司会者による紹介が終わり、鷺丸君が舞台に登場したことを示す盛大な拍手が聞こえた。 いよいよマジックショーの開始だ。
僕は狭いボックスの中で身構えた。おちんちんは大きくならないとのことだけど、注射を打たれたせいか、なんとなく熱を帯びている。
今回の夏祭りで中学生マジシャン、鷺丸君が披露するのは、衣類を一瞬にして消したり出したりする手品だった。鷺丸君考案によるオリジナルの演目だ。
まず鷺丸君が左手で示すと、舞台上手からスクール水着姿のメライちゃんが登場する。
小さなサイズのスクール水着で、明らかにメライちゃんの体格に合っていない。Y美の仕業だ。Y美は自分のを使用したいというメライちゃんの希望を退け、「これを着ること、いいよね」の一言のもと、自分が小学五年生の時に着ていたスクール水着を差し出したのだった。
これはさすがに僕と同じ背丈のメライちゃんでも窮屈のようで、ピチピチした肉体が際立つような格好になる。
鷺丸君が合図を送ると、メライちゃんは舞台中央に据えられた回転扉に向かって小走りで進んでくる。回転扉を抜けると、一瞬にしてスクール水着が消えて、素っ裸になる。スクール水着を着ていたのが女の子ではなく、男の子だったというオチ付きだ。
もう一度、素っ裸になってしまった人物が今度は舞台下手から回転扉を抜けると、スクール水着を着ている。きつきつのスクール水着を一瞬にして着たことになる。
これを何度か、鷺丸君の合図で繰り返すという趣向だった。
シンプルな仕掛けのマジックで、じつは回転扉には隠し部屋がある。観衆からは気づきにくい視覚的な工夫の施された縦型のボックスで、メライちゃんや僕サイズの人間がひとり立って入れるほどの狭くて暗い部屋だ。回転扉を通り抜けたと見せて、メライちゃんと僕が入れ替わる。つまり、メライちゃんと僕でひとりの人物を演じ分けているのだった。水着のときはメライちゃん、素っ裸のときは僕が演じる。
このように種明かしをすると、他愛もないように思ってしまうけれど、スピーディに、かつ入れ替わりのタイミングをばっちり合わせておこなえば、水着の消えたり現れたりするのが本当にひとりの人間の体に起こっている現象に見える。いや、そうとしか見えなくなってくる。練習を見学してきたY美や鷺丸君のお姉さんがこれまで何度もそう証言してきたのだから、間違いないだろう。
これもふたりの背丈がほとんど同じ、あっても二ミリ以下の差異しかないことと、顔の形、体型が酷似しているからこそだった。本番の前日、僕は鷺丸君のお姉さんが手配した美容師さんに全裸のままコーディネートしてもらい、メライちゃんそっくりのショートボブの髪型にさせられた。
髪型までも同じになったメライちゃんと僕は、並んで立たされた。そっくりね、と鷺丸君のお姉さんが感心した。鷺丸君も満足そうだった。
暗い箱の中で、僕は構えていた。まもなくメライちゃんが回転扉を回してこのボックスに入り込んでくる。おちんちんの皮を、またもや無意識のうちにめくってしまった皮を引っ張って被せておく。
これはY美の言いつけだった。僕は素っ裸のまま人前に出される時、本能的におちんちんを手で隠すけれども、手をどかしておちんちんを見せるように強要されると、皮被りのおちんちんを笑われたくない気持ちから、手を離す直前に皮をそっと剥いてしまう。数々の恥辱の経験から身についた悲しい習性で、Y美にはよくからかわれたものだけど、このマジックショーの舞台ではこれを禁止されたのだった。皮を剥かないで、そのままの皮被りのおちんちんを見せること、これがY美の厳命だった。背いたら、どんな責め苦が待っているか、知れたものではない。
今頃、Y美は包帯を体のあちこちに巻いたまま、テレビの前で素っ裸の僕が回転扉から出てくるのを待っていることだろう。
耳を澄ます。
メライちゃんが小走りで向かってくる。裸足独特の足音。
回転扉が動いて、僕は飛び出した。眩しい。練習の時とは比較にならない明るさ。ステージの上に棒が通してあって、団子のように並ぶ大きな丸い照明。これは本番なのだ。
僕の中でスイッチが入った。
ワッと観客全体のどよめきが波動になって、僕の何もかも丸出しの肌にどっと押し寄せてきた。
突然水着が消えたことに初めて気づいたように大げさに驚いて、慌てておちんちんを隠す。何度も練習して体に覚え込ませた一連の仕草だ。
マジックの練習で鷺丸君から繰り返し注意されたのは、回転扉から出てきた時にすでに恥ずかしがっておちんちんを隠していたりしてはだめだということだった。練習を始めてまもない頃は、どうしても全裸で舞台に出ることをためらう気持ちが去らず、ついなよなよした、恥ずかしがる仕草をしてしまい、何度も駄目出しされた。鷺丸君のお姉さんには「あなたね、まじめにやりなさいよ」と激しく叱責された。自分では堂々としたつもりであっても、鷺丸君や鷺丸君のお姉さんによると、まだどこかに羞恥心の名残があるようだった。
まあ、確かに回転扉を抜けると水着が消えるなんて、そんなことは夢にも思っていないのだから、水着を着ているつもりで出てこなくてはならない。
観衆の反応で初めて素っ裸を晒していることに気づくというリアクション。鷺丸君が僕に求めたのは、これだった。そして、驚いて慌てておちんちんを隠して恥ずかしがるという僕の動きを通して、観衆はもうひとつの事実に気づくことになる。
女子用のスクール水着を着ていた人物は、じつは男子だった。
水着が消えて素っ裸になる、というハプニングだけでもじゅうぶんに観衆の笑いを誘うだろう。ところが、このマジックショーに出演させられる僕の悪夢はそれにとどまらなかった。女子用のスクール水着を男子が着ていた、という事実を明るみに出すことで、さらに大きな笑いを引き起こそうというのだから、鷺丸君にこのアイデアを取り入れるように勧めた、というか強要したY美の意地の悪さは、底知れない。
僕が男子であるということを観衆に示す必要上、どうしてもおちんちんを晒す必要があるのだった。僕がある時から非常に練習熱心になったのは、このとてつもなく羞恥を呼び起こす演技に早く慣れようとしてのことだった。
回転扉から飛び出した僕は、スクール水着をまとっているつもりで観衆のほうを向く。叩き込まれた演技指導によって一応ざっと観客席を見渡す素振りをするのだけど、恥ずかしさを抑えるのが精一杯で、しっかり目を向けているつもりでも、何を見ているのか、自分でもさっぱり分からない。おそらく二千を超える観客がひしめいて、たくさんの同級生や知り合いもいるのだろう。中央に据えられてあるのはテレビカメラだろうか。
観衆のどよめきを受けて、僕は首を曲げて、自分の体、お腹から下を見る。
あ、水着が消えている、な、なんで・・・・・・。びっくり仰天、慌てておちんちんを隠し、腰を引く。
水着がどこかに落ちてないか、探しながら舞台をあちこちうろつく。観客席から小さな笑い声が絶えず聞こえてくる。
緊張していると、目は見ている物をうまく認識できなくなる。でも僕の場合、耳はしっかり聞こえて、気づくのだった。ああ、今、僕は全裸で舞台上をうろついていて、その惨めな姿を笑われている。
マジシャン、鷺丸君が寄ってきて、パントマイムで僕に「どうしたのか?」と訊ねる。僕はやはりパントマイムで水着がいきなり消えたことを訴える。
タキシード姿の鷺丸君は腕を組み、うんうんと頷き、困ったことだね、という顔をして僕を見て、おもむろに回転扉を指し示す。
信じられない、そんなバカな、と疑う仕草をする。すると、それを受けて鷺丸君が「まあ、とにかくやってみなさい」と告げるかのように、白い手袋を嵌めた手で僕の裸の肩をポンポンと叩く。
これに続く僕の演技は次のとおりだ。半信半疑のまま、とりあえず言われたとおり、今度は下手から回転扉へ小走りに向かう。
練習の初期の段階では、この時の僕はおちんちんを隠すことが許された。ところが、何度か練習に立ち会ったY美がある時、鷺丸君に欠点を指摘した。おちんちんを隠したまま回転扉に向かうと、出てくるメライちゃんの動きと整合性がとれなくなるという。「なるほど、言われてみると、確かにそうね」と鷺丸君のお姉さんも同意した。
そこで走り方をメライちゃんと僕で揃えることになった。下げた両腕をまっすぐ伸ばし、手首を外側に反らして、スキップするように進む走り方を鷺丸君が採用した。「この走り方、どこかペンギンに似てるだろ。ペンギン走りって言うんだよ」
ペンギン走りでもダチョウ走りでもなんでもいいけど、僕にとって一番の問題はおちんちんを隠せなくなることだった。でも、Y美は僕に反対する権限を認めない。何か意見を言おうとしても、「お前はただ言われたとおりに動けばいいの」と封じられるだけ。
もう練習の段階からやけっぱちの気持ちだった。笑いたければ笑えばいい。練習中、僕は指示どおりにペンギン走りをして、無毛皮被りのおちんちんをプルプル震わせながら、何度もスキップを繰り返した。
そして、いよいよ迎えたこの本番だ。
最初に回転扉から出てきた時は、ペンギン走りして、おちんちんを丸出しにしている。でも、ひとたび手というシェルターの中におちんちんを入れ、人々の数知れない視線、有害な視線からこれを守ると、もう、おちんちんは視線にたいする免疫力が一気に低下し、次に露わにすることに非常な抵抗を覚えるのだった。
練習の時からそうだったけど、本番でもその感覚は変わらなかった。動きを体が覚えている。意識を下手に介入させず、体の動きだけで乗り切るしかない。手を離す際はいつもの癖でこっそり皮を剥かないように、そこだけは意識しておこう。
ペンギン走りで回転扉に向かって進む。スキップすると、ぷるんぷるんとおちんちんが揺れる。女の人も男の人も大喜びだった。キャーキャー騒ぐ声の渦に呑まれそうになる。
回転扉を押して、隠し部屋に入った。入れ替わりにメライちゃんが出てくる。すると、僕の時とはちょっと違った種類の笑いが起こった。何かもっと大らかな笑い。攻撃性のない、開けっぴろげな笑い。
ボックスの中にいてステージを見られない僕にも、何が笑いを引き起こしているのかはすんなり分かる。メライちゃんの股間、水着に浮き出た粘土細工の疑似おちんちんだ。計算どおりに笑いが起きてよかったと思う。
一度目の登場では観客が気づかないようにしていたけど、二回目以降はしかと見せる演出だった。女児用の水着を瞬時にして身に着けたのが男児であることを明かすためだ。さきほど観衆の目に焼き付いたおちんちんが今はスクール水着に包まれている、と思わせないといけない。
回転扉を抜けると水着が消える、それならば、とメライちゃんは舞台袖から手渡された大きめのチロリアンハットを被り、さらに黒のサングラスをかけて目元を覆う。これなら水着が消えたとしても、顔を隠しているので、恥ずかしさは軽減するだろう。メライちゃんは大きく息をついてから、再び回転扉に向かう。
タッタッタッ、という裸足の足音が近づいてくる。
回転扉が回って、入れ替わりに僕が舞台に出てくる。ペンギン走りで左に曲がり、舞台中央まで行き、胸元や頭、目元に手をやって、水着やチロリアンハット、サングラスが消えたことに気づき、慌てておちんちんを隠して恥ずかしがる演技をする。
この恥ずかしがる部分については特に演技する必要がないほどの羞恥で体が火照っていたけれど、それでも僕はあえて大げさな身振りをして演技であることを強調した。地のままで恥ずかしがっていたら、もうかぎりなく自分が惨めに思えてきて、舞台上でぺしゃんこになってしまいそうだったから、メライちゃんと僕で演じる同一人物のキャラクターに徹したのだった。
観衆の笑いさざめくなか、マジシャン鷺丸君が困ったような顔をして、首を傾げながら、「困るじゃないか、こんなところで裸になって」とパントマイムで僕を非難する。
「全然分からない、いったいどうなってるの? あの回転扉を抜けたら、水着も、それどころか帽子もサングラスも一瞬にして消えちゃったんだ」
僕はパントマイムでだいたいこのような弁解をする。厳しく指導され、練習をたくさんこなしたおかげで、不思議なくらい体はよく覚えていて、自然に動いた。
マジシャン鷺丸君に背中を軽く叩かれ、僕はもう一度、自分が出てきた方向から回転扉を抜ける。するとスクール水着姿のメライちゃんが出てくるのだけど、チロリアンハットとサングラスはなくなったままだ。
衣類が消える回転扉をメライちゃんはパントマイムで不思議がる。疑似おちんちんを水着越しに見せつけながら、メライちゃんは舞台袖から渡されたレインコートを羽織る。さらに運動靴まで履く。これだけ装備をすれば、回転扉を抜けてもそう簡単には裸にはならないだろう、と望みをかけて、もう一度回転扉に向かう。
ところが、結果は同じだった。回転扉を抜けると、レインコートや運動靴はもちろん、水着まできれいさっぱり消えて、素っ裸になってしまう。
僕は大仰に恥ずかしながら、マジシャン鷺丸君に「あの回転扉は、どうなってるんだ」と問い詰めるパントマイムをする。鷺丸君は鷹揚に笑って、「まあ、もう一度通り抜けてごらんよ。元通りになるから」と仕草で伝える。促されて僕はもう一度、回転扉を出てきたほうから向かう。
スクール水着だけをまとったメライちゃんが出てくる。レインコートと運動靴は戻ってこない。水着だけが残るようだ。舞台袖からまたもや衣装が差し出されて、観衆の笑いを誘った。なんとスクール水着の上にズボン、シャツを羽織って、長靴に素足を入れる。さらにバスローブも重ねて着て、前をしっかり結ぶ。
鷺丸君が「これなら絶対に裸にはならないだろうね」と太鼓判を押してメライちゃんを送り出す。ペンギン走りをして回転扉に向かうメライちゃん。
ところが、回転扉を抜けると、すっかり衣類が消えている。長靴すら消えて一糸まとわぬ素っ裸になっているので、慌てふためきながら鷺丸君に抗議のパントマイムをする。
さて、ここからがいよいよクライマックスだ。僕は次には舞台上手から回転扉に向かう。つまりメライちゃんと同じ方向から回転扉に向かう。舞台下手側の回転扉からスクール水着姿のメライちゃんが出てくる。今度は間を置かずにそのまま舞台上手へ走って、回転扉へ走ってゆく。今度は素っ裸の僕が出てきて、さっきのメライちゃんと同じコースで舞台上手に行き、回転扉へ向かう。
メライちゃんと僕がコマネズミのように回転扉から出てきては入るを繰り返し、リアクションをしながらぐるぐる回る。
僕は素っ裸になってしまったのを恥ずかしがる。メライちゃんは水着を戻ってきたことを安心する。そして、段々速度を上げて、そのまま終わりという流れになる。
最後はスクール水着のメライちゃんが出てきて終わりという段取りだ。
鷺丸君が「次、ラスト」と告げるサインを出した。僕は回転扉の中の隠し部屋に入って、大きく息をついた。これで僕の役目は終わった。この後は鷺丸君とスクール水着姿のメライちゃんが挨拶をして、マジックショーは終了になる。
と、そのはずだったのに、隠し部屋の覗き窓を見た僕は仰天した。なんと、メライちゃんがもう一度こちらに向かってペンギン走りをしてきた。
なんなの、今のが最後じゃなかったの? もう一度出るの?
