長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『X』

2022-08-21 | 映画レビュー(え)

 『ウィッチ』『イット・カムズ・アット・ナイト』『聖なる鹿殺し』『ヘレディタリー』『ミッドサマー』『ライトハウス』など作家主義ホラーレーベルとして定着した感のあるA24が、またしてもユニークな作品をリリースだ。『悪魔のいけにえ』を思わせるおよそ2022年の映画には見えないルックの『X』は、ポルノ映画の撮影隊がロケ地であるテキサスの農場を訪れる。そこには何やら怪しい老夫婦が住んでいて…とあとは説明不要のあらすじだ。しかし、その恐怖の根源には思いがけないアイデアが込められている。

 老婆パールはその昔、将来を嘱望されたダンサーだった。しかし夢破れ、夫と共にこの辺鄙な農場に訪れる若者たちを殺しながら、やがて朽ち落ちていった。方や主人公マキシーンはリンダ・カーターに憧れ、彼女のようなセックスシンボルになるべく田舎を飛び出してきた生命力にあふれる若者だ。彼女らに共通するのは思い描いていた人生を送ることなく年老いる事の恐怖であり、パールはマキシーンの若さよりも秘められたその気質に執着する。いわば表裏一体とも言える2人を、ミア・ゴスが1人2役で演じていると知っても映画の楽しみを損なうことにはならないだろう。ゴスは戦後のベルリン(『サスペリア』)だろうが、ジェーン・オースティン原作だろうが(『エマ』)、変わらず眉毛のない独特のルックでマキシーンを大胆に演じ、方や老婆の動きには独自のフィジカルセンスを込め、まさに“X Factor”な女優である。パールの若き日を描くという前日譚『Pearl』の予告編も既に公開されており、こちらはさらに本領発揮の怪作になっている様子だ。

 作家主義ホラーはややユーモアに乏しいきらいがあるものの、本作に登場する“ふしだら”とされる若者たちは老人が困っていれば声をかけ、手を差し伸べるイイ子たちばかりというお約束の裏返しが可笑しく、「はぅあ、心臓が!」なんて漫画みたいなギャグも出てくる。ミア・ゴスをサポートする成長株ジェナ・オルテガ嬢のスクリーミングクイーンぶりが天晴れだったことも付け加えておきたい。


『X』22・米
監督 タイ・ウェスト
出演 ミア・ゴス、ジェナ・オルテガ、マーティン・ヘンダーソン、ブリタニー・スノウ、オーウェン・キャンベル、スティーブン・ユーア、スコット・メスカディ

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