなった。ただ、コンクリートの白い壁ばかりが続く。川の流れが緩やかになったのを幸いに、僕は反対側の岸に少しずつ近づいた。川は浅くなって砂浜があった。
 ここがどこなのか、皆目分からない。川の両側に聳える壁の向こうには夜空が広がるばかりだった。不安で胸がいっぱいになったが、砂浜に座り込んだ僕は、一日の疲労が極に達して物を考えられなかった。汚い川には似つかわしくない砂浜だった。横になって体を海老のように丸めると、意識を失ってしまった。

 少しだけ仮眠するつもりだったのに周囲の明るさに驚いて目を覚ました。すっかり朝になっていた。川が日の光を返して輝いている。夜の明けない内に帰宅する望みは打ち砕かれた。とうとう、ここがどこだか分からない場所で一人、素っ裸のまま朝を迎えてしまったのだ。しかし、僕はできる限り冷静であろうと努めた。どうすれば家に戻れるか考えながら周囲を見回したが、川の両側はコンクリートに囲まれて、その向こうには何があるのか見当もつかない。
 ここから先は川は浅くなって、このまま人の気配のないところまで川を下るのは難しかった。壁に打ち付けられた梯子を祈るような気持ちでのぼる。人の滅多に通らない場所であればよいと思ったが、上り切ったところの柵越しに見えたのは住宅地で、柵の先には車の通る道路があった。
 このまま川岸にいて、再び夜が到来するのを待つのも難しい。ろくに草を生えておらず、隠れる場所の少ないここでは、絶対に人に見つかってしまう。非常なためらいを覚えたが柵を越えて住宅地に入らせる決心をさせたのは、奥に見える山だった。あの山に入り込んでしまえば、衣類を何もまとっていないこの恥ずかしい格好を人から隠すことができるのではないか。まだ早い時間なのか、人は見当たらない。足の指を柵にかけて越える。途端に風が押し寄せて、僕に自分が相変わらず素っ裸の身であることを意識させる。僕はおちんちんに手を当てて、小走りで住宅の並ぶ通りへ入った。
 朝の早い時間帯とはいえ、すでに太陽の光が行き届いている住宅街だから、全く人に遭遇することなく通り過ぎることができるなんて、思ってはいけない。二百メートルほど行って角を曲がると、お婆さんたちが立ち話をしていた。僕は電柱の陰に隠れて、どきどきする心臓を押さえて、考えた。このまま出て行ってお婆さんたちに助けを求める方法もある。正直に事情を打ち明け、着る物を借りる。それは難しい話ではないかもしれない。Y美には最後まで布切れ一枚身に着けることなく真っ裸のまま帰宅するように言いつけられているけど、家の近くまで来たら借りた服を全部脱いで、素っ裸になって家まで戻ればばれないのではないか。夜になって家のすぐ近くで裸になるのは、それとてもやはり充分恥ずかしいことには違いないけど、ずっと丸裸で帰るよりは恥ずかしい目に遭う時間もうんと少なくて済む。勇気を出してあの立ち話をして下品な笑い声を立てるお婆さんたちに助けを求めるべきだろうか。
 優れた実業家でもあるおば様がこの町でも名前を知られていないとは限らない。あのお婆さんたちが親切に服やら帰宅に必要なお金などを貸してくれたとしても、必ず僕の住まいや連絡先を訊ねるだろう。もし僕がおば様の名前を出したら、いや、たとえ僕が出さなくても、何かの拍子に僕がおば様の家に世話になっていることが知られたら、事はおば様の社会的信用にも関わってしまう。
 預かった男の子に対して娘が性的ないじめを日常的に繰り返し、おば様自身もまた自分の性的な欲求を満足させるために男の子を利用した、奉仕を強要した、などという事実も当然明るみに出されるだろう。そうなった時、おば様の怒りの矛先は僕に向けられる。おちんちんをちょん切られるかもしれない。肉体を破損させられるなどの、俄かには信じ難い目に遭わされるのは必至だろう。また、おば様の会社の独身寮で働く母親の身も案じられる。おば様は「性奴隷にするよ」と言った。想像しただけでも頭がくらくらしてくる。