仕方がないな、もう。
サインとは異なる動きをされて、僕は戸惑いながら、臨機応変に対応するべく、回転扉から飛び出した。もう終わりと思っていたところで、再度一糸まとわぬ身を晒すのだから、精神的な負担は大きい。
出てしまった以上は、もう一度回転扉に入らなければならない。ぐるぐると回転扉をくぐり抜ける回数を、その場の状況に応じて変更するのは想定内だった。だから鷺丸君が出すサインは見逃さないようにする必要があった。たぶん回数を一回分増やしたのだろう。しかし回数を変更することはあっても、最後はメライちゃんで締める決まりは変更がないものと思っていた。
ところが舞台上手から回転扉に向かおうとする僕の手首を鷺丸君が掴んだのである。これは「もうおしまい」の合図だった。
は、話がちがう・・・・・・。
素っ裸の僕は隠し部屋に隠れて、そのまま倉庫に運ばれ、そこに用意されているはずの衣装を身に着ける手筈だった。それで終わりのはずだった。このままでは全裸のまま野外ステージに残って鷺丸君と並んで観衆に挨拶することになる。
もう裸を晒すのはいやだった。早く隠し部屋に隠れたいのに、鷺丸君は当惑する僕に冷然と「終わり」のサインを出す。
舞台袖からも早く終了してほしい旨の合図があって、やむなく想定外の形で終了することになったようだ。
メライちゃんは隠し部屋の中でホッと息をついているかもしれない。問題は僕だ。素っ裸のまま舞台に取り残されて、いったいどうやって倉庫に戻ればいいのだろう。
予想外のハプニングに呆然とする僕の左手を鷺丸君ががっしりと握った。舞台中央に出て、タキシード姿で白い手袋を嵌めた鷺丸君と素っ裸の僕が並んで、観衆に深々とお辞儀をする。今さらながら、恥ずかしい。本来、鷺丸君と手をつないでお辞儀をするのは、スクール水着を着たメライちゃんの役目だったのに。
無数のカメラのフラッシュを浴びながら、舞台下手にさがったところで、僕は正面から人にぶつかってしまった。
なんとS子だった。うさぎがデザインされたピンク色の浴衣の袖を大きく捲り、腕組みをして僕を睨みつけている。たった今、大舞台を無事にやり遂げたばかりだというのに、なんのねぎらいもなく、ただ怒りをぶつけてくる表情だ。僕は思わずたじろいだ。それにしても、なぜS子がここにいるのだろう。
「あんた、勝手な真似してくれたね」
「な、なんのことですか?」
「注射、打たなかったでしょ」
「注射?」
「これだよ、嘘つき」
S子は僕に注射器を見せた。エンコが持ってきた注射器だった。端に赤いシールが貼ってあった。僕が打たれたのは黄色いシールのダミーのほうだった。
赤いシールの注射器には、海綿体の血管を拡張させて性的な刺激とは関係なくおちんちんを大きくさせる薬剤が入っている。
僕の表情が恐怖で強張ったのをS子は見逃さなかった。ニッと口角を上げると、近くにいるミューに注射器を渡した。ミューも浴衣姿だった。こちらはあじさいの花を散らした柄だ。上目遣いでちらとS子を見て、恐る恐る伸ばした手でそれを受け取った。
逃げようとしたけど、後ろから頭髪を掴まれてしまった。痛い。Y美よりも上背のあるS子は僕をあっという間に羽交い締めにした。
「ミュー、とっとと打ちな」と、S子が命じる。
浮かない顔のミューがためらいがちに僕の前に腰を落とした。腕ばかりか足まで押さえ込まれているので、腰を左右に振るくらいしかできない。おちんちんもおちんちんの袋も、隠しようがない。
「ぐずぐずしないで。チンチンの根元近くにブスッと刺せばいいんだよ。ほら、早くチンチンを持てよ」
明らかにミューは乗り気ではなかった。そんなミューをS子は強い口調で叱咤する。ミューは浴衣の胸元を締め直した。冷たい手がおちんちんを取って、不器用に指で挟んだ。
Y美の仲良しグループのひとりとしてミューは、素っ裸の僕を性的に嬲る場にしばしば居合わせた。ミューには過去に何度もおちんちんを扱かれたし、おちんちんの袋の中の玉を掴まれた。お尻の穴を広げられ、何か異物を挿入されたこともある。
でも、おおよそのところ、ミューは僕を積極的には責めなかったように思う。
ただし例外もあって、スカートの中を偶然見てしまった時は、さすがのミューも激怒した。Y美たちに足首を握られ、逆さ吊りに裸身を揺すられた折のアクシデントだった。誰も僕がフリル付きの白いパンツを覗いてしまったことに気づかなかったのに、おちんちんがピンと硬くなってしまったせいでバレたのだった。下着を見られた悔しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたミューは半べそをかきながら、Y美やS子をしてただの傍観者にさせるほど全裸の僕を打擲した。
ミューに直接体を痛めつけられた記憶は、それくらいだ。最初のうちこそY美たちと一緒に楽しんでいる風だったけれど、いつからか僕へのいじめに加担するのを拒む姿勢を見せ始めた。さすがに罪悪感が募って、Y美の理不尽な命令に従わされる僕を憐れむようになったらしい。
僕のいじめに反対、あるいは非難する態度を示したことで、ミューはY美やS子にしばかれたのかもしれない。
「ごめんね、ナオスくん」と、ミューは小さな声で詫びて、摘まんだおちんちんを軽く引っ張りながら、上げた。ケンカで負傷したY美に頼まれてS子は夏祭りに来た。そしてY美に代わってS子がミューに僕を辱める行為の手伝いをさせるのだった。
ミューの潤んだ瞳が僕を見つめる。いつか学校の廊下ですれ違った時も、こんな目を僕に向けたことがあった。その前日、僕はY美の家で唯一身に着けるのを許されていた白ブリーフのパンツを脱がされ、ミューたちの前でオナニーを強要されたのだった。
「やめて、お願いだからやめて・・・・・・」
羽交い締めされた体を揺さぶりながら訴える僕に、ミューはもう一度、「ほんとにごめん」と謝った。そして注射器の針をおちんちんに刺した。
「最後までピストン押すんだよ」と、僕の頭上でS子が言った。
ヒィイ、いやだ、やめて。薬がおちんちんに注入されていく。これは食塩水ではない。今度こそ本物の薬剤だ。羽交い締めが解かれると、僕はがっくりとして膝を落とした。
「お前さ、エンコに自分で注射するって言って、ほんとは打たなかったろ。勃起しなけりゃすぐ嘘だってバレるのに、なんで見え透いた嘘をつくかな」
そう言うとS子は、うずくまる全裸の僕のお尻を蹴り上げた。ヒギッ。一メートルほど飛んで、板張りにうつ伏せに倒れる。自分で注射するなんて僕は言った覚えはないのに。
勃起してしまう、このままでは勃起してしまう、だが、落ち着け、マジックショーは終わったのだ・・・・・・。僕は自分にこう言い聞かせた。注射されてしまったけど、最悪の事態は回避できた。少なくともステージ上で勃起を晒す事態にはならない。そう考えてなんとか自らを慰める。
野外ステージでは鷺丸君が司会の人とトーク中だった。鷺丸君はさすがに舞台慣れしている。軽妙な返しに観客が唸っている。
ともあれ服を、もう裸でいる理由はないのだから、何か着る物を、せめて裸体を覆う物はないかと周囲を探す。もしも台本どおりに回転扉の隠し部屋に入った時点で僕の出番が終わっていたら、そのまま倉庫まで運ばれて、そこで用意された衣類を身にまとうことができたのに、舞台袖ではそれも叶わない。あたりをきょろきょろ探していると、衣紋掛けにバスローブがあった。さっそく手に取ろうとすると、
「何してんだ、おめえは」
強い口調で咎められた。振り向くと、長髪長身の男の人が僕を睨んでいた。スタッフであることを示すシャツと紺色のズボンを身に着けているが、どちらも裾が短く、つんつるてんだった。これも一種のファッションだろうか。お臍を露出している点では全裸の僕と同じだ。男の体から、ふと硝煙の匂いがした。僕はおちんちんを隠したまま、「何か着る物がないかと思って」と、当然理解してもらえるはずの自分の行為を説明する。ところが、男の人は冷淡だった。
「それはだめだ、勝手なことするな」
「分かりました。ごめんなさい。あの、何か着る物はありますか」
「んなの、用意しなかったお前の手落ちじゃねえか。知らねえよ」
怖い目で睨まれ、僕は竦んでしまった。ステージの残っている鷺丸君が戻るのを待つしかないようだった。隅っこで目立たないように壁を向き、膝を抱えて座る。
僕の肩を叩く者があった。鷺丸君だった。
「司会者がお前を呼んでる。お前からも話を聞きたいんだって。俺と一緒にもう一度ステージに出てくれ」
「いや、僕はもういいよ。出たくない」
「そんなこと言うな。熱烈なカーテンコールなんだぞ。無視するのかよ」
「いやだったら。う、痛い、腕を放して。・・・・・・分かったよ。出る。出るから、何か着る物をお願い。バスローブか何か」
「ねえよ、そんなもん」
「じゃ、タオルでもいいから。ね、せめて腰の周りだけでも、お願い・・・・・・」
もう見世物になるのはいやだった。さんざん一糸まとわぬ体を晒してきたのだから、これ以上ステージに立ちたくなかった。
「うるせえな。お前、最初から素っ裸だったじゃねえか。そのまま素っ裸で行けよ。みんな、それを期待してんだからよ」
なんか鷺丸君、口が悪くなっている。おまけに目つきも冷たい。
「や、やだ。堪忍して」
鷺丸君はいやがる僕を無理矢理立たせると、マジシャンの鮮やかな手つきで素早く僕の両手に手錠を掛けてしまった。な、なぜこんな真似をする? 幸い、前で掛けられたので、おちんちんを隠すことはできた。しかし素っ裸で手錠とは、なんとも屈辱的な格好で、おちんちんを隠していても恥ずかしさで全身が赤らむ。そんな僕を鷺丸君は容赦なくステージへ引っ張り出した。
観衆の喝采、口笛、騒ぐ声がどっと押し寄せてきた。
「いらっしゃーい、はだかんぼくん」
マイクを持った司会のお姉さんが満面の笑みで僕を迎えてくれた。なんと、発明コンテスト出品物を並べたブースにいた女性スタッフだった。あの時は真っ白のワイシャツと紺のズボンという地味なスタッフ衣装だったのに、今は胸の大きく開いたノースリーブのボディコンドレスを着て、色気ムンムンだった。衣装が違うとこんなに若々しくなるのだろうか。二十二歳と言っても誰も疑わないだろう。倉庫内のブースでは三十五歳より下には見えなかったのに。
全裸のまま再び野外ステージに引き出されて、羞恥のあまり全身がカッと熱くなる。
「お姉さんの名前はね、キハラ、マリでーす。ねえ、わたし自己紹介したよ。次ははだかんぼくんの番だね。ねえ、はだかんぼくんの名前は?」
はだかんぼくん、という呼び方はいやだったので、僕はすぐに自分の名前を告げた。
「ナオスくんね、オッケー。こんにちは、はだかんぼくん、じゃない、ナオスくん」
ヒューと口笛が鳴り、侮蔑の忍び笑いがそこかしこで発生する。
木原マリさんはじっと足元を見つめる僕の顔を無遠慮に覗き込んだ。
「あら、ねえきみ、どこかで会わなかったっけ?」
自動洗体機に僕を送り込んで、さんざん性的刺激を味わわせた時の意地悪な瞳で問いかけてくる。僕は慌てて首を横に振った。木原さんは苦笑して、「そっか。じゃ、わたしの勘違いかな」と言った。
僕へのインタビューが始まった。司会の木原さんはまず鷺丸君の関係を訊ねた。クラスメイトと答える。鷺丸君はクラスでどんな存在かという質問には、直ちに「人気者で楽しいです。みんなに好かれています」と答える。事実とはかけ離れた回答をあえてする。なんとなくそう答えたほうがみなの期待に沿うように思えたからだ。本当は鷺丸君は目立たない生徒で友人も少ないし、マジシャンであることも、ほんの数人を除いては知られていない。
とにかく僕は一刻も早くインタビューを終えて舞台裾に隠れたかった。注射を打たれたおちんちんが熱を帯びて熱い。まだ反応はしていないようだ。どうか反応しないうちにインタビューが終わりますように。僕は心の中でそればかりを強く念じた。
