下校時間。僕は速やかに帰宅した。
少しでも遅れると、おば様が仕事に行ってしまい、家の中に入れなくなる。家に入れないと、Y美が帰ってくるまでY美から言いつけられた仕事ができない。
急ぎ足、途中駆け足で家に着くと、おば様はまだ出かける前だった。
「おかえりなさい。早いのね」
すでに身支度を整えたおば様は、かすかに香水の匂いがした。
「今日も少し遅くなるからね。ご飯は炊いておいたから、冷蔵庫にあるもので、適当に夕飯を作って、食べててちょうだいね」
まだ息が荒い僕を見て、おば様はにっこり微笑んでからヒールを履いた。そして、すぐに出て行った。
がらんとした家の中に、僕は一人でいる。しかし、のんびりしている余裕は、ない。さっさと二回の自室に行き、シャツとジーンズに着替えた。
今日、学校の廊下ですれ違いざま、Y美からメモを渡されたのだった。僕はそのメモを脱いだ制服のズボンのポケットから取り出した。そこには、
・居間の床、廊下、階段拭き掃除
・ガラス戸の拭き掃除
・風呂とトイレ掃除
・庭の草むしり(洗濯物を干すあたり)
と、帰宅後しなければならない仕事のリストが書かれてあった。
Y美が帰ってくるまで、すべて終わらせるのは無理としても、そのほとんどを終わらせておかないと、彼女からどんな罰を受けるか分からない。Y美は僕を恥かしい目に遭わせるのが大好きな、底意地の悪い性格の持ち主だ。友だちと町へ遊びに行くと言っていた。六時過ぎ頃には帰ってくるだろう。それまで、あと二時間三十分。
バケツに水を溜め、雑巾を濯ぎ、拭き掃除から始めた。居間のソファやテーブルを動かし、きっちりと床を拭いてから、また元に戻す。なかなかの重労働で一時間も経たないうちに僕は汗にまみれた。
さらに廊下、階段。丁寧に力を入れて、拭いた。頻繁に雑巾を濯ぎ、バケツの水を入れ替えた。相当な運動になる。疲れて階段で休んでいると、不意にY美が帰って来るような気がして、またすぐに雑巾でごしごしと始める。頬から汗がしたたり落ちた。
次に大きな窓ガラスを拭いた。ガラス越しに庭が広がっていた。もやがかかったような夕暮れの空気の中、雑草が膝の高さくらいまで伸びていた。雑草の向こうに物置なのか、古い木造の小屋が見えた。あの小屋はなんだろう。拭きながらぼんやり考えていると、不意に鉄扉の開く音がした。Y美が帰宅したのだった。
何時から掃除を始めたのかと問い、二時間以上僕が掃除に精を出していたことを知ると、やや満足そうに頷いたが、窓拭きはまだ途中で、風呂とトイレの掃除、草むしりにいたっては、全くの手つかずであることを僕の口から白状させるや否や、Y美はむすっとした表情で僕を二階の彼女の部屋に来るように命じた。
Y美について階段をのぼりながら、僕はやりきれない思いにとらわれていた。こんなに一生懸命やったのに、叱られるのか。もうどうにでもなれというヤケの気持ちでY美の部屋に入る。と、意外にも彼女は僕にねぎらいの言葉をかけるのだった。
「ご苦労だったね。居間も階段もピカピカになってる。またお願いするわ。それから窓はね、雑巾で拭かなくてもいいから。専用のクリーナーがあるから、今度からはそれを使ってね」
「分かりました」ほっとして、糸が切れたように僕は頭を下げた。同い年ながら僕よりも20cm以上背が高いY美は、きっと僕の頭のてっぺんを見下ろしていることだろう。
顔を上げると、Y美は微笑みを浮かべていた。「もう一つ気がついたことがあるんだけど」
「気がついたこと・・・?」
「分からない?」
「さあ、なんでしょうか」
Y美は椅子に座って、脚を組むと、口を尖らせて、
「一生懸命掃除したのは、よく分かるんだけど、そのせいで、あんた、服が汚れてしまったじゃないの。見てごらん。シャツもジーンズも、黒く汚れてしまって。その青いシャツもジーンズも、こないだ洗濯したばかりなのに。ねえ、洗濯するのは誰? 居候の分際で洗濯物が多いって、おかしくない?」と、言った。
この時点で、僕は掃除用の制服を与えられるのだと考え、それは、割烹着のような代物なのだろうと想像していた。だから、
「これから掃除とか私から言われた仕事は、服が汚れないように、パンツ一枚になって、しなさいね」と、Y美に言われた時は、思わず「ええ?」と聞き返してしまった。
「パンツ一枚の裸になりなさい」とY美が命じ、僕は言われた通り、シャツとジーンズを脱いだ。そして、Y美に続いて、彼女の部屋を出て、階段を下りた。Y美か戸棚からガラス専用のクリーナーを持ってきた。
このクリーナーを窓に吹き付け、雑巾で拭くのだと言う。Y美が手本を見せてくれた。僕はY美の手からクリーナーを受け取り、窓ガラスの拭き掃除を再開した。
Y美は台所に立ち、夕飯の準備を始めた。僕がきちんと仕事をしないと夕飯は食べさせないと言う。突然、包丁を持ったY美がきっとした表情で振り向き、どこへ行くのかと質した。トイレに行こうとしたのだと返答すると、「そう、これも前から気になってたんだけど」と言いながら、包丁をまな板に置いて、僕のそばに来た。
「あのトイレはね、私とお母さん、つまり私たち女のトイレなのよ。なんで男のあなたが女のトイレを当り前のように使っているの?」
「男用のトイレはどこにあるんですか」と僕が不安におびえながら訊ねた。
「男用というわけじゃないんだけどね、これからあんた専用のトイレにしてあげる。この家にはもう一つ、トイレがあるから。ついて来て」
Y美は居間から台所に行き、裏口から外に出た。外なのか。何か着る物を探してぐすぐすしていると、半開きのドアから顔を出して、「早く出なさいよ。その格好のままで」と叱った。僕はパンツ一枚の裸のまま、庭に出た。Y美は突っ掛けを履いていた。僕の分は、ない。Y美が飛び石伝いに歩くのに、僕は素足で従う。
左側に雑草か生い茂っていて、飛び石はまっすぐ続いていた。夕暮れの生暖かい風がパンツ一枚の裸をなぶって行く。この家の敷地の境界に、その小屋は建っていた。さきほど、窓を拭きながら、物置かと思った小屋だった。中は、二十年も前から使われていないような、古い和式トイレだった。
このトイレは、Y美の祖父祖母の代がこの家の敷地の横で農作業をしていた頃に使っていたものだという。もともとはこのトイレの先の敷地もY美の家が所有していたが、村に売ったそうだ。しかし、村のほうでは土地を手に入れたものの開発の計画が頓挫し、この土地に砂利を敷き詰めたまま、もう十五年近く放置しているのだった。
その遮るものが無い平面の土地の向こうには生活道路があり、自転車や歩行者がよく通る。夕闇が立ち込めてきて、だいぶ暗くなってはいたが、その道路から僕のパンツ一枚の裸が見えるだろうことは、こちらでも道行くの服装が分かることから想像できる。立ち止まり、じっと見られたら、すぐに「なんであんなところに裸の人が」と不審に思われるだろう。Y美は、ちょうどトイレの陰になっていて、生活道路からは僕しか見えない。
そんな恥かしい立ち位置を知ってか知らずか、Y美はパンツ一枚の僕に気をつけの姿勢を取らせたまま、このトイレが建てられた経緯を長々と話すのだった。
「じゃ、使っていいよ」と、ようやくY美は許可してくれた。尿意が限界だった僕は、すぐにトイレに入らせてもらった。
放尿している僕にトイレの外からY美が言った。
「このトイレ、鍵がないけど、平気だよね? あと、電気もないの。夜は暗いけど我慢してね。晴れてれば月の光が射してくるから。雨の日は少し雨漏りする。板が腐りかけているから気をつけなさいよ。トイレットペーパーは自分で用意すること。汲み取り式なので、うんちとかおしっこが溜まったら教えてね。業者さんを呼ぶから」
いかにも愉快そうにY美が説明するのを聞きながら、僕はおしっこを終えた。どこで手を洗うのだろうか。僕が迷っていると、
「台所の裏口の横に、水撒き用の蛇口があるから、そこで手を洗いなさい」とY美が教えてくれた。
家に戻って窓掃除、風呂掃除、トイレ掃除をした。今日からもう決して僕が使うことを許されない、おば様とY美の洋式トイレを、一心に磨いた。便器はぴかぴかになった。
その成果にY美は満足したようだった。僕に夕飯を食べてもよいと言った。僕が二階に行って服を着ようとすると、「そのままでいいじゃん。パンツ一枚でいなよ」と言って、パンツ一枚の裸のまま、食卓につかせるのだった。
Y美は、「おかしい、裸のままご飯食べてる」と頻りにからかう。僕は、さっき裸で外にいたから、蚊にたくさん刺されたことを話した。
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少しでも遅れると、おば様が仕事に行ってしまい、家の中に入れなくなる。家に入れないと、Y美が帰ってくるまでY美から言いつけられた仕事ができない。
急ぎ足、途中駆け足で家に着くと、おば様はまだ出かける前だった。
「おかえりなさい。早いのね」
すでに身支度を整えたおば様は、かすかに香水の匂いがした。
「今日も少し遅くなるからね。ご飯は炊いておいたから、冷蔵庫にあるもので、適当に夕飯を作って、食べててちょうだいね」
まだ息が荒い僕を見て、おば様はにっこり微笑んでからヒールを履いた。そして、すぐに出て行った。
がらんとした家の中に、僕は一人でいる。しかし、のんびりしている余裕は、ない。さっさと二回の自室に行き、シャツとジーンズに着替えた。
今日、学校の廊下ですれ違いざま、Y美からメモを渡されたのだった。僕はそのメモを脱いだ制服のズボンのポケットから取り出した。そこには、
・居間の床、廊下、階段拭き掃除
・ガラス戸の拭き掃除
・風呂とトイレ掃除
・庭の草むしり(洗濯物を干すあたり)
と、帰宅後しなければならない仕事のリストが書かれてあった。
Y美が帰ってくるまで、すべて終わらせるのは無理としても、そのほとんどを終わらせておかないと、彼女からどんな罰を受けるか分からない。Y美は僕を恥かしい目に遭わせるのが大好きな、底意地の悪い性格の持ち主だ。友だちと町へ遊びに行くと言っていた。六時過ぎ頃には帰ってくるだろう。それまで、あと二時間三十分。
バケツに水を溜め、雑巾を濯ぎ、拭き掃除から始めた。居間のソファやテーブルを動かし、きっちりと床を拭いてから、また元に戻す。なかなかの重労働で一時間も経たないうちに僕は汗にまみれた。
さらに廊下、階段。丁寧に力を入れて、拭いた。頻繁に雑巾を濯ぎ、バケツの水を入れ替えた。相当な運動になる。疲れて階段で休んでいると、不意にY美が帰って来るような気がして、またすぐに雑巾でごしごしと始める。頬から汗がしたたり落ちた。
次に大きな窓ガラスを拭いた。ガラス越しに庭が広がっていた。もやがかかったような夕暮れの空気の中、雑草が膝の高さくらいまで伸びていた。雑草の向こうに物置なのか、古い木造の小屋が見えた。あの小屋はなんだろう。拭きながらぼんやり考えていると、不意に鉄扉の開く音がした。Y美が帰宅したのだった。
何時から掃除を始めたのかと問い、二時間以上僕が掃除に精を出していたことを知ると、やや満足そうに頷いたが、窓拭きはまだ途中で、風呂とトイレの掃除、草むしりにいたっては、全くの手つかずであることを僕の口から白状させるや否や、Y美はむすっとした表情で僕を二階の彼女の部屋に来るように命じた。
Y美について階段をのぼりながら、僕はやりきれない思いにとらわれていた。こんなに一生懸命やったのに、叱られるのか。もうどうにでもなれというヤケの気持ちでY美の部屋に入る。と、意外にも彼女は僕にねぎらいの言葉をかけるのだった。
「ご苦労だったね。居間も階段もピカピカになってる。またお願いするわ。それから窓はね、雑巾で拭かなくてもいいから。専用のクリーナーがあるから、今度からはそれを使ってね」
「分かりました」ほっとして、糸が切れたように僕は頭を下げた。同い年ながら僕よりも20cm以上背が高いY美は、きっと僕の頭のてっぺんを見下ろしていることだろう。
顔を上げると、Y美は微笑みを浮かべていた。「もう一つ気がついたことがあるんだけど」
「気がついたこと・・・?」
「分からない?」
「さあ、なんでしょうか」
Y美は椅子に座って、脚を組むと、口を尖らせて、
「一生懸命掃除したのは、よく分かるんだけど、そのせいで、あんた、服が汚れてしまったじゃないの。見てごらん。シャツもジーンズも、黒く汚れてしまって。その青いシャツもジーンズも、こないだ洗濯したばかりなのに。ねえ、洗濯するのは誰? 居候の分際で洗濯物が多いって、おかしくない?」と、言った。
この時点で、僕は掃除用の制服を与えられるのだと考え、それは、割烹着のような代物なのだろうと想像していた。だから、
「これから掃除とか私から言われた仕事は、服が汚れないように、パンツ一枚になって、しなさいね」と、Y美に言われた時は、思わず「ええ?」と聞き返してしまった。
