思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

【愛と冒険のマジックショー】4 夏祭り実行委員長、テロ組織に狙われる

2024-12-10 23:15:57 | 11.愛と冒険のマジックショー
 頭が上気して、素っ裸なのにもっと脱ぎたいくらい暑く感じられた。
 盛大な拍手に包まれていた。拍手が音の層を成して僕の裸のお腹や背中に当たった。「ああ、これが身を包む布だったらいいのに」と思った。
 吊られた両手が下りてきて、手錠を外され、鷺丸君とアシスタントの女の人に両側から支えられるようにして舞台を退場した。

 勃起というハプニングは鷺丸君にとっても予想外だったけれど、機転を利かしてうまく立ち回ったことに彼自身、すごく満足しているようだった。
「ああなった以上、俺としては徹底的に意地悪に振る舞うしかなかったんだよ」
 ステージでのサディスティックな振る舞いを詫びるかのように、鷺丸君が弁明した。
 なんであの場面でおちんちんが大きくなってしまったのか、鷺丸君はその理由を知りたがった。もっともな疑問だと思う。マジックショーが終わって退場した時、S子とミューがいて、おちんちんに注射されたのだと話すと、鷺丸君は目を丸くした。
「おう、確かにあの二人がいたよな。なんでこんなところにいるのかと思ったけど、そういうわけだったのか。恐ろしい女たちだな。これも全部Y美の企んだことか?」
 僕は、うん、と答える代わりに膝をつき、両手で顔を覆って、泣きじゃくった。
「でも、注射されたのがマジックショーの後でほんとによかったよ。本番のステージで勃起されたら、さすがの俺もフォローしようがなかったからな。ところで、チンチン、まだ収まりそうもないか」
 鷺丸君は僕の硬く上向いたおちんちんに同情の眼差しを向けて、訊ねた。
「まだ、もう少し、時間がかかると思う。あと一時間三十分くらい・・・・・・」
 鼻をすすりながら、僕は両手で勃起状態のおちんちんを下腹部に押さえ込むようにして包み、隠した。
 そっか、と呟くように返すと、鷺丸君は不意に無表情になった。くるりと背を向け、舞台道具の保管場所であると同時に控え室も兼ねている倉庫へひとりで戻ろうとするので、僕は慌てて追いかけた。
「待って、僕を置いていかないで。何か着る物を貸してよ。お願いだから」
 鷺丸君は冷たい目で僕をじっと見下ろしてから、「さっきも言っただろ。お前の着る物なんて、ここにはないって」
「じゃ、せめてその黒い上着を貸してよ。倉庫に戻るなら僕も連れてってよ」
「何言ってる。これは大事な一張羅だぞ。いくらお前が素っ裸でも貸せない。もうさんざん見られてテレビ中継もされたんだから、今さら恥ずかしがるなよ」
 冷たい返事に呆然とする僕を置いて、歩き出す鷺丸君。僕はその背中にすがった。
「待って」
 鷺丸君は立ち止まり、ゆっくりと体を回して僕と向き合うと、僕の裸の肩に両手を置いた。相変わらず無表情だった。
「悪いけど、お前を倉庫に連れて行くことはできない」
「なんでよ」
「夏祭り実行委員会からお前を貸してほしいって頼みがあってな」
「何それ。聞いてないし」
「俺もよう知らん」
 しがみつく僕をふりほどいて、鷺丸君は立ち去ってしまった。

 舞台道具の保管場所である倉庫は、この野外ステージから二百メートルほど離れた場所にある。ひとりで素っ裸のまま行くことはできない。さんざんステージで恥を晒したのだから今さら恥ずかしがるな、と鷺丸君は言った。しかし、鷺丸君と入れ替わりに僕のところへ来た三人の熟年女性、本番公演前に倉庫の控え室に入ってきた門松委員長のお供をしていた三人は、違う考えだった。
「だからこそ気をつけなくちゃいけないのよ、あなた」
 ステージで素っ裸の僕が吊られて、勃起し、お尻を叩かれるのを見て、その種の性的嗜好をもつ男性たちが欲情したという。ステージ裏から僕が出てくるのを今か今かと待ち構えているので、絶対にひとりでその格好のまま倉庫に行こうとしないこと、と熟年女性たちは真顔で僕に言い聞かせた。
「どこかに連れ去られて朝まで犯されるわよ」
「監禁されて体じゅう開発されるでしょうね」
「いや、朝になっても解放されないかも」などと口々に僕を怖がらせた。

 門松委員長のお供をしていた三人の熟年女性は、硬いままのおちんちんを握って、僕を関係者用の最前列の席へ引っ張った。この席でステージを閲覧しながら、少しお話をする、という考えのようだった。どうしても僕に相談したいことがあると言う。
「わかりました。従いますから、何か着る物を貸していただけますか?」
 片手で胸を、もう片方の手で勃起中のおちんちんを隠す。相変わらず自分だけが何かも丸出しの素っ裸だった。
「ごめんなさいね、気が利かなくて。でもあなた、最初からずっと裸だし、裸でも全然違和感ないわよ。別に寒くないでしょ?」
「ま、まあ」寒いどころか、心拍数が上がりっぱなしで汗が出るほどだった。
「じゃ、そのままでいいじゃないの。丸裸のほうが目立つし、わたしたちにはそのほうが都合いいのよ。悪いけど我慢して」
「そ、そんなあ・・・・・・」

 ステージでは、チアダンスチームによるダンスパフォーマンスがおこなわれていた。倉庫でエンコと僕をいじめた女子たちだった。あの時おちんちんに打たれた注射が本物だったら、マジックショーの途中で僕は勃起して、ショーを混乱に陥れるところだった。
 彼女たちは倉庫でエンコや僕に見せていた底意地の悪い目つきや口角をきれいさっぱり消し去り、天真爛漫な表情でステージを所狭しと走り回ったかと思うと、音楽に合わせて跳ねた。大きく股を開いて上体を伏せると、観衆から盛んな拍手が起きた。僕が浴びたのとは全然異なる、もっと自然な感嘆の念から出てきた拍手だった。実際、体が柔軟でなければとてもできない体の動きの連続だった。
 最前列なので、僕は何度かチア女子たちと目が合った。彼女たちは、熟年女性に左右を囲まれて座っている素っ裸の僕に気づかない振りをした。
 それにしても、僕をここへ連れてきた熟年女性たちは、相談があると言いながらいっこうに切り出す気配がなく、ステージのチアダンスに見とれている。
「で、僕に相談したいことってなんですか」
 ついにしびれを切らして問いかけると、やっと話してくれたのだけど、大音量で流れている音楽のせいで全然聞き取れない。僕の左側に座る、三人の中で一番豊満な胸のある女性が僕の耳に口を寄せて、かすかにアルコールの香りの混じった息を吹きかけた。すると、それが合図であるかのように今度は僕の右側のおかっぱ頭の熟年女性が僕の右手を掴み、自分の膝元に寄せた。

