思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

いじめられっ子のための幸福論(3)

2022-09-04 12:46:03 | 10.いじめられっ子のための幸福論
 翌日、いよいよ明日は本番ということで、この日の練習には、特別にY美も参加した。単純に練習の成果を確認したいからだそうで、僕を射精させないための監視は、昨日までと同じくルコに任せたままだった。当初はY美の命令でいやいやアトリエに足を運んでいたルコも、最近では僕の性感を高めるだけ高めて射精を懸命にこらえる姿を見るのが楽しいのか、やる気満々で僕の一挙手一投足を見守り、折々おちんちんやお尻を揉んだり、耳元に息を吹きかけて乳首を撫でたりする。
 こういうよけいなちょっかいのせいで、おちんちんはあっけなく大きくなる。性的に反応しているのがすぐに周囲に分かってしまい、笑われ、馬鹿にされ、変態と罵られてしまう。射精したくても許されず、我慢するしかなくて、渾身の力を込めて精液の放出を食い止めているのに、その努力を嘲笑されるのは、悲しかった。
 ショートボブの髪型になったメライちゃんと僕を交互に見て、Y美は「確かに同じ人物に見える」と一応は認めたものの、すぐに腕を組んで考え込んだ。
「何か気になる点でもあるの?」と、鷺丸君が緊張した面持ちで訊ねた。
 強気で自身満々の鷺丸君も、いつのまにかY美の顔色をうかがうようになっていた。Y美には逆らえない。これまで何度もY美の意見でマジックの内容を修正させられた。鷺丸君にしてみれば憤懣やるかたなしといったところだろうけれど、Y美を立腹させると、マジックショーの機会そのものを失いかねない。それくらいY美の母親であるおば様はその方面にも力を持っているのだから、すべてはこの長身のお嬢様のお気に召すように仕向ける必要があった。
「気になる点? あるね。残念だけど、これじゃマジックショーは失敗する」
「なんだって」
 顔面蒼白になった鷺丸君を見て、Y美は微笑した。
「この二人、肌の色が全然違うじゃん。いくら髪型を同じにしたって、すぐに別人だって分かるよ」
 並んで立つメライちゃんと僕は、気をつけの姿勢を取らされた。鷺丸君とルコが二人の体を見比べる。「確かにね」と、ルコが感心して頷いた。わざわざ後ろへ回って、僕のお尻をぴしゃりと叩くと、「ナオスくんたらお尻と背中の色がまったく同じ。普通の人は服を着てるから日焼けの度合いが違うはずなのに、ナオスくんの場合は全然変わらない。きれいに満遍なく日焼けしてるよね。これってなんで? もしかしていつも素っ裸だから?」などと分かり切った質問して、羞恥に身をくねらせる僕の顔を覗き込む。
 スクール水着をまとうメライちゃんの肌は、透けるような白さ。たいして僕はどうかというと、以前はメライちゃんと同じような肌だったと思うけど、常時全裸で、しかも庭の砂場で寝起きさせられている生活のおかげで、すっかり小麦色だ。白粉を塗った顔はともかく、スクール水着からはみ出たメライちゃんの手足の肌は、もう明らかに僕の野性味を帯びたそれとは色艶が異なる。
「ちっきしょう、気づかなかった」
 指摘を受けて、鷺丸君は地団駄を踏んで悔しがった。
 Y美の命令で買い物に出かけていたルコが戻ってきた。鷺丸君のお姉さんに自転車を借りてだいぶ飛ばしたらしく、「暑い暑い」と言いながら冷房に向けて丈の短いシャツの裾をブラジャーがぎりぎり見えない程度にめくり、冷えた空気をお腹に送り込んでいる。「買えたのかよ」と聞くY美に「お望みの物を」とビニール袋を渡す。
「そう、これこれ」と舌なめずりしながらY美が丸い缶をいくつか取り出す。ベビーパウダーだった。ファンデーションもあった。
 メライちゃんと僕を向かい合わせで立たせると、Y美はメライちゃんを向いて、水着を脱ぐように言った。
 耳を疑うメライちゃんにY美は命令を繰り返した。「早く脱げよ」
「な、なんで、ですか?」
「決まってんだろ、ベビーパウダーを塗るのに邪魔だからだよ。とっとと脱いで素っ裸になりな」
「か、堪忍して。Y美さん」
 メライちゃんは肩を震わせてしゃくり上げた。僕ほどではないにしろ、すでにY美に何度も全裸にされて、さんざん恥辱の体験をしてきた。僕自身も何度かメライちゃんと一緒に素っ裸でいじめられ、屈辱的な仕打ちを受けた。だから、メライちゃんが僕に生まれたままの姿を晒すのは初めてではない。にもかかわらず頑なに抵抗するのは、この場に鷺丸君がいるからだった。これまで鷺丸君の前で全裸になったことはなかった。
 アトリエという場所で普段着の同級生にスクール水着姿を晒し続ける恥ずかしさには、さすがに慣れてきたところだった。それなのに、その水着すらも脱がなくてはならないとなれば、改めて覚える羞恥心はいかばかりだろう。さらにパワーアップしているに違いない。メライちゃんの細身の体がプルプル震える。
 それでもY美の命令となれば、諦めるしかない。すっかり観念したメライちゃんは、素っ裸の僕へ目を転じ、しげしげと眺めてから、スクール水着を肩から抜いた。乳房を手で覆いながら下ろしていく。
 久々に拝むメライちゃんの裸体を前にして、おちんちんの反応は到底抑えられるものではなかった。両手を頭の後ろで組むように命じられ、ためらっていると、お尻を叩かれた。仕方なく股間から手を離し、命じられた姿勢を取る。ピンと跳ね上がるおちんちん。メライちゃんと僕を除く全員が手を叩いて喜ぶ。
「触ってないのに、見ただけでこれだからね」
 何かと僕の体を触りたがるルコが僕の脇腹をさすりながら、感心する。
「ナオスくんてさ、ほんとはすっごくエッチなんだよね。メライちゃんのハダカを見ても、こんなに反応するんだから」
 足を小刻みに震わせて羞恥に耐える僕を鷺丸君のお姉さんが冷やかす。
 なるべく見ないように床に視線を向ける。でも、頭の中にはたった今視界に入ったばかりのメライちゃんの一糸まとわぬ姿、発育中の乳房や丸みを帯びた体のライン、股間の青白い筋がしっかり映像として残っているから、結局どこに目を向けようと変わらないのだと思って、すぐに顔を上げてしまう。見慣れたメライちゃんの足の指が見え、脛、太腿と順に確認するように追っていくと、青白い丘、縦に筋の入った股間に到着する。ここからはスクール水着をまとった状態では絶対に見られないエリアだ。
 秘境のエリアは縦に続く。下腹部、お臍、乳房と顔を上げるにつれて光景が変わって、もう見ているだけで裸身を巡る快感の電流が、アウッ、強くなったり弱くなったりする。一週間も禁欲させられて、おちんちんは触れなくても精液を放出しかねない勢い。みんなが僕の、隠すことを許されないおちんちんの硬化した形状を凝視する。ただ僕と同じ全裸のメライちゃんだけがうつろな眼差しをおちんちんから逸らし、悲しそうな顔をした。
 全身にファンデーション、ベビーパウダーをY美、ルコ、鷺丸君のお姉さんの手で念入りに塗られる。向かいではメライちゃんも羞恥とくすぐったさに身をくねらせ、それでも頭の後ろで結んだ手を放さない。
 触られると射精してしまいそうになる、それくらいデリケートなのに、おちんちんにパウダーを塗るY美の手つきは無造作だった。アヒッ。思わず腰を引く。射精厳禁を命じているくせに、いかせるような手つきでおちんちんに触るのだから、たまらない。