「パンツ一枚の裸になりなさい」とY美が命じ、僕は言われた通り、シャツとジーンズを脱いだ。そして、Y美に続いて、彼女の部屋を出て、階段を下りた。Y美か戸棚からガラス専用のクリーナーを持ってきた。
このクリーナーを窓に吹き付け、雑巾で拭くのだと言う。Y美が手本を見せてくれた。僕はY美の手からクリーナーを受け取り、窓ガラスの拭き掃除を再開した。
Y美は台所に立ち、夕飯の準備を始めた。僕がきちんと仕事をしないと夕飯は食べさせないと言う。突然、包丁を持ったY美がきっとした表情で振り向き、どこへ行くのかと質した。トイレに行こうとしたのだと返答すると、「そう、これも前から気になってたんだけど」と言いながら、包丁をまな板に置いて、僕のそばに来た。
「あのトイレはね、私とお母さん、つまり私たち女のトイレなのよ。なんで男のあなたが女のトイレを当り前のように使っているの?」
「男用のトイレはどこにあるんですか」と僕が不安におびえながら訊ねた。
「男用というわけじゃないんだけどね、これからあんた専用のトイレにしてあげる。この家にはもう一つ、トイレがあるから。ついて来て」
Y美は居間から台所に行き、裏口から外に出た。外なのか。何か着る物を探してぐすぐすしていると、半開きのドアから顔を出して、「早く出なさいよ。その格好のままで」と叱った。僕はパンツ一枚の裸のまま、庭に出た。Y美は突っ掛けを履いていた。僕の分は、ない。Y美が飛び石伝いに歩くのに、僕は素足で従う。
左側に雑草か生い茂っていて、飛び石はまっすぐ続いていた。夕暮れの生暖かい風がパンツ一枚の裸をなぶって行く。この家の敷地の境界に、その小屋は建っていた。さきほど、窓を拭きながら、物置かと思った小屋だった。中は、二十年も前から使われていないような、古い和式トイレだった。
このトイレは、Y美の祖父祖母の代がこの家の敷地の横で農作業をしていた頃に使っていたものだという。もともとはこのトイレの先の敷地もY美の家が所有していたが、村に売ったそうだ。しかし、村のほうでは土地を手に入れたものの開発の計画が頓挫し、この土地に砂利を敷き詰めたまま、もう十五年近く放置しているのだった。
その遮るものが無い平面の土地の向こうには生活道路があり、自転車や歩行者がよく通る。夕闇が立ち込めてきて、だいぶ暗くなってはいたが、その道路から僕のパンツ一枚の裸が見えるだろうことは、こちらでも道行くの服装が分かることから想像できる。立ち止まり、じっと見られたら、すぐに「なんであんなところに裸の人が」と不審に思われるだろう。Y美は、ちょうどトイレの陰になっていて、生活道路からは僕しか見えない。
そんな恥かしい立ち位置を知ってか知らずか、Y美はパンツ一枚の僕に気をつけの姿勢を取らせたまま、このトイレが建てられた経緯を長々と話すのだった。
「じゃ、使っていいよ」と、ようやくY美は許可してくれた。尿意が限界だった僕は、すぐにトイレに入らせてもらった。
放尿している僕にトイレの外からY美が言った。
「このトイレ、鍵がないけど、平気だよね? あと、電気もないの。夜は暗いけど我慢してね。晴れてれば月の光が射してくるから。雨の日は少し雨漏りする。板が腐りかけているから気をつけなさいよ。トイレットペーパーは自分で用意すること。汲み取り式なので、うんちとかおしっこが溜まったら教えてね。業者さんを呼ぶから」
いかにも愉快そうにY美が説明するのを聞きながら、僕はおしっこを終えた。どこで手を洗うのだろうか。僕が迷っていると、
「台所の裏口の横に、水撒き用の蛇口があるから、そこで手を洗いなさい」とY美が教えてくれた。
家に戻って窓掃除、風呂掃除、トイレ掃除をした。今日からもう決して僕が使うことを許されない、おば様とY美の洋式トイレを、一心に磨いた。便器はぴかぴかになった。
その成果にY美は満足したようだった。僕に夕飯を食べてもよいと言った。僕が二階に行って服を着ようとすると、「そのままでいいじゃん。パンツ一枚でいなよ」と言って、パンツ一枚の裸のまま、食卓につかせるのだった。
Y美は、「おかしい、裸のままご飯食べてる」と頻りにからかう。僕は、さっき裸で外にいたから、蚊にたくさん刺されたことを話した。
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そこまでしてナオスさんの裸に拘るのはなんなのでしょうか?