 依然として勃起したままのおちんちんが、またまた露わになってしまった。ステージで踊るチア女子のひとりがこれに気づき、片方の眉をちょいと上げた。
 ヒギィッ。おちんちんを操縦桿のように握られる。左側の豊満な人は握ったそれを前後左右に軽く揺すりながら、僕の耳にもう一度息を吹きかけ、掠れた声で言った。
「あなた、お隣の東町の第二公園で、行方不明になったブロンズの美術作品を探し当てたんでしょ」
 狭い地域だから噂が伝播するのは早い。午前中の出来事がもう隣町に伝わっている。
「ブロンズ像の除幕式があるから、なんとかその前に見つけようとして公園事務所の人全員総出で探しても見つからなかったのに、真っ裸の男の子が来て、あっという間に解決したって、その人、すごく感心してたわ。おかげで無事に除幕式も済んだようね。これってナオスくん、あなたのことよね?」
 ウウッ・・・・・・。豊満女性が握るおちんちんの裏側、精液の出る穴のところを親指の腹でぐっと圧しながら、上下にゆっくりピストンするので、切なくなって喘いでしまった。
 いや、と僕は座ったまま体を揺すった。女の子みたいな声を出すのね、と右側の熟年女性、おかっぱ頭が言った。そして、僕の乳首をさすり始める。今度はおかっぱ頭が僕の右耳に口を寄せた。
「あなた、とっても感じやすい。いつも裸で体をいろんな人に触られているから、どんどん敏感になってる。東町の公園でもずいぶんと喘いだみたいね」
「し、知りません、そんなこと・・・・・・、アアッ」
 首筋を舐められた。続いて脇腹をおかっぱ頭の手のひらがツツーっと滑った。
「とにかくね、あなたには何か特殊な能力があるみたいだから、それを私たちのためにも使ってもらいたいのよ」
 続いて左側の豊満な女性が口寄せした。おちんちんを握ったまま、別の手でおちんちんの袋を揉んでいる。
「あなたの右から四つ目の席にいる初老の男、さっき倉庫で会ったでしょ」
 アググッ。なんと、おかっぱ頭の女の人がいきなりおちんちんを口に含んだ。六十近い年齢と思うけれど、舌の細やかで繊細な動きは、二十代のしなやかな肢体による舞のようだった。
 や、やめて、こんなところで・・・・・・、い、いきそう。
 ズボッ、と音を立てて口からおちんちんを抜いた。

 豊満な女の人が僕の頬を両手で挟んで、強引にそのほうへ向けた。そこにいる、灰色のスーツを着て、白いリボンの胸章を付けた、六十五歳くらいの男性を僕はもちろん忘れていなかった。血走った眼でチア女子のダンスを食い入るように見つめていた。
「あの人、誰なの。言ってごらんなさい」
「夏祭り実行委員会、委員長の門松徳三郎氏」
「そのとおり。よく名前を覚えていたわね」
 マジックショーの本番前、僕たちの仕切りの中に入ってきて、素っ裸の僕を呼び寄せておきながら、僕に名刺を渡そうとして、直前で引っ込めた人物だ。僕が全裸で名刺を持っていないから、というのがその理由なのだけど、わざわざ呼びつけての仕打ちなだけに、僕は結構傷ついたのだった。「門松委員長がどうかしたのですか?」
「あの人ね、狙われているの、テロリストにね」
 豊満な女性がそう囁くと、おかっぱ頭の右隣の熟年女性、痩せぎすで青白い顔をした女の人がすっと手を伸ばし、僕に三つ折りの紙を渡した。そのまま引っ込めるかと思いきや、挨拶するようにおちんちんをぷるんと揺らした。アウッ。
「その手紙が一週間前、商工会連合会の事務所に届いたの。門松の命を狙うって宣言してるのよ。私たちのお願いは、テロリストがどう攻めてくるか、事前に読み取って、門松の命を守ってほしいことなの」
 僕は渡された手紙を広げた。女性たちの手が僕の裸身からすっと縄でも解かれたみたいに離れた。
 紙に印字された文章は、次のとおり。

門松徳三郎さまへ
あのな、おれたち、マジで怒ってる。
あんたが電撃特急の開発を邪魔し邪魔し、とうとうわれらの町に電撃特急が通らなくなった。
そのせいで失業者がたんと出て、町の財政は壊滅的や。
もうこの町はもたんやろ。あんたのその罪は死をもって償わなあかん。
ええか、玉音放送をもってわれら国民は初めて敗戦を知った。敗戦したんだ。そのことを思い出せ。以来、ずっと立ち上がれてないんや、おれたちは。素直に認めろや。
で、それにちなんで、おまえが罪を償う日は、玉音の声が発せられた、その翌日とする。
お前の罪の償いには何人か道連れになるだろ。これもあんたの罪の大きさがなせるわざだ。地獄をお楽しみにな。
黒い宝石より


 その手紙を僕はゆっくり二度読んだ。そのあいだ、おかっぱ頭の女性はおちんちんを握り、さすった。少し柔らかくなってきたから、と彼女は言った。おちんちんが萎むと僕の頭が正常に働かなくなるとでも思っているかのようだった。実際は逆なのに。
 扱かれて、性的快感が上昇した。僕は右のおかっぱ頭の女性に手紙を返した。
「ああ、気持ちいい。もうやめて、変になるから。考えられなくなっちゃうから」
 豊満な女性が何か指示したようで、おかっぱ頭の手がおちんちんを離れた。
「警察には連絡したんですか?」
 息を整えてから発した僕の質問に豊満女性が「もちろん」と直ちに答えた。すでに二十四時間の警備がついているらしい。この夏祭りの会場にもあちこちに私服警察が配備されているとのことだった。
「ねえ、あなた、門松会長を狙う犯人逮捕に協力してくれるわよね」
 耳の奥まで息を吹きかけてくる。依然として一定の硬度を保っているおちんちんをツンと指ではじかれた。おかっぱ頭の女性だった。目を細めて僕を睨んでいる。
「そ、そんな。僕には無理です」
「無理じゃないわよ」
 そう言って、もう一度おちんちんをツンとはじく。
 左の豊満な女性がまた口紅の鮮やかな分厚い唇を僕の耳に寄せてきた。

 どうも僕に事件解決の協力を求めたのは、門松会長たっての希望らしい。非合法の政治組織である黒い宝石を止めるには、地元警察だけでなく、各方面の協力が不可欠だと考えているようで、東町第二公園の消えた立体美術作品事件、同公園事務所長の真珠のイヤリング紛失事件を解決した僕の噂を聞いて、たいそう僕に興味をもったという。
 あの本番前、倉庫の仕切り内にいきなり入ってきた門松会長は、僕のことをすでに知っていたのだ。素っ裸の僕を邪険に扱ったのもわざとで、僕がどう反応するか、確かめたのだろう。正式に協力を依頼しろと指示を出したのはその後だというから、どうやら僕は門松氏のメガネにかなったようだ。

「わ、分かったから、手を離してください。そんなに強くしないで」
 おかっぱ頭の女性がおちんちんをぐいぐい握りしめていた。
「引き受けてくれるわよね」
 豊満な女性が舌を伸ばして、僕の耳の中を舐めた。
「ひ、引き受けます。お、おちんちんが痛いから離して」
 苦悶しながら訴えると、おかっぱ頭の左隣の女性が頷いた。やっとおかっぱ頭はおちんちんから手を離してくれた。僕は続けた。「引き受けますけど、でも、条件があります」
「いいわよ、なんでもどうぞ」
 右にいる豊満な女性がにっこりと微笑んだ。

 僕の出した条件は二つだった。一つは、僕に服、何か着る物を与えることだ。
 素っ裸のままでは行動が制約されるし、何よりも恥ずかしい。誰だって普通に服を着ているのに、僕だけ一糸まとわぬ全裸でいなければならない理由はないと思う。いくらずっと全裸だからといって、好きでこの格好でいるわけではない。人の目におちんちんやお尻を晒し続けるのは、慣れるようでなかなか慣れない。人の目が気になって体が熱くなる。

 二つ目の条件は、もっと大きなことだった。
 僕は今、Y美の家に世話になっている。僕の母の抱えた莫大な負債をY美の母親、おば様は肩代わりした。母にしてみれば、返済先がおば様に変わっただけだった。母はある会社の男性専用の独身寮に住み込みで働かされている。
 Y美の家での僕の扱いはひどいものだった。服を着ることが許されず、家に入ったら白ブリーフのパンツ一枚にならなければならない。家の敷地内では、パンツ一枚以外の着衣は与えられなかった。夏休みに入って学校に行かなくなると、ほどなくそのパンツすら取り上げられるようになった。最近は庭で全裸生活を強いられている。
 食事も同い年のY美の二十五分の一以下だった。Y美はなかなかの大食漢で、いつも朝からトースト八枚、晩は白米をどんぶりで四杯は平らげるから、僕の食事を多少増やしても食費はそれほど嵩まないはずなのに。
 事件を解決したら、このような過酷な環境から母と僕を、門松氏の財力をもって救い出してほしいというのが僕の出した二つ目の条件だった。