「いくなよ。勝手に出したらモン先輩たちのチンチンをお前の尻に突っ込ませるからな」
 何、その脅し。ヒィッ、堪忍して。
「すごい、見たいな。モン先輩たち、やりまくってるって噂だよ。女の人たちも愛想を尽かしてるっていうから、たまにはナオスくんを相手にさせてもいいかもね」
「まあ、ルコちゃんたら、あんた……」
 さすがに鷺丸君のお姉さんも絶句したようだった。
 全身をベビーパウダーで白く塗られ、僕の日焼けした肌はすっかり隠れた。同じくパウダーで頭から爪先まで塗りたくられたメライちゃんを見て、僕はゾクッと背筋に寒いものを感じた。もう一人の自分を目の当たりにしたように思ったのである。今度こそ僕たちは見分けがつかなくなった。Y美たちのハイテンションから僕はそう確信する。
「ちょっと待って。メライ、あんた、何勝手に水着着ようとしてんの?」
「え、だって……」
 いきなりY美に吊り上がった細い目で睨まれ、メライちゃんはたじたじになった。手に取ったスクール水着で胸を覆い、もじもじしながら、「だってもう、パウダー塗ったからいいと思って」と弁解する。
「ばかやろ」
 つかつかとメライちゃんに歩み寄ったY美は、いきなりメライちゃんからスクール水着を取り上げ、足元に投げつけ、踏みにじった。全身真っ白のメライちゃんの裸体が露わになる。小さくキャッと叫んで、慌てて胸と股間を手で隠した。
「勝手な真似すんな。全裸でやるんだよ」
 絶句するメライちゃんに代わって、「ひ、ひどい」と抗議したのは僕だった。すぐにY美が睨みつけてきた。「なんだ、お前」
「メライちゃんは水着でやることになってるから、裸でなくてもいいと思う」
 実は僕個人としてもメライちゃんには水着着用でマジックの練習をしてほしかった。全裸では刺激的すぎて、おちんちんが収まらない。
「勃起したまま何言ってんの? ナオスくん」
 ルコに呆れ顔で見つめられる。手を前にかざしても、気づかれてしまうのだった。
「お前、いつから意見できる身分になった?」 
 いつの間にかY美が後ろに立っていた。え、と思った瞬間、僕の裸身は前方に飛んだ。すぐに駆けつけてくれた鷺丸君にお尻と膝を調べられる。明日の大事な出演者の体に痣がついたらどうしよう、と思っているようだった。
「わかった、Y美ちゃんの言うとおりにするから、もう怒らないでね」
 卑屈な笑みを浮かべて鷺丸君が言った。妥協を許さない、芸術家肌の鷺丸君もここに至っては、まったくいやになるくらいの平凡な人だった。
「じゃ、メライちゃん」と、全裸でうずくまるメライちゃんを向いて、優しい声をかける。「せっかくだから裸でやってみようか。大丈夫、おれはエッチな目で見ないから。メライちゃんもナオスもおれの大事な分身だから、裸を恥ずかしがらなくてもいいよ」
 こうして本番前の最後の練習は、メライちゃんも僕同様、全裸ですることになった。二人ともファンデーションを糊塗した肌にベビーパウダーをまぶされた白い体、同じ体つき、同じ髪型で、おちんちんのあるなしで判別するしかないような二体だった。
 メライちゃんが走ってボックスに入ると、代わりに僕が出てくる。メライちゃんも最初から裸だから、僕のリアクション(いきなり全裸になっていて驚き、急いでおちんちんに手を当てて隠す)が意味を成さないけれど、本番を明日に控えていろいろ考えるのは面倒だから、一応、これまでの練習どおりに動くことにする。Y美、ルコ、お姉さんは、この二人とも全裸で励むマジックショーの練習を見て、喝采した。特に彼女たちの気に入ったのは、勃起したおちんちんだった。
 元に戻したくて、一所懸命にフローリングの板目や窓を数えたり、歴史の年号を思い返したりするものの、効果はまったくない。狭いボックスの中で待機していると全裸のメライちゃんが入ってくる。肌と肌がぶつかる。メライちゃんの柔らかい肌を全身で感じる。これだけでもう大変な官能であって、僕の一糸もまとわない肌に性的快感を波打たせてやまないというのに、それに加えて、メライちゃんの手がおちんちんに当たったりするのだ。とても勃起を収めるどころではない。
 しかしこれは鷺丸君の想定とは違う。鷺丸君の求めるのは、あくまでも普通のおちんちんだった。勃起状態では、鷺丸君の意図するのとは別の方向へ観客の興味を導いてしまう。
「いい加減にしろ。いつまで勃起してんだよ、このヘンタイ野郎」
 鷺丸君は口を極めて僕を罵った。罵りたくなる気持ちは分かる。僕だって恥ずかしいし情けないし、一刻も早くなんとかしたい。でも、できない相談だった。
 射精を禁止されて、今日で八日目。連日しょっちゅうおちんちんをしごかれ、官能を僕の意思に反して高められながら、一度たりとも射精させてもらってないし、今日だって朝食後、Y美がシャワーを浴びている間におば様におちんちんを責められ、口の中で射精の寸止めを連続して三回もやられたのだから、官能は鎮火することなく、僕の剥き出しの肌という肌をうずかせて今に至っている。
 それでもこれが普段の練習だったら、僕は勃起を抑えられただろう。でも今日は最悪だった。相方のメライちゃんがいつものスクール水着を脱がされたのだから。素っ裸のメライちゃんのパウダーを塗られた白い裸身が目に入るたびに僕はビクンと反応してしまう。
 母屋で用を済ませたY美が戻ってきて、ふうん、と感心した。
「裸の女の子がボックスを通り抜けると、股間におちんちんが生えるマジックだね」
「これはこれでおもしろいね。いっそのこと、メライちゃんも本番は全裸でどう?」
 思わぬルコの提案にメライちゃんの白い裸身がブルッと震えた。
「あ、それは無理。男の子のおちんちんは規定の範囲だったら放送できるけど、女の子の裸は男の子と比べて放映の条件が格段に厳しくなるからね」
「へえ、詳しいんですね」
 Y美が上目遣いでお姉さんを見た。
「うん、まあ、ちょっとね」
「さすが」
 Y美に褒められて、お姉さんは照れ笑いした。
「先月までテレビ局でバイトしてたからね、わたし。あるコント番組でプロデューサーが女の子の裸を出そうとしたら上層部からNGが出て、仕方なく男の子に変更したことがある。スタジオに遊びにきていた小学生の男の子にいい感じの子がいたから、適当に脅かして素っ裸になってもらったの。女の子の場合は料金がかかるけど、男の子だと無料でできちゃうのね」
 痛いッ。回転ドアに硬化したおちんちんをぶつけてしまい、僕は悲鳴を上げてその場にうずくまった。
「まったくお前ってやつはよお」
 この中で唯一同性の鷺丸君なら僕の苦しみを理解できるはずなのに、まるで僕を軽蔑にしか値しない生き物でも見るような目で眺めるのだった。僕が理不尽な射精管理、Y美とおば様によってほとんどおもしろ半分に一週間以上にわたって射精を禁止されていることを知らないのだろうけど、察して欲しかった。でなければ、こんなにビンビンおちんちんを立たせたりしない。
 事情を知らないが故におちんちんの異変を不思議がるのは、メライちゃんも同じだった。自分が全裸という刺激的な姿である点を差し引いても、なお僕のおちんちんのビンビン状態は不審の念を抱かせるようだ。「大丈夫なの? ナオスくん」などと、小ぶりな乳房へなおざりに手を当てながら、僕の顔を心配そうに覗き込む。

 勃起が収まるまで練習中断になった。アトリエを出て、庭を横切り、池のほとりにある三角屋根の形をした日除けの下で気分転換を図る。ここには正方形に組まれた四つのベンチがあった。メライちゃんは素っ裸のまま外に出されることに抵抗し、「お願い、水着を着させて」と訴えたけど、Y美にうるさいと一喝された。
 移動のあいだも僕は両手をルコとお姉さんに取られ、前を歩く全裸のメライちゃんのぷりぷり動くお尻に興奮を掻き立てられながら、Y美におちんちんを適度にしごかれた。池の前に来ても、だからおちんちんはあいかわらず硬いままで、朦朧とする頭の中では、ただもう、いきたい、いかせてください、と哀訴する自分の掠れた声が反響するばかりだった。
「あんたもちょっと触ってみたら、ナオスくんのおちんちん」
 ルコがメライちゃんを唆すと、不意にY美は真顔になった。「あ、でも、ちょっとだけにしとけよ」と、すかさず注意を入れる。
「ちょっとって、どれくらいかな?」
 硬化状態のおちんちんを前にして顔を真っ赤に染めるメライちゃん。その彼女に代わって、ルコが訊ねた。図らずもY美の不興を買ってしまい、ルコもまたこれまで何度も、まあ僕の百分の一以下だとは思うけれど、いやな思いをしてきたと推測する。Y美の指示命令で曖昧な点があれば、直ちにはっきりさせないといけないという意識がルコには染みついているようだった。その間髪を入れない質問の早さ。しかし僕に驚く余裕はなかった。メライちゃんにおちんちんを握られたのだから。
「だ、だめだよ、メライちゃん……」
 迫りくる快感の波と戦いながら、強く出せない声で訴える。顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめるメライちゃん。「だって……」
 言葉を濁した返しだったけれど、言いたいことは分かった。命令されて仕方なく、といったところなのだろう。彼女たちの命令に背くとどんなにつらい目に遭わされるかは、メライちゃん以上に僕が知っているから、もちろんメライちゃんを責める気にはならない。しかし、それにしてもおちんちんを強めに握ったまま手を震わせるのは堪忍してほしかった。おちんちんの先っぽからこんこんとぬるぬるした液体が出てきて、快感指数を危険な域まで上昇させている。
「ちょっとってどれくらいって、ねえルコ、あんたそれくらいも自分で考えられないの?」
 ぶっきらぼうなY美の返答にルコの顔が強張った。勝手にメライちゃんにおちんちんを触らせたことでY美は怒っているのだ。「まったくもう。……ああ、まただ」と言ってY美は母屋へ行った。
「じゃ、そうだね、ええと……」無理に笑顔を作って、ルコがメライちゃんを向いた。「とりあえず、どうかな、五回くらい……」
「五回?」
 きょとんとした顔でメライちゃんが言った。
「そ、五回」
 ルコは握った手つきをして、ゆっくり水平に動かして見せた。右から左へ、左から右へ。これで一回。
「うう、だめ、だめだよ、メライちゃん」
 思わず叫んでしまった僕をルコが「黙ってよ」と平手打ちした。五回? 冗談じゃなかった。そんなに耐えられるわけがない。すぐにでも逃げたいところだけど、鷺丸君のお姉さんに腕を取られている。
「探し物って、これのこと?」と遅れてきた鷺丸君がお姉さんに手渡したのは、長さ四十センチくらいの鉄製の丸棒だった。両端にそれぞれ手枷が付いている。
「よく見つけたね。おばあちゃんが生きてた頃、これでよくお仕置きされたよね」
 懐かしそうに目を細めたお姉さんは、鉄製の棒を僕の頭の後ろに当てると、鷺丸君にも手伝わせて、両端の手枷に僕の手首を嵌めた。続いて革製の首輪を僕に装着する。首輪の後ろに棒が縦に伸びていて、手枷付き横棒の中央にあるジョイント部分に接合させる。
「いや、やだ、外して、外してください……」
 肘をほぼ直角に曲げた、ガッツポーズに似た格好で拘束された僕は、手枷をガチャガチャ鳴らして両手を自由に動かそうと試みた。無駄なあがきとは知りつつも、まっすぐに伸ばした手のひらをぎゅっとすぼめ、手枷の細い穴から手首を引き抜こうとする。だめだ、手首が痛くなるばかりだった。でも、それでも諦められないくらい、僕はこの拘束具から解放されたかった。とにかく恥ずかしい。両の腋の下まで露わにした惨めな素っ裸の姿を、これ以上メライちゃんに晒していたくない。
「ほら、じっとして。動かない」
 ウウッ。お姉さんに乳首を抓られ、お尻を叩かれる。それからお姉さんは、首輪と手枷付きの横棒を繋ぐジョイント棒を握った。こうなると、杭にでも縛りつけられたかのように、体を動かせなくなる。
「確かに昔はよくばっちゃんに怒られて、この手枷で拘束されたよな」
 鷺丸君が拘束具で両手を耳の高さの位置に拘束された僕の裸身をじろじろ眺めながら、感慨に耽った。「これを付けられると、確かに恥ずかしいんだよな。おれたちなんか服を着てても恥ずかしくて、人に見られたくなかった。それなのにナオスはさ、素っ裸だよ。ナオスの素っ裸はもう見慣れているけど、この拘束具を付けた状態だと、また新鮮だなあ。しかも同じクラスの女子に見られてるんだから、なかなかえぐいよな」
「何言ってんのよ、あんたのマジックショーのためにメライちゃんはスクール水着姿で、ナオスくんは全裸で頑張ってくれてるんでしょ。二人には感謝しなきゃだめよ」
 お姉さんにたしなめられ、鷺丸君は、「ま、そうだな」とペロッと舌を出して、ほんのちょっとだけ頭を下げた。
 おちんちんの根元をつまんで軽く揺すりながら、ルコが「すっかりしぼんでる。拘束具を付けられたのがショックだったのかな」と首を傾げた。
「ほんとだね」
 みんなの視線が、どうしても隠せない、僕の丸出しのおちんちんに集中する。やだ、やだ、と必死に抵抗したおかげで、性的な興奮は一時的に収まり、おちんちんはぐったりした状態だった。こんな形のおちんちんをじっと見つめられるのも、これはこれで恥ずかしい。
 促されて、メライちゃんがふたたびおちんちんへ手を伸ばした。ヒィッ。メライちゃんの体温を伝える手がおちんちんを握りしめる。
「この状態だったら、五回じゃなくて、もう少し回数を増やしても……」
 おちんちんの根元を指先でツンツンしながらルコが呟くと、母屋から戻ってきたばかりのY美が遮った。「だめだね」
 驚いて振り向くルコをY美はキッと睨みつける。
「まだ柔らかいと思っても、こいつは感じると一気に射精する。ましてや、このところずっと精液を出してないから、しごき五回以上は危険すぎる。射精しちゃうって。勝手な判断すんなよ、ルコ」
 ご、ごめんなさい、とルコは詫びて、メライちゃんに「じゃ、念のため、四回にしとこうか」と言った。
 ヒィ、お願い、だめ……。僕は不安のあまり、ろくに声を出せなかった。Y美の言うとおり五回は多すぎる。そんなにおちんちんを握ったままスライドされたら、とても耐え切れない。四回だって、実はかなり不安だ。精液放出をストップさせる自信はない。
 全裸のメライちゃんが僕の前に腰を落として、ぎこちない手つきでおちんちんを握り、いったん強く締め付けたあと、少し緩めて、スライドさせる。摩擦。たちまち、無許可の射精をしてしまう不安と甘美な刺激が立ち上がってくる。おちんちんの袋から太い響きを伴ってずんと体の内側を、交換したてのエンジンオイルさながら粘りのある官能の液体がまずは乳首の辺りまで、徐々にせり上がってくる。
