ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

『ザリガニの鳴くところ』

2023-01-28 11:32:06 | 

久しぶりに読み応えたっぷりの長編小説を読みました。

一応ミステリーなのだけど、これはもうジャンルを超えた大きな物語で、しかも、ページを繰る手が止まらなくなるのほど面白い。

著者はディーリア・オーエンズ。動物学者でアフリカで暮らしていた時期もあるそうです。私と同世代。しかもこれが最初の長編小説だというからすごい。

物語の舞台は、アメリカのノースカロライナ州の沿岸にある湿地。

この湿地の情景描写が実に美しい。全編通して自然が本当に豊かに語られます。それに比べて人間のおぞましさもトコトン描かれます。

酒乱の父のせいで、家族が次々去っていく中、たった一人残された少女カイアは湿地の自然の中でたくましく生きていきますが、町の人たちは彼女のことを「湿地の少女」と呼んで蔑み差別します。

物語は、湿地でチェイスという青年の死体が発見されるところから始まります。

彼は火の見櫓から転落したと思われるが、事故死なのか他殺なのか・・

町の人たちは湿地の少女と呼ばれるカイアが犯人だと決めつけ、裁判に持ち込まれます。

この事件と、カイアが6歳にして家族に去られ、たった一人で湿地で暮らし始めてからの経緯が交互に語られます。

日本でもDVは珍しくないけれど、アメリカの男たちのDVはすさまじく、背後には戦争の影もちらつきます。

すさまじい父の暴力に耐えかねて、家族は次々と去っていく。姉たちが去り、母が去り、最後まで残った年の近い兄のジョディも去り、カイアはたった一人父親の暴力に怯えながら暮らしていますが、その父も去っていき、ついに6歳という年齢で、たった一人で湿地の小屋で生きていかなくてはいけなくなる。

この父親の暴力がすさまじくてね、後にカイアの恋人になるチェイスもまた酒乱で女に暴力を振るう男でした。

しかし、カイアは湿地の自然の中で暮らしながら、自然を観察し、人間たちの行動もまた動物たちの暮らしぶりと変わらないことを学びます。

学校に行かなかったカイアに文字を教え、本を読むことを教えたテイトは唯一人カイアの友人だったけれど、テイトも途中で大学に行くためカイアのもとから去っていきます。

(他にも黒人のジャンピンやメイベルといった彼女の味方もいるにはいるけど少数派)

しかし、彼女は様々な困難にもめげず、ほとんど野生の本能で湿地の中で一人で生きていきます。

カイアの物語と裁判の法廷ドラマが交互に語られ、後半はもう手に汗握る展開となります。果たして、カイアは有罪で死刑になるのか、それとも無罪で釈放されるのか・・

そして、最後の最後に大きなどんでん返しがやってくるという仕掛けは本当にすごい。

久しぶりに重厚な小説を読んだなあと満足感に浸りました。

自然や人物の描写も見事で、ストーリー展開も見事な読み応えのある小説です。

これ、映画化もされていて、YouTubeで予告編など見れるのですが、映画より小説のほうが圧倒的にいいと私は思います。

でも、映画も見てみたいなあ。

カイアが暮らしたノースカロライナの湿地の風景、野生動物たちの営みの描写が本当に美しく、長い物語なのだけど決して冗長ではなく、読み終えるのがもったいないと思える小説でした。

まだまだ面白い小説ってあるのねえ、と思いました。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする