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こちょこちょの刑は僕が小学生五年生の時にクラスで一時期流行した遊びだった。遊びといってもそれはやる側から見た場合であって、やられるほうからしたら、ただのいじめにすぎないのだけど。
この遊びが始まったきっかけは、Y美の思いつきだった。
弁舌自慢のU君が隣の席の地味系女子と口論して、相手の一語に千語をもって返し、とうとう泣かせてしまった。女子たちは机に突っ伏した地味系を慰め、U君への怒りを爆発させた。Y美は「仕返しするっきゃないでしょ。泣かされたんだから、反対のことをしてやろう」とクラスじゅうに聞こえる声で言った。
「反対のことって?」同志女子たちは顔を見合わせた。
「泣かされたんだから、笑わせてやるんだよ。くすぐりまくってね」
次の休み時間、Y美は同志に顎をしゃくって、U君に飛びかからせた。「こちょこちょ、こちょこちょ」と女子たちが念仏のように唱えながら、床に押さえつけたU君をくすぐる。U君の泣き笑いの悲鳴が女子たちの背中の向こうから響き渡った。
この一件以来、何か粗相をした場合のペナルティとして、こちょこちょの刑がおこなわれるようになった。やられるのはたいてい男子で、まれに女子がターゲットになる場合は、ごく軽く、じゃれ合い程度で済まされた。
この刑をおもしろがったのは、女子よりむしろ男子だった。
休み時間には、男子がさしたる理由もなく、それこそ遊びと称して、僕やU君を捕まえてはこちょこちょの刑をするようになった。女子はそれを冷ややかに遠くから眺めた。
その日、僕は悪ふざけする級友に体当たりされて教壇にぶつかり、花瓶を落としてしまった。花瓶は割れ、前の席にいた女子の靴下を濡らした。女子たちがすぐに僕を囲んだ。異様な殺気に怖じけてすぐに謝ったものの、返ってきたのは「ごめんで済めば警察はいらないでしょ」という冷たい言葉だった。僕は居残りを命じられた。
放課後、Y美たち女子七人は厳しく僕を糾弾した。土下座までして謝罪したのに、彼女たちはせせら笑って僕を見下ろした。
「口では二度としないなんて言ってるけど、あてにならないね。こいつは抜けてるから、きっとまた女子に迷惑をかけるよ。この際だから、徹底的に反省させたいんだよね」
腕を組んで仁王立ちするY美の威圧感は半端なく、正座する僕はまさに自分が裁かれる立場にいるのだということをいやでも自覚させられた。
「どうやって反省させるの? こちょこちょの刑?」
「そうだね。それがいい」
Y美がうなずいた。これで決まりだった。僕は観念した。女子七人に囲まれて、到底逃げ出せない。下手に抵抗したところで火に油を注ぐようなものだ。自身の身に降りかかった不運に目まいを覚える。
今回の件にしても、故意にしたわけでもなく、後ろから押されて、教壇の花瓶を落としただけなのに、ここまで責められる理由がわからなかった。単に溜まったストレスを解消するために僕を生け贄に選んだだけのように思われた。Y美の性格からしたら、そう考えるのが自然だった。
こちょこちょの刑は、脇の下、首、太股など、服から出ている肌という肌をひたすら指先でくすぐられる。笑い声と悲鳴を混ぜ合わせた奇声を発して、押さえつけられた体をバタバタ動かすのだけど、これまで僕はいつもいじめっ子の男子陣にやられるばかりで、女子にくすぐられたことはなかった。
これで彼女たちの怒りが収まるのであれば、甘んじて受けようと思った。男子ほど強烈で、しつこくないかもしれない、という淡い期待もあった。
教室は清掃のために机と椅子が後ろへ寄せられてあった。明日の朝、朝礼前にみなで元の位置に戻すことになっていた。
「今回は徹底的にやるからさ。とりあえずおまえ、服を脱ぎな」
Y美が平然と言った。服を脱ぐ?
