電脳くおりあ

Anyone can say anything about anything...by Tim Berners-Lee

「痴呆」から「認知症」へ

2004-12-02 23:44:02 | 自然・風物・科学
 「痴呆」という表現には蔑視(べっし)的な意味が含まれ、「何も分からず、何もできない」との誤解を招きやすく、早期診断などを妨げる要因があるという理由で、「痴呆」に変わる名前を検討していた厚労省は、代わりの言葉として「認知症」を使う方向を決めたそうだ。漢字の意味から言えば、「痴」も「呆」もどちらも、「ばか」と言う意味があり、ぼけてしまった症状を見てつけた言葉だと思われる。「認知症」になったらから症状が変わるわけではないが、なんとなく病気の実態が分かるような気がする。
 ところで、一般的に「痴呆」というときは、「脳血管性痴呆」と「脳の変性によって起こる痴呆症」の2種類がある。後者には、アルツハイマー病、びまん性レビー小体病、パーキンソン病などがあるが、この場合進行がゆっくりしていて、「病気」だという認識がすぐに起こらないことに問題がありそうだ。「脳血管性痴呆」の場合は、急激に「痴呆症」になり、すぐに脳に異変が起きたと分かる。しかし、後者の場合は、少しずつ症状が進行していて、気がついたら完全に痴呆症になっていたということになりやすい。

 さて、現在、一番多いと思われるアルツハイマー病は、痴呆症の50%くらいを占めていると言われているが、病気のメカニズムはかなり詳しく解明されている。アルツハイマー病の患者の脳に、βアミロイドという物質が蓄積され、それが脳の神経細胞の情報伝達を妨げていることから起こると言われている。この研究で有名な、池谷裕二さんが『進化しすぎた脳』(朝日出版社)でその辺のことを詳しく触れている。池谷さんの本で興味深かったのは、科学の進んだ近代社会でアルツハイマー病がこんなに問題になるのはなぜかについてだった。人間という動物は長生きしすぎたんだと言う。

 自然淘汰というのは繁殖をターゲットにしてるのね。つまり、環境に有利な個体が子孫を残すか残さないかで決まる。でも、アルツハイマー病になるのは年をとってからの病気でしょ。そのときにはもう子孫を残しちゃっている。だから、自然淘汰ではアルツハイマー病は消えないんだ。それで、今の世の中でも、アルツハイマー病はこんなに大きな問題として残っているんだろうね。(『進化しすぎた脳』p343)

 これは、自然淘汰に反していて、人間は現代的な医療技術の発展のおかげで、本来なら排除されていた遺伝子を保存していることになる。要するに、人間は進化を止めたと言うことになる。その代わりに人間は「環境」を進化させていると池谷さんは言う。これまでは、生物は環境の変化に合わせて進化してきたが、人間は環境を支配し、自分に合わせて変えている。池谷さんはそれがいいことか悪いことかは保留している。しかし、科学者として必然だと言うことは認めているようだ。

 いずれにしても、ニューヨークの慶応義塾ニューヨーク学院高等部で池谷さんが行った脳科学講義の記録は面白い。彼が行っている研究や、最新の研究成果をとても分かり易く、説明している。脳科学の今が分かる。こんな授業を受けたら、私たちはもっと科学に興味を持ったと思う。
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