長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『野生の島のロズ』

2025-02-15 | 映画レビュー(や)

 ディズニーの寡占により、多様性とは程遠く思えるハリウッドのアニメーション市場。そんな中、『リロ・アンド・スティッチ』でブレイク後、ドリームワークスを拠点とするクリス・サンダース監督は今や頼もしい名匠の1人だ。『ヒックとドラゴン』シリーズで名を知られる彼の新作はピーター・ブラウンの『野生のロボット』を原作に、無人島へ漂着した1体のロボットが主人公。海辺で目覚めたロボットには高度なAIが搭載されており、彼女(そう、女性である!)は自然環境に適応すると動物の言葉すら解せるようになっていく。

 ハリウッドでは映画の内外問わず敵扱いされるAIだが、ここで描かれるのは初めての子育てだ。とある事故をきっかけにロボットは渡り鳥のヒナを育てることになる。教科書通りに進まないのが子育てであり、自分1人ではとてもままならず、また自身も子どもから学んでいくものだ。ロボは“ロズ”という名前と共に、やがて母性も獲得していく。AIに魂を与えるルピタ・ニョンゴ、ニヒルな狐の“チャッカリ”役でイメージを刷新するペドロ・パスカル、そしてジェダイよりも声優としてキャリアを研鑽してきたマーク・ハミルらボイスキャストが素晴らしい。

 島にとってロズが移民ならば、弱肉強食の野生は対立と分断のアメリカだろうか。子育て、コミュニティ、AI、さらには山火事まで102分間にテーマが詰め込まれすぎたきらいはあり、『ヒックとドラゴン』であれほどガマン強かったサンダースの演出も忙しない。水没したゴールデンゲートブリッジのランドスケープに、本作は環境問題まではらんでいることがわかるが、同じくオスカー長編アニメ賞部門で争う『Flow』の物言わぬ猫たちを見た後では、いささか口数が多すぎるように思う。

 しかし、『野生の島のロズ』にはあらゆるテーマとそこから湧き起こるエモーションを呑み込む力技のストーリーテリングがあり、大スクリーンを埋め尽くす映画的モーメントには心揺さぶられずにはいられない。CGアニメの本領発揮とも言うべきロズの精緻なメカニカルデザインと、感情のまま塗られたかのようなブラシの描線が残る背景画の共存は新鮮だ。『野生の島のロズ』は多くを語る瞬間よりも、アニメーションならではの根源的な絵の力が観る者に感動をもたらすのである。


『野生の島のロズ』24・米
監督 クリス・サンダース
出演 ルピタ・ニョンゴ、ペドロ・パスカル、キット・コナー、ビル・ナイ、ステファニー・スー、マーク・ハミル、キャサリン・オハラ、マット・ベリー、ヴィング・レイムス

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