「え、それって、つまり、なんなの・・・・・・」
この当時、まだ僕はY美にため口だった。敬語を使うようになったのはおば様の家で生活するようになった中学一年生の夏以降、Y美の奴隷にされてからだ。
「服を脱いで裸になれって言ってんだよ」
女子たちの中から生唾を飲み込む音が聞こえた。
「ふざけないでよ。いやだよ、そんなの」
こちょこちょの刑で、服を脱ぐことはない。僕は予想だにしない命令にたじろぎ、後ずさった。
思い出したくないことだけど、五年生になってから、僕は一度、教室で全裸にさせられていた。
身体検査の日に風邪で休んだのがいけなかった。
休み時間、保健委員のY美の指示で服を脱ぎ、上履きと靴下まで脱ぐように言われ、いやいやパンツ一枚になった。そして、そのまま保健室に連れて行かれた。自分だけパンツ一枚の裸で休み時間中に移動したのだった。身体検査を終えて授業中の教室に戻ると、服も上履きもなくなっていた。仕方なく白いブリーフのパンツ一丁のまま着座した。
災難は続いた。椅子の底面に接着剤が塗られてあって、パンツがくっ付いてしまった。立ち上がることもできない状態で授業を終え、給食の時間を迎えた。
いつまでも席を離れないわけにはいかず、ついに僕は教室でたった一枚身に着けていたパンツも脱ぐ羽目になった。思い出したくない。
こんな記憶があるだけに、学校で裸にされるのは二度とごめんだった。
それなのにY美は、腕を組んで仁王立ちし、「いいから服を脱ぎなさい」と、一歩も譲らない。「もうすっかりわたしたちは、あんたの真っ裸を見てるんだよ。真っ白なお尻もチンチンもね」
女子たちはクスクス笑って、Y美に加勢した。
「そうだよ。わたし、チンチンの形も覚えてるよ。今さら恥ずかしがらなくてもいいんじゃないの?」
「男らしくないねえ。とっととシャツを脱ぎなさいよ。その変なシャツを」
すると突然、ひとりの女子が少しばかり色をなして、
「え、全然変じゃないけどな、別に。かっこいいじゃん。エールワイフだよ」
いかにも心外だという顔をして抗議した。
「エールワイフ? なにそれ。有名な人?」
自分の何気なく発した「変なシャツ」の一語が予想だにしなかった反応を引き起こしたことに、その女子は明らかに戸惑っていた。
「台湾の歌手だよ。好きな人には熱狂的に支持されてる」
僕の七分袖のシャツに目を据えたまま、彼女が言った。
シャツにプリントされたのは、魚の鱗がたくさん付いた上着をまとったマッシュルームカットの人物の白黒写真だった。壁にもたれて座り込み、ふんわりした丸顔を横に向け、くりくりした目でこちらを見つめている。女性にも男性にも見えるその人物がたいそう小柄なことは、同じ壁に立てかけられた手前のモップとの対比から推測できた。
「いいなあ。ナオスくん、どこで買ったの? そのシャツ」
「お母さんが買ってきてくれたから、僕はよく知らないの」
「なーんだ。ママに買ってもらったのか」エールワイフマニアを自称するM山さんはあからさまに落胆して、皮肉っぽく言った。「よかったわねえ、ぼくちゃん」
エールワイフの大ファンである母は、僕を置き去りにしてひとり台湾まで追っかけてコンサートに連日通った。バイオテクノロジーの専門家としてその分野ではかなり知られた存在であったから、台湾に到着するや母と親密になりたがる研究者が殺到した。そこからつてを得た母は、ついにエールワイフが自宅で開催するパーティーに忍び込むことに成功したのだった。二週間の追っかけ旅行を終えて帰国した母は、それがなによりの自慢だったようで、いかにエールワイフが思いやりにあふれる、機知に富んだ魅力的な若者であるかを繰り返し僕に語った。
このシャツは、その時の旅行で母が買ってきてくれたお土産だった。おそらく日本では売られていないと思われる。でも、そこまで話すと、M山さんにしつこく絡まれそうだから、黙っていた。
「エールワイフとかは、わたし、興味ないから知らないし、どうでもいい」とY美がぴしゃりと話を打ち切った。「あんたには裸になってもらうんだから、早くその変なシャツも脱いで」とY美が嫌みったらしく言うと、すぐにM山さんを向いて、わざわざ「へ、ん、な」と一音節ずつ区切って強調した。彼女は叱られたみたいにシュンとなってしまった。
「早く脱ぎなさいってば」
「わたしたちの前で裸になるのがそんなにいやなの?」
口を揃えて脱衣を迫る女子たち。僕は無言で首を横に振り続けた。服を脱がなければいけない理由なんか、ない。
業を煮やしたY美が僕の右腕を後ろに回して、少しだけ引っ張った。痛い。小学五年生の段階でY美と僕の身長は十五センチほどあった。僕はつま先立ちになって歯を食いしばった。これ以上引っ張られたら、骨が折れてしまう。
