1作毎に演出力を上げてきたフランスの俳優監督メラニー・ロランの第9作目はヴィクトリア・マスの小説『狂女たちの舞踏会』の映画化だ。ヴィクトル・ユーゴーが亡くなった1885年から始まる本作では、精神病院に収容された女たちが筆舌に尽くしがたい虐待を受けていた事実が基にになっている。ロランは肉体と精神の自由を奪われた時代を通じて、現在を生きる女性たちの解放を描くのだ。
主人公ウジェニーはブルジョワ家庭で生まれた育った令嬢だが、その自由な意思と明晰さが強固な父権社会に相容れるはずもなく、鬱屈した日々を送っていた。彼女には時折、発作のように霊と交信することのできる霊媒の力があり、それが家族を恐れさせ、ついには精神病院へ送られてしまう事になる。
この時代を生きる女性たちに課せられたのは男性規範の社会において“わきまえる”ことであり、そこからはみ出した者達は抑圧され、心を病み、狂気に陥る者もいた。ウジェニーもまた治療とは名ばかりの虐待を受け続けるが、誰ひとり彼女の内心の自由と反抗を挫くことはできない。ロランの監督ブレイク作『呼吸 友情と破壊』で見出されたルー・ドゥ・ラージュがウジェニーに扮し、主演女優として目覚ましい成長を遂げている事に驚かされた。彼女の持つ主演スターの華が危うくも美しいウジェニーの反骨を彩るのだ。
他人が知るはずのない秘密を言い当てるウジェニーの霊媒に触れ、婦長のジュヌヴィエーヴも心を開いていく。システムに組み込まれ、“わきまえて”きた彼女の心の内には死別した妹とのわだかまりが遺り続けていた。自身の監督作では裏方に徹してきたロランがここでは実質上のダブル主役と言えるジュヌヴィエーヴに扮しており、女優としてのキャリアも更新している事に“俳優監督”としての充実を見る事ができる。身体の自由を持ちながら、その心を殺し続けてきたジュヌヴィエーヴの解放こそ、本作の真なるクライマックスだ。
『社会から虐げられた女たち』21・仏
監督 メラニー・ロラン
出演 ルー・ドゥ・ラージュ、メラニー・ロラン、エマニュエル・ベルコ
ルールからはみ出たものは抑圧される、今の社会も変わりないように思います。
虐待ではないけど、いじめや無視といったことが起きるのも考えさせられますね。
社会の不寛容さとそこから自由である事の尊さが描かれている映画でした。