木原マリさんは学校のこと、好きな教科とか、担任の先生はどうだとか、およそどうでもいいような質問を僕に繰り出した。素っ裸で手錠を嵌められている僕に、わざと日常的な質問を浴びせて、羞恥を煽ろうとしているのだろうか。
もしも当初の予定どおりメライちゃんが回転扉を出てマジックショーを終えていたら、僕がステージに呼び戻されてインタビューを受けることはなかった。今頃は倉庫で用意された服を着て、何食わぬ顔をして観衆に混じっていたはず。悔しい。
なぜマジックショーに出ることにしたの、と木原さんが聞いた。友達だから、と答えたのは、単純に口数を少なくして済ませたいからだった。
「でも、真っ裸で舞台に立つなんて、普通はなかなかできないわよ。よく決意したわね。恥ずかしくなかった?」
質問者である木原さんの目がキュッと細くなった。それはもちろん恥ずかしい。恥ずかしいに決まっている。でも、なんて答えればいいのか分からなかった。Y美に強制されて出演したと打ち明けることはできない。
少し考えて、恥ずかしいけど我慢した、と答えた。
注射を打たれたおちんちんが脈を打ち、少しずつ熱を帯びてきた。早く切り上げないと、まずいことになる。
いつのまにか鷺丸君が木原さんの質問に答えていた。
「でも、こうやっておちんちんを隠しているところを見ると、やっぱりこの子、恥ずかしがり屋さんなんじゃないかな」
「いや、そういう振りをしてるだけですよ。ほんとは裸を見られるのが大好きなんです、こいつ」鷺丸君はそう言って、うっすらと笑った。鷺丸君のくりくりした目が細くなって、普段の半分以下の大きさしかない。まずい、これは何か企んでる目つきだ。
「やだ、そんなことないでしょ。裸でいるのを恥ずかしがってるじゃないの」
ちゃきちゃきと木原さんが合いの手を入れて、「ねえ?」と僕に振る。振らなくてもいいのに。「ええ、まあ」ぼそりと顔を上げずに返す僕。くすくす笑いが厚みをもって聞こえてくる。早くステージを去りたい。いつまで僕は素っ裸で見世物になっていなくてはならないのだろう。
「ほんとのところはどうかな。今から三つ数えると、こいつは本当にしたいことをする」
「ほんとにしたいこと? 何それ?」
鷺丸君の意外な発言に木原さんも興味しんしんになる。
まあ見ててください、と前置きして左手を上着のポケットに入れると、鷺丸君は「いち、にい」と数え始めた。「さん」と叫んだところで、僕は異変に青ざめた。
なんと、おちんちんを隠している両手が上に引っ張られてゆくのである。
「嘘でしょ、い、いや、やめて」
両腕を突っ張るようにして抵抗する。でも無駄だった。手錠を掛けられた両手がすごい力で引っ張られてゆく。ああ、やだ・・・・・・。ついに隠していたおちんちんが露わになってしまった。どっと笑い声が大きくなった。
いつのまにか手錠に透明な釣り糸が結ばれてあったのだ。釣り糸はステージ上部の横木に通してある。おそらくマジシャン鷺丸君のポケットの中に小型の電動リールがあって、それで巻き取っているのだろう。ステージの幕が下りた短い時間にこんな仕掛けを施したとは知らなかった。
両手の自由を拘束する手錠が僕の頭上を超えてなお上がり、腕の伸び切る少し手前のところでやっと止まった。
「まあ、これはびっくりだわ」と、司会の木原さんが感嘆した。
「ね、これがこいつのほんとにしたいことなのです。つまり、おちんちんをもっと見てもらいということ」鷺丸君が両手を広げて言った。
「へえ、見てもらいたかったんだ。さすがマジシャン。人の心を読むのが得意ね」
感心する木原さんの横で、得意顔でうなずく鷺丸君。
せめてはおちんちんを股に隠そうと足を交差させるのだけど、ぷるんと震える小さなそれはなかなかうまく股に挟まらない。ついには木原さんに、悪あがきはやめなさいとばかり、太股をパチンと叩かれてしまった。
ヒィィ、大勢の観客がいるだけではない、テレビ中継までされているのだ。そんな舞台で一糸まとわぬ体を何もかも丸出しにしている。
すでにマジックショーでおちんちんを晒しているけれども、動きながらであったし、見せては隠すを繰り返していた。こんなに長い時間、両手を吊られた状態でおちんちんを見られ続けるのは、「もうどうせ何度も見られてしまったし」と諦めることで手懐けられる羞恥のレベルを超えていた。
「はい、脇の下までツルツル」と、鷺丸君が僕の露わになった脇の下の窪みを指す。ヒューと口笛が観客席のあちこちで鳴った。
「それはある意味当たり前よ。だっておちんちんがツルツルなんだから」と、今度は木原さんがおちんちんへの注視を観衆に促しながら、言った。
まずい、このタイミングで非常にまずい。おちんちんが熱い・・・・・・。
最悪の事態を回避しようと僕はくるりと後ろを向いた。数知れない観客やテレビカメラにお尻を向けることになるけれど、注射を打たれた反応があらわれつつあるおちんちんを見られるよりは、ましだった。
「どうしたの、お尻もみんなに見てもらいたいの?」
司会の木原さんが僕をからかう。
と、舞台袖からすすっとアシスタントの女の人が走り出てきて、観衆に背中を向けた僕の
前に来て腰を下ろし、くるりと僕の体を反転させた。ヒィ、いや、もうこれ以上おちんちんを晒したくない。必死に足を交差させて隠そうとするのだけど、それもなかなかうまくできず、観衆やテレビで見ている人には、僕が羞恥のあまり足をもじもじ動かしているようにしか見えないかもしれない。
「やだ、何これ、ねえ、見て」と木原マリさん。
少しずつ、しかし確実におちんちんは膨張しつつあった。薬剤の効果がとうとう現れたのだ。最低だった。勃起の過程をステージで観衆の視線を浴びながらテレビ中継されている。おちんちんは僕自身の意思とは関係なくどんどん硬度を増していく。
手錠を掛けられた手を引っ張っても、頭上で手首が手錠に食い込んで痛いだけで、勃起中のおちんちんを少しも隠せない。せめては腰をくるりと捻って後ろを向きたいところだけど、なんということか、背後でアシスタントを務める表情に乏しい女の人に腰をがっちり押さえられて、それもままならない。
とうとう最大限の大きさになってしまった。観衆はざわめき、木原マリさんも言葉を失ったようだ。さすがの鷺丸君も予想外の現象に目を丸くしている。
しばらくして、木原さんが「どうして」と素っ頓狂な声を上げた。「どうしておちんちん、大きくなっちゃったの?」
「さっき僕は言いましたよね」と鷺丸君が評論家のような口調になって言った。「こいつはチンチンを見せたがっていると。そこで本当にしたいことをするように僕が暗示をかけたら、見事に両手を上げて、隠していたチンチンをあっさり丸出しにした」
「たしかにー」ドレスの大きく開いた胸元から覗かせる胸をぷるんと揺らして、木原マリさんが頷いた。ちがーう、手錠に括った釣り糸で勝手に引っ張り上げてるだけだよお、と僕は心の中で叫んだ。
「こうしてこいつは心の中に潜ませていた願望を実現したのです。見事に望みどおりチンチンをみんなに見せることに成功した、テレビにもばっちり映っている」何言ってんだよ、鷺丸君よお、と僕は心の中で毒づいた。「僕がマジシャンとして、あなたが司会者として颯爽とした姿を放送されているのと同じ意味で、こいつは一糸まとわぬ体を露わにし、のみならずチンチンまで見せている、まさにこいつの望みどおりに。すると、性的な喜びを感じ、興奮してしまったらしいですね。これには僕もびっくりしたんだけど、チンチン見られて、性的に興奮しているようなんです。勃起はその証しです」
説明の締めくくりに、鷺丸君はおちんちんをピンと指で弾いた。アウウッ。
「見られて、興奮して、勃起しちゃったって言うの?」
目を丸くする司会の木原さん。その素朴な問いかけに観衆はどっと笑い声を上げた。
「そのとおりです。大勢の人にチンチンを見られて、興奮した。でなければ、突然のこの勃起が説明できません」
「なるほど、それもそうね。じゃ、こーんなことしても」と言って、木原マリさんはボディコンドレスの裾をまくって脚の付け根部分を露出した。彼女の大胆な振る舞いに観衆席から拍手が起こった。「この子にはあんまりサービスにはならないのね。お姉さん、がっかりだわ。見るよりも自分が見せることに関心があるなんて」
「そ、そんなことないです」
「かわいい顔して、変態さんなのね」
木原マリさんは納得し、今度は顔を真っ赤に染めて俯いている僕の顔を覗き込んだ。「ねえ、あなた、なんで勃起してんの?」
「わ、分かりません。もう許して。放して」
下腹部に密着するくらい上向いたおちんちんがたまらなく恥ずかしく、体をくねらせながら、僕は言った。勃起の理由について、本当はおちんちんに注射を打たれたから、と正直に言いたいところだけど、それを暴露したら大問題に発展してしまうだろう。激怒したY美やおば様におちんちんを切り落とされかねない。
「あなた、本当に見られて感じてるの? 性的に興奮しちゃったの?」
木原さんは隆々と起立するおちんちんを手に取った。「すごく硬い」観衆の笑い声。ゆっくりとおちんちんを押し下げていき、太股近くで、放す。アウウッ。おちんちんはバネのように勢いよく跳ね上がり、下腹部に当たってピシッと肉を打つ音を立てた。どっと湧く観衆。黄色い笑い声があちこちでヒステリックに響いた。
「そ、そんなことないと思います。分かりません、もう許して」
僕は腰をくねらせながら、喘ぎ喘ぎ訴えた。
「じゃ、なんでチンチン硬くしてんのよ」
木原マリさんはもう一度、おちんちんに手を伸ばした。「子供のくせに、いっちょ前に勃起するのね」観衆の中から、そうだ男の子だからボッキするぞーと野次が飛んできた。「そっか、そうだよね、ナオス君も男の子だもんね」木原さんは感心しながら、摘まんだおちんちんを今度は左右に揺すった。観衆から拍手が起こった。「硬いわ。元々ちっちゃなおちんちんだから、勃起してもせいぜいこの程度だけど、硬さは大したものね。成人男子のそれと比べても硬さだけは負けてないかもしれないわ」木原さんが甘い息をおちんちんに吹きかけた。「おまけにすごく熱いの、熱いわ。ちっちゃくても、ちっちゃいなりに、情熱がたぎってるのよ、このおちんちんには」潤んだ目をした木原さんは、おちんちんをますます激しく横に振って、車のギアみたいに、そして車のギアがうまく入らずにいらいらする初心ドライバーのように、おちんちんをいささか乱暴に前後左右にいじくり回した。
や、やめて・・・・・・。僕は両手を吊られた裸身を揺すり、腰を回すようにして悶えた。
「答えてよ。なんで、勃起してんの?」
「なんか、知らないけど、こうなっちゃったんです。もう許して」
木原マリさんはやにわに真顔になって、おちんちんから手を離した。
「原因もなく勃起するはずないじゃないの」と、突然パンチを繰り出す。
ヒィ、痛い。思わず仰け反ってしまう。木原さんの拳はおちんちんの下の袋に見事にヒットした。
「やっぱり見られて興奮してるんでしょぅが。ふざけた変態さんね。ここはあなたの性的な欲求を解消する場じゃないのよ。何を勘違いしてんのよ」
「ご、ごめんなさい」
いきなり叱られて、僕はわけが分からず謝った。
「早くチンチンを元に戻しなさいよ、この変態がッ」
それは無理。だって性的な刺激を受けて勃起しているのではないのだから。すべては注射のせいだ。でもそれを言うことはできない。
「もしかするとこいつは」と、今度は鷺丸君が言った。「勃起したチンチンを見て、みんなは喜んでると思ってるのかもしれませんね」
「たしかにそうかも。変態の人っていつもそうなのよ。相手は喜んでるって勝手に思っちゃうみたいね。レイプ魔が捕まった。そいつは警察に言い訳したそうよ、女は強姦されて喜んでるって。痴漢の常習犯が捕まった。そいつは言った、女は痴漢されて喜んでるって。これ、全部でたらめ、大ウソ、卑怯な思い込みに過ぎないの。そうやって自分の行為を正当化してるのよ。あんたも勃起したチンチン見せびらかして、女は喜んでるって思ってるんでしょ、ねえ、あんた」