「言うこと聞かないと、腕へし折るよ。脱ぐ?」とY美が言った。
「やだ、痛い、痛いよ」
「服を脱ぐかってきいてんだけど。脱ぐ?」
「折れちゃう、折れちゃうよ」
「脱ぐかってきいてんだけど」
「脱ぐ、脱ぐから、もう許して」
腕の痛みに耐えきれず、ついに僕は降参した。
悔しい。なんで裸にさせられなくてはいけないのか。
全然理解できないまま、僕はシャツの裾をまくって首から抜き、畳んで近くの机に置いた。Y美が白いアンダーシャツの裾をもって、「ほら、これも。早く」と急かした。泣きそうになりながらシャツをまくり、あっという間に上半身裸になる。
ここで僕はいったん女子たちの顔を見て、これで勘弁してもらえるかどうか、様子をうかがった。彼女たちは黙って僕の裸の上半身を見つめていたけど、やがてひとりが、
「上履きと靴下も脱いで」
と言った。
「こちょこちょの刑だからね。足の裏もくすぐってやるんだよ」と、Y美がその理由を説明した。
くすぐる箇所を増やすために服を脱がせるのであれば、半ズボンは脱がなくても済みそうだった。脇の下、脇腹、足の裏、それとせいぜい太ももの裏だけで、じゅうぶんに彼女たちの目的は達せられるはずだ。
両足とも裸足になると、彼女たちはターゲットとなる僕の体にさらに近づき、至近距離でじろじろ見つめながら僕の周りを歩いた。
「何してんの? ズボンも脱ぎなよ」
「え、ズボンも?」
「そう。早く」
いくら一度素っ裸を見られていても、女子たちの視線を一身に集めながら服を脱ぐのは苦痛だった。
「なんでズボンまで脱がなきゃいけないの?」
「いちいちうるさいやつだな。あちこちくすぐってやるんだから、ズボンは邪魔だろ」
「やだな。脱ぎたくない」
ためらっていると、Y美が、
「わたしたちが力ずくで脱がすこともできるけど、そうしたら勢いあまってパンツとかも脱げちゃうかもね」
と脅した。
「わかったよ、もう」
やけになって、ズボンのベルトに手をかけた。たしかに七人もの女子に襲われたら、一分も経たないうちにズボンを奪われ、パンツも脱がされてしまう。自分からとりあえず命じられたとおりズボンを脱ぐのがこの場合、一番賢明のような気がした。
女子たちの見ている前でとうとう僕はパンツ一丁になり、脱いだ半ズボンを折り畳み、机の上のシャツの横に置いた。
「どう? これで満足?」
そう言って僕はパンツ一丁の心許ない身を女子たちの前でもじもじさせた。
「男子って、みんなこういう白いブリーフなのかな?」
所在なく立つ裸の僕をしげしげ眺めながら、女子のひとりが疑問を口にした。
「わかんない。こいつにきいてみよう」とY美が言い、そわそわする僕を向いて、「おい、どうなんだよ」
難しい質問だった。あいまいな返事をすると、「はっきり答えなさいよ。着替えの時とか見てるでしょうに」と、Y美という虎の威を借りた女子になじられる。
「よくわかんないけど、クラスの半分くらいは僕みたいな白ブリーフと思うよ」
「そんなことないッ」と訳知り顔の女子がきっぱり言った。「かっこいい男の子は、こんなださいパンツ穿いてないよ」
「マリモン、あんた、よく知ってるねえ。さすが男子研究の第一人者」
Y美が笑った。周りの女子も追従して笑った。
ふと見ると、M山さんが僕のシャツを手に取って眺めていた。
「これ、どこで売ってたんだろ。ねえ、ナオスくんのお母さんて、エールワイフのファンなの?」くんくんと鼻を近づけて、においまで嗅ぎ始めた。
うんまあ、と答えた瞬間、いきなり彼女の口からギョエエエーと悲鳴とも賛嘆ともつかない声がほとばしった。
「どうしたのよ」
「こ、このシャツ・・・・・・、裾の裏側に・・・・・・」彼女は上気した顔で口をパクパクさせながら、言った。「エールワイフ様のサインが、直筆のサインがある・・・・・・」
ムッとしたY美はM山さんの手から強引にシャツを奪って机に戻すと、「もう今はお仕置きの時間だろうが。何やってんのよ」と一喝して、彼女を平手打ちした。
パンツ一丁のまま、僕は教室の床に正座させられた。
七人の女子に取り囲まれている。どこにも逃げ道はない。
「今から、あんたにお仕置きするからね」とY美が宣言した。
「なんでお仕置きされるか、ほんとによくわかってんのかしら」
恥ずかしさと屈辱でうつむく僕の顔を覗き込んで、女子のひとりが言った。
「花瓶を割ったから? 花瓶を割ってRさんの靴下を濡らしたから?」
僕の答えに女子たちは満足しなかった。
「それだけじゃないよ。あんたさ、うっかりミスが多すぎるんだよ。掃除当番忘れてどっかに行ったり」とM山さん。
そうそう、と女子たちがうなずく。
「給食でわたしの牛乳飲んだり」と、マリモンが付け加えた。
「えー、そんなことあったの?」女子たちは初めて聞いたようだった。