 豊満な女性は席を離れ、門松会長のところへ前傾姿勢で相談しに行った。おかっぱ頭の女性が僕のおちんちんの袋を掴んだ。そんなことをしなくても逃げ出さないのに。
 ステージではチア女子たちがバラード風の音楽に合わせ、腰に手を当て、お尻を左右に振っていた。時々、潤んだ瞳を向け、観衆にウインクする。観衆はうっとりしたように静まり返った。

 豊満な女性が戻ってきた。正面を見つめてホッと息をつくと、僕に向き直り、ぬめぬめした唇を僕の耳に寄せてきた。岸壁に近づく救援ボートのようだった。
「あなたの条件、どちらかひとつにしてほしい、ですって」
「え、どっちかひとつ? どうしてですか?」
「中学一年の子供のぶんざいで、ふたつも条件出すのは生意気だって。どちらかひとつ、裸の坊やに選ばせなさいって。その代わり門松会長は約束を守るわよ」
 うーん・・・・・・。僕は考え込んだ。豊満な女性が戻ると同時に、おかっぱ頭がおちんちんの袋から手を離したので、強めに握られたおちんちんの袋を自分の手で撫でる。

 もし衣類提供という一つ目の条件を呑んでもらえたら、僕はただちにこの夏祭りの会場で全裸を晒す羞恥から解放される。服を着て、靴も与えられて、人々の好奇の視線を浴びずに、体を不必要に触られることなく、会場内を歩き回れるだろう。
 事件が解決するとしないとにかかわらず、人が通常身に着ける衣類の一切を用意してくれるというのも、魅力的だった。
 ただし、事件が終わって、Y美の家に戻ったら、間違いなく衣類は没収されるだろう。明日からまたパンツすら穿かせてもらえず、おば様に夜のご奉仕をしたり、Y美に興味本位で射精させられたりする全裸生活が始まってしまう。
 つまり、服を着られるのは今晩だけということだ。生活の根本は変わらない。

 そう考えると、やはり二つ目の条件でお願いするしかないように思った。素っ裸のまま事件解決のために動かないといけないのは確かにつらいけれど、解決したあかつきには母も住み込みで奴隷のように働かされている現在の境遇から抜けられるし、元の生活、母と一緒に暮らす普通の生活に戻れるのだ。
 もうY美の家で性的にいたぶられる生活とおさらばできる。

 熟慮の末、僕は豊満な女性に、「二つ目の条件でお願いします」と告げた。
 豊満な女性は胸を揺さぶって、何度も頷いた。
「そうそう、二つ目の条件がいいわよ。あなたはしばらく、はだかんぼうのままだけど、事件を解決したら、バラ色の生活が待ってるんだから。もう過去のことなんか忘れるわよ。ただし、犯人が捕まるまでは裸のままでいなさいって門松先生は言ってたわ。何日先になるか分からないけどね」
「な、なんですか、それ?」絶句。おちんちんを覆っていた手が外れてしまった。
「事件を解決するまでは、その格好のままでいなさいってことよ。もし事件が解決する前に何か衣類、パンツ一枚でも、靴下一枚でも身に着けたら、その時点で契約違反になって、あなたとの約束は反故になるわ。あなたは居候先で、今までと同じように裸のまま嬲られる生活を続けるのよ」
「いやです、そんなの・・・・・・」これまでのつらい、理不尽な日々を思い出して、僕はしゃくり上げそうになった。
「だったら裸のまま、がんばって事件を解決してよ。それまでは門松先生のところで寝泊まりしていいみたいだからね」
 豊満な女性がそう言うと、右からおかっぱ頭の女性が「いいわよねえ」と僕の右の耳に囁いてきた。折しもステージの音楽が一段と大きくなったところだった。
「とっても広くて豪華なおうちなのよ、門松先生のお宅は。そこで生活させてもらえるなんて、なかなかできないことよ。まあ、お洋服は一切着られないけどね。タオル一枚腰に巻くことも許されないわよ」
 どうにも納得できなかった。事件の解決を求めているはずなのに、なぜ僕を全裸のままにしておきたがるのだろう。もし服を着たら、たとえ事件を解決したとしても救済の約束を反故にするなんて、とても尋常の考えではない。
「門松先生はね」と、首を捻る僕の裸の肩を叩いて、豊満な女性が言った。「あなたの裸の姿がとっても気に入ったみたいなの。ずっと見て、手元に置いておきたいんだって」
「まあ、そこはあまり気にしてません」僕は背筋に走った寒気を振り払うべく強い声を出した。「事件解決まで何日もかからないから」
「それ、ほんと?」
「きょう一日で片がつき、犯人は捕まると思います」 
「断言しちゃってだいじょうぶ?」
「だいじょうぶです」
 豊満な女性が「信じられない」と言うように首を横に振った。

 熟年女性たちは、僕に事件の背景を教えてくれた。
 門松徳三郎は、夏祭りの実行委員会委員長であるけれど、社会的には商工会会長として知られた人で、この町のドン的な存在であり、政治家を何人も手懐けている。この町の権力者のひとりである。

 黒い宝石の犯行予告にあった電撃特急とは、超電導磁石を使って車両を浮かせて走る新型の特急電車のことだ。電撃特急の駅がこの町にできたら、町の人口が増え、法人はこの土地に工場や会社をばんばん移し、経済的に潤う。それを見越していろいろと商売が始まっていたのに、なぜか門松徳三郎氏は、開発の中断をたびたび知事に申し入れた。
 知事は、表向きは自分の政治的信念により開発反対の立場をとっているけれど、実際のところは、この門松氏が首を縦に振らないから、仕方なしに反対し、鉄道会社に中断の申し入れをしているにすぎない。
 なぜ門松氏は電撃特急の開発に反対するのか。側近の熟年女性たちも知らなかった。ただ十中八九、利権の絡みであろうとのことだ。しかし反対する表向きの理由が明瞭さを欠くことは否めず、識者は山を切り崩す、地下水が流出するなど、貴重な自然の資源が失われるという理由から開発に反発するのだろうと考えた。

 新しい事業を開発する場合はその目的、効果、実現性、発展性、総合評価など、さまざまな面からやたら細かく検証を求められるけれど、それに反対する場合は、まったく逆で、開発推進派の説明に難癖をつければ意外に十分だったりした。
 門松徳三郎の許しが出ないまま、知事は、電撃特急の事業を進める鉄道会社の説明に底意地の悪い質問を連発し、鉄道会社が回答に詰まると、勝ち誇ったように笑って、言いがかりとしか思えない反対意見をとうとうと述べた。
 市民団体は知事の頑なな、知事としての品位を疑うに足る態度に激怒し、リコール運動を展開中だ。一方、知事にその立場をとらせているのがほかならぬ門松徳三郎であることを突き止めた非合法の政治団体、黒い宝石は、テロをも辞さない構えで門松会長に翻意を迫るのだった。
 開発がいっこうに進まないことから、電撃特急の駅周辺の開発を目的に集まった企業は、町からの撤退を開始した。電撃特急の高架レールが未完成のまま残る町は、職を失った人で溢れた。時間は止まり、政治も財政も腐敗の一途をたどった。
 この切迫した事態に直面して、黒い宝石は、とうとう実力行使を宣言する手紙を寄こしてきた。