 二回、とメライちゃんが言った。何往復目か、声に出してカウントするようにルコが命じたのだった。往復して一回と数える。僕は二回目が終わったところだと思った。違った。二往復目は始まったばかりだった。メライちゃんの、見た目はちょっと硬そうだけど、押したり撫でたりしてほぐすと、どんどん柔らかくなりそうな裸体から、むせるような甘い匂いが立ち上がってくる。
 き、気持ちいい。射精を我慢しなくちゃ、我慢しなくちゃ、と強く意識していたのに、だんだんと薄れてくる。おちんちんの先っぽが濡れて、亀頭をぬるぬるさせる。亀頭の縁から精液が糸を曳いて垂れて、揺れる。それは日の光を受けて、しぶきのように一瞬を輝く。そう、ここは屋外だった。素足に柔らかく沈む土、肌という肌に触れてくる風、濃い緑に染まった池の水があって、モズの囀りは直接頭上に降ってくる。僕は自然の一部、まぎれもなく自然界の構成員だ。庭の大きなケヤキにどっさり茂る青葉も風を受けて、細やかに光を返している。
 ああ、と喘いで下方へ目を転じる。しゃがみ込んでおちんちんを握るメライちゃんの裸の背中とお尻も日の光を受けて、豊かな生命力を謳歌している。青葉をひるがえした風が下ってきて、僕の耳元や首筋、腋の下、乳首から脇腹を撫でていく。
 完全な午後。性的な快楽はすべて自然の中から生まれたものだった。
 これまでに感じたことのないくらい、ゆっくりとした速度だった。実にゆっくりと、体の内側を快楽の粘液が水位を上げてゆく。メライちゃんは僕の硬くなったおちんちんを強く、あるいは弱く握り、握る部分を少しずつ変えて、親指が亀頭にさしかかったところで戻す。戻す速度も気が遠くなるくらいの遅さだった。
 三回、とメライちゃんが言った。
 内腿に力を入れて踏ん張る。それでもおちんちんの袋からじんじんと、微電流とともに突き上げてくる粘液は、とても押しとどめられそうもない。しょせん内腿の筋力などでどうにかなる問題ではないと思う。肩の辺りまで上げた状態で拘束された両手から汗が流れて、腋の下へ流れる。ルコが僕の露わな腋の下を覗いて、「青白い。ここはあんまり日焼けしてないみたい。早くおちんちんとか腋の下に毛が生えてくるといいね、ナオスくん」と、話しかけてきた。ああ……、それにしても異様な気持ちよさ。僕は精液放出を止めるので精一杯で、答えられない。
 四回、とメライちゃんが言ったときだった。Y美の目が大きく見開いた。「ストップ」と叫ぶY美の声を聞いたように思う。僕もまた「だめ、とめて」と声を張り上げた。その直後、「ああ、いく……」僕は絶頂に達して、その一瞬を最大限に引き伸ばしたような至福に包まれていた。モズの囀りをこんなにも妙なる天上の音楽として聴いたのは初めてだった。
 溜りに溜まった精液が亀頭の切れ目から飛び出し、スーッと光に溢れた長いトンネルを抜けてゆく。実に長いトンネルだった。快楽のあまり地表が隆起して山となって、その山の頂上に群生するイボイボに全身を嬲られながら、地平線すれすれの太陽に向かって進む。化石になって時間を永遠に閉じ込める。
 消防士の放水を思わせる結構な勢い。さぞかしびっくりしたであろうに、なんとメライちゃんは、それでもおちんちんから手を放さなかった、まるでおちんちんが、この悪意に満ちた空間の中で生き延びるために絶対に必要な命綱ででもあるかのように。
 精液を顔面に受けて、粘々する液体を手で拭き取るかたわら、もう一方の、おちんちんを握る手は射精前と同じように、何度も握り直しながら、ゆったりしたペースで移動させ続けた。八日ぶりに出す精液の量は濃いだけでなく多量であり、動かすほどに次々と、少しずつ量を減らしつつも、出てくる。
 なんで放してくれないの、メライちゃん。アウウッ。動物めいた声を上げながら、嘆息する。メライちゃんは精液が完全に出なくなるまでおちんちんを強く、あるいは弱く握って、こまめに動かした。断続的におちんちんの袋から甘い微電流が流れる。
 異様な快楽に打ちのめされた僕は、気づくと膝を落としていた。メライちゃんの手がやっとおちんちんから離れた。

 ついにY美の許可を待たずに射精してしまった。しかもY美の見ている前で、だ。
 射精の余韻が急速に薄らぐ。どんな罰を受けることになるか、考えないことにした。風の途絶えた、淀んだ空気の中で深呼吸する。Y美は柔和な笑みを浮かべてメライちゃんを見た。
 怒りの極に達したとき、Y美は、まず怒りを向ける相手をひとりに絞る。それ以外の人物にたいしては、たとえその人物が彼女の怒りにどれだけ関与しようと、とりあえずターゲットから外すのだった。メライちゃんは顔にべったり付着した僕の精液をルコと鷺丸君のお姉さんによって体じゅうに塗られて、イヤッイヤッ、と一糸まとわぬ体をくねらせる。まさに、ぬるりとした精液で乳房や脇、お臍、下腹部、太腿などの肌理の細かい肌をテカテカ光らせているところだった。  そのメライちゃんに向けて、Y美は信じがたいほどの優しい言葉をかけた。
「もういいから、メライ。あんた、アトリエに戻って着替えておいで。もう普通に服を着ていいから」
 これには、当のメライちゃんはもちろん、ルコもお姉さんも驚いたようだった。メライちゃんの波打つ紅潮した肌に精液を塗りたくる作業を中断して、Y美のほうを向く。
「いやあ、参ったな」
 Y美の思わぬ許しに困惑したのは鷺丸君だった。困り切った顔をして、「まだ練習するから、服に着替えるのはもう少しあとでもいいかな。着るならスクール水着にしてほしいんだけど」と、Y美に提案する。
「もう練習はおしまい。明日が本番なんだから、今さらジタバタしたって始まらないでしょ?」
「え、でも本番前にもう一度確認したいことが……」
「うるせえ」揉み手の鷺丸君を遮ると、Y美は鷺丸君の胸ぐらを掴んで、ぐいと自分の顔へ近づけた。「おしまいって言ったらおしまいなんだよ。ぐちゃぐちゃ抜かしてると、明日のマジックショーの舞台、台無しになるよ」
「わかった、わかったから放して。もう練習は終わりにするから」
 ゲボッゲボッ、と咳き込む鷺丸君をお姉さんが心配そうに見つめ、すぐに目を転じた。
「何か?」敵意のこもった視線を察して振り返ったY美に睨まれ、「いえ、なんでもないっす」ぷるぷると顔を横に振るお姉さんだった。
 体じゅうに塗りたくった精液は絶対に拭き取らない、というのが着衣の許可にあたってメライちゃんに出された唯一の条件だった。守らなければ衣類を没収するという。メライちゃんは大きく「はい」と返事をすると、お尻のこぢんまりとした肉をぷるんぷるん揺らして、小走りで母屋へ向かった。ようやく服を着られる喜びに溢れた足取り。ともに素っ裸ということから、これまで以上に一蓮托生の思いだったメライちゃんが、僕から遠ざかっていく。
 いつのまにか、僕のそばにY美が立っていた。しゃがみ込むと、僕の耳に口を寄せ、「立て」と命じた。手枷を嵌められた不自由な姿勢のまま、よろよろと立ち上がったところ、いきなり足首を取られて、芝に覆われた地面にお尻と背中をしたたか打ってしまった。握り締めた僕の両の足首をY美はひょいと持ち上げる。
「た、助けて。苦しい」
 逆さ吊りにされた僕は、腹筋を使ってほんのすこしばかり頭を上げて、両脚のあいだに見えるY美に訴えた。