話しているうちにヒートアップしてきた木原マリさんが夜叉の形相で僕に迫った。怖い、吊られた裸身を支える両足がぶるっと震える。
「いえ、けっして、そんなふうには・・・・・・」
「だったらとっととチンチンを元の大きさに戻しなさいよ、この変態野郎がッ」
は、はい、と叫んで、僕は目をつむった。しかし無理な相談だった。薬剤を注入されて硬くなったおちんちんを元に戻すには、ただ時間を頼むしかない。無論そんな理屈は通じないから、とにかく僕は腰を揺するなどして、なんとかおちんちんを元に戻そうと努力していると思われるように振る舞うしかなかった。しかしせっかくの振る舞いも、勃起が収まるという結果を導かなければ評価されない。木原さんの激した感情は鎮まらない。
「早く戻しなさい、なんで戻さないの。あんた、さっきも倉庫で勃起して、氷水に浸かってやっと元のふにゃふにゃチンチンにしたわよね」へえ、そんなことがあったんですね、と鷺丸君。木原さんの胸元にはピンマイクがあって、どんなささやきもすべて観衆に聞こえ、電波に乗った。「ここでは氷水に浸かることはできないから、こうするしかないわね」
激昂した木原さんは吊られた僕の体をくるりと回すと、平手で僕のお尻を叩き始めた。
いやだ、痛い、やめて・・・・・・。バシッ、バシッ、力いっぱい、お尻を叩かれる。
バシッ、バシッ、と連続して何発も叩き続ける。苦悶し、なんとか苦痛から逃れようとしても、アシスタントの眉の薄い無表情女子に両側から腰をしっかり押さえられて、裸身をくねらせることもできない。
ああ、もう勘弁してください。あまりの痛みに僕は涙をこぼしながら、訴えた。
アシスタントの女の人は、僕の正面に膝を落としているので、勃起したおちんちんがすぐ目の前にあるのだけど、表情ひとつ変えずに僕の腰に手を当て、押さえ続けた。
「これだけお尻が真っ赤になれば、おちんちんも元の大きさに戻るんじゃないかしら」
十発以上の平手打ちを食らって、じんじんと熱くなったお尻を撫でながら、木原マリさんが言った。「どうでしょう、乞うご期待」と鷺丸君。
木原さんは僕の体を反転させ、前向きにした。
「あらやだ、まだビンビンじゃないの」
木原さんが呆れて、肩をすくめた。観衆から盛大な拍手が起こった。
僕はまた後ろ向きにされ、お尻を平手打ちされた。
いやあ、やめて、痛い、痛い・・・・・・。
見られている、素っ裸でお尻を叩かれているところを、千人を超える観衆が。しかもテレビ中継までされている。
お尻だけではなく、おちんちんの袋にも木原さんの指先が当たった。なんという激痛。この理不尽な責めに僕は耐えられず、大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、悶えた。
「不思議ねえ、これだけ打ってるのに、まだ勃起したままだよ」
前向きにした僕の一糸まとわぬ裸身を眺めながら木原さんがため息をついた。おちんちんは依然として隆々と鎌首をもたげたままだ。
熱狂した観衆が手拍子で求めるたびに木原さんは僕を後ろ向きにしてはお尻をひとしきり叩き、勃起が収まったか、僕の裸身を回しては観衆とともに確かめた。
「なんでまだ勃起したままなのよ」
木原さんが絶叫すると、観衆から「まだ叩き足りないからだ」と声が上がった。「もう、こっちの手が痛くなっちゃう」木原さんは愚痴りながら僕の体を反転させ、観衆の声高なカウントに乗って、僕のお尻を平手打ちした。
そんなことを繰り返しているうちに、僕はもう意識朦朧状態になっていた。涎が垂れて、裸のお腹に落ちて、羞恥に赤く染まった肌伝いに股間へ流れていった。
「もしかすると、逆効果かもしれませんね」と、鷺丸君が言った。
「逆効果?」
「ええ、お尻を叩かれても、ちっとも収まらないでしょ」
そう言って鷺丸君は僕のコチコチのおちんちんを握り、揺さぶった。アウウッ・・・・・・。僕の口から漏れる途切れ途切れの喘ぎ声は、木原さんが差し出したマイクによってことごとく拾われてしまい、野外観客席のそこかしこで笑いや罵声を引き起こした。
「そうね、ほんとに不思議よね。なんで元に戻らないのかしら」
「それはこいつにとって尻炊きが快感だからですよ。触って確かめてみて。素っ裸のまま公開の場で尻を叩かれて、さっき以上にビンビンになってるから」
促されて、木原マリさんもまた上向きのおちんちんを握った。硬さを確かめるようにちょっと力を込めて握ると、考え込むように唸った。
「ほんとだ、さっきよりも硬くなってる」
うそだ、絶対にそんなはずはないのに、素朴に驚く木原さんであった。観衆からエエー、と驚きの声が上がる。
「マゾ・・・・・・、なのかしら、この子」
木原さんが軽蔑の念だけを純粋に伝えるような、冷たい視線で僕の顔を見つめた。
「そう、マゾってやつです。いじめられて、喜ぶんです」と鷺丸君。
「マゾね。お尻叩かれて、涙を流して喜ぶなんて、ますますおちんちんを硬くするなんて、わたしには理解できない」
木原さんはアシスタントの無表情女子にもおちんちんを掴ませた。そして、僕への嫌悪感を露わにした。そんなことはない。勃起したおちんちんの硬さに変化はない。お尻叩きで硬度が増すなどということはあり得ない。でも、僕はろくに言葉を発せられないくらい疲れ切っていた。「ごめんなさい、もう許してください」と哀訴を繰り返すばかりだった。あまりにも恥ずかしくて、悲しくて、涙が出てきた。
「やだ、この子、泣いてるよ。勃起しながら泣いてる。嬉し涙なの?」
木原さんが仰け反るようにして観客のほうを向き、呆れたという仕草をする。観客席から怒濤のような笑い声が返ってきた。
叩きすぎて手が痛くなった木原さんの代わりに、アシスタントの女の人が僕のお尻を叩いた。それだけでは飽き足らず、彼女は僕の腰に両手を添えてくるりと前に回すと、僕の乳首を抓った。
痛い、やめて、と僕は隠しようのない裸身をくねらせながら、訴えた。鎌首をもたげたおちんちんも腰の動きに合わせて揺れ、見る人たちを喜ばせてしまう。
ふたたび僕は後ろ向きにされ、テレビカメラや客席という客席を埋める観客に真っ赤に染まったお尻を晒した。パチン、パチンとお尻の肉を震わせる音がマイクに拾われて会場いっぱいに響く。
打つ手のひらとはだいぶ感触の異なる物体がお尻に当たった。観客席から水ヨーヨーが投げ込まれ、見事に命中したのだった。
当たった衝撃で水ヨーヨーは破裂し、お尻を濡らした。
びしょ濡れになったお尻を見て、木原さんが言った。
「あら、真っ赤なお尻を冷やしてくれたのね。親切な人がいるもんですね」
このとぼけた発言、僕にとっては最悪なことに、観客席の水ヨーヨーを持つ人たちには競技への誘いのように聞こえてしまったようだ。たちまち、水ヨーヨーが僕のお尻目がけてどしどしと投げ込まれた。
バシッ、バシッ、バシッ、と背中やお尻、太股に当たる。
当たると、当然ながら結構痛い。アウウッ、と呻いて、背中を反らすのが精一杯だ。
これをおもしろがる木原さんがアシスタントの女の人に僕の裸身を前向きにさせた。
「あ、だめ、やめて」と叫ぶもむなしく、ヒギィィ、言葉にならない激痛に吊られた裸身を波打たせた。
かなりの速度で投げられたひとつが依然として最大限の硬度を保つおちんちんに正面から当たったのだった。もう一つはその下のおちんちんの袋にぶち当たった。しかしこちらは割れずに跳ね返って床に落ちた。
痛みと恥ずかしさでしゃくり上げるばかりの僕の涙に濡れた顔をテレビカメラがしかと捉えている。どうせ次はビンビン状態のおちんちんをアップにするのだろう。
「あ、これは痛いな。痛いだろ?」と鷺丸君が笑いながら問う。
パチンとゴムの破裂する音がして、おちんちんはまるでパンツの中で射精したかのように濡れてつやつやしていた。
水ヨーヨーをぶつけられ、水をかぶっても、なおおちんちんは元のサイズに戻らない。木原さんは首を傾げながら、アシスタントの女性に尻叩きの続行を指示した。
とうとう僕は自分の口でマゾであることを宣言させられることになった。しかもしゃくり上げながら、だ。そうしないと、いつまでもこの恥ずかしい格好を晒したままお尻を叩かれるのだから、まったくやむをえなかった。
手錠の嵌まった両手を頭上で吊られた状態の素っ裸のまま、この野外ステージで、千人を超える観衆とテレビカメラを前にして、「ごめんなさい、僕はお尻を叩かれて喜ぶマゾです。それを大勢の皆さんに見ていただいて大変嬉しいです、嬉しくておちんちんがこんなに硬くなってしまいました」と、カンペを読まされた。木原さんが書いたものだ。
嗚咽して、何度もつっかえた。つっかえるたびにやり直しになった。そのあいだ、おちんちんはずっと立ちっぱなしだった。もちろん注射のせいで。
僕は狭いボックスの中で身構えた。おちんちんは大きくならないとのことだけど、注射を打たれたせいか、なんとなく熱を帯びている。
今回の夏祭りで中学生マジシャン、鷺丸君が披露するのは、衣類を一瞬にして消したり出したりする手品だった。鷺丸君考案によるオリジナルの演目だ。
まず鷺丸君が左手で示すと、舞台上手からスクール水着姿のメライちゃんが登場する。
小さなサイズのスクール水着で、明らかにメライちゃんの体格に合っていない。Y美の仕業だ。Y美は自分のを使用したいというメライちゃんの希望を退け、「これを着ること、いいよね」の一言のもと、自分が小学五年生の時に着ていたスクール水着を差し出したのだった。
これはさすがに僕と同じ背丈のメライちゃんでも窮屈のようで、ピチピチした肉体が際立つような格好になる。
鷺丸君が合図を送ると、メライちゃんは舞台中央に据えられた回転扉に向かって小走りで進んでくる。回転扉を抜けると、一瞬にしてスクール水着が消えて、素っ裸になる。スクール水着を着ていたのが女の子ではなく、男の子だったというオチ付きだ。
もう一度、素っ裸になってしまった人物が今度は舞台下手から回転扉を抜けると、スクール水着を着ている。きつきつのスクール水着を一瞬にして着たことになる。
これを何度か、鷺丸君の合図で繰り返すという趣向だった。
シンプルな仕掛けのマジックで、じつは回転扉には隠し部屋がある。観衆からは気づきにくい視覚的な工夫の施された縦型のボックスで、メライちゃんや僕サイズの人間がひとり立って入れるほどの狭くて暗い部屋だ。回転扉を通り抜けたと見せて、メライちゃんと僕が入れ替わる。つまり、メライちゃんと僕でひとりの人物を演じ分けているのだった。水着のときはメライちゃん、素っ裸のときは僕が演じる。
このように種明かしをすると、他愛もないように思ってしまうけれど、スピーディに、かつ入れ替わりのタイミングをばっちり合わせておこなえば、水着の消えたり現れたりするのが本当にひとりの人間の体に起こっている現象に見える。いや、そうとしか見えなくなってくる。練習を見学してきたY美や鷺丸君のお姉さんがこれまで何度もそう証言してきたのだから、間違いないだろう。
これもふたりの背丈がほとんど同じ、あっても二ミリ以下の差異しかないことと、顔の形、体型が酷似しているからこそだった。本番の前日、僕は鷺丸君のお姉さんが手配した美容師さんに全裸のままコーディネートしてもらい、メライちゃんそっくりのショートボブの髪型にさせられた。
髪型までも同じになったメライちゃんと僕は、並んで立たされた。そっくりね、と鷺丸君のお姉さんが感心した。鷺丸君も満足そうだった。
暗い箱の中で、僕は構えていた。まもなくメライちゃんが回転扉を回してこのボックスに入り込んでくる。おちんちんの皮を、またもや無意識のうちにめくってしまった皮を引っ張って被せておく。