先日、給食の時間の出来事だった。黒板の色がピンクだったらおもしろいな、とそんなことを思いながら僕は牛乳に手を伸ばして、飲んだ。それは同じ班のマリモンの飲みかけの牛乳だった。すぐに謝って、マリモンも笑って「いいよ、別に間接キスとかって、わたし気にしないし」と寛大な笑顔で許してくれたはずだった。
「わざとじゃなくても、わたしはすごく嫌な思いをしたよ。あんた、あのあと、急いで口をすすぎに行ったでしょ」
マリモンの面持ちは、母が玄関の壁のひびを隠すために飾った能面にそっくりだった。
たしかに僕はマリモンの飲みかけの牛乳と気づいた時点で気持ち悪くなって、流し場に直行した。こっそりと、気づかれないように教室から姿を消したつもりだったけど、まさか、見られていたとは。
それがずっと彼女の心の中でくすぶっていたようだった。
「ほんとに悪かったと思う。謝るよ。口をすすいだのは別にマリモンのストローを使ってマリモンの飲みかけの牛乳を飲んだからとかじゃなくて、肉じゃがに入ってた白滝の味が変だったからだよ」
「ふうん、それ、ほんと?」
マリモンのカチカチに凍り付いていた表情が緩んだ。
「ほんとだよ」
「そっか。ま、いいや。それでもお仕置きが許されるわけじゃないからね」
「そりゃそうだよ。ちゃんと謝らせなきゃだめだよ」とY美が口を挟んだ
「ちゃんと謝らせるって?」
「もう一回、土下座させるの」
Y美が正座する僕の頭髪を掴んで、上下に揺すった。
「ほら、土下座だよ。ちゃんと謝りなよ、マリモンに」
「痛いよ。放して。土下座なら、さっきしたでしょ」
「マリモンの牛乳飲んだんだから、もう一回、土下座しろよ」頭髪の揺すりがさらに乱暴になった。
「わかった。土下座する、土下座するから、痛い、髪の毛引っ張らないで」
こうして僕は本日二回目の土下座をすることになった。
一回目の、女子七人にさんざん責められて土下座を強要された時も悔しくてたまらなかったけれど、その時は服を着ていた。
今の僕は白ブリーフ一枚の裸。この恥ずかしい格好で、もう一度、同級生の女子に土下座しなくてはならなくなった。
「・・・・・・申し訳ございませんでした」
声を震わせ、額を床にこすりつけて謝罪の言葉を口にする。頭を床に密着させたまま、身じろぎもせず許されるのを待つ。
女子たちはパンツ一丁で土下座する僕の姿をいろいろな角度から見て、「みじめだねえ」「男子としてのプライドはないんだろうねえ」などと好き勝手な批評を広げた。
命じられるまま、僕は教室の床にパンツ一丁の情けない姿で仰向けになった。両足、両腕を広げた形で押さえつけられる。
こちょこちょの刑が始まった。「こちょこちょ」と唱えながら、女子たちの指が僕の脇の下、首筋、脇腹、足の付け根周辺、足の裏を這い回る。僕は腰を突き上げたり、左右に揺すったりして、激しく動きながら、笑い声とも悲鳴ともつかない声を発して、逃れようのないくすぐり責めに耐える。着衣でやられるのとは段違いのくすぐったさだった。なにしろ通常のこちょこちょの刑では触れられない、または服の上からくすぐられる箇所を直接でこちょこちょやられるのだから。しかも休みなく続ける。
「いや、やめて」
素っ頓狂な笑い声を上げながら押さえつけられた四肢を懸命に揺すっていると、不意におしっこをしたくなった。まずい、くすぐられた状態では我慢が難しく、ひょんなことから失禁しないともかぎらない。
「お願い、おしっこ、おしっこが漏れちゃう、やめて」
恥を忍んで叫ぶと、さすがに教室の床をおしっこで汚されたら面倒と思ったのか、こちょこちょ責めを中断してくれた。
「ほんとにおしっこなのかよ」とY美が疑う。
「ほんとだよ。漏れそうだから、トイレに行ってもいい?」
肩を上下させるほどの荒い呼吸を繰り返しながら、僕はY美に許可を求めた。火照った顔が自分でもよくわかった。
「いいよ」
「ありがとう」
すばやく立ち上がって服を着ようとすると、待ったが掛かった。
「誰が服を着ていいって言った?」
「だってトイレに行っていいって」
ズボンを手に取ったまま、Y美の思わぬ剣幕にびくびくして返すと、
「服着るの禁止。そのままの格好で行きなさいよ。パンイチで」
「う、嘘でしょ・・・・・・」
この教室は校舎の端にあり、トイレは反対の端にあった。長い廊下をパンツ一丁で歩くのは恥ずかしすぎる。放課後とはいえ、校舎にはまだ多くの生徒が残っている。
「だって服着たら、あんた、逃げるかもしんないでしょ。わたしたちも付き添ってやるから、心配すんな」
女子たちは顔を見合わせて、にっこり微笑んだ。
付き添うなら逃げる心配はなくなるわけだから、服を着させてくれてもよいのに、女子たちは、というかY美はなぜか許してくれなかった。いくらお願いしても、「だめ、だめ」の一点張り。
