長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『エターナルズ』

2021-11-19 | 映画レビュー(え)

 正直、最近のMCUには少しウンザリしていた。フェーズ4のセットアップに1シーズンを費やし、キャストも演出もまるで冴えなかったTVシリーズ『ロキ』『ブラック・ウィドウ』『シャン・チー』も70点は必ず出せるマーベル方程式に則った作劇に過ぎず、観客を飽きさせないために次から次へとアクションを発生させていく忙しなさには(普段、こんなことは言わないが)「これが映画なのか?」という思いを抱かずにはいられなかった。それでも市場はMCUを歓迎し続け、現にコロナ禍において観客を劇場へ呼び戻す起爆剤の役目を果たしており、批評家も高品質のエンターテイメントを供給し続けるマーベルに寛大とも思える好評を寄せている。

 それ故に本作がオープニング興行収入こそ大ヒットを記録したものの、観客からも批評家からも渋い顔をされている現象は非常に興味深い。『エターナルズ』はMCUが存続していくためにも、僕達がMCUを見続けるためにも、そしてディズニーが2020年代にグローバル市場で映画を創り続けるためにも避けては通れない重要な1本だ。『ノマドランド』でアカデミー作品賞、監督賞を制したクロエ・ジャオによる本作はこれまでのMCU作品とは明らかに異なる。深宇宙からやって来た異星人エターナルズは7000年もの時を流浪する永遠人であり、ジャオは『ザ・ライダー』『ノマドランド』同様、荒野に普遍の神話を求め、MCUに暮れ落ちる陽光と吹き抜ける風を刻印した。荒野に生きる無名の者達に自身の物語を演じさせ、それをフィルムに収めることで“永遠”を創ってきたジャオだからこそ数あるスーパーヒーローの中から永遠の時を生き、人間の営みを愛するエターナルズを選んだのではないか。こんな作家主義のMCU映画がこれまで何本あっただろうか?方程式にはない作家性がMCU映画に神秘性をもたらしており、ここでは回想を多様した作劇の不備など些細なことに過ぎない。ケヴィン・ファイギもこの新風を求めたからこそ『ザ・ライダー』の時点でジャオを抜擢したのだろう。

 そして『エターナルズ』はスーパーヒーロー映画というよりも群像ドラマだ。ビル・スカルスガルドが扮しているヴィランは背景に過ぎず、10人の超人達の葛藤、対立、対話に焦点が当てられている。これまで素人に自分自身を演じさせてきたジャオのメソッドが、本作では国際色豊かなオールスターキャストの過去作やパブリックイメージから成っており、撮影現場でも演じるのではなく“自分自身でいる”事を求められたという。リチャード・マッデン(映画スターの華が出てきた)は『ゲーム・オブ・スローンズ』よりも『ボディガード』に近く、方やキット・ハリントンは今回も“何も知らない”。コメディアン出身のクメイル・ナンジアニがジャオの偏愛する『幽遊白書』オマージュまで託されるコミックリリーフを担えば、マ・ドンソクはハリウッドに行ってもやっぱり“マブリー”だ。アンジェリーナ・ジョリーが格違いのスターオーラを発揮していよいよキャリアの新たなフェーズに入れば、ブライアン・タイリー・ヘンリーはこれまでにない柔和な表情を見せて新境地である(これが彼の素なのだろうか?)。そしてジェンマ・チャンがフロントラインに立つことは『シャン・チー』同様、僕らアジア系にとっても意義深いだろう。あらゆる人種から聾者、ゲイと多様な顔ぶれが揃ったキャスティングはこれからの時代のニュースタンダードとしてディズニーとって重要なマイルストーンである。

 MCUが今後、『エターナルズ』の挑戦をどれだけフォローアップするのかは見当もつかないが、少なくとも僕はこれからも見続けられる確信が持てた。今後、ますます複雑化し、“一見さんお断り”になる以上、よりシネマティックな進化が期待される。


『エターナルズ』21・米
監督 クロエ・ジャオ
出演 リチャード・マッデン、ジェンマ・チャン、サルマ・ハエック、アンジェリーナ・ジョリー、クメイル・ナンジアニ、マ・ドンソク、バリー・コーガン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、リア・マクヒュー、ローレン・リドロフ、キット・ハリントン

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