これはY美の言いつけだった。僕は素っ裸のまま人前に出される時、本能的におちんちんを手で隠すけれども、手をどかしておちんちんを見せるように強要されると、皮被りのおちんちんを笑われたくない気持ちから、手を離す直前に皮をそっと剥いてしまう。数々の恥辱の経験から身についた悲しい習性で、Y美にはよくからかわれたものだけど、このマジックショーの舞台ではこれを禁止されたのだった。皮を剥かないで、そのままの皮被りのおちんちんを見せること、これがY美の厳命だった。背いたら、どんな責め苦が待っているか、知れたものではない。
今頃、Y美は包帯を体のあちこちに巻いたまま、テレビの前で素っ裸の僕が回転扉から出てくるのを待っていることだろう。
耳を澄ます。
メライちゃんが小走りで向かってくる。裸足独特の足音。
回転扉が動いて、僕は飛び出した。眩しい。練習の時とは比較にならない明るさ。ステージの上に棒が通してあって、団子のように並ぶ大きな丸い照明。これは本番なのだ。
僕の中でスイッチが入った。
ワッと観客全体のどよめきが波動になって、僕の何もかも丸出しの肌にどっと押し寄せてきた。
突然水着が消えたことに初めて気づいたように大げさに驚いて、慌てておちんちんを隠す。何度も練習して体に覚え込ませた一連の仕草だ。
マジックの練習で鷺丸君から繰り返し注意されたのは、回転扉から出てきた時にすでに恥ずかしがっておちんちんを隠していたりしてはだめだということだった。練習を始めてまもない頃は、どうしても全裸で舞台に出ることをためらう気持ちが去らず、ついなよなよした、恥ずかしがる仕草をしてしまい、何度も駄目出しされた。鷺丸君のお姉さんには「あなたね、まじめにやりなさいよ」と激しく叱責された。自分では堂々としたつもりであっても、鷺丸君や鷺丸君のお姉さんによると、まだどこかに羞恥心の名残があるようだった。
まあ、確かに回転扉を抜けると水着が消えるなんて、そんなことは夢にも思っていないのだから、水着を着ているつもりで出てこなくてはならない。
観衆の反応で初めて素っ裸を晒していることに気づくというリアクション。鷺丸君が僕に求めたのは、これだった。そして、驚いて慌てておちんちんを隠して恥ずかしがるという僕の動きを通して、観衆はもうひとつの事実に気づくことになる。
女子用のスクール水着を着ていた人物は、じつは男子だった。
水着が消えて素っ裸になる、というハプニングだけでもじゅうぶんに観衆の笑いを誘うだろう。ところが、このマジックショーに出演させられる僕の悪夢はそれにとどまらなかった。女子用のスクール水着を男子が着ていた、という事実を明るみに出すことで、さらに大きな笑いを引き起こそうというのだから、鷺丸君にこのアイデアを取り入れるように勧めた、というか強要したY美の意地の悪さは、底知れない。
僕が男子であるということを観衆に示す必要上、どうしてもおちんちんを晒す必要があるのだった。僕がある時から非常に練習熱心になったのは、このとてつもなく羞恥を呼び起こす演技に早く慣れようとしてのことだった。
回転扉から飛び出した僕は、スクール水着をまとっているつもりで観衆のほうを向く。叩き込まれた演技指導によって一応ざっと観客席を見渡す素振りをするのだけど、恥ずかしさを抑えるのが精一杯で、しっかり目を向けているつもりでも、何を見ているのか、自分でもさっぱり分からない。おそらく二千を超える観客がひしめいて、たくさんの同級生や知り合いもいるのだろう。中央に据えられてあるのはテレビカメラだろうか。
観衆のどよめきを受けて、僕は首を曲げて、自分の体、お腹から下を見る。
あ、水着が消えている、な、なんで・・・・・・。びっくり仰天、慌てておちんちんを隠し、腰を引く。
水着がどこかに落ちてないか、探しながら舞台をあちこちうろつく。観客席から小さな笑い声が絶えず聞こえてくる。
緊張していると、目は見ている物をうまく認識できなくなる。でも僕の場合、耳はしっかり聞こえて、気づくのだった。ああ、今、僕は全裸で舞台上をうろついていて、その惨めな姿を笑われている。
マジシャン、鷺丸君が寄ってきて、パントマイムで僕に「どうしたのか?」と訊ねる。僕はやはりパントマイムで水着がいきなり消えたことを訴える。
タキシード姿の鷺丸君は腕を組み、うんうんと頷き、困ったことだね、という顔をして僕を見て、おもむろに回転扉を指し示す。
信じられない、そんなバカな、と疑う仕草をする。すると、それを受けて鷺丸君が「まあ、とにかくやってみなさい」と告げるかのように、白い手袋を嵌めた手で僕の裸の肩をポンポンと叩く。
これに続く僕の演技は次のとおりだ。半信半疑のまま、とりあえず言われたとおり、今度は下手から回転扉へ小走りに向かう。
練習の初期の段階では、この時の僕はおちんちんを隠すことが許された。ところが、何度か練習に立ち会ったY美がある時、鷺丸君に欠点を指摘した。おちんちんを隠したまま回転扉に向かうと、出てくるメライちゃんの動きと整合性がとれなくなるという。「なるほど、言われてみると、確かにそうね」と鷺丸君のお姉さんも同意した。
そこで走り方をメライちゃんと僕で揃えることになった。下げた両腕をまっすぐ伸ばし、手首を外側に反らして、スキップするように進む走り方を鷺丸君が採用した。「この走り方、どこかペンギンに似てるだろ。ペンギン走りって言うんだよ」
ペンギン走りでもダチョウ走りでもなんでもいいけど、僕にとって一番の問題はおちんちんを隠せなくなることだった。でも、Y美は僕に反対する権限を認めない。何か意見を言おうとしても、「お前はただ言われたとおりに動けばいいの」と封じられるだけ。
もう練習の段階からやけっぱちの気持ちだった。笑いたければ笑えばいい。練習中、僕は指示どおりにペンギン走りをして、無毛皮被りのおちんちんをプルプル震わせながら、何度もスキップを繰り返した。
そして、いよいよ迎えたこの本番だ。
最初に回転扉から出てきた時は、ペンギン走りして、おちんちんを丸出しにしている。でも、ひとたび手というシェルターの中におちんちんを入れ、人々の数知れない視線、有害な視線からこれを守ると、もう、おちんちんは視線にたいする免疫力が一気に低下し、次に露わにすることに非常な抵抗を覚えるのだった。
練習の時からそうだったけど、本番でもその感覚は変わらなかった。動きを体が覚えている。意識を下手に介入させず、体の動きだけで乗り切るしかない。手を離す際はいつもの癖でこっそり皮を剥かないように、そこだけは意識しておこう。
ペンギン走りで回転扉に向かって進む。スキップすると、ぷるんぷるんとおちんちんが揺れる。女の人も男の人も大喜びだった。キャーキャー騒ぐ声の渦に呑まれそうになる。
回転扉を押して、隠し部屋に入った。入れ替わりにメライちゃんが出てくる。すると、僕の時とはちょっと違った種類の笑いが起こった。何かもっと大らかな笑い。攻撃性のない、開けっぴろげな笑い。
ボックスの中にいてステージを見られない僕にも、何が笑いを引き起こしているのかはすんなり分かる。メライちゃんの股間、水着に浮き出た粘土細工の疑似おちんちんだ。計算どおりに笑いが起きてよかったと思う。
一度目の登場では観客が気づかないようにしていたけど、二回目以降はしかと見せる演出だった。女児用の水着を瞬時にして身に着けたのが男児であることを明かすためだ。さきほど観衆の目に焼き付いたおちんちんが今はスクール水着に包まれている、と思わせないといけない。
回転扉を抜けると水着が消える、それならば、とメライちゃんは舞台袖から手渡された大きめのチロリアンハットを被り、さらに黒のサングラスをかけて目元を覆う。これなら水着が消えたとしても、顔を隠しているので、恥ずかしさは軽減するだろう。メライちゃんは大きく息をついてから、再び回転扉に向かう。
タッタッタッ、という裸足の足音が近づいてくる。
回転扉が回って、入れ替わりに僕が舞台に出てくる。ペンギン走りで左に曲がり、舞台中央まで行き、胸元や頭、目元に手をやって、水着やチロリアンハット、サングラスが消えたことに気づき、慌てておちんちんを隠して恥ずかしがる演技をする。
この恥ずかしがる部分については特に演技する必要がないほどの羞恥で体が火照っていたけれど、それでも僕はあえて大げさな身振りをして演技であることを強調した。地のままで恥ずかしがっていたら、もうかぎりなく自分が惨めに思えてきて、舞台上でぺしゃんこになってしまいそうだったから、メライちゃんと僕で演じる同一人物のキャラクターに徹したのだった。
観衆の笑いさざめくなか、マジシャン鷺丸君が困ったような顔をして、首を傾げながら、「困るじゃないか、こんなところで裸になって」とパントマイムで僕を非難する。
「全然分からない、いったいどうなってるの? あの回転扉を抜けたら、水着も、それどころか帽子もサングラスも一瞬にして消えちゃったんだ」
僕はパントマイムでだいたいこのような弁解をする。厳しく指導され、練習をたくさんこなしたおかげで、不思議なくらい体はよく覚えていて、自然に動いた。
マジシャン鷺丸君に背中を軽く叩かれ、僕はもう一度、自分が出てきた方向から回転扉を抜ける。するとスクール水着姿のメライちゃんが出てくるのだけど、チロリアンハットとサングラスはなくなったままだ。
衣類が消える回転扉をメライちゃんはパントマイムで不思議がる。疑似おちんちんを水着越しに見せつけながら、メライちゃんは舞台袖から渡されたレインコートを羽織る。さらに運動靴まで履く。これだけ装備をすれば、回転扉を抜けてもそう簡単には裸にはならないだろう、と望みをかけて、もう一度回転扉に向かう。
ところが、結果は同じだった。回転扉を抜けると、レインコートや運動靴はもちろん、水着まできれいさっぱり消えて、素っ裸になってしまう。
僕は大仰に恥ずかしながら、マジシャン鷺丸君に「あの回転扉は、どうなってるんだ」と問い詰めるパントマイムをする。鷺丸君は鷹揚に笑って、「まあ、もう一度通り抜けてごらんよ。元通りになるから」と仕草で伝える。促されて僕はもう一度、回転扉を出てきたほうから向かう。
スクール水着だけをまとったメライちゃんが出てくる。レインコートと運動靴は戻ってこない。水着だけが残るようだ。舞台袖からまたもや衣装が差し出されて、観衆の笑いを誘った。なんとスクール水着の上にズボン、シャツを羽織って、長靴に素足を入れる。さらにバスローブも重ねて着て、前をしっかり結ぶ。
鷺丸君が「これなら絶対に裸にはならないだろうね」と太鼓判を押してメライちゃんを送り出す。ペンギン走りをして回転扉に向かうメライちゃん。
ところが、回転扉を抜けると、すっかり衣類が消えている。長靴すら消えて一糸まとわぬ素っ裸になっているので、慌てふためきながら鷺丸君に抗議のパントマイムをする。
さて、ここからがいよいよクライマックスだ。僕は次には舞台上手から回転扉に向かう。つまりメライちゃんと同じ方向から回転扉に向かう。舞台下手側の回転扉からスクール水着姿のメライちゃんが出てくる。今度は間を置かずにそのまま舞台上手へ走って、回転扉へ走ってゆく。今度は素っ裸の僕が出てきて、さっきのメライちゃんと同じコースで舞台上手に行き、回転扉へ向かう。
メライちゃんと僕がコマネズミのように回転扉から出てきては入るを繰り返し、リアクションをしながらぐるぐる回る。
僕は素っ裸になってしまったのを恥ずかしがる。メライちゃんは水着を戻ってきたことを安心する。そして、段々速度を上げて、そのまま終わりという流れになる。
最後はスクール水着のメライちゃんが出てきて終わりという段取りだ。
鷺丸君が「次、ラスト」と告げるサインを出した。僕は回転扉の中の隠し部屋に入って、大きく息をついた。これで僕の役目は終わった。この後は鷺丸君とスクール水着姿のメライちゃんが挨拶をして、マジックショーは終了になる。
と、そのはずだったのに、隠し部屋の覗き窓を見た僕は仰天した。なんと、メライちゃんがもう一度こちらに向かってペンギン走りをしてきた。
なんなの、今のが最後じゃなかったの? もう一度出るの?