「あんた、身体検査のために保健室までパンツ一丁で歩いたでしょ。だから、慣れてるんじゃないの?」
「そうだよ。今は放課後だから、そんなに人もいないんだよ。何をそんなに恥ずかしがってるのよ」
女子たちは僕の忘れ去りたい羞恥体験を持ちだして、恥ずかしがる僕を訝った。
白いブリーフのパンツ一枚しか身に着けていない格好で、強制的に教室から出された僕は、Y美たち女子七人に囲まれながら、一直線に伸びた廊下を歩いた。裸足なので足の裏に廊下の冷たさがじかに伝わってくる。いよいよ惨めな気持ちになった。
同じ学年の女子の集団とすれ違った。彼女たちはゲラゲラ笑って、通り過ぎてもなお振り返って笑い続けた。下級生の女子や男子たちは、「ねえねえ、なんで裸なの」と無邪気に話しかけてきた。M山さんが「罰ゲームだよ」と答えると、納得顔でニッと笑い、「がんばってねえ」と言って僕のパンツのゴムを引っ張り、パチンと鳴らして走り去った。
Y美たちは男子トイレの中にまで入ろうとした。
「ここ、男子トイレなんだけど」
遠慮がちに注意を促すと、
「だからどうしたのよ」Y美はけろりとして言った。「ちゃんと見張ってないと、あんた、逃げるかもしんないでしょ。まだお仕置きの途中なのに」
「逃げられるわけないじゃん。僕、裸なんだよ。どうやって逃げるの?」
裸だって、と女子たちはクスッと笑った。
「裸ったって、パンツは穿いてるでしょ。パンイチだったらあんたは平気で逃げるよ。先生に言いつけるかもしんないし」
「先生に言いつけられるのは絶対いや」
女子のひとりがY美にすがるような目を向けた。
「そんなこと、絶対にしないから」いやな予感に胸を押しつぶされそうになりながら、僕は力を込めて否定した。
「ねえ、信用できると思う? こいつの言ってること」
Y美がほかの女子たちを見回して、意見を求めた。
すっとY美が腕を伸ばしてきて、僕の腕に絡ませた。この隙にトイレへ駆け込もうとしたところを見透かされたのだった。
「どうかな。たしかにこの子、この前もパンツ一丁で教室から歩いて保健室まで行ったよね。保健室で脱げばいいのに、わざわざ教室で裸になってさ。笑っちゃうよね」
それは断じてちがう。Y美までにっこり微笑んでうなずいているけど、あれはY美に教室で服を脱ぐように強要されたのだ。保健室で脱いでもよいと知ったのは僕が保健室に着いてからだった。いわばY美に騙された形だった。でも今は下手に言挙げしたら、彼女たちの、特にY美の機嫌を損じるだけだから、我慢して聞き流すことにした。
また別の女子が思い出したように言った。
「そうだったね。あれにはびっくりしたね。今、パンツ一枚で廊下を歩いてる時はかなり恥ずかしそうだったけど、実際は相当に慣れてるってことだよね、この子。だったらパンツも脱がしちゃえば」
「脱がすって?」女子たちは、顔を見合わせた。
「そ。脱がすの。すっぽんぽんにしちゃう」
「いい考えじゃん。それ、採用ッ」手をパンと鳴らして喜ぶY美。提案した女子の二の腕に肩先を軽くぶつけると、僕のほうを向いて、「じゃ、そういうことで」と言って、僕の腕を放した。
そういうことって、まさか・・・・・・。
「パンツ、脱ぎましょう」
「う、嘘でしょ・・・・・・」絶句する僕。同時に、両手でパンツのゴムを握った。しかしこの仕草はY美の機嫌を損じてしまったようだ。いきなり荒々しい口調になって、
「おしっこしたいんだったら、ここでパンツを脱いでから行きなさいよ」
「いやだ、そんなの、絶対にいやだ」
怒鳴られて、怖くてたまらず、足や肩がぶるぶる震えても、言いなりにはならない。断固として拒む姿勢を示す。たった一枚身に着けててるこの白いブリーフを死守するべく、僕はゴムを握る手に力を込めた。
「だったらあんた、いつまでもトイレに行けないよ。この場でこちょこちょの刑を再開するからね。こちょこちょされて、おしっこ漏らして、パンツをびしょびしょにすればいいよ。トイレの入り口でおしっこ漏らすなんて、間抜けなあんたにお似合いだからね」とY美が冷笑する。
「なるほど。トイレの入り口だから、仮におしっこ漏らしても、トイレに間に合わなかったんだ、とみんな思うよね、きっと」
「わたしたちのせいじゃないってことね。すばらしい」
取り巻きの女子たちに感心され、気をよくしたのか、Y美は穏やかな表情になって、ぐっと僕に顔を近づけた。
「どうするの? 諦めてパンツを脱いでトイレに行くか、ここでおしっこ漏らすまでこちょこちょの刑を受けるか、ふたつにひとつだよ。あんたが決めな」
「どっちもやだよ。お願いだから・・・・・・」
通りかかった男子四人組が、トイレの入り口で七人もの女子に囲まれるパンツ一丁の僕に気づいて、おしゃべりを中断し、目を大きく見開いた。六年生たちだった。すぐさま五年生のY美が睨みつける。首を突っ込むと無用なトラブルに巻き込まれると思ったのか、四人はそそくさと立ち去った。