 ステージではチア女子たちのダンスが終わったところだった。横一列に並んだ彼女たちが万雷の拍手を浴びてお辞儀を繰り返している。
 ステージの上部には幕がかかってあった。最後まで巻き取られていない。
 僕たちがマジックショーで出演している時もそうだった。ステージの最後部、演劇などで背景を置いたりする場所には白い壁が設置されてあった。壁は真っ白でスクリーンの役目も果たす。ただスクリーンとして使用する場合は、幕を最後まで巻き取る必要があった。今の状態では、上の部分が幕にぶつかってスクリーンに映る映像を邪魔するだろう。
「あの幕、なんであんなところで止まってるんですか。最後まで上げてないのは何か理由があるのですか」
 音楽が止まったので、大声を出したり耳に口を寄せたりしなくても会話ができるのはありがたかった。豊満な女性とおかっぱ頭の女性、痩せぎすの女性の熟女三人は、僕の問いに肩をすくめた。詳しく事情、背景を説明したのに、なぜ関係のない質問をするのだろう、と思ったようだ。
「あれは、わざとそうしてるのよ。門松さんの指示でね」と、豊満女性が言った。
 ステージでは次の演目であるバンド演奏の準備が進められていた。
「ステージショーの最後に、門松実行委員長が挨拶するんだけど、その時、映像と音楽を流す予定なの。この町の将来、輝かしい未来をイメージした豪華な映像なのよ。電撃特急なんか通さなくても町は発展するってアピールね。門松委員長が演台に立って話し始めると、幕が最後まで巻き取られる手筈なのよ」
「へえ、なんでまた。最初から巻き取っておけばいいのに」
 おかっぱ頭の女性の説明に今ひとつ納得できない僕がそう漏らすと、その右隣の痩せぎすの女性が手を伸ばしてきて、おちんちんの袋を引っ張った。びよーんと伸びるおちんちんの薄い皮。ヒィッ、痛い。やめて、と発作的に手を払うと、痩せぎすの女性は「こんな感じで伸びるとスペシャルな感じがしない?」と言って、笑みをこぼした。
「スペシャル?」引っ張られて痛みの残るおちんちんの袋を撫でながら聞き返す。
「そうよ。映画館でも予告編が終わっていよいよ本編の始まりとなると、スクリーンの幅が広がったりするでしょ。観客は、いよいよ始まるって胸をときめかす。それと同じ効果を狙っているのよ。自分の舞台になって、初めて幕が完全に上がる。そのことで、何か特別な感じを観衆に与えようとしているのよ」
「ふうん、それまでのショーをすべて予告編扱いですか」
 思わず憤慨してしまうと、「そういう人なのよ、門松さんは」と言って豊満な女性が僕の頬を撫でた。
 ちょうど次の演目であるバンド演奏の準備が整い、ヴォーカルのお兄さんが自己紹介を始めたところだった。僕は三人の熟年女性に声をかけて、場所を観客席から舞台裏に至急移動する必要があることを伝えた。

 舞台裏には熟年女性トリオのほか、門松会長のお供のひとりだった、目つきの鋭い、黒いスーツの男の人も来てくれた。胸の名札に「桃李」とあった。
「とうりです、よろしく」右手を差し出してきたので、僕も手を出した。
「ナオスです。どうぞこちらこそ・・・・・・」と言いかけたところで、いきなり強い握力でぐいぐいと締め上げてきた。い、痛い。離して、と訴えるも、桃李さんはそのまま僕の手を背中に回してしまった。
「ふん、門松のオヤジも耄碌したもんだな。こんな素っ裸のへなちょこのガキに何かできるんだよ。しかも勃起してるし」
 桃李さんはやっと僕の手を離すと、忌々しそうに言った。
「勃起は仕方ないのよ。それはともかく、やってみなくちゃ、わかんないじゃない」
 豊満な女性がムッとした顔で返した。それから、捻られた腕をさする僕に同情の眼差しを向けて、「ごめんなさいね、あの人、事件解決のめどが立たなくて、イライラしてるのよ」と詫びた。

 豊満な女性の名は板倉さん、おかっぱ頭がミョー子さん、痩せぎすの青白い顔の女の人はハツミさんという名前だった。
 肝心の門松会長の姿はなかった。ステージ最前列の席にもいない。誰か警護の人はいるのかと訊くと、特に警護の指示は出してねえよ、と桃李さんが教えてくれた。
 会長ひとり、警護もつけずに雑多な人で賑わう夏祭りの会場を歩き回るのは危険ではないか、と僕は言った。

 まあ、今回は犯人がどこで会長を狙っているか、おおよそ見当がついたので、今ひとりでぶらぶら出歩いても、襲われる危険性は低いけれども、もう少し用心したほうがよいのではないか、と思い切って意見してみると、案の定、桃李さんがケッというような顔をして僕を睨んだ。
「素っ裸のガキのくせに生意気なこと抜かすな。お前、黒い宝石から届いた手紙読んだのかよ。ちゃんとそこに犯行日が指定してあったろ。終戦の玉音放送のあった翌日だ。今日は八月十五日、玉音放送のあった日だろ。明日が宣言した日だよ。あいつらは宣言した以上は絶対に約束を守るから、今日の夏祭りでは襲われる心配はない。一応、私服警察が巡回しているけど、特に怪しい動きはないようだぞ」
「ええ、その犯行予告の手紙なら僕もさきほど読ませていただきました」
 僕はおちんちんの前に両手をかざして、言った。おちんちんはまだ元の状態に戻らず、勃起状態だった。さすがに板倉さんたち熟年女性トリオは訝かり、なぜそんなに立ちっぱなしなのか、と訊ねてきたので、僕は正直に打ち明けたのだった。マジックショーが終わって舞台袖に退いた時、意地悪な同級生に勃起する注射を打たれてしまったのだ、と聞いて彼女たちは大いに僕に同情してくれた。
「だったら今日は安心だろ」と桃李さん。続けて、「お前は安心してチンチンおっ立ててたらいいんだよ。それにしてもよ、裸を晒してるだけでこんなに感じてるなんて、つくづく変態だな」と罵倒してくるので、僕は泣きたくなってしまった。ミョー子さんがすかさず桃李さんに僕が勃起し続けている事情を伝えた。
 桃李さんはたちまち柔和な顔つきになった。「そっか。それは気の毒にな。早く収まるといいな、チンチン。でも、子供のチンチンのくせに勃起の持続力がすげえから俺、自信なくしかけてたんだけど、注射を打たれたせいだって聞いて安心したよ」

「ところで、例の手紙ですが」と、僕は話を戻した。「もう一度、よく読んでみる必要がありそうです。犯行の日をいつと指定していましたでしょうか」
 僕は板倉さんにお願いして、黒い宝石からの手紙の中の一節を確認してもらった。板倉さんは目で文字を追っていたけど、あるところから声に出した。
「玉音放送をもってわれら国民は初めて敗戦を知った。敗戦したんだ。そのことを思い出せ。以来、ずっと立ち上がれてないんや、おれたちは。素直に認めろや。で、それにちなんで、おまえが罪を償う日は、玉音の声が発せられた、その翌日とする」
 そこまで読んで板倉さんは顔を上げた。「これが何か?」
「単に玉音放送された翌日と書かれているなら、確かに八月十五日の翌日である十六日、つまり明日が犯行予告日になります。でも、ここには、玉音の声が発せられた、とありますよね。声が発せられた、です。放送された、ではありません」
「それがどうしたんだよ。似たような意味じゃねえか」
「いえ、玉音放送は録音されたものなんですよ」僕は学校の授業で歴史の先生から聞いたことをそのまま話した。「八月十五日の前日の夜に収録されたものです。つまり、玉音の声が発せられたのは十四日なんです」
 桃李さんや熟年女性たちの顔が真っ青になった。