仕方がないな、もう。
サインとは異なる動きをされて、僕は戸惑いながら、臨機応変に対応するべく、回転扉から飛び出した。もう終わりと思っていたところで、再度一糸まとわぬ身を晒すのだから、精神的な負担は大きい。
出てしまった以上は、もう一度回転扉に入らなければならない。ぐるぐると回転扉をくぐり抜ける回数を、その場の状況に応じて変更するのは想定内だった。だから鷺丸君が出すサインは見逃さないようにする必要があった。たぶん回数を一回分増やしたのだろう。しかし回数を変更することはあっても、最後はメライちゃんで締める決まりは変更がないものと思っていた。
ところが舞台上手から回転扉に向かおうとする僕の手首を鷺丸君が掴んだのである。これは「もうおしまい」の合図だった。
は、話がちがう・・・・・・。
素っ裸の僕は隠し部屋に隠れて、そのまま倉庫に運ばれ、そこに用意されているはずの衣装を身に着ける手筈だった。それで終わりのはずだった。このままでは全裸のまま野外ステージに残って鷺丸君と並んで観衆に挨拶することになる。
もう裸を晒すのはいやだった。早く隠し部屋に隠れたいのに、鷺丸君は当惑する僕に冷然と「終わり」のサインを出す。
舞台袖からも早く終了してほしい旨の合図があって、やむなく想定外の形で終了することになったようだ。
メライちゃんは隠し部屋の中でホッと息をついているかもしれない。問題は僕だ。素っ裸のまま舞台に取り残されて、いったいどうやって倉庫に戻ればいいのだろう。
予想外のハプニングに呆然とする僕の左手を鷺丸君ががっしりと握った。舞台中央に出て、タキシード姿で白い手袋を嵌めた鷺丸君と素っ裸の僕が並んで、観衆に深々とお辞儀をする。今さらながら、恥ずかしい。本来、鷺丸君と手をつないでお辞儀をするのは、スクール水着を着たメライちゃんの役目だったのに。
無数のカメラのフラッシュを浴びながら、舞台下手にさがったところで、僕は正面から人にぶつかってしまった。
なんとS子だった。うさぎがデザインされたピンク色の浴衣の袖を大きく捲り、腕組みをして僕を睨みつけている。たった今、大舞台を無事にやり遂げたばかりだというのに、なんのねぎらいもなく、ただ怒りをぶつけてくる表情だ。僕は思わずたじろいだ。それにしても、なぜS子がここにいるのだろう。
「あんた、勝手な真似してくれたね」
「な、なんのことですか?」
「注射、打たなかったでしょ」
「注射?」
「これだよ、嘘つき」
S子は僕に注射器を見せた。エンコが持ってきた注射器だった。端に赤いシールが貼ってあった。僕が打たれたのは黄色いシールのダミーのほうだった。
赤いシールの注射器には、海綿体の血管を拡張させて性的な刺激とは関係なくおちんちんを大きくさせる薬剤が入っている。
僕の表情が恐怖で強張ったのをS子は見逃さなかった。ニッと口角を上げると、近くにいるミューに注射器を渡した。ミューも浴衣姿だった。こちらはあじさいの花を散らした柄だ。上目遣いでちらとS子を見て、恐る恐る伸ばした手でそれを受け取った。
逃げようとしたけど、後ろから頭髪を掴まれてしまった。痛い。Y美よりも上背のあるS子は僕をあっという間に羽交い締めにした。
「ミュー、とっとと打ちな」と、S子が命じる。
浮かない顔のミューがためらいがちに僕の前に腰を落とした。腕ばかりか足まで押さえ込まれているので、腰を左右に振るくらいしかできない。おちんちんもおちんちんの袋も、隠しようがない。
「ぐずぐずしないで。チンチンの根元近くにブスッと刺せばいいんだよ。ほら、早くチンチンを持てよ」
明らかにミューは乗り気ではなかった。そんなミューをS子は強い口調で叱咤する。ミューは浴衣の胸元を締め直した。冷たい手がおちんちんを取って、不器用に指で挟んだ。
Y美の仲良しグループのひとりとしてミューは、素っ裸の僕を性的に嬲る場にしばしば居合わせた。ミューには過去に何度もおちんちんを扱かれたし、おちんちんの袋の中の玉を掴まれた。お尻の穴を広げられ、何か異物を挿入されたこともある。
でも、おおよそのところ、ミューは僕を積極的には責めなかったように思う。
ただし例外もあって、スカートの中を偶然見てしまった時は、さすがのミューも激怒した。Y美たちに足首を握られ、逆さ吊りに裸身を揺すられた折のアクシデントだった。誰も僕がフリル付きの白いパンツを覗いてしまったことに気づかなかったのに、おちんちんがピンと硬くなってしまったせいでバレたのだった。下着を見られた悔しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたミューは半べそをかきながら、Y美やS子をしてただの傍観者にさせるほど全裸の僕を打擲した。
ミューに直接体を痛めつけられた記憶は、それくらいだ。最初のうちこそY美たちと一緒に楽しんでいる風だったけれど、いつからか僕へのいじめに加担するのを拒む姿勢を見せ始めた。さすがに罪悪感が募って、Y美の理不尽な命令に従わされる僕を憐れむようになったらしい。
僕のいじめに反対、あるいは非難する態度を示したことで、ミューはY美やS子にしばかれたのかもしれない。
「ごめんね、ナオスくん」と、ミューは小さな声で詫びて、摘まんだおちんちんを軽く引っ張りながら、上げた。ケンカで負傷したY美に頼まれてS子は夏祭りに来た。そしてY美に代わってS子がミューに僕を辱める行為の手伝いをさせるのだった。
ミューの潤んだ瞳が僕を見つめる。いつか学校の廊下ですれ違った時も、こんな目を僕に向けたことがあった。その前日、僕はY美の家で唯一身に着けるのを許されていた白ブリーフのパンツを脱がされ、ミューたちの前でオナニーを強要されたのだった。
「やめて、お願いだからやめて・・・・・・」
羽交い締めされた体を揺さぶりながら訴える僕に、ミューはもう一度、「ほんとにごめん」と謝った。そして注射器の針をおちんちんに刺した。
「最後までピストン押すんだよ」と、僕の頭上でS子が言った。
ヒィイ、いやだ、やめて。薬がおちんちんに注入されていく。これは食塩水ではない。今度こそ本物の薬剤だ。羽交い締めが解かれると、僕はがっくりとして膝を落とした。
「お前さ、エンコに自分で注射するって言って、ほんとは打たなかったろ。勃起しなけりゃすぐ嘘だってバレるのに、なんで見え透いた嘘をつくかな」
そう言うとS子は、うずくまる全裸の僕のお尻を蹴り上げた。ヒギッ。一メートルほど飛んで、板張りにうつ伏せに倒れる。自分で注射するなんて僕は言った覚えはないのに。
勃起してしまう、このままでは勃起してしまう、だが、落ち着け、マジックショーは終わったのだ・・・・・・。僕は自分にこう言い聞かせた。注射されてしまったけど、最悪の事態は回避できた。少なくともステージ上で勃起を晒す事態にはならない。そう考えてなんとか自らを慰める。
野外ステージでは鷺丸君が司会の人とトーク中だった。鷺丸君はさすがに舞台慣れしている。軽妙な返しに観客が唸っている。
ともあれ服を、もう裸でいる理由はないのだから、何か着る物を、せめて裸体を覆う物はないかと周囲を探す。もしも台本どおりに回転扉の隠し部屋に入った時点で僕の出番が終わっていたら、そのまま倉庫まで運ばれて、そこで用意された衣類を身にまとうことができたのに、舞台袖ではそれも叶わない。あたりをきょろきょろ探していると、衣紋掛けにバスローブがあった。さっそく手に取ろうとすると、
「何してんだ、おめえは」
強い口調で咎められた。振り向くと、長髪長身の男の人が僕を睨んでいた。スタッフであることを示すシャツと紺色のズボンを身に着けているが、どちらも裾が短く、つんつるてんだった。これも一種のファッションだろうか。お臍を露出している点では全裸の僕と同じだ。男の体から、ふと硝煙の匂いがした。僕はおちんちんを隠したまま、「何か着る物がないかと思って」と、当然理解してもらえるはずの自分の行為を説明する。ところが、男の人は冷淡だった。
「それはだめだ、勝手なことするな」
「分かりました。ごめんなさい。あの、何か着る物はありますか」
「んなの、用意しなかったお前の手落ちじゃねえか。知らねえよ」
怖い目で睨まれ、僕は竦んでしまった。ステージの残っている鷺丸君が戻るのを待つしかないようだった。隅っこで目立たないように壁を向き、膝を抱えて座る。
僕の肩を叩く者があった。鷺丸君だった。
「司会者がお前を呼んでる。お前からも話を聞きたいんだって。俺と一緒にもう一度ステージに出てくれ」
「いや、僕はもういいよ。出たくない」
「そんなこと言うな。熱烈なカーテンコールなんだぞ。無視するのかよ」
「いやだったら。う、痛い、腕を放して。・・・・・・分かったよ。出る。出るから、何か着る物をお願い。バスローブか何か」
「ねえよ、そんなもん」
「じゃ、タオルでもいいから。ね、せめて腰の周りだけでも、お願い・・・・・・」
もう見世物になるのはいやだった。さんざん一糸まとわぬ体を晒してきたのだから、これ以上ステージに立ちたくなかった。
「うるせえな。お前、最初から素っ裸だったじゃねえか。そのまま素っ裸で行けよ。みんな、それを期待してんだからよ」
なんか鷺丸君、口が悪くなっている。おまけに目つきも冷たい。
「や、やだ。堪忍して」
鷺丸君はいやがる僕を無理矢理立たせると、マジシャンの鮮やかな手つきで素早く僕の両手に手錠を掛けてしまった。な、なぜこんな真似をする? 幸い、前で掛けられたので、おちんちんを隠すことはできた。しかし素っ裸で手錠とは、なんとも屈辱的な格好で、おちんちんを隠していても恥ずかしさで全身が赤らむ。そんな僕を鷺丸君は容赦なくステージへ引っ張り出した。
観衆の喝采、口笛、騒ぐ声がどっと押し寄せてきた。
「いらっしゃーい、はだかんぼくん」
マイクを持った司会のお姉さんが満面の笑みで僕を迎えてくれた。なんと、発明コンテスト出品物を並べたブースにいた女性スタッフだった。あの時は真っ白のワイシャツと紺のズボンという地味なスタッフ衣装だったのに、今は胸の大きく開いたノースリーブのボディコンドレスを着て、色気ムンムンだった。衣装が違うとこんなに若々しくなるのだろうか。二十二歳と言っても誰も疑わないだろう。倉庫内のブースでは三十五歳より下には見えなかったのに。
全裸のまま再び野外ステージに引き出されて、羞恥のあまり全身がカッと熱くなる。
「お姉さんの名前はね、キハラ、マリでーす。ねえ、わたし自己紹介したよ。次ははだかんぼくんの番だね。ねえ、はだかんぼくんの名前は?」
はだかんぼくん、という呼び方はいやだったので、僕はすぐに自分の名前を告げた。
「ナオスくんね、オッケー。こんにちは、はだかんぼくん、じゃない、ナオスくん」
ヒューと口笛が鳴り、侮蔑の忍び笑いがそこかしこで発生する。
木原マリさんはじっと足元を見つめる僕の顔を無遠慮に覗き込んだ。
「あら、ねえきみ、どこかで会わなかったっけ?」
自動洗体機に僕を送り込んで、さんざん性的刺激を味わわせた時の意地悪な瞳で問いかけてくる。僕は慌てて首を横に振った。木原さんは苦笑して、「そっか。じゃ、わたしの勘違いかな」と言った。
