お茶の水女子大学の藤原正彦教授と作家の小川洋子さんの対談が本になった。二人の話と言うことになれば、これはもう、「数学は美しい」という結論になるに決まっているようなものだと思ったが、やはりその通りだった。小川洋子さんが『博士の愛した数式』でモデルにしたというか、参考にした数学者が藤原正彦教授だ。藤原教授は、この対談の中で、数学は役に立つということより、美しいということを盛んに強調されている。もちろんそれだけでなく、この広い宇宙の中で異星人と会って、話をするとすれば、数学だけが唯一の共通の記号になりうると言うことも主張され、その論理の普遍性を強調している。
現在学校教育では、数学や理科の大切さが強調され、生活に役立つとか、必要であるということが言われている。本当は、数学や理科が強調されるのは、もっと先端的な分野での話であって、数学や理科の裾野が狭くては、トップの数学的な力、科学的な力も伸びないということで、日本の先端技術の世界の危機が叫ばれているのだ。だから、この場合も、数学や科学は目の前の生活にすぐに役立つようなものではないに決まっている。二人の話では、数学の発展する原動力は、美に対する感覚であり、美しい解法に対する感覚が大事であり、そうした美しい数学が理解できれば、自然と数学が好きになると言う。
藤原教授は、新潮選書から『天才の栄光と挫折』というとてもおもしろい本を出しているが、お父さんが新田次郎で、お母さんが藤原ていであることを初めて知った。美しいものに対する愛は、多分二人から教わったに違いない。小川さんは、NHK教育テレビの人間講座で「天才の栄光と挫折」というテーマで話された内容に惹かれたのが、『博士の愛した数式』を書くきっかけだと言う。
ガウスは『博士の愛した数式』で登場する三角数を使った方法で、「1から100までの自然数の和」の計算をしたけれども、藤原教授はそれとは違った独特な方法でやられたので、父親からほめられたようだ。私には、1から10までを紙に書いて、並べて考えていた藤原少年の姿が目に見えるようだ。藤原教授は、天才というのは計算を面倒だと思わないといっているが、そうした、計算したり、その結果をじっと眺めてみたりという実験・観察が美しい解法を見つけさせてくれるらしい。どうやら、私たちは、そうした数字をもう少しじっと眺めて見たり、いろいろな数字で計算してみたりして、その数字と遊んでみる必要がありそうだ。
小川さんも多分、そうして数字と遊んだ結果、江夏の背番号28が完全数であることを発見したのだと思う。完全数というのは、「約数を全部足すと自分自身になる」という数字のことだ。いちばん小さいのが6で、これは、約数は1、2,3で、1+2+3=6となる。その次が、28で、約数は、1、2、4、7、14で、1+2+4+7+14=28であり、これはまた、1+2+3+4+5+6+7=28というようにも書ける。そして、小川さんは、この江夏の背番号が28でそれが完全数であることを発見したことが、この小説をかく山だったといっているが、それはとてもよくわかる気がした。
それにしても、この二人の対談を読んで、数学というものの面白さと、その面白さを知るために数字と遊ぶことの重要さを知らされた。数字というものをいろいろ並べてみて、計算したり、数えてみたり、つまり、実験と観察をしてみるというのは、とてもおもしろそうだ。毎日の繰り返しのドリル学習もいいけれど、たまにはこうして、数字を書き並べて遊んでみることも必要だと思う。それは、きっと、子どもも大人も楽しくなるに違いない。新しい美の発見にもなるはずだ。
現在学校教育では、数学や理科の大切さが強調され、生活に役立つとか、必要であるということが言われている。本当は、数学や理科が強調されるのは、もっと先端的な分野での話であって、数学や理科の裾野が狭くては、トップの数学的な力、科学的な力も伸びないということで、日本の先端技術の世界の危機が叫ばれているのだ。だから、この場合も、数学や科学は目の前の生活にすぐに役立つようなものではないに決まっている。二人の話では、数学の発展する原動力は、美に対する感覚であり、美しい解法に対する感覚が大事であり、そうした美しい数学が理解できれば、自然と数学が好きになると言う。
藤原 数学とは当面何の役にも立たないが、後生になって非常に役立つこともある、という奥床しい学問なんです。ただ価値は高い。人間には感激したいという深い欲求があり、それを満たしてくれるのは、美しい自然は別格として、数学や文学をはじめとする文化や芸術以外にあまりないですからね。(『世にも美しい数学入門』ちくまプリマー新書p23・24)
藤原教授は、新潮選書から『天才の栄光と挫折』というとてもおもしろい本を出しているが、お父さんが新田次郎で、お母さんが藤原ていであることを初めて知った。美しいものに対する愛は、多分二人から教わったに違いない。小川さんは、NHK教育テレビの人間講座で「天才の栄光と挫折」というテーマで話された内容に惹かれたのが、『博士の愛した数式』を書くきっかけだと言う。
小川 藤原先生は、どういうことがきっかけになって、数学に魅力を感じられたんですか。
藤原 やっぱり、解けたときの喜び、そして、解いたらほめられる喜びですね。小学校三年生のとき、父が「1から10まで足すと幾つか」って問題を出してくれたんです。順番に足して55って言っても、絶対にほめられないのはわかっている。僕はほめられることが何より好きな人間なので、一時間考えて、「1から9まで並べると真ん中に5がくるから、5×9=45となる。それに残しておいた10を足して55だ」と答えたら、父が驚いて「すごい!」ってほめてくれた。その後しばらくして、私は数学者になろうと思ったんです。
(同上・p90)
ガウスは『博士の愛した数式』で登場する三角数を使った方法で、「1から100までの自然数の和」の計算をしたけれども、藤原教授はそれとは違った独特な方法でやられたので、父親からほめられたようだ。私には、1から10までを紙に書いて、並べて考えていた藤原少年の姿が目に見えるようだ。藤原教授は、天才というのは計算を面倒だと思わないといっているが、そうした、計算したり、その結果をじっと眺めてみたりという実験・観察が美しい解法を見つけさせてくれるらしい。どうやら、私たちは、そうした数字をもう少しじっと眺めて見たり、いろいろな数字で計算してみたりして、その数字と遊んでみる必要がありそうだ。
小川さんも多分、そうして数字と遊んだ結果、江夏の背番号28が完全数であることを発見したのだと思う。完全数というのは、「約数を全部足すと自分自身になる」という数字のことだ。いちばん小さいのが6で、これは、約数は1、2,3で、1+2+3=6となる。その次が、28で、約数は、1、2、4、7、14で、1+2+4+7+14=28であり、これはまた、1+2+3+4+5+6+7=28というようにも書ける。そして、小川さんは、この江夏の背番号が28でそれが完全数であることを発見したことが、この小説をかく山だったといっているが、それはとてもよくわかる気がした。
それにしても、この二人の対談を読んで、数学というものの面白さと、その面白さを知るために数字と遊ぶことの重要さを知らされた。数字というものをいろいろ並べてみて、計算したり、数えてみたり、つまり、実験と観察をしてみるというのは、とてもおもしろそうだ。毎日の繰り返しのドリル学習もいいけれど、たまにはこうして、数字を書き並べて遊んでみることも必要だと思う。それは、きっと、子どもも大人も楽しくなるに違いない。新しい美の発見にもなるはずだ。