「まさか・・・・・・」痩せぎすのハツミさんが立ちくらみしたようによろめいた。
「そうです。十四日の翌日、きょうが犯行予告日に当たります」
「なんだって?」桃李さんがいきり立った。「こうしちゃいられねえじゃねえか。おい、門松先生はどこだ、どこ行ったんだよ。すぐに警護しなくちゃ・・・・・・」
 ファイティングポーズを取った桃李さんは、シュッ、シュッと擬音を発しながら、拳を交互に突き出した。
「だ、大丈夫です。ちょっと待ってください」僕は出て行こうとする桃李さんの前に立って押しとどめる素振りをした。下手に慌てて騒ぐと、犯人に気づかれる心配がある。とにかくここは桃李さんに落ち着いてもらわなくてはいけなかった。
「安心してください。犯人一味がどのようにして門松会長を狙うか、僕はもう推測できましたから。皆さんに舞台裏まで来ていただいたのは、そのためです」
「ナオス君、もしかして、もう・・・・・・」おかっぱ頭のミョー子さんが声を震わせた。
「そうです。結論から言うと、ステージショーの最後に門松さんの挨拶がありますね。ほら、スクリーンにスライド映して、映像と音楽で町の発展、電撃特急がなくても町はじゅうぶんに経済的に潤うんだってことをアピールするスピーチの時間。連中はそのときを狙って恐ろしいことを計画しています。逆に言うと、計画のすべてをそのスピーチに賭けているので、それ以外の時間帯に襲撃される危険性は低いです」
「すばらしいわ、ナオス君。こんな短時間でよくそこまで推理できたわね」板倉さんが感激して、僕のお尻を撫で回した。「素っ裸なのに、すごいわ」
 素っ裸はよけいかと思った。
「ふん、まだ推測してるだけじゃねえか。実際にどんな仕掛けがあるかは確かめるまで分からねえよ」と、桃李さん。
「そのとおりだと思います」と僕は言って、ドアを開けた。ステージで演奏するバンドの大音量が流れ込んできた。舞台袖のほうへ向かう。みんながぞろぞろとついてきた。「あれを皆さんに見てもらいたいです」僕はエレキギターの大音量に負けないよう、大声を発して、ステージ上部のワイヤーを指した。観客席からは手前の完全に巻き取られていない幕に隠れて見えないけれども、舞台袖からならしっかり確認できた。天井の照明近くを通るワイヤーの真ん中付近だ。
「あ、あんなところにバケツが」桃李さんが叫んだ。
「あ、あのバケツの中には、爆弾とかが入ってるのかも」
 横棒にぶら下がるバケツを仰ぎながら、ハツミさんが体をぶるぶると震わせた。

 ステージの幕を巻き上げる横棒の内側、そこにいくつか、ステージの端と端を通すワイヤーが並び、そのひとつにバケツがぶら下がっている。
 僕がそれに気づいたのは、マジックショーが終わってステージに呼び戻された時だった。
 ステージでは相変わらず全裸のままで、タオル一枚貸してくれないのだから、僕は手錠をかけられた両手でしっかりおちんちんを隠していた。すると、その手をいきなり引っ張り上げられた。手錠に釣り糸が結ばれてあったせいだ。
 観衆を前にして、素っ裸のまま両手を吊られた僕は、呆然と見上げた。おちんちんに注射を打たれた効果があらわれる直前だった。ああ、もうすぐ勃起してしまう。少しずつ硬く、大きくなる過程を観衆に見られてしまう。それだけでなくテレビで放映までされてしまう。絶望的になって仰ぐ僕の視界に、ワイヤーに引っ掛けられたバケツの存在が入った。

 黒い宝石から届いた犯行予告の手紙を見せてもらい、犯行予告日が今日であることを読み取ると、あの羞恥にまみれた状況でちらりと見たバケツがどんな意味をもっていたのか、おのずと理解できた。
 舞台袖の奥に設けられたアルミ製の梯子を登る。痛い。思わず顔をしかめた。勃起状態だということを忘れて、梯子の裏板におちんちんをぶつけたのだった。幅の広い足場に降りると、向こうの舞台端まで五本のワイヤーが五センチほどの間隔を置いて通っていた。
 巻き上げた幕のすぐ内側だから、観客席からは見えない。バケツは真ん中のワイヤーに括り付けられてあった。
「なんで、あんなところにバケツがあるのかしら」
 ミョー子さんが首を傾げた。

 下のステージではバンドが演奏を開始した。耳を聾する大音量だった。
 桃李さんが僕の裸の背中を叩いて、口をパクパクさせている。ちっとも聞こえない。耳を近づけて、かろうじて「で、あれ、取りに行くの、当然きみがやるよね」と怒鳴っているのが分かった。「体重の一番軽いやつが行くしかないだろ」
 五本のワイヤーの強度がどれくらいなのか不明なので、最も体重の軽い僕がワイヤーに乗ってバケツを取りに行くのは仕方がないと思った。
 それにしても怖い。あのバケツの中には恐ろしい物、爆発物が入っているのは、ほぼ間違いないのだ。
 ステージショーを中断して警察に撤去をお願いすることも考えた。しかしそうすると、黒い宝石に気づかれて、犯人を取り逃がしてしまうかもしれない。
 ワイヤーの括られたバケツの中身を見て、危険そうであればそのまま引き返し、警察に任せようと思った。
 幸いワイヤーに乗ってバケツのところまで移動したところで、観客席からは絶対に見えない。黒い宝石に気づかれずに彼らの仕掛けを撤去できる。
 とりあえず梯子を下りて舞台裏に戻る。そこもバンドの大音量が凄まじかったけれど、ワイヤーを繋いだ足場よりは、ましだった。僕は身振り手振りを交えた大声で、油を染みこませたタオルを所望した。五本のワイヤーにそれを乗せ、移動の手段にするためだった。

 しばらくして三人の熟年女性はオリーブオイルの缶とバターを持って戻ってきた。バンドのヴォーカルの絶叫に負けじと大声を出すのに疲れた僕は、紙とペンを借りて、「タオルは?」と書くと、すぐさま、板倉さんがその下に「必要なし」と書き添えた。そして、僕の顔を見て、にっこり笑う。
 え、嫌な予感・・・・・・。

 両手を頭の後ろで組み、足を肩幅ほど開いて、立たされた。
 三人の熟年女性は、一糸まとわぬ僕の裸身にオリーブオイルを塗りたくった。ワイヤーに乗った際に滑りやすくするためだ。腹這いで乗るのだから、お腹とか足までで足りるのに、首後ろ、背中にもあまねくオリーブオイルを引き延ばし、お尻の割れ目、奥深くまで指を滑り込ませた。脇の下までヌルヌルになる。

 桃李さんが僕の耳元で「乳首」と叫んだ。ミョー子さんはオリーブオイルで濡らした指を執拗に乳首にこすりつけた。喘いでも、バンドの爆音のおかげで聞こえない。僕は官能が走るたびに笑われる心配なく、喘いだ。
 おちんちんの袋、皺のひとつひとつにオリーブオイルが塗られるのだから、それはどうしたって喘いでしまう。

 注射の効き目は未だに衰えず、おちんちんは僕の性的官能の高まりとは関係なく、最高度の硬度を保ったままだった。板倉さんが満足げな顔をして「塗りやすい」と紙に書いた。それは通常の状態よりも勃起時のほうが格段に油を塗りやすいだろう。オリーブオイルまみれの手でおちんちんを握り、ほとんど扱くかのように前後に滑らせる。
 僕はそのたびにあられもなく官能に震えて、けっして聞かれる心配のない喜悦の声を心置きなく漏らした。

 桃李さんがバターを差し出した。「これも塗っとけ」と、チラシの余白に書き殴る。
 アウッ、ヒィィ・・・・・・。
 三人の熟年女性は、オリーブオイルを塗った僕の肌の上にさらにバターを走らせた。おちんちんをバターでこすられ、足をぶるぶる震わせてしまう。ハツミさんは面白がって、僕の顔にまでバターまみれの手を伸ばして、撫で回した。耳の後ろまでバターを塗られる。
 全身がオリーブオイルとバターまみれになった僕の裸身は、ステージ上の斜めから射してくる照明を浴びて、ぬめぬめとして妖しく光っている。
「すてきだわね。ちょいとお待ち」
 板倉さんがどこからかカメラを持ってきて、恥ずかしがる僕の全身の写真をさまざまな角度から撮影した。
 