僕へのインタビューが始まった。司会の木原さんはまず鷺丸君の関係を訊ねた。クラスメイトと答える。鷺丸君はクラスでどんな存在かという質問には、直ちに「人気者で楽しいです。みんなに好かれています」と答える。事実とはかけ離れた回答をあえてする。なんとなくそう答えたほうがみなの期待に沿うように思えたからだ。本当は鷺丸君は目立たない生徒で友人も少ないし、マジシャンであることも、ほんの数人を除いては知られていない。
とにかく僕は一刻も早くインタビューを終えて舞台裾に隠れたかった。注射を打たれたおちんちんが熱を帯びて熱い。まだ反応はしていないようだ。どうか反応しないうちにインタビューが終わりますように。僕は心の中でそればかりを強く念じた。
木原マリさんは学校のこと、好きな教科とか、担任の先生はどうだとか、およそどうでもいいような質問を僕に繰り出した。素っ裸で手錠を嵌められている僕に、わざと日常的な質問を浴びせて、羞恥を煽ろうとしているのだろうか。
もしも当初の予定どおりメライちゃんが回転扉を出てマジックショーを終えていたら、僕がステージに呼び戻されてインタビューを受けることはなかった。今頃は倉庫で用意された服を着て、何食わぬ顔をして観衆に混じっていたはず。悔しい。
なぜマジックショーに出ることにしたの、と木原さんが聞いた。友達だから、と答えたのは、単純に口数を少なくして済ませたいからだった。
「でも、真っ裸で舞台に立つなんて、普通はなかなかできないわよ。よく決意したわね。恥ずかしくなかった?」
質問者である木原さんの目がキュッと細くなった。それはもちろん恥ずかしい。恥ずかしいに決まっている。でも、なんて答えればいいのか分からなかった。Y美に強制されて出演したと打ち明けることはできない。
少し考えて、恥ずかしいけど我慢した、と答えた。
注射を打たれたおちんちんが脈を打ち、少しずつ熱を帯びてきた。早く切り上げないと、まずいことになる。
いつのまにか鷺丸君が木原さんの質問に答えていた。
「でも、こうやっておちんちんを隠しているところを見ると、やっぱりこの子、恥ずかしがり屋さんなんじゃないかな」
「いや、そういう振りをしてるだけですよ。ほんとは裸を見られるのが大好きなんです、こいつ」鷺丸君はそう言って、うっすらと笑った。鷺丸君のくりくりした目が細くなって、普段の半分以下の大きさしかない。まずい、これは何か企んでる目つきだ。
「やだ、そんなことないでしょ。裸でいるのを恥ずかしがってるじゃないの」
ちゃきちゃきと木原さんが合いの手を入れて、「ねえ?」と僕に振る。振らなくてもいいのに。「ええ、まあ」ぼそりと顔を上げずに返す僕。くすくす笑いが厚みをもって聞こえてくる。早くステージを去りたい。いつまで僕は素っ裸で見世物になっていなくてはならないのだろう。
「ほんとのところはどうかな。今から三つ数えると、こいつは本当にしたいことをする」
「ほんとにしたいこと? 何それ?」
鷺丸君の意外な発言に木原さんも興味しんしんになる。
まあ見ててください、と前置きして左手を上着のポケットに入れると、鷺丸君は「いち、にい」と数え始めた。「さん」と叫んだところで、僕は異変に青ざめた。
なんと、おちんちんを隠している両手が上に引っ張られてゆくのである。
「嘘でしょ、い、いや、やめて」
両腕を突っ張るようにして抵抗する。でも無駄だった。手錠を掛けられた両手がすごい力で引っ張られてゆく。ああ、やだ・・・・・・。ついに隠していたおちんちんが露わになってしまった。どっと笑い声が大きくなった。
いつのまにか手錠に透明な釣り糸が結ばれてあったのだ。釣り糸はステージ上部の横木に通してある。おそらくマジシャン鷺丸君のポケットの中に小型の電動リールがあって、それで巻き取っているのだろう。ステージの幕が下りた短い時間にこんな仕掛けを施したとは知らなかった。
両手の自由を拘束する手錠が僕の頭上を超えてなお上がり、腕の伸び切る少し手前のところでやっと止まった。
「まあ、これはびっくりだわ」と、司会の木原さんが感嘆した。
「ね、これがこいつのほんとにしたいことなのです。つまり、おちんちんをもっと見てもらいということ」鷺丸君が両手を広げて言った。
「へえ、見てもらいたかったんだ。さすがマジシャン。人の心を読むのが得意ね」
感心する木原さんの横で、得意顔でうなずく鷺丸君。
せめてはおちんちんを股に隠そうと足を交差させるのだけど、ぷるんと震える小さなそれはなかなかうまく股に挟まらない。ついには木原さんに、悪あがきはやめなさいとばかり、太股をパチンと叩かれてしまった。
ヒィィ、大勢の観客がいるだけではない、テレビ中継までされているのだ。そんな舞台で一糸まとわぬ体を何もかも丸出しにしている。
すでにマジックショーでおちんちんを晒しているけれども、動きながらであったし、見せては隠すを繰り返していた。こんなに長い時間、両手を吊られた状態でおちんちんを見られ続けるのは、「もうどうせ何度も見られてしまったし」と諦めることで手懐けられる羞恥のレベルを超えていた。
「はい、脇の下までツルツル」と、鷺丸君が僕の露わになった脇の下の窪みを指す。ヒューと口笛が観客席のあちこちで鳴った。
「それはある意味当たり前よ。だっておちんちんがツルツルなんだから」と、今度は木原さんがおちんちんへの注視を観衆に促しながら、言った。
まずい、このタイミングで非常にまずい。おちんちんが熱い・・・・・・。
最悪の事態を回避しようと僕はくるりと後ろを向いた。数知れない観客やテレビカメラにお尻を向けることになるけれど、注射を打たれた反応があらわれつつあるおちんちんを見られるよりは、ましだった。
「どうしたの、お尻もみんなに見てもらいたいの?」
司会の木原さんが僕をからかう。
と、舞台袖からすすっとアシスタントの女の人が走り出てきて、観衆に背中を向けた僕の
前に来て腰を下ろし、くるりと僕の体を反転させた。ヒィ、いや、もうこれ以上おちんちんを晒したくない。必死に足を交差させて隠そうとするのだけど、それもなかなかうまくできず、観衆やテレビで見ている人には、僕が羞恥のあまり足をもじもじ動かしているようにしか見えないかもしれない。
「やだ、何これ、ねえ、見て」と木原マリさん。
少しずつ、しかし確実におちんちんは膨張しつつあった。薬剤の効果がとうとう現れたのだ。最低だった。勃起の過程をステージで観衆の視線を浴びながらテレビ中継されている。おちんちんは僕自身の意思とは関係なくどんどん硬度を増していく。
手錠を掛けられた手を引っ張っても、頭上で手首が手錠に食い込んで痛いだけで、勃起中のおちんちんを少しも隠せない。せめては腰をくるりと捻って後ろを向きたいところだけど、なんということか、背後でアシスタントを務める表情に乏しい女の人に腰をがっちり押さえられて、それもままならない。
とうとう最大限の大きさになってしまった。観衆はざわめき、木原マリさんも言葉を失ったようだ。さすがの鷺丸君も予想外の現象に目を丸くしている。
しばらくして、木原さんが「どうして」と素っ頓狂な声を上げた。「どうしておちんちん、大きくなっちゃったの?」
「さっき僕は言いましたよね」と鷺丸君が評論家のような口調になって言った。「こいつはチンチンを見せたがっていると。そこで本当にしたいことをするように僕が暗示をかけたら、見事に両手を上げて、隠していたチンチンをあっさり丸出しにした」
「たしかにー」ドレスの大きく開いた胸元から覗かせる胸をぷるんと揺らして、木原マリさんが頷いた。ちがーう、手錠に括った釣り糸で勝手に引っ張り上げてるだけだよお、と僕は心の中で叫んだ。
「こうしてこいつは心の中に潜ませていた願望を実現したのです。見事に望みどおりチンチンをみんなに見せることに成功した、テレビにもばっちり映っている」何言ってんだよ、鷺丸君よお、と僕は心の中で毒づいた。「僕がマジシャンとして、あなたが司会者として颯爽とした姿を放送されているのと同じ意味で、こいつは一糸まとわぬ体を露わにし、のみならずチンチンまで見せている、まさにこいつの望みどおりに。すると、性的な喜びを感じ、興奮してしまったらしいですね。これには僕もびっくりしたんだけど、チンチン見られて、性的に興奮しているようなんです。勃起はその証しです」
説明の締めくくりに、鷺丸君はおちんちんをピンと指で弾いた。アウウッ。
「見られて、興奮して、勃起しちゃったって言うの?」
目を丸くする司会の木原さん。その素朴な問いかけに観衆はどっと笑い声を上げた。
「そのとおりです。大勢の人にチンチンを見られて、興奮した。でなければ、突然のこの勃起が説明できません」
「なるほど、それもそうね。じゃ、こーんなことしても」と言って、木原マリさんはボディコンドレスの裾をまくって脚の付け根部分を露出した。彼女の大胆な振る舞いに観衆席から拍手が起こった。「この子にはあんまりサービスにはならないのね。お姉さん、がっかりだわ。見るよりも自分が見せることに関心があるなんて」
「そ、そんなことないです」
「かわいい顔して、変態さんなのね」
木原マリさんは納得し、今度は顔を真っ赤に染めて俯いている僕の顔を覗き込んだ。「ねえ、あなた、なんで勃起してんの?」
「わ、分かりません。もう許して。放して」
下腹部に密着するくらい上向いたおちんちんがたまらなく恥ずかしく、体をくねらせながら、僕は言った。勃起の理由について、本当はおちんちんに注射を打たれたから、と正直に言いたいところだけど、それを暴露したら大問題に発展してしまうだろう。激怒したY美やおば様におちんちんを切り落とされかねない。
「あなた、本当に見られて感じてるの? 性的に興奮しちゃったの?」
木原さんは隆々と起立するおちんちんを手に取った。「すごく硬い」観衆の笑い声。ゆっくりとおちんちんを押し下げていき、太股近くで、放す。アウウッ。おちんちんはバネのように勢いよく跳ね上がり、下腹部に当たってピシッと肉を打つ音を立てた。どっと湧く観衆。黄色い笑い声があちこちでヒステリックに響いた。
「そ、そんなことないと思います。分かりません、もう許して」
僕は腰をくねらせながら、喘ぎ喘ぎ訴えた。
「じゃ、なんでチンチン硬くしてんのよ」
木原マリさんはもう一度、おちんちんに手を伸ばした。「子供のくせに、いっちょ前に勃起するのね」観衆の中から、そうだ男の子だからボッキするぞーと野次が飛んできた。「そっか、そうだよね、ナオス君も男の子だもんね」木原さんは感心しながら、摘まんだおちんちんを今度は左右に揺すった。観衆から拍手が起こった。「硬いわ。元々ちっちゃなおちんちんだから、勃起してもせいぜいこの程度だけど、硬さは大したものね。成人男子のそれと比べても硬さだけは負けてないかもしれないわ」木原さんが甘い息をおちんちんに吹きかけた。「おまけにすごく熱いの、熱いわ。ちっちゃくても、ちっちゃいなりに、情熱がたぎってるのよ、このおちんちんには」潤んだ目をした木原さんは、おちんちんをますます激しく横に振って、車のギアみたいに、そして車のギアがうまく入らずにいらいらする初心ドライバーのように、おちんちんをいささか乱暴に前後左右にいじくり回した。
