長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『フェアウェル』

2020-10-15 | 映画レビュー(ふ)

 ブラックムービーやネオウーマンリヴ映画の躍進によってハリウッドが急速に多様性を増している昨今、アジア系の台頭も著しい。正統派クロエ・ジャオは新作『ノマドランド』でヴェネチア映画祭金獅子賞を獲得し、マーベルはそんな彼女を超大作『エターナルズ』で一本釣り。昨年は韓国映画『パラサイト』がオスカーを制し、同年の賞レースを賑わせたルル・ワン監督による本作『フェアウェル』はやはりアジア系キャストで大ヒットを記録した『クレイジー・リッチ!』のB面とも呼びたくなる作品だ。

  幼い頃に中国からアメリカへ移住した主人公ビリーは大好きな祖母ナイナイの重病を聞き、帰郷する。中国には余命宣告をする文化がなく、残り3か月の命を伝えることができない。アメリカ育ちのビリーには全く受け入れられない考えだが、家族は最後に良い思い出を作ろうと従弟の結婚式を催す。

 小さな物語の中で東洋と西洋が合流し、大きなうねりを生み出す。ビリーは幼少期に中国を離れたため読み書きができない。かと言ってアメリカでは仕事に就く事もできず、未だ両親のすねかじりだ。どちらの文化にも引かれながらどちらの国にも居場所がない…そんな虚ろな心象を黙して見せる主演オークワフィナが俳優としての実力を証明し、早くもゴールデングローブ賞に輝いた。祖母への想いと葛藤を秘めた佇まいは絶品だ。

 このアイデンティティの揺らぎはアメリカに生きるビリーら多くの移民2世が抱える想いだろう。本作はほぼ全編が中国を舞台に展開するが、主題はアメリカに住む中国移民であり、哀しさをユーモアに変換するルル・ワンの語り口は昨今、TVシリーズで主流となったシリアス要素の強いコメディ“ドラメディ”のナラティブだ。配給はまたしてもA24が手掛け、その輝かしくエッジィなレーベルに新たな名作を加わえた。自分らしさに悩む多くの若者に見てもらいたい。きっと自分の“現在進行形”が見つかるだろう。

 ナイナイは家族の嘘に気付いていたのではないか?既に夫を病気で亡くした彼女もまた優しい嘘をついたのだ。エンドロールではこの嘘についての物語がルル・ワンの体験した思いがけない事実から生まれた事がわかる。あぁ、僕もおばあちゃんに会いたいな!


『フェアウェル』19・米
監督 ルル・ワン
出演 オークワフィナ、ツィ・マー、チャオ・シュウチェン
 

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