「パンツを穿いたままトイレに行かせてよ。絶対に逃げないって約束するから」
大人と変わらない背丈のY美を見上げて、僕は訴えた。
「だめだって、しつこいな、あんたも」Y美が呆れたように大きく息を吐いた。「もう一度言うよ。パンツを脱いでトイレに行くか、ここでこちょこちょの刑を再開するか。わたしたちが優しいうちに決めたほうがいいと思うけどな」
「か、堪忍してよ。パンツを脱ぐなんて無理。お願いだから許して」
涙ぐんでしまった。もうおしっこもだいぶ溜まってきている。この場でこちょこちょの刑をやられたら、ほぼ確実に僕はげらげら笑いながらおしっこを漏らして、この身に着けているたった一枚のパンツを濡らしてしまうだろう。
「三つ数えるうちに決めてね。決めなかったら、この場であんたを素っ裸に剥いて、素っ裸のままこちょこちょの刑を再開する」
厳かにY美が宣告した。
女子たちは声を揃えて、「いち、にい」とカウントを始めた。
「わかったよ。脱ぐよ。脱げばいいんでしょ」やけくそになって叫ぶ。「その代わり、おしっこが終わって戻ってきたら、ちゃんと返してよ」
「オッケー。約束してやるから、安心して脱いでね」
悔しい。僕は横向きになるとパンツのゴムに手をかけて、大きく深呼吸してからゆっくりパンツをずらした。全裸になるのはトイレに行っておしっこをしているあいだだけで、戻ってきたらパンツを返してくれるから、と自分に言い聞かせるものの、心の中の自分は全然納得していなくて、文句たらたらだった。
「やだ、ナオスくん、泣いてるし」
「情けない奴。女に泣かされてるし」
「女子の見ている前で最後の一枚を脱がされるんだから、そりゃあ泣きたくもなるよね」
パンツの中に手を差し入れ、おちんちんを隠す。一瞬たりとも見られないよう、慎重に足をもぞもぞ動かしながらパンツを下ろしていく。
足首に絡まったところで女子のひとりがパンツを引き抜き、「とうとう素っ裸ね」と勝ち誇ったように言って、パンツを指の先でくるくる回した。
彼女たちに背中を向けて、男子トイレへ素っ裸のまま駆け込む。彼女たちの冷やかしの声が聞こえて、カッと体が熱くなる。お尻をばっちり見られてしまったけど、おちんちんと違ってこちらは隠しようがないから仕方なかった。それに以前に一度、もうすでに僕は全裸の姿を見られている。諦めるしかなかった。
小用の便器に向けて用を足していると、後ろの個室で流す音がした。誰か入っていたのだ。まずい。放出中のおしっこは止められず、どこにも隠れられない。ほどなくドアが開き、「あれえ」と驚く幼い声が聞こえた。「なんで真っ裸でおしっこしてんだろ」
肥満体の男の子が不思議そうに僕を見て自問していた。
「見ないで。お願いだから、そんなにじろじろ見ないで」
一糸まとわぬ体をぶるぶる震わせながら訴えると、男の子は逃げるように出て行った。入れ替わりにぞろぞろ入ってきたのは、なんとY美たちだった。
「入ってこないでよ。ここは男子トイレだよ」
思わず叫んでも、彼女たちはまったく動じず、にやにや笑いながら近づいてきた。
「どう? ちゃんと出てる?」
女子のひとりのそのひと言で、にやにや笑いは爆笑に変わった。素っ裸のまま立っておしっこをする僕の姿が、おかしくて仕方ないようだった。もしここがトイレでなかったら、彼女たちはそれこそ寝転んで笑い転げたことだろう。
もうおしっこは終わりに近くて、おちんちんを軽く振って滴を払えばそれで完了だった。
「やめて、見ないで」
Y美たちは腰をかがめ、便器と僕の裸身の隙間を覗こうとした。僕はおちんちんが便器に付いてしまうくらいぐっと腰を前に突き出したけど、上から覗かれたらおしまいだった。もうY美は僕の一糸まとわぬ体に触れるくらいの近さだ。
「まだ、ちょぼちょぼ出てるね。すごい量」とM山さんが感心した。
彼女たちはすでに腰を伸ばして、ある者などは背伸びして、便器の中を覗いていた。マリモン以外の女子が頭を突っつき合うようにして、クスクス笑っている。
ヒィィ、見られている・・・・・・。
素早くおちんちんを振って滴を払うと、おちんちんを隠した。手洗い場では、おちんちんを隠しながら片手ずつ洗った。
「もういいでしょ。パンツ返してよ」
女子たちの前で素っ裸のままおしっこさせられた屈辱と羞恥で、声が震えていた。
「約束どおり、返してあげるよ。ほら、ここ」
Y美が清掃用具入れの脇にあるバケツを僕のほうへ足で寄せた。
水の張ったバケツの中に白い布のようなものが沈んでいた。僕のパンツだった。
「ひどい。なんてことするの」
嗚咽する僕を前にしても、Y美は表情ひとつ変えずに、