や、やめて・・・・・・。僕は両手を吊られた裸身を揺すり、腰を回すようにして悶えた。
「答えてよ。なんで、勃起してんの?」
「なんか、知らないけど、こうなっちゃったんです。もう許して」
木原マリさんはやにわに真顔になって、おちんちんから手を離した。
「原因もなく勃起するはずないじゃないの」と、突然パンチを繰り出す。
ヒィ、痛い。思わず仰け反ってしまう。木原さんの拳はおちんちんの下の袋に見事にヒットした。
「やっぱり見られて興奮してるんでしょぅが。ふざけた変態さんね。ここはあなたの性的な欲求を解消する場じゃないのよ。何を勘違いしてんのよ」
「ご、ごめんなさい」
いきなり叱られて、僕はわけが分からず謝った。
「早くチンチンを元に戻しなさいよ、この変態がッ」
それは無理。だって性的な刺激を受けて勃起しているのではないのだから。すべては注射のせいだ。でもそれを言うことはできない。
「もしかするとこいつは」と、今度は鷺丸君が言った。「勃起したチンチンを見て、みんなは喜んでると思ってるのかもしれませんね」
「たしかにそうかも。変態の人っていつもそうなのよ。相手は喜んでるって勝手に思っちゃうみたいね。レイプ魔が捕まった。そいつは警察に言い訳したそうよ、女は強姦されて喜んでるって。痴漢の常習犯が捕まった。そいつは言った、女は痴漢されて喜んでるって。これ、全部でたらめ、大ウソ、卑怯な思い込みに過ぎないの。そうやって自分の行為を正当化してるのよ。あんたも勃起したチンチン見せびらかして、女は喜んでるって思ってるんでしょ、ねえ、あんた」
話しているうちにヒートアップしてきた木原マリさんが夜叉の形相で僕に迫った。怖い、吊られた裸身を支える両足がぶるっと震える。
「いえ、けっして、そんなふうには・・・・・・」
「だったらとっととチンチンを元の大きさに戻しなさいよ、この変態野郎がッ」
は、はい、と叫んで、僕は目をつむった。しかし無理な相談だった。薬剤を注入されて硬くなったおちんちんを元に戻すには、ただ時間を頼むしかない。無論そんな理屈は通じないから、とにかく僕は腰を揺するなどして、なんとかおちんちんを元に戻そうと努力していると思われるように振る舞うしかなかった。しかしせっかくの振る舞いも、勃起が収まるという結果を導かなければ評価されない。木原さんの激した感情は鎮まらない。
「早く戻しなさい、なんで戻さないの。あんた、さっきも倉庫で勃起して、氷水に浸かってやっと元のふにゃふにゃチンチンにしたわよね」へえ、そんなことがあったんですね、と鷺丸君。木原さんの胸元にはピンマイクがあって、どんなささやきもすべて観衆に聞こえ、電波に乗った。「ここでは氷水に浸かることはできないから、こうするしかないわね」
激昂した木原さんは吊られた僕の体をくるりと回すと、平手で僕のお尻を叩き始めた。
いやだ、痛い、やめて・・・・・・。バシッ、バシッ、力いっぱい、お尻を叩かれる。
バシッ、バシッ、と連続して何発も叩き続ける。苦悶し、なんとか苦痛から逃れようとしても、アシスタントの眉の薄い無表情女子に両側から腰をしっかり押さえられて、裸身をくねらせることもできない。
ああ、もう勘弁してください。あまりの痛みに僕は涙をこぼしながら、訴えた。
アシスタントの女の人は、僕の正面に膝を落としているので、勃起したおちんちんがすぐ目の前にあるのだけど、表情ひとつ変えずに僕の腰に手を当て、押さえ続けた。
「これだけお尻が真っ赤になれば、おちんちんも元の大きさに戻るんじゃないかしら」
十発以上の平手打ちを食らって、じんじんと熱くなったお尻を撫でながら、木原マリさんが言った。「どうでしょう、乞うご期待」と鷺丸君。
木原さんは僕の体を反転させ、前向きにした。
「あらやだ、まだビンビンじゃないの」
木原さんが呆れて、肩をすくめた。観衆から盛大な拍手が起こった。
僕はまた後ろ向きにされ、お尻を平手打ちされた。
いやあ、やめて、痛い、痛い・・・・・・。
見られている、素っ裸でお尻を叩かれているところを、千人を超える観衆が。しかもテレビ中継までされている。
お尻だけではなく、おちんちんの袋にも木原さんの指先が当たった。なんという激痛。この理不尽な責めに僕は耐えられず、大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、悶えた。
「不思議ねえ、これだけ打ってるのに、まだ勃起したままだよ」
前向きにした僕の一糸まとわぬ裸身を眺めながら木原さんがため息をついた。おちんちんは依然として隆々と鎌首をもたげたままだ。
熱狂した観衆が手拍子で求めるたびに木原さんは僕を後ろ向きにしてはお尻をひとしきり叩き、勃起が収まったか、僕の裸身を回しては観衆とともに確かめた。
「なんでまだ勃起したままなのよ」
木原さんが絶叫すると、観衆から「まだ叩き足りないからだ」と声が上がった。「もう、こっちの手が痛くなっちゃう」木原さんは愚痴りながら僕の体を反転させ、観衆の声高なカウントに乗って、僕のお尻を平手打ちした。
そんなことを繰り返しているうちに、僕はもう意識朦朧状態になっていた。涎が垂れて、裸のお腹に落ちて、羞恥に赤く染まった肌伝いに股間へ流れていった。
「もしかすると、逆効果かもしれませんね」と、鷺丸君が言った。
「逆効果?」
「ええ、お尻を叩かれても、ちっとも収まらないでしょ」
そう言って鷺丸君は僕のコチコチのおちんちんを握り、揺さぶった。アウウッ・・・・・・。僕の口から漏れる途切れ途切れの喘ぎ声は、木原さんが差し出したマイクによってことごとく拾われてしまい、野外観客席のそこかしこで笑いや罵声を引き起こした。
「そうね、ほんとに不思議よね。なんで元に戻らないのかしら」
「それはこいつにとって尻炊きが快感だからですよ。触って確かめてみて。素っ裸のまま公開の場で尻を叩かれて、さっき以上にビンビンになってるから」
促されて、木原マリさんもまた上向きのおちんちんを握った。硬さを確かめるようにちょっと力を込めて握ると、考え込むように唸った。
「ほんとだ、さっきよりも硬くなってる」
うそだ、絶対にそんなはずはないのに、素朴に驚く木原さんであった。観衆からエエー、と驚きの声が上がる。
「マゾ・・・・・・、なのかしら、この子」
木原さんが軽蔑の念だけを純粋に伝えるような、冷たい視線で僕の顔を見つめた。
「そう、マゾってやつです。いじめられて、喜ぶんです」と鷺丸君。
「マゾね。お尻叩かれて、涙を流して喜ぶなんて、ますますおちんちんを硬くするなんて、わたしには理解できない」
木原さんはアシスタントの無表情女子にもおちんちんを掴ませた。そして、僕への嫌悪感を露わにした。そんなことはない。勃起したおちんちんの硬さに変化はない。お尻叩きで硬度が増すなどということはあり得ない。でも、僕はろくに言葉を発せられないくらい疲れ切っていた。「ごめんなさい、もう許してください」と哀訴を繰り返すばかりだった。あまりにも恥ずかしくて、悲しくて、涙が出てきた。
「やだ、この子、泣いてるよ。勃起しながら泣いてる。嬉し涙なの?」
木原さんが仰け反るようにして観客のほうを向き、呆れたという仕草をする。観客席から怒濤のような笑い声が返ってきた。
叩きすぎて手が痛くなった木原さんの代わりに、アシスタントの女の人が僕のお尻を叩いた。それだけでは飽き足らず、彼女は僕の腰に両手を添えてくるりと前に回すと、僕の乳首を抓った。
痛い、やめて、と僕は隠しようのない裸身をくねらせながら、訴えた。鎌首をもたげたおちんちんも腰の動きに合わせて揺れ、見る人たちを喜ばせてしまう。
ふたたび僕は後ろ向きにされ、テレビカメラや客席という客席を埋める観客に真っ赤に染まったお尻を晒した。パチン、パチンとお尻の肉を震わせる音がマイクに拾われて会場いっぱいに響く。
打つ手のひらとはだいぶ感触の異なる物体がお尻に当たった。観客席から水ヨーヨーが投げ込まれ、見事に命中したのだった。
当たった衝撃で水ヨーヨーは破裂し、お尻を濡らした。
びしょ濡れになったお尻を見て、木原さんが言った。
「あら、真っ赤なお尻を冷やしてくれたのね。親切な人がいるもんですね」
このとぼけた発言、僕にとっては最悪なことに、観客席の水ヨーヨーを持つ人たちには競技への誘いのように聞こえてしまったようだ。たちまち、水ヨーヨーが僕のお尻目がけてどしどしと投げ込まれた。
バシッ、バシッ、バシッ、と背中やお尻、太股に当たる。
当たると、当然ながら結構痛い。アウウッ、と呻いて、背中を反らすのが精一杯だ。
これをおもしろがる木原さんがアシスタントの女の人に僕の裸身を前向きにさせた。
「あ、だめ、やめて」と叫ぶもむなしく、ヒギィィ、言葉にならない激痛に吊られた裸身を波打たせた。
かなりの速度で投げられたひとつが依然として最大限の硬度を保つおちんちんに正面から当たったのだった。もう一つはその下のおちんちんの袋にぶち当たった。しかしこちらは割れずに跳ね返って床に落ちた。
痛みと恥ずかしさでしゃくり上げるばかりの僕の涙に濡れた顔をテレビカメラがしかと捉えている。どうせ次はビンビン状態のおちんちんをアップにするのだろう。
「あ、これは痛いな。痛いだろ?」と鷺丸君が笑いながら問う。
パチンとゴムの破裂する音がして、おちんちんはまるでパンツの中で射精したかのように濡れてつやつやしていた。
水ヨーヨーをぶつけられ、水をかぶっても、なおおちんちんは元のサイズに戻らない。木原さんは首を傾げながら、アシスタントの女性に尻叩きの続行を指示した。
とうとう僕は自分の口でマゾであることを宣言させられることになった。しかもしゃくり上げながら、だ。そうしないと、いつまでもこの恥ずかしい格好を晒したままお尻を叩かれるのだから、まったくやむをえなかった。
手錠の嵌まった両手を頭上で吊られた状態の素っ裸のまま、この野外ステージで、千人を超える観衆とテレビカメラを前にして、「ごめんなさい、僕はお尻を叩かれて喜ぶマゾです。それを大勢の皆さんに見ていただいて大変嬉しいです、嬉しくておちんちんがこんなに硬くなってしまいました」と、カンペを読まされた。木原さんが書いたものだ。
嗚咽して、何度もつっかえた。つっかえるたびにやり直しになった。そのあいだ、おちんちんはずっと立ちっぱなしだった。もちろん注射のせいで。
せっかく無事乗り切ったのに結局注射され、両手を吊るされて見世物にされ、メライちゃんやクラスメイト、母親にも見られたかと思うとやるせないですね。
狭い地域では社会的に死んだような状況で、さらに
最終章に至っておば様とY美が未だ出てこないのが不気味です。
この後来るであろうテロ組織の犯罪にナオス君がどう巻き込まれるのか引き続き楽しみにしています。
校庭を歩く制服のみっくんとフルチンのナオスくん
CMNMシチュも 恥ずかしくて惨めでドキドキしますね
特に鷺丸くんは巧妙にいやらしくナオスくんの自尊心を貶めてくるので 大好きなキャラです