 アルミの梯子を、オリーブオイルとバターの染みこんだ手や足を滑らせないように慎重に登り、ふたたびワイヤーの繋がれた足場に行く。僕たちの下のステージでは、相変わらずバンドが凄まじい音量で演奏を続けている。
 板倉さんが「これを付けて」と書いた紙片を僕に見せて、細長い紐を差し出した。
 なるほど、と思った。僕の体に紐を括り付けることで、バケツをワイヤーから外したあとの僕をスムーズに引き戻すのが可能になる。問題は体のどこに付けるかだった。僕としては腰回りに紐を結んで欲しいので、先手必勝とばかり板倉さんの手から細紐を取って自ら腰に回したのだけど、ミョー子さんに外されてしまった。板倉さんが紙片に「だめ、おちんちん」と大きく書いた。

 いやがる僕の気持ちを無視して、気をつけの姿勢を命じる。僕の裸身がオリーブオイルとバターでぬるぬるしているので、熟年女性たちはできれば触れたくないようだった。ちょっとでも動くと、板倉さんに怖い顔で睨まれた。
 べとべとするおちんちんの袋の根元を紐で固く縛られる。そうすると、ぷるんと垂れた袋が邪魔して外れない。何度か引っ張ってそれを確認した板倉さんは、僕を見上げて「これでよし」とばかり、微笑んだ。

 狭い足場に三人の熟年女性と桃李さんが身を寄せ合って、ワイヤーの前で膝をついた僕を見守っている。
 五本のワイヤーは、端の二本は十五センチほどの間隔があった。しかし真ん中の三本はぐっと狭まって三センチ程度の間隔しかない。腹這いになるべく、まずワイヤーを握ると、バンド演奏の振動が伝わってきた。エレキギター、ベースの振動を如実に伝えて、震えている。そのワイヤーにオリーブオイルとバターをたっぷり塗った裸身を乗せていく。

 ウウ・・・・・・。思わず喘いでしまう。腹這いになった途端、お腹や乳首に電気音の振動が走るのだった。バケツは三本目、真ん中のワイヤーに括られている。体の中央にあるおちんちんがどうしても三本目のワイヤーに接触してしまう。
 ヒギィ・・・・・・。まるでこの瞬間を狙ったかのように、エレキギターがグリッサンドしてエフェクトをかけた。ワイヤーがぶんぶんと唸るように振動し、紐付きのおちんちんの袋に甘い電流を走らせる。
 まずい。性的官能を高めている場合ではない。僕は腰を浮かせ、四つん這いの姿勢を取った。しかしワイヤーの上なのでうまく進むことができない。おまけに手も足もオイルとバターに塗れているので滑りやすく、バランスを取るのは至難のわざだ。ワイヤーの上を滑りやすくするために塗ったのに仇になってしまった。

 ふと背後が気になって振り返ると、板倉さんたち熟年トリオと桃李さんが手振りで僕を応援中だった。
 ミョー子さんが笑顔で片手をぷらぶら振って、おちんちんの袋の揺れるのを冷やかしている。なるほど彼女たちの立ち位置からは、オリーブオイルとバターでてかてか光ったそれがお尻とともによく見えるのだろう。恥ずかしいけど、素っ裸なのだから仕方なかった。いくら笑われても、隠しようがない。
 もう一度、振動するワイヤーにお腹を密着させる。ちょうど真ん中のワイヤーがおちんちんに当たるので、少しだけ左にずらす。でも、隣のワイヤーとの間隔は三センチほどしかなくて、おちんちんがサンドイッチのハムみたいに挟まれる具合になってしまう。
 バンドの演奏は激しさを増し、ワイヤーをぶるぶる震わせた。重たい、底響くような振動を僕の密着させた裸体に伝えてくる。その気持ちの悪い振動が次第に官能的に響いて、性的な快感を刺激してくるから、やっかいだった。

 五本のワイヤーはそれぞれ絶妙な位置にあった。おちんちんだけでなく、どうしても乳首にも当たってしまうのだ。僕は歯を食いしばり、感じないようにしてワイヤーの上を滑っていくのだが、ベーシストが重低音で音の細かいフレーズを弾きまくる超絶技巧の披露を始めたので、アヒィィ、喘いでしまった。
 体を全身させるにはワイヤーを掴まなくてはならないのに、性的な刺激に震えて、手に力が入らない。

 さらに困った問題はおちんちんだった。元々注射されて硬かったところへ、電気の重たく響く振動を受けているのだから、痛いような、気持ちのいいような、変な感覚になる。だんだん気持ちよさが痛みを超えて感覚の表面に出てくると、下腹部にぐっと力を込めるようにして射精を我慢しなくてはならなかった。
 もし射精してしまったら、放った精液はステージで熱演を繰り広げるバンドの人たちの頭上に落ちる。ねちっとした糸を曳く白い液体が彼らの顔に降りかかる。さすがに驚いて演奏を中断するだろう。見上げて、ワイヤーの上の素っ裸の僕に気づくに違いない。大騒ぎになるのは必至で、黒い宝石は自分たちの仕掛けが暴かれたことを知るだろう。

 だからなんとしても射精はこらえなければならなかった。絶えず襲ってくる刺激の波におちんちんの袋からじわじわと性的快感の波が高まってくると、もうこのままでは射精を我慢できなくなるので、腰を浮かしておちんちんをワイヤーとワイヤーの狭い隙間から外す。そのまま荒い息を吐いて呼吸を整えるのだけど、すぐにオリーブオイルとバターを塗られた裸身が滑って、またスポッとワイヤーの間におちんちんが挟まってしまう。アウウッ。
 感じない、感じない、たかが電気の振動じゃないか、と自分に言い聞かせ、渾身の力でワイヤーの上の裸身をバケツに向かって滑らせていく。
 お尻を浮かせると、乳首から下腹部にかけての刺激が強くなる。ギタリストが高音で和音をずんずん鳴らしたところで、僕はうっとりして耳をワイヤーに乗せてしまった。首すら耳にかけて甘い電流が流れてきて、頭のてっぺんまでどんよりした快感信号が流れてくる。
 ようやくバケツのぶら下がるところまでたどり着いた。案の定、バケツの中には不穏な物体が入っていた。
 黒い爆弾だった。
 ワイヤーからバケツを取り外すと、僕は片手を上げて、背後にいる板倉さんたちに合図を送った。

 おちんちんに繋いだ細紐が引っ張られる。ワイヤーに乗せたバケツを両手で支える僕の裸身が肌に塗り込まれたオリーブオイルとバターのおかげでなめらかにワイヤーを滑っていくのだけど、その感触の気持ちよさに加えて、ワイヤーに伝わるエレキの振動がうんうんと唸って全身の肌を波打たせるのだから、おちんちんの袋から快感指数がじわじわ高まるとともに、体内部のねちねちした液体の水位上昇は、いかんともし難かった。
 まずい、感じてはだめ。僕はこう自分を叱咤して、目をつむった。

 もう無理・・・・・・。気持ちよすぎて、何が何だか分からない。こう思ったところで僕の脹ら脛や太股の裏側に人の手の感触が走った。桃李さんがバケツを受け取って中を覗き、顔面蒼白になった。口をパクパク動かしている。下のステージのバンド演奏で聞こえないけど、「なんだ、これは」とでも叫んだのだろう。

 まさしく爆弾だった。黒いプラスチックの覆いの小さな穴から装置の作動を示すランプの点灯が見えた。振動によって爆発するものと思われる。どれほどの振動でそうなるのかは不明だから、極力揺らさないように取り扱わなくてはならなかった。
 とりあえず爆弾が作動しないようにする必要がある。しかしスイッチは見当たらないし、覆いの細かい穴に指を突っ込んで、ボタンらしき物を適当に押すのは、危険すぎる。爆弾そのものを無効にするには、どうすればよいか。
 盛大な拍手と歓声が会場全体を包んだ。ステージでは四人のメンバーが客席に向かって何度もお辞儀を繰り返し、ヴォーカルの人は上半身裸になって片手を上げていた。バンド演奏が終わったようだ。やっと静かになった。