「あんたのパンツさ、よく見たらおしっこの染みが付いてたんだよ」
「だからわたしたち、洗ってあげたの」
女子のひとりが真面目くさった顔で言った。
「洗ったっていうか、水に浸けただけなんだけどね」
女子たちは、キャッキャッと声を上げて笑った。
「泣かないでよ、ナオスくん。パンツ、穿かせてあげるからさ」
そう言うと、マリモンがバケツの水の中に手を突っ込んで、パンツを取り出し、それを絞りもせず、びしょ濡れのまま広げて、僕の足先に出した。「ほら、足を上げて」
「やだ、こんなのやだ」
「わがまま言わないの。穿かないといつまでもすっぽんぽんのままだよ」
「マリモンたら、ナオスの保母さんみたいだね」とY美が笑った。
べそをかきながらパンツに足を通すと、マリモンがパンツを引き上げていく。たっぷりと水分を吸ったパンツが冷たく僕の肌に張り付いた。
びしょ濡れのパンツ一枚の格好で、ふたたび長い廊下をY美たちに連れられて歩く。パンツから水滴がぽたぽた垂れて、床を濡らした。惨めだった。早く教室に戻って服を着たかったけど、たぶんすぐには服を着させてもらえないだろう。こちょこちょの刑はまだ終わっていないのだから。
彼女たちの会話から、僕のお尻が透けて丸見えになっていることを知った。
女子のひとりが僕の前に回って、濡れたパンツに目を凝らした。
「ねえ、さっきわたしたちが見たチンチンだけど、うーん、ぴったり張り付いてて、形とかは浮かんでるけど、透けてはないね」
「前は裏地があって透けないんだね。お尻は薄い布一枚だから、透けるんだよ」
「そっか。透け透けのお尻もいいねえ。生のお尻と見え方がどう違うのかな」
そう自問したY美は、何を思ったのか、いきなり僕のパンツを引きずり下ろした。
いやッ、と短く叫んで、急いでおちんちんを手で隠す。女子たちに押さえつけられて膝を曲げることも腰を落とすこともできず、引き上げようにも足首のところのパンツにまで手が届かなかった。
「これが生のお尻だよね」
Y美は、女子たちに僕の裸のお尻を至近距離でじっくり見させると、今度はパンツをぎゅっと、僕の体が浮くほど力いっぱい引き上げた。おちんちんの袋が圧迫されて痛い。
やっと床に裸足をつけた僕は、おちんちんの袋に残る痛みに呻きながら、お尻に食い込んでしまったパンツを整えた。
「こっちが透け透けのお尻。どう? 違いはあるかな?」
Y美が女子たちにきいた。
濡れた白いブリーフから透けて見えるお尻は、裸のお尻とほとんど変わらないけど、透かして見るほうがちょっとエッチな感じ、というのが彼女たちの感想だった。わざわざ見比べる必要もないのに、そのために僕は裸のお尻を強引に露出させられたのだった。
廊下は長く、放課後の校舎にはまだ多くの学童が部活動で残っていた。濡れたパンツのせいで透けてしまった僕のお尻を、何人もの女子や男子が通りすがりに見て、クスッと笑ったり、罵倒したりした。
教室に戻ると、直ちにこちょこちょの刑が再開された。トイレまで長い廊下をパンツ一丁のまま往復して、恥ずかしい目にさんざん遭ってきたのに、少しも休ませてもらえない。
こちょこちょ、と唱えながら女子たちが僕のパンツ一丁の体に群がり、くすぐる。仰向けに寝かされ、手足を大の字に広げた状態で押さえつけられている。あまりのくすぐったさに僕の体は波打った。前後に激しく体を揺すって、泣き笑いの声を上げる。
「やめて、頭が変になる、やめてえ」
くすぐったくて顔はゲラゲラ笑っているのに、目からは涙がこぼれてやまない。無論笑いすぎて涙が出たのではなく、悲しくて泣けてきたのだった。
やっとくすぐり地獄から解放されたと思ったら、続けて電気あんまをやられた。まったく息をつく暇もなかった。Y美は僕を仰向けに寝かせたまま、足首を握った。白いブリーフ一枚の僕の股間を上履きの裏で軽く踏みつける。
「じゃ、始めるから、よく見てて」
そう言うとY美が強く踏みつけて、足を振動させた。
激しい痛み、くすぐったいというよりも、おちんちんを踏みつけられる激痛に悲鳴を上げて、両足をY美に脇で押さえつけられたまま、のたうち回る。
「やめてえ、お願いだからやめて、もう許して」
女子たちは初めて見る電気あんまに興味をもったようだった。裸足で踏むと、おちんちんの感触がわかるという理由で、全員が裸足になって電気あんまに挑むことにした。
どんなにいやがって抵抗しても無駄だった。教室内を逃げ回ってもすぐに捕まって、転ばされた。
パンツ一枚のまま、七人の女子に順番に素足で電気あんまをされる。彼女たちはいきなり強く踏まなかった。最初はゆっくり撫でるように足の裏や指で濡れたパンツの上からおちんちんとおちんちんの袋をまさぐった。不覚にも一瞬、甘美な電流が流れて、再三喘いでしまった。そのたびに女子たちは手を叩いて、あるいは僕の声音を真似て喜んだ。