「は? お前、自分が何をしたか、分かってないだろ」
「ご、ごめんなさい」
 腹筋がすぐに緩んでしまう。ルコと鷺丸君、鷺丸君のお姉さんが逆さまに見える。日除けの下のベンチで涼みながら、逆さでピチピチ跳ねる僕をおもしろがっている。
「質問に答えろよ、ばか。何をしたか分かってんのかって聞いてんだよ」
「はい……」
 腹筋に力を込める。Y美の顔を見るためではなく、頭に血がのぼるのを少しでも遅らせるためだ。し、しんどい。Y美は仮面と変わらない素顔だった。
「言ってみなよ」
「はい……」力を抜く。垂直に頭を下げた状態で荒い呼吸を繰り返しながら、僕は許可なく精液を放出してしまったことを詫びた。
「そりゃ、とっても悪いことだよね」
 うんうんと頷きながら、Y美が僕の足首を一段と上げた。ストンと落とす。頭のてっぺんが地面すれすれのところで止まった。「チンチンいじられてたから仕方ないとこもあるんだけど、せめていく直前に、いかせてください、射精させてくださいってなんでお願いしなかったのよ。わたしね、それが一番気に入らないの。お前、いく、いっちゃう、としか言わなかったじゃん」
 そうかもしれない。でも、我慢するので精一杯だったから、射精許可のお願いをする余裕などなかった。それに、この一週間、何度も射精の許しを乞うてきたけれども、いつも許されなかった。仮にY美の求めるようにお願いしたとして、はたしてY美は首を縦に振ってくれただろうか。しかし今、下手な言い訳は命取りにしかならない。素直に謝罪しようとした、まさにその時、
「おしっこしな」とY美が言った。
「お、おしっこ、だって」
 吹き出して口を手で覆うルコ。その後方に母屋から出てきたメライちゃん、白い半袖のシャツと青いショートパンツを身に着けたメライちゃんが見えた。逆さ吊りにされた僕に向かってゆっくりと歩いてくる。
「出るだろ、おしっこ」
「で、出ません」
 尿意はなかった。ましてや逆さに吊られた状態では、とても出せそうにない。
「じゃ、出るまでこのままだね。ねえ、ルコ、あんた、片方持ってよ」
 片方の足から手が離れ、すぐに別の手に捕まれる。僕の真後ろに立ったルコの唾がおちんちんの袋に飛んだ。またもやプッと吹き出したのだった。
「ねえ、おちんちんの付け根、袋とか、この角度から見下ろすのっておもしろいね。直射日光浴びて、普段日の当たらないこの部分も日焼けするよね」と、はしゃぐルコにY美は「うん」と興味なさそうに返す。
「おちんちんとお尻のあいだって、何もないからさ、ドリルで穴をあけたくなっちゃう」
 ハイテンションのルコに、Y美は冷ややかな一語を投げた。「みっくんにやってやりゃいいじゃん」
「ええ? だめだよ、それ」とルコが大袈裟に反応する。素っ裸で手枷を嵌められ、逆さに吊られた状態で見ても、日除けの下の鷺丸君とお姉さんは、明らかに鼻白んだ顔つきでルコを見ていた。
「みっくん、恥ずかし屋だから、そんなとこ、見せてくれないって。ナオスくんとはちがうのよ」
 いや、僕だって消え入りたいほど恥ずかしい。心の中で言い返す僕にY美が「ほら、早くおしっこしなよ」と迫った。服を着る側になったメライちゃんが僕の顔を憐れみのこもった目で見下ろしている。僕のお仕置きされる原因を作ったのが自分の右手であることを、メライちゃんはまだ知らないようだった。
「で、出ません……」
「嘘つくな。出ないわけないんだよ。あんだけ冷房の効いた室内に素っ裸でいて、練習も少ししかしなくて、ろくに汗かかなかったくせに」
「ゆ、許してください。僕が悪かったです、反省してます」
 ふたたび下腹部にぐっと力を込めて、頭を上げ、やけくそになって叫ぶ。
「だからおしっこしろって。お前も強情だねえ」 
 ふう、と溜め息をついたY美は、メライちゃんを呼びつけた。
「こいつの金玉、握ってやんな」
 いきなり変な命令をされて、戸惑うメライちゃん。
「ぐすぐずしてると、またさっきみたいに素っ裸に剥くよ。早く握るんだよ」とY美に脅されて、僕のおちんちんへ手を伸ばす。柔らかい手がまたおちんちんに触れると、「そっちじゃない。金玉、袋のほうだよ、ばか」と、Y美に罵声を浴びせられる。メライちゃんは両手を差し伸べて、普段は垂れているけど今だけは股間に乗って揺れることのないおちんちんの袋を包み込んだ。
「袋の中に梅干しのタネみたいのがあるだろ。それを押さえつけるの」
 Y美の指示に従ってメライちゃんがおちんちんの袋をあちこち揉む。不意に激痛が走った。ついにメライちゃんは捕らえたのだった。僕は悲鳴を上げた。
「痛い、放して、お願いだから、放して」
「ごめんね、ナオスくん」
 小声で謝りながらも、メライちゃんの指はしっかり玉を押さえたままだ。 
「おしっこしろって」
 おちんちんの袋を握られて、逆さ吊りのまま海老のように悶える全裸の僕に向かって、Y美は無情な命令を繰り返した。もう、本当におしっこするしか許される手立てはないようだった。
「わかった、おしっこします、しますから、もう放して」
 逆さ吊りも苦しいけれど、そのうえ、おちんちんの袋を痛めつけられるとあっては、もうとても耐えられるレベルではない。ちょうどいい塩梅に膀胱の尿を感じてきた。手枷を嵌められた素っ裸で逆さ吊りにされ、みんなの見つめる中、おしっこをさせられるのかと思うと、情けなさで涙がこぼれてくるけれど、もう、諦める。メライちゃんはもう、とっくに僕のことなど見下げ果てているのだ。それは当然のような気もする。一度は僕のことを好きと言ってくれたのに。
 メライちゃんが垂れたおちんちんをつまんで、先っぽを袋のほうへ向けて押さえた。顔にかからないように気遣ってくれたのだった。しかしすぐに、「よけいなことすんな。そのまま垂らしておけ」とY美に叱られて、手を放す。ポロリと垂れたおちんちんを見て、お姉さんがクックッと笑った。
「み、見ないで。お願い」
 僕は目をつむって一声叫ぶと、放尿を開始した。ジョロジョロと生温かいおしっこが下腹部から胸、首を伝って顔へ流れてくる。口を真一文字に結び、ふたたび目を閉じる。そうしないと、おしっこが入ってきてしまう。
「やっぱり出るじゃん。しかもかなりの量だね。ナオスくんのお顔がおしっこに濡れて、輝いて見えるよ」
 そっと目をあけると、ルコが興味しんしんの顔つきで覗き込んでいた。
「おしっこで濡れた体を洗わないといけないね」
 ルコに委ねた片方の足首をふたたび自分で握り締めたY美は、おしっこまみれの僕の裸身をゆさゆさ揺すって、体を百八十度回転させた。僕の目の前に逆さの池が現れた。さらに池に近づく。水面の光の反射が眩しい。
「しっかり洗いな」
 そう言うと、Y美は逆さ吊りのまま僕を池の中に落とした。ヒギィッ。やっと水面から出たと思ったら、また落とされる。その繰り返し。鷺丸君に教えられて、Y美は池の一番深いところに移動した。
 池に頭から落とされ、今度は膝の辺りまで沈められる。これも二回や三回ではない。執拗に続く拷問。メライちゃんの「もうやめてあげて。かわいそう、かわいそすぎる」と止めに入る声が聞こえた。
 激しい水責めの苦しみが薄らいだと思ったら、日除けの下で仰向けに倒れていた。あいかわらず素っ裸で、いまだに手枷に拘束されたままだ。肘を直角に曲げて、赤ちゃんが眠るような格好だった。池の水が入ったせいで鼻の奥がツーンと痛んだ。半身を起こして、口からゲボッと水を吐き出す。
