第二次大戦末期、首都ベルリンを目指してドイツ本土に侵攻した連合軍戦車部隊を描く戦争アクション映画。POV手法によって刑事バディ映画に迫真のリアリズムを持ち込んだ『エンド・オブ・ウォッチ』で知られるデヴィッド・エアー監督の本格志向が、映画史に決して多くはない“戦車映画”に新たな金字塔を打ち立てた。僕は特段、兵器マニアではないが、それでも最強と謳われたドイツ軍ティーガー戦車対連合軍シャーマン戦車の対決は物珍しさも手伝って大いに目を見張らされた。唯一の弱点である後部を突くため互いの背中を狙っていつしか輪舞のように回る様はさながら死の舞踏だ。レーザー光線の如くきらめく曳光弾、全国民が決死隊となったドイツ本土の緊迫。炎に包まれた兵士は自ら頭を打ち抜き、主役級の登場人物はロクに言葉も残せずに死んでいく…。感傷もヒロイズムも誇張も一切排除され、戦争の残酷さが突き詰められた。
その最もたる過酷は中盤、思わぬ所で描かれる。ドイツ寒村を占拠したウォー・ダディ軍曹は窓辺に女の姿を見るやズカズカと上がり込む。そこにはやや年かさの女と、若く美しいその従姉妹がいた。言葉がわからず怯える彼女らを労わる事なく、軍曹は体を拭かせ、ノーマン新兵へ言う。「おまえが抱かないならオレが抱く」。ノーマンも娘も抵抗する事なくおずおずとベッドルームへと消えていく。
戦後70年、当時を知る人が少なくなり、かつての戦争行為そのものが存在したのかとのたまう歴史修正主義者が跋扈する昨今、僕らはこのわずかな描写に戦争に負けた者、占領された者が背負った絶望を見るのである。実際には何も起きずとも、女達が自らの命と身体を諦めた事もあったのではないか。やがて小隊が詰めかける神経衰弱ぎりぎりの食卓シーンにエアー監督はかなりの時間をかけ、観る者を追い詰めていく。これでも戦争をやりたいのか?と。
戦争映画の傑作はキャストアンサンブルも秀逸だ。ブラッド・ピット以下、ノーマン役ローガン・ラーマン、そしてシャイア・ラブーフがいい。近年、伸び悩んだ印象のラブーフだが、“聖書を吟じる兵隊”というオイシイ役で凄味を感じさせた。アカデミー賞には絡めなかったが、この年を代表する“反戦映画”である。
『フューリー』14・米
監督 デヴィッド・エアー
出演 ブラッド・ピット、シャイア・ラブーフ、ローガン・ラーマン、マイケル・ペーニャ、ジョン・バーンサル
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