 そうなると、ここはお婆さんたちに助けは求めず、素っ裸のまま走り抜けるのが無難とも考えられる。みんなびっくりして僕を捕まえようとする、或いは助けようとするだろうけど、それらを全て拒絶して、ひたすら逃げる。何人もの住民に一糸まとわぬ裸を見られようとも素性だけは明かさないように逃げ回る。顔もできるだけ伏せて覚えられないようにする。そうすればY美の命令にも適うばかりか、おば様の名前に傷が付く心配もない。要は警察はもちろん、誰にも捕まらないこと。ただ僕だけが素っ裸で朝の住宅地を走り回るという、通常ではなかなかあり得ない羞恥の体験に耐えればよいだけの話なのだった。さもないと、おちんちんを切られてしまう。
 誰にも捕まらないようにとにかく逃げる、という選択肢に大きく傾いた時、背後で子どもの叫ぶ声がした。集団登校の子どもたちが角を曲がったところだった。電柱にぴたりと張り付く僕の後姿を指さしていた。まずい。僕は電柱の陰から飛び出して、丁度立ち話を終えたお婆さんたちの方向へ走った。通り抜けようとした時、一人のお婆さんが思わぬ方向へ向きを変えたので、ぶつかって尻持ちをついてしまった。そのお婆さんは着物の塵を払って、
「ぼく、おちんちん丸出しじゃないかえ」
 と、いきなり裸の男の子とぶつかったことにも大して驚いた様子を見せず、悠然とした構えで問うのだった。そして、僕を助け起こそうと皺だらけの手を差し伸べる。僕はお婆さんの助けを借りずに自力で立ち上がると、一礼して立ち去った。背後でお婆さんたちの笑い声が聞こえた。
 住宅地だから当たり前なのだが、たくさんの人がいた。初めからこんなに多くの人が外に出ていたら通り抜けようとは思わなかったのに、今さら後戻りもできない。角を曲がるたびに集団登校の子どもや付添の母親がいた。通勤の大人にも出くわした。おちんちんに手を当てて顔を伏せつつ走った。アスファルトを蹴る素足の裏が乾いた音を立てる。
 小学生の集団登校に付き添うお母さんが、
「裸の子がいる。捕まえて」
 と、ヒステリックに叫んだ。小学生やそのお母さんたちが追い掛けてきた。住宅地は広くて、どの角を曲がっても個性のない家の並ぶ通りがあった。小公園を横切ると、そこにも一軒家のひしめく通りがあり、子どもと母親がいた。隠れる場所がない。ヒステリックな声で「捕まえて、捕まえて」と叫ぶお母さんを振り切ることができない。その声に誘われて、僕を追う人数も次々と増えるのだった。
 到る所で小学生たちの黄色い悲鳴や笑い声が起こった。追いかける人たちが増えて、朝の住宅地はちょっとした騒ぎに包まれた。後ろだけではなく前からも迫る小学生と母親の一群があって、挟まれた僕はすぐ横の家の塀を越えた。庭ではお爺さんが水撒きをしていた。びっくりしたお爺さんがホースの水を僕に向ける。強い水圧だった。全身びしょ濡れのまま通りに出ると、そこにも新たな追手がいた。
 息切れしてもう走れなかった。ヒステリックに叫ぶお母さんが僕の腕をがっしりと脇に挟むと、俯く僕の顎を押し上げた。もう片方の手で必死におちんちんを隠している僕の周りに集団登校の小学生やお母さんたちが集まってきた。
「君、家はどこ? なんで裸なの?」


2 コメント

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Unknown (Gio)
2010-09-26 13:46:04
更新お疲れ様です。
山の中を放浪…こういうシチュエーション大歓迎です。
最近急に寒くなってきたので体調にお気をつけ下さい。
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Gio様 (naosu)
2010-10-30 04:04:53
コメント、ありがとうございます。
なんとか月に一度は更新したいと考えています。今後どうなるか分かりませんが。
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