 次の演目は、地元の民謡歌手のミニコンサートだった。さっそく準備に取りかかっている。このミニコンサートが終わると発明コンテストの授賞式で、舞台袖にはすでに候補作品が並べられてあった。
 それを思い出した僕は、桃李さんに言った。
「この爆弾、とりあえず食塩水にでも漬けて、作動しないようにしないといけません。桃李さん、このワイヤーの張られた向こう側の足場に行って、食塩水を運んでいただけますでしょうか」
「素っ裸のガキのくせに、おれに命令しようってのか、おい」と、桃李さんはすごんでみせたけど、いつ爆弾が爆発するか分からない不安と恐怖でいっぱいなのだろうか、肩を小刻みに揺らしていた。
「お願いです、桃李さんしか、できないです。じつは・・・・・・」「ばかやろ」いきなり遮られてしまった。「チンチン立たせたままのくせに生意気抜かすな。悔しかったらチンチン縮めて、パンティー一枚でも穿いてみろってんだ。だいたい食塩水なんて、どこにあるんだよ。お前の学校の理科の実験室じゃねえんだぞ、ここは」
「いや、それがあるんですよ」
 爆弾を前にして混乱し、多弁になっている桃李さんを前にして、僕は努めて冷静に説明を試みた。

 発明コンテストの出品物の中に、食塩水を自動で生成する機械があった。差し込み口に水を入れると、蛇口から食塩水が出てくるという、あのマジックショー本番前の仕切り内で木原マリさんが説明してくれた円筒形の物体だ。近くにはホースもあった。そんなに長くないホースだけど、向かいの足場くらいまでは届く。
「向かい側の足場に食塩水があっても仕方ないだろ。爆弾があるのは、こっち側なのに。それともなんだよ、爆弾をバケツごと向こうまで運ぼうってのか?」
「いや」僕は、依然としてコチコチのおちんちんの前を手で覆いながら、首をぶんぶん横に振った。「とんでもないです、それは危険すぎる」
「それじゃ、食塩水をどうやってここまで運ぶつもりなの?」
 放心状態になった桃李さんに代わって、板倉さんが僕に訊ねた。
「そ、それは」
 本当はすごくいやだったけれど、緊急事態だし、大勢の命がかかっているから、わがままを言っている場合ではなかった。ほかに手が思い浮かばないし、最善手はこれしかないと思ったので、僕はまなじりを決して言った。
「ワイヤーを使って僕が運びます」

 それってどういうこと・・・・・・。
 みなの顔に同じ疑問が浮かんだようだった。無言の空気が僕に説明を求めた。

 ステージでは振り袖を来た民謡歌手がこの土地に伝わるじょんがら節の哀切な旋律を細い喉から響かせていた。
 ふたたび五本のワイヤーに乗って向かい側まで移動する仕儀になって、板倉さん、ミョー子さん、ハツミさんの熟女三人トリオは、素っ裸の僕の体にバターを塗り直した。
「オリーブオイルはもう残りが少なくて、わけてくれなかったわ。悪いけど、バターだけで我慢してね。バターなら近くに知り合いがカップケーキの屋台を出してて、そこから融通してもらえるのよ」
 板倉さんが申し訳なさそうに詫びた。詫びるも何もない。バターで十分だった。
「ちゃんとバター代は後で請求してもらうけど、この費用は門松事務所で負担します。ナオス君はビタ一文払わなくてよいです。安心した? 私たち、優しいと思わない?」
 ハツミさんは真顔だった。冗談を言っている感じではない。
「聞いてる? ナオスくんはバター代、払わなくていいって言ってるのよ。よかったじゃない、あなたの周りは親切な人ばかりで」
「ありがとうございます」
 僕は深々と頭を下げた。

 バターを塗るのはワイヤーに乗せた体を滑りやすくするためだから我慢してこれを受け入れるしかないのだけど、ミョー子さんが面白がって、必要のない部分、背中やお尻、お尻の穴の皺ひとつひとつ、首の後ろ、耳の裏側にまでバター塗れの手を滑り込ませるのには閉口だった。
 ミョー子さんに触発されて、ハツミさんまでもが、とりたてて必要のない頬、目元、おでこにまでバターを塗りたくる。
「やめて、そこはいいです」
 こう言って体を捻らせても、「いいから、じっとしてなさい」と叱責され、両腕を水平に伸ばし、足を開いた姿勢の維持を強要されるのだった。おちんちんの根元には細い紐が括り付けられたままだった。

 注射された効果のいまだに衰えないおちんちんには、特に念入りにバターを塗られた。「勃起してると塗りやすくていいわね」と板倉さんは言い、握りしめたまま、前後に動かし、丁寧にバターを塗り込んでいく。
 まずい、気持ちいい。アウ、ウウウ・・・・・・。紐を垂らした袋も揉まれ、つい喘いでしまう。ハツミさんが怖い顔をして僕を睨みつけた。
 しまった、と思った。あの爆音全開のバンド演奏は終わって、今は民謡の真っ最中。マイクを使っているからそれなりの音量だけど、それでもロックバンドのそれと比べたら、遠くの夕焼け空を渡るカラスの鳴き声にも等しい。そんなものだから、うっかり喘いでしまうと、近くにいる人にはしっかり聞こえてしまうのだった。

 ハツミさんの機嫌の損じっぷりときたら、それはもう、恐ろしかった。
「あなたね、感じてる場合じゃないのよ。自分の任務、分かってる? 爆弾の処理よ。責任重大なのよ。何よ、女の子みたいな声出して。緊張が足りないんじゃないの?」
 ヒギィィ。おちんちんの袋を握りしめられてしまった。痛い。悲鳴を上げて、「ごめんなさい、許して」と叫ぶ。
「もう許してあげて」
 板倉さんが止めてくれて、ようやくハツミさんは握力を緩めてくれた。

 全身バターまみれになって梯子を登り、ワイヤーの前に来た。

 三人の熟年女性に見送られて、僕はワイヤーに乗せた体を滑らせた。ワイヤーにはさきほど通過した際のオリーブオイルが残っていたし、僕の体にもバターが塗り直されたから、比較的スムーズに進むことができた。
 復路はおちんちんに括った細紐で引っ張ってもらえるけど、最初の往路だけはワイヤーを掴んで自力で進まなければならなかった。
 バンド演奏と違って民謡なので、ワイヤーに伝わる振動はさほどでもないのはありがたいと思ったけど、それは最初だけだった。三味線の前奏が終わって振り袖姿の恰幅のよい女性歌手が発声を始めると、なんと、またビリビリとワイヤーに淫靡な振動が走ったのである。
 ちょうど中間地点を過ぎたところだった。僕の真下で民謡歌手が変に高い声を出して、息長く震わせた。歌唱の技法なのだろうか、歌手としては腕の見せ所であり、聴く人をして酔わしめる見事な歌声なのだろうけれど、頭上のワイヤーは、バンド演奏の時にも増してうねり、肉眼では見えない小さな波を次々と送ってきて、素っ裸の僕を悩ませた。
 音量はバンド演奏よりも遥かに小さいのに、声の震わせ方が特殊であるため、ワイヤーに伝わる振動の淫靡さは、バンド以上なのだった。
 ヒィッ、乳首から下腹部にかけて、びりびりと振動が走る。ワイヤーとワイヤーの隙間にぴったり挟まったおちんちんは性的快感に悶えるように、ひくひくと動く。

