長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『アースクエイクバード』

2019-11-20 | 映画レビュー(あ)

 英国人作家スザンナ・ジョーンズの同名小説を映画化した本作は配給を手掛けるNetflixにとって打ってつけの企画だ。舞台は1989年の東京、主人公はスウェーデンからやってきたルーシーという若い女性で、謎めいた日本人フォトグラファー禎司と知り合い、やがて恋に落ちる…。

製作はリドリー・スコット。89年と言えば日本を舞台にした代表作『ブラック・レイン』の公開年でもある(劇中、翻訳者のルーシーは『ブラック・レイン』の字幕を付けている!)。かつて『ブレードランナー』で東西の文化が混在する未来都市像を描いた巨匠も現在の東京にはあまり面白味を感じていないらしく、プロダクションデザイナー種田陽平によって再現された一昔前の猥雑さが残る東京は在住者としても面白く見れた。

原作者ジョーンズは日本に数年、滞在していたという事で、日本における外国人女性の描写には説得力がある。道を歩けば好奇の目に晒され、「どうせ日本語はわからないだろ」と面と向かって侮辱を受ける。そしてこの生きづらさは外国人に限らず、今もなお日本に住む全ての女性が抱えているものと変わりないだろう。

ルーシー役にはオスカー女優アリシア・ヴィキャンデルが扮する。流暢な日本語で長回しの繊細な感情表現まで披露する多才ぶりだ。
彼女が蕎麦をすすり、振袖を着て、居酒屋でビールを飲むという珍しい絵が連発する映画なので、ファンとしては何とも嬉しい。キャリアを見回しても、意外や単独主演の現代劇がほとんどなく、そういった意味でも希少価値の高い1本である。

そんな彼女の相手役にEXILEの小林直己。今年は『ラスト・クリスマス』でマレーシア出身のヘンリー・ゴールディングがエミリア・クラークの相手役を務めており、アジア系俳優がハリウッド女優の恋の相手を演じる新たな時代の到来である。劇中唯一の白人男優となるジャック・ヒューストンが気の毒に思えるほど小林はスラリとして見栄えが良く、謎めいた東洋人男性として世界中の注目を集めるのではないか。

謎解き、犯人探しは映画の主眼ではなく、故郷を離れ、東の果てで自分を見つけるヒロインの“ロスト・イン・トランスレーション”である。映画を通して異文化を紹介し、その結節点となるNetflixらしい映画だ。


『アースクエイクバード』19・米
監督 ウォッシュ・ウエストモア
出演 アリシア・ヴィキャンデル、ライリー・キーオ、小林直己、祐真キキ、ジャック・ヒューストン

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