「ナオスくん、……うん、大丈夫そうだね。一時は心配したんだよ。でも、まあ、よかった、おしっこまみれの体がきれいになって。……ふふ、男の子だから、水責め拷問も簡単に耐えられるんだね」
 実に楽しそうに話しかけてくるルコに僕は恐怖を覚え、ろくに返答できなかった。ルコ、僕を惨めな奴隷としか思っていない同級生は、小学校低学年の頃から、よく分からない理由で学校をしばしば休んだ。口数が少なく、クラスでも特に目立つ存在ではなかった。
 Y美と仲良くなったのは小学四年の頃だという。最初はY美と対等な友達関係だったのに、中学生になってY美が強気と冷酷な性格から暴君として振る舞うことが増えてくると、ルコも唯々諾々と従うようになって、それとともにルコの性格も少しずつ変わった。みっくんという彼氏がいるのに、Y美の感じ方に影響されたのか、男子一般になぜか奇妙な悪意、偏見をいだいて、いつも裸にさせられている僕にたいしては、それを少しも隠そうとしないのだった。
 周囲にY美の姿はなかった。ルコが嬉々として教えてくれた。母屋のトイレを借りに行ったまま戻っていないらしい。練習中、鷺丸君のお母さんがかき氷を差し入れてくれた。Y美は僕の分も食べたという。「それで腹こわしてトイレだって。いい気味と思わない?」
 ルコのためにも今の言葉がY美の耳に入らないことを祈る。Y美が戻ってきた。立ち上がろうとする僕を見て、「すっかり元気じゃん。さすがいじめられっ子のプロ」と、いやな褒め方をした。

 手枷を外してほしいと頼んだけど、断られた。日除けの下のベンチに座らされる。だいぶ日が西に傾いてきたので、屋根だけで壁のない日除けは大して役に立たない。それでもベンチはありがたかった。疲れてぼんやりする頭のまま、水草があちこちに浮かぶ池の水面をじっと見つめている。
 ルコと鷺丸君の話し声が聞こえる。「マジックショー、いよいよ明日だね」「うん」「緊張する?」「別に」「もちろんわたし、見に行くからね」
「クラスの人もほとんど来るよ」とY美。「来れない人はテレビで見るだろうし」
「町の一大イベントだもんね。夏祭りの締め括りには花火打ち上げるんだって」
「それ、みっくんも言ってた。すごい盛大な花火らしいよ」
 少しずつ広がる会話の輪にメライちゃんも加わった。「やだな、あんまりみんな見なくていいのに」
「見るよ、町じゅうの人が見る」
「なんたってテレビ中継だからね」
「メライちゃんは、きょうだいがいっぱいいるんだよね?」
「はい、わたしが一番うえで、弟が二人、妹が三人です」
「へえ、六人きょうだいか。賑やかでいいわねえ」
 お姉さんは素直にうらやんだ。
「はい。でも、毎日、その……、大変なんです」
「大変?」
「……はい」
 僕はメライちゃんの住む平屋を思い出した。粗末な板を打ち付けて壁にして、屋根には錆びた鉄板がずしんと宿命のように重ねられてあった。ぼろぼろの路地沿いに同じような平屋が寄り添うように並び、近所の子供たちはどの子もきょうだいみたいな付き合いだそうだ。朝起きたら横に隣の家の子が寝ていたこともあるという。
 とにかく、広々とした庭に六角形のしゃれたアトリエまである鷺丸邸とは、雲泥の違いだ。
 思いを察したお姉さんは、メライちゃんの頭をそっと撫でた。
「じゃあ、夏祭りのあとのモデルのバイト、がんばらないとね。バイト料、うんと弾むから、弟さん妹さんにおいしい物食べさせてあげてよ」
「はい、よろしくお願いします」
 頭を下げたメライちゃんは、向かいのベンチの端に座る僕へ目を向けた。口元に微かな微笑を浮かべる。ついさっきまではお互いに全裸だったのに、着衣を許され、すっかり向こう側の人になったメライちゃんは、一人だけ素っ裸の、あいかわらず手枷を嵌められたままの僕に優越を示したくて仕方ないのだろうか。僕は慌てて池のほうへプイと首を回した。

 でも、あとになって僕は自分の感じ方に僻みがあることに気づいた。メライちゃんの微笑は優越の表れではなくて、僕にたいする連帯と共感を示したメッセージだったのかもしれない。いや、きっとそうだ。水責めをするY美を止めてくれたのは、ほかならぬメライちゃんだった。
 あの、ひと刷毛ではいたような微笑は、次のように解釈するべきだった。「わたしは今回服を着させてもらったけど、またいつ脱がされるか分からないし、そういう意味ではナオスくんと変わらないよ。一緒に耐えようね」
 ああ、なんという愚かな僕。拒絶の身振りで目を逸らしてしまった。

 なぜ許可なくして射精したのか、という問題がY美によって蒸し返された。
「せっかく管理してきたのに、なんで出しちゃったの?」
 ほとんどY美の自問のようだった。僕の返答を待たずに溜め息をつき、腕を組み、陰りつつある青空をカッと睨む。
 ごめんなさい、申し訳ございませんでした、と改めて謝罪する僕。手枷を嵌められたまま正座し、ぬかずいた。メライちゃんにしごかれたのが直接の原因だけど、僕自身の根性不足のせいにする。そうしないとメライちゃんにも害が及んでしまうからだ。と、Y美の口から意外な一言が漏れた。
「もういいよ、そんなに謝らなくて」
 きょとんとする僕の顔を見て、Y美は笑った。「そんなにびっくりしなくてもいいでしょ。わたしもね、いつも鬼ってわけじゃないから。本当は優しいんだよ」
 優しいだって! プッと吹き出したルコにたちまちY美の表情が曇った。「あれ、何か、おかしいこと言ったかしら、わたし」
 睨みつけられて、ルコは真っ青になった。気をつけの姿勢になって、「いえ、なんでもないです、すみません」と詫びる。
「なんかいまの、すっげームカついたんですけど」
 凄まじい怒気がピリピリと伝わってきた。ルコは同学年の女子の中では大きいほうだけど、それでも成人男子の平均と変わらない身長のあるY美の前では、小柄に見えてしまう。Y美はルコの腕を取って日除けの下から放り出すと、芝生に転がったルコに馬乗りになってビンタの嵐を食らわせた。痛い、痛い、ごめんなさい、と叫ぶルコに「わたしって優しいよね?」と聞く。聞きながらもビンタの手は休めない。
「優しい、優しいです。だからもう、やめて。痛いッ」
 やっとルコから腰を上げたところで、Y美は脇腹に蹴りを入れた。呼吸できない苦しみに悶えるルコ。
「あんた、さっき、わたしがお腹こわしてトイレに行ってること、チャコに話して笑ってただろ。でも、知らない振りしてやった。そういうわたしの優しさに気づかないお前に、わたしを笑う資格はないんだよ」
「ご、ごめんなさい。Y美さん、もう許して。グエッ、グエエエ」
 息も絶え絶えに詫びるルコにまた一発、蹴りを入れた。やはり腹部だ。嘔吐するルコをメライちゃんとお姉さんが介抱した。ルコに背を向けベンチで足を組む鷺丸君は、終始うつむいていた。Y美に告げ口にしたことで良心の呵責を覚えているのかもしれない。
 泣きすぎて顔をグシャグシャにしたルコがよろよろとした足取りで日除けの下に戻った。ワンワン泣きは収まったものの、涙は流れ続けて、間欠的にしゃくり上げる。Y美は何事もなかったかのようにルコの隣に悠然と腰を下ろし、ひどいいじめの現場を目の当たりにして微動だにしない僕をじっと見据えた。