 もしも精液を垂らしてしまったら、ステージで熱唱する歌手の頭髪に落ちて、気づかれてしまう。彼女は直ちに見上げるだろう。そうなったら隠れようがない。民謡コンサートは中断され、幕が最後まで引き上げられ、ワイヤーに乗った僕はまたもや観客に素っ裸の身を晒す羽目に陥るだろう。しかもかなり珍奇な場所で。
 だから絶対に精液を垂らしてはならず、声を押し殺さなければならなかった。おちんちんに手を当て、精液でぬるぬるする亀頭を指先でぬぐう。

 服を着ていたら、あるいは最初の僕の考えどおりタオルを敷いてワイヤーを移動できたら、これほど性的な刺激に煩わされずに済んだのに、と思う。
 剥き出しの肌に押し寄せる快感振動の波に耐えながら、桃李さんの待つ反対側の足場にようやく近づいてきた。桃李さんが手を伸ばす。
「ずいぶんと時間がかかったな」
 そう言って桃李さんは掴んだ僕の手をぐっと引き寄せた。すでに洗面器に食塩水を満たして待っていた。
 舞台袖の端にあった食塩水自動生成機にホースをつないで、梯子上の足場までポンプで食塩水を汲み上げたのだった。
 ホースの長さを考えると、爆弾のある側まではとても届かず、桃李さんのいる反対側の足場まで汲み上げるのがせいぜいだ。そこでワイヤー伝いに食塩水を運ぶほうが、ゴタゴタした舞台裏を通るよりも確実に早く食塩水を運べると判断したのだった。
 爆弾処理という、この可及的速やかな対応が求められる事態において、僕が自ら一糸まとわぬ体を使って運搬の役を担うしかないと思ったのだ。
「お願いします」と僕は桃李さんに頼んだ。

 桃李さんは僕の背中、尾てい骨の上あたりに食塩水の入った洗面器を慎重に置くと、足元に置いてあった物を手に取って、僕に見せた。
「これ、なんだと思う?」
「く、首輪ですか」それは紛れもなく首輪、革製の赤い首輪だった。
「大正解。大型犬用の首輪」
 ワイヤーの上で身動きできない僕の首に手早く首輪を装着する桃李さん。首輪には紐がつながっていた。「次にこっちに来るときは、この縄で引っ張ってやるからな。お前、楽だぞ」と言うと、桃李さんは片手を上げ、向こう側、爆弾のある側の板倉さんたちに合図を送った。

 おちんちんの根元が紐で引っ張られ、洗面器を乗せた僕のバターまみれの裸身が後ろ向きでワイヤーを滑っていく。ステージでは民謡歌手がまたもや技巧のかぎりを尽くして音階のごく狭い範囲をとてつもない速度で上がったり下がったりしていた。マイクで増幅された声がワイヤーを波打たせ、ワイヤーで運ばれる僕の体を刺激してやまない。
「おかえりなさい。やっぱり紐で引っ張ると速いわね」
 板倉さんはそう言って洗面器を取り、食塩水を爆弾の入ったバケツに注いだ。そのあいだ、僕は振動するワイヤーの上で腹這いのまま待機している。空になったバケツを再び僕の背中に戻すと、向こうの桃李さんに大きく手を振った。
「行ってらっしゃい」
 ミョー子さんの明るい声に送られて、僕の裸身は二回目の運搬に向かった。首輪につないだ紐を桃李さんが勢いよく引き、自力で進むおよそ三倍の速度でワイヤーを滑っていく。全身にバターを塗られ、ワイヤーもバターまみれなので、摩擦による痛みはほとんど感じなかったものの、民謡歌手の独特なビブラートによる振動が乳首から下腹部、太股、脹ら脛、そしておちんちんに伝わってきて、高まる性的刺激を抑えるのに渾身の力を振り絞らなければならなかった。
 ウウ、ワイヤーの振動が気持ちよすぎる。おちんちんを挟む左右の二本のワイヤーが唸りながら間隔を狭めてゆく。切ない・・・・・・。

 顔を上げると、手早く細縄を手繰り寄せる桃李さんのところへ、ものすごいスピードで接近していた。このままではワイヤーを超えて壁に激突しかねない。
 あ、危ない。
 目をつむるよりほかはなすすべもなかった僕のおでこを桃李さんは片手で受け止めた。僕の口から涎が垂れているのを指摘して笑う。
 ステージの民謡歌手は次々と声の技巧を披露し、ワイヤーを波立たせてやまず、僕を異様な振動責めから解放してくれない。とりあえず一度、ワイヤーから身を起こしたかったけれど、桃李さんがそれを許してくれなかった。
「お願い、少しだけでもいいから、休ませて・・・・・・」息も絶え絶えになってお願いすると、
「何甘えたこと抜かしてんだ。一分一秒でも早く運ばなくちゃならねえんだよ。お前が自分で運ぶって言ったんだろ。責任もてよ」と、正論をぶちまけられた。

 おちんちんの根元に括られた細紐がせっせと引っ張られる。今度は板倉さんたちの側に引き戻されるのだった。アウウ、ウウ。直下のステージの人たちに聞こえてしまうかもしれないのに、僕は臆面もなく喘いでいた。実際、声にして体内から放出しないと、こらえられないほどの快感の量だった。
 いや、やめて、ウウ・・・・・・。断続的に喜悦の声を漏らす僕の裸身は、背中に食塩水の入った洗面器を乗せたまま、後ろ向きにワイヤーを滑っていった。
 強い性的な刺激を受けながら射精しないように歯を食いしばり、同時に背中の洗面器を落とさないように汗を噴きながら同じ姿を保ちつつ、ワイヤーの上を行き来する。
 行きは首輪につないだ紐を引っ張られ、戻りはおちんちんの根元に括った紐を引っ張られる。この、いつまでも続く生殺しの責め苦は僕の頭をじんじんと痺れさせ、考える力を奪った。

 僕の全身の肌に塗られたバターは湧き出る汗と混じり合った。
 結局、それから六往復、食塩水を運搬する目的で僕はワイヤー上を六往復もさせられたのだった。ステージ上では、僕が往復するたびになぜか民謡歌手がひとりずつ増えた。いつのまにか六人にもふくれあがった民謡歌手は全員が揃ってマイクを握り、ワイヤーを振動させてやまないじょんがら節の饗宴を繰り広げた。
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4 コメント

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Unknown (M.B.O)
2024-12-11 01:04:35
犯行グループが関西弁なのが、ナオス君の住んでる街から遠い場所に住んでるのでしょうか?
Y美の大食漢ぷりも恐ろしいですね…だからあんなに体が大きいんですね!
返信する
Unknown (Gio)
2024-12-11 11:51:50
更新お疲れ様です。
ワイヤーと音響で感じるシーン凄かったです。特にチン輪で滑りながら引っ張られる場面は無様で最高でした。ワイヤーで官能する描写は初めて見ました。思い出したくないことなどの見所の一つは、裸という非日常な状態のナオス君が、日常のありふれた物で責められたり感じたりすることでその場面が想像しやすくて臨場感が増すところだと個人的に思ってます。
ナオス君は全裸探偵として有名になってますね。裸で名推理を見せる滑稽さが良いです。
隣町の別エピソードのKindleも楽しみに待ってます。
某リニア問題を思い起こす門松氏の援助でナオス君親子の窮状が解決出来れば良いですが、要求への対応見るに解決できてもナオスは引き続き裸生活を強いられそうです。
返信する
Unknown (Unknown)
2024-12-11 20:20:08
可愛い裸の男の子の精子が
上から 降ってきて顔や頭にかかるなんて、
天国以外のなんでもないわ
返信する
いつもありがとうございます (naosu)
2024-12-13 00:36:35
M.B.O様
関西弁、僕は冗談を言うときはなぜか関西弁になります。生粋の方によると、似非だって一発でわかるみたいです。あかんな(笑)

Gio様
あたたかい励ましのお言葉、心より感謝です。
リニア問題、やっぱり思い出しますよね。政治的な話題はさけたいと思っていたのですが。

Unknown様
そういっていただけるとナオスも大喜びでございます。
返信する

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