頃合いを見て、一気に力を込める。激しい振動。痛い、やめて。おちんちんの袋に足が当たった。ギャアア。僕があまりにも激しく泣き喚くので、女子たちはさすがに少し不安を覚えたようだった。軽く、揺さぶるようなモードで電気あんまをするようになった。足の指でパンツ越しにおちんちんをいやというほど撫でられる。
そんな刺激をずっと受けていれば、どうしたってスイッチが入ってしまう。・・・・・・つまり、おちんちんが硬くなってしまう。一度ビンビンに硬くなってしまうと、それはもう休憩に入っても容易には収まらなかった。
なにしろパンツ一丁だから、勃起したらすぐにわかってしまう。横座りして腰を捻るようにしてなるべくパンツに彼女たちの目が行かないようにしていたのだけど、
「あんた、いつまでも座ってないでこっちに来なさいよ。気をつけ」
いきなりY美に命じられた。周りの女子がそわそわし出した。僕の股間の変化をいち早く察したようだった。
堪忍してほしかった。この状態で立ち上がったら、おちんちんがカチカチに硬くなっているのが完全にわかってしまう。ぐすぐずためらっていると、「ほら、早く」とM山さんに腕を取られてむりやり立たされてしまった。
「やだ、やめて、見ないで」
パンツ一丁の裸身をよじるようにして羞恥の叫びを上げたけど、股間の膨らみは隠しようがなかった。
驚いたことにY美は僕のパンツの膨らみに初めて気づいたようだった。目を丸くして、しばらく言葉を発しなかった。
「なに、これ・・・・・・。なんか膨らんで、ない?」
ようやくY美が口を開いたけれど、これに答える者はなかった。ほかの女子たちも僕の股間に目が釘付けになっている。
僕はM山さんに取られていた腕をふりほどいて、両手で股間を覆い、「見ないで」と泣き叫んだ。依然としておちんちんはピンと硬くなったままだった。
「勃起だね、ナオスくん」とマリモンが優等生のような顔つきになって言った。
「ぼっき?」Y美が聞き返した。
「そう、勃起。おちんちんが大きくなる現象」短く説明するマリモン。すぐにまた僕を向いて「ナオスくん、もしかして精通したの? オナニーとかするの?」
まさかッ。僕は顔を真っ赤に染めて力いっぱい首を横に振った。
「そうか。でも、気にすることはないよ」マリモンは思いやりあふれる口調になった。「精通を迎えてなくても、男の子って勃起するんだもんね」と言って、僕の体に起こった生理現象に慈愛のこもった眼差しを向けた。
Y美たちは意気消沈し、口数も少なくなった。勃起という彼女たちにとって未知の現象を目の当たりしてショックを受けたようだった。あるいは自分たちの悪ふざけが少し度を超したと感じて、良心の呵責を覚えたのかもしれない。この二年後、Y美は僕のおちんちんを日常的に扱いては射精させたり寸止めしたりするのを楽しむようになるのだけど、この当時はまだ、そこまで進んでいなかった。
M山さんが手を伸ばして、僕のパンツのちょっと膨らんだ部分を摘まんだ。ヒィィ。パンツ越しとはいえ、おちんちんを触られた。
「キャッ」
鉄鍋の蓋にでも触れたみたいに彼女はすぐに手を引っ込めた。顔面を強張らせ、警戒を露わにした目で僕を睨みながら、ツツと後ろへ下がる。硬くなったおちんちんの感触がよほど気持ち悪かったようだ。
トイレではパンツを脱がせて、おしっこを放つおちんちんまで見ておもしろがってたのに、勃起してしまった途端、女子たちの態度は一変した。恐怖を感じたようだった。性に関する知識が最も豊富と思われたマリモンにして、内心の動揺を隠しきれていない。
これは僕にとっては思いもかけない、ありがたい反応だった。おしっこの時でさえパンツを脱がされたのだから、勃起してしまったらもう確実に素っ裸に剥かれて、硬くなったおちんちんを矯めつ眇めつされるかもしれないと怯えていたのだけど、どうやらその心配はなさそうだった。もしかすると男児は勃起することで女の子の優位に立てるのかな、と思ったりもした。
男児のリアルな性に接した衝撃から覚めようとするかのように、Y美はこちょこちょの刑の終わりを告げた。そして、僕を向いて「もう服着ていいからさ、早くその汚らしい物を元に戻しなさいよ」と言った。
うう、と羞恥に呻きながら、パンツの膨らみを隠すように中腰になって、服を置いた机に向かう。やっと服が着れる。そう思った途端、僕は自分の目が信じられなくなって、思わず叫んだ。
「服がないッ」
完結したとおもっていたナオスくんの外伝が読めてとても嬉しいです。内容としてはよりnaosu様の実体験に近いエピソードでしょうか。
長編のアクティブなナオスくんも良かったですが、日常や学校でひたすら受け身な羞恥にあうナオスくんもやはり素敵です。