「チャコ、お前の無断射精のことだけどね、出していいって言ってないのに出しちゃったのは仕方ないと思ってる。あれだけしごかれたら、そりゃ我慢できないでしょうよ。これも、こいつが」Y美は肘でルコを突いた。「メライにチンチンしごかせたのがいけないよね。わたしが気をつけろってあれだけ忠告したのに」そう言うと、また腹立たしい思いに駆られたのか、平手でルコの後頭部をパシーンと叩いた。
 ウエーン。ルコが小さい子供のように手放しで大泣きした。
「それに、一週間以上も出してなかったから、お前も苦しかったよね」
 怖い。Y美は何か恐ろしいことを考えている。口調こそ穏やかだけど、吊り上がったY美の細い目に邪念の光が閃いた。「は、はい」と肩をすくめながら返事をする僕を見つめて、にっこり笑う。
「ずいぶんと我慢させちゃったね。もう、いいよ。出しな」
「え?」聞き返す僕を見て、Y美は愉快そうに笑った。
「ごめんごめん、手枷を付けたままじゃ、チンチンもいじれないよね。安心しな、手伝ってやるから。ね、鷺丸、あれ、早く寄こせよ」
 大型犬用と思われる金属製のリードを鷺丸君から受け取り、僕の両手の自由を拘束する役割を間接的に果たしている皮の首輪に付ける。続けてリードの持ち手のほうを日除けの屋根を支える横木に通して、引く。アウウッ。チェーンリードに首を引っ張られ、僕はベンチから腰を上げざるを得なくなった。膝がピンと伸びたところでY美はリードを柱に巻きつけた。
「じゃ、今からオナニー手伝ってやるから」
 肘を直角に曲げた、ガッツポーズに似た形で拘束され、屋根裏の横木に繋がれた素っ裸の僕をひとしきり眺めてから、Y美が言った。
「いえ、もういいです。もう出したから……」
 手伝ってやると言われて、はいそうですか、ではお願いします、と受けるわけがない。ましてやY美である。せっかくのお申し出だけど、丁重にお断りする。途端、Y美の顔からスーッと表情が消え、声が低くなった。
「お前な、なんで自分の意志で決められると思ってんの?」
 化け物。Y美は中学一年生の女子ということになっているが、本当は違うと直感した。僕のおちんちんと同じで彼女もまた皮を被っているのだ。恐怖でおちんちんが皮の中に隠れる。中学一年の女子という皮に隠れているのは、まぎれもなくY美という化け物だ。
「ご、ごめんなさい」
「わたしが出せって言ったら、出すんだよ。お前の欲望とか意思は、いっさい関係ないから。せっかく溜めてきたのに、本番前に出しちゃったんだから、こうなったらもう搾り取ってやるからね、徹底的にね」
 ゴクッ。唾を飲み込む。言葉が出ない。
 そうか……。僕はY美の魂胆を知って、慄然とした。Y美は射精お預けを食らった僕が夏祭りのマジックショーの舞台で勃起して、赤っ恥をかくことを企てていたのだ。大勢の観衆に囲まれた、テレビ中継までされる舞台、そこに全裸で立つだけでも相当のインパクトなのに、Y美はそれだけでは飽き足らず、勃起までさせようとしていたのだった。
 なんと恐ろしい。メライちゃんの手で射精させられてなかったら、本番の舞台で勃起してしまった可能性はすこぶる高い。今日の練習でも、回転ドアがちょっとおちんちんに触れただけで反応してしまったのだから。
 その意味でメライちゃんの手で射精できたのはラッキーだった。しかし今からその代償を払わされることになる。自分の思いどおりに事が進まない腹いせに、僕はこれから何回も射精させられる。しかもメライちゃんの見ている前で。……待ち受けているのは、いつも悲しくて、自尊心を傷つけられる未来ばかりだ。

「どうしたの、ナオスくん、真っ青な顔して……」 
 母屋でお茶を飲んできたお姉さんに驚かれた。すぐにただならぬ雰囲気を察して黙る。Y美はお姉さんに僕の射精の瞬間がよく見える位置に来るように促した。ルコやメライちゃん、鷺丸君がすでに座って、ショーの始まりを待っていた。
 Y美がおちんちんをしごき始める。しかし、すぐに止まる。おちんちんを指で支えたまま動かさない。親指を上にして、人差し指、中指の三本の指で軽く締め付けた状態。
「してもらえると思った? 甘いね。自分で腰を動かしなよ」
「ゆ、許してください」
 どこまで僕を嬲れば気が済むのだろう。もう性的欲望は収まっているので、僕にしてみればただの苦行でしかない。
「だめッ。早くしろ」パチーンとY美にお尻を叩かれる。
 もう観念するしかなかった。僕は腰を前後に揺すり始めた。ゆっくりゆっくり。Y美の三本の指腹におちんちんをこすりつける。しばらくすると、あるところでスイッチが入った。腰を揺する速度がだんだん速くなる。
「感じてきたみたいだね」と、Y美が笑う。メライちゃんがきょとんとした顔でおちんちんを見つめている。少しずつ大きくなってきている。
 もう焦らす気持ちはないようだった。だから、このまま腰を揺すり、Y美の静止した指におちんちんをこすり続けても、絶頂に近いタイミングで外され、寸止めの切なさに悶々として裸身をくねらせる心配はない。今のY美の目的は、僕から精液を搾り取ること。だったら、恥ずかしいのを我慢して、一気に射精するほうがいい。
 アウ、もう、い、いきそう……。僕は知らせた。
 すっかり泣き止んだルコが腫れたまぶたを押し上げるようにして目を見開いた。
「いいよ、いってよし」
 放たれた精液が池に向かって弧を描いた。しかし池までは届かず、岸辺に落ちた。メライちゃんが両手を合わせている。まさか、拍手でもしようとしたのだろうか。
 Y美はおちんちんに添えた手を放すと、ルコとお姉さんに僕の拘束を外すように指示した。二人は黙って従った。腕を組み、二人の仕事ぶりに目を光らせるY美。ルコが首輪に手をかけると、「それはそのままでいい」と制した。

 やっと両手が自由になった。急いでおちんちんを隠す。もう素っ裸には慣れているのに、首輪がついているので、いつも以上に恥ずかしく感じられる。リードで引っ張られる。僕は岸辺の石の上に立された。池を背にして、である。
 恐る恐る顔を上げると、日除けの下の正方形に組まれた四つのベンチに、Y美たち五人が座って、じっとこちらを見ていた。
「じゃ、次は」と、チェーンリードの持ち手を握るY美が言った。「自分で出せ」
 やっぱりそうきたか。僕は泣きそうになった。「もう、許してください。無理です」
「無理なわけないだろ。まだ二回しか出してない癖に」
「いやです、もうこんなの、いや」
 Y美が立ち上がった。リードを使って僕を引き寄せると、足払いする。痛い。芝生に倒れた僕の後ろ髪を掴んで池のほうへ引っ張り、「わたし今日ね、めちゃくちゃ苛立ってるんだよね。素直に言うこと聞いてよ、お願いだから」と言って、いきなり僕の頭を池の中に突っ込んだ。
 グフッ、苦しい。じたばた暴れてなんとか水面に出ようとするものの、Y美の力には抗し得ない。やっと引っ張り出してもらえても、すぐにまた沈められる。何度目かでやっと「オナニーする?」と聞かれたので、急いで「はい」と返事をしようとしたものの、水を吐き出しながらだったのでうまく返答できず、「聞こえないよ」と怒鳴ったY美にまた顔を濁った水の中に突っ込まれてしまった。
「はい、します、します」と、顔を上げてもらったわずかな隙に慌てて叫んで、やっとY美に通じたと思ったら、「返事が遅すぎるだろ、お前は」
 バシャーン。体ごと池に落とされた。池底のぬるぬるした石に膝小僧が当たる。太腿くらいまでの深さしかない池ながら、僕に立つ暇は与えられず、リードを引かれて、腹這いのようにして水草の絡まる池を遊泳させられた。
 ようやく岸に上がるのを許される。おちんちんや乳首、お腹に黄緑色の藻が付着していた。取り除こうとすると、「勝手な真似すんな」Y美に思いきり手の甲を叩かれた。「いつも素っ裸で、しょっちゅう着る物が欲しいってせがんでるくせに、なんで、せっかく身に着けた物を取ろうとするんだよ。お前にふさわしい衣装じゃん。そのままの格好でチンチンをしごくんだよ」
 全身びしょ濡れで、裸身のいたるところに藻を付着させた僕、首輪をつけただけの素っ裸の僕は、自分の今のみじめ極まる格好を意識するまいと努めながら、岸辺の指定された平石の上に立ち、日除けの下のY美たちを向いた。Y美はもちろん、ルコ、メライちゃん、鷺丸君、あの比較的僕に同情的だったお姉さんまで、蔑みの眼差しだった。無理もない。立場が違ったら、僕だってあの人たちと同じように高みの見物と決め込んで、フフンと鼻で笑っているだろう。
「どうだよ、人の手を借りずに自分でするってのは?」
 集中して手を動かす僕をY美がからかう。よけいなことは絶対に考えない。そんなのは今の窮地を救うのに何の役にも立たないばかりか、苦難度を増やすだけだ。恋慕してやまないメライちゃんにこんなにみっともない姿を見られている、おちんちんを自らしごいて快楽をむさぼる姿をじっと見られ、軽蔑されている、などと考えて、あれこれ悩んだところで、実際そのとおりなんだから、なんの解決にもならない。
 専念するしかない。視線など感じる余裕があればこそ、シコシコシコと手を動かす。
 必死に動かしたのが功を奏して、ほどなくおちんちんの袋からジワッと快楽の波が起こってきた。「い、いきそうです」
「おい、メライ、お前もっと近づいて、精液がどれくらい出るか、よく確認しとけよ」と指示してから、Y美は許可を出した。
 こうして三回目の射精が終わった。もうぐったりだった。でも、Y美はまだ許してくれない。いったい何回射精させられるのだろう。
「おいチャコ、お前確か八日ぶりに射精したんだったよな。そんなら八回は射精できるでしょ。八回は出してもらうよ」
「やだ、そんなに出ませんッ」
 思わず抗議する僕の頬を平手打ちする。それでも僕は暴れた。焦らしの寸止め地獄もつらいけれど、その逆の、連続射精は、それ以上の恥辱、苦しみ、痛みを僕に与える。メライちゃんの見ている前で、とことん精液を搾り取られるのだ。とにかく逃れたい一心で、もしも逃れ得るならば、激昂したY美の暴行を受けて肉体を損傷しても構わないという気持ちにすら、なってくる。
 脇腹を蹴られ、芝生に倒れたところ、往復ビンタを食らう。さっきルコがやられたのと同じパターンだ。僕の場合はもう一つ、おまけで攻撃される部位がある。おちんちんの袋、陰嚢。男児として生まれたあかしの宿命的なウイークポイントをY美にギュッと握られ、僕は仰け反って悲鳴を上げた。
 激しい痛みは抵抗する気力を奪う。僕は長いチェーンリードを後ろに回したY美によって、背中で両手を交差させられ、そのままリードできつく縛り上げられてしまった。縄尻を取られ、立ち上がった僕のおちんちんへY美が手を伸ばした。
 指でしばらく弄んでから、高速で嬲り始める。締め付け、緩める。また締め付けて、ちょっと緩め、やや強めに締める。ああ。僕は後ろ手に縛られたまま、裸身を仰け反らせた。スイッチがオンになる。
 アウウ、と僕は情けない呻き声を出した。内腿に力を込める。い、いく、と声を上げた瞬間、ピュッ、と白い液体が迸った。ルコもお姉さんも、感動の薄れた目で僕の四回目の射精を見届けた。

 脱力して芝生に膝をつく僕の裸の肩に誰かがそっと手を置いた。メライちゃんだった。
「ナオスくん、苦しくないの?」
 黙って頷く。声を出す元気もない。
「苦しいならもっと苦しんでいいよ。無理に気持ちよくなろうとしないで」
 僕はメライちゃんの顔をじっと見つめた。ショートボブの髪型がよく似合う、くるりとした目のかわいい女の子だとつくづく思った。せっかく見つめ合っているのに、僕は素っ裸で、おまけに後ろ手に縛られている。学校の休み時間、僕たちは目と目を合わせて、しばし魔法にかかったみたいに動かなかったことがあった。学校は数少ない、僕が安心して服を着ていられる場所だった。
「わたしも、いじめられるんだけど、自分の今の気持ち、感情は偽らないようにしてるの。ナオスくんかわいそう、とか、いじめはよくないっていう考えが最初にあると、どうしても自分の体から生まれる感情が嘘っぽくなっちゃうから」
「偽ってないよ、僕は。……だって、おちんちんいじられて、気持ちよくなっちゃうのは確かだもん。軽蔑する?」
「ううん、まさか」メライちゃんは恥ずかしそうにかぶりを振った。「男の子だもん、仕方のないことだよね。でもわたし、悪いけど笑っちゃいそうになった。ごめん……」
 笑っちゃいそうになった、ではなくて、笑っちゃった、でしょ、と突っ込みを入れようかと思ったけど、やめた。
「まあ、それも自然なことだし、謝らなくていいんじゃないかな」
「嬉しい。わたし、ナオスくんのこと、応援してる。がんばってね」
 背後からのっそりと近づいてきたY美に気づいて、メライちゃんは急いで僕から離れた。
「さあ、五回目、いこうか」
 リードを引っ張られ、ふたたびよろよろ歩き出す。と、目の前にお姉さんが立ちはだかった。全裸の僕ではなく、Y美をじっと見つめている。珍しいくらいの真剣な目だった。
「ねえ、Y美ちゃん。もういい加減にしたら」
「関係ない人は黙っててください」
 ズンと肩でお姉さんを押しのける。それでもお姉さんは諦めず、もう一度Y美の前に出た。
「ねえ、もうこんなことは……」
「しつこい女だな、うるさい」
 右手で払いのけるようにして、自分よりもうんと小柄なお姉さんの頬を打つ。痛ッ、と悲鳴を上げてお姉さんが芝生に崩れた。今度は鷺丸君が声をかけた。
「ほんと、もうマジでやめてくれ。これ以上やるんなら、うちの敷地を出たところでやってくれ。少なくともうちの敷地内で、こんな暴力は、認められない。それから、うちの姉ちゃんにまで乱暴な振る舞いをするのは、許さない」
 さすがにY美も驚いたようだった。立ち止まって、鷺丸君を振り返る。
「お前、そんな口きいていいの? 明日のマジックショー、うちの母親の一言で中止にすることもできるんだけど」
「別にそれでもいいよ。構わない」
 中止にしても構わない?
 鷺丸君の予想外の返しに、虚を衝かれたY美はリードを緩めた。 

2 コメント

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Unknown (M.B.O)
2022-09-06 22:42:41
ルコがいつか酷い目に遭わされると思ってましたが、このタイミングなんですね…
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Unknown (Unknown)
2022-12-10 20:30:41
これメライはY美の目的を知ってて、ナオスを助けるためにわざと出させたとか。
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