「侍タイムスリッパー」は江戸時代から現代にタイムスリップしてきた話ですが、
少し前(2009~2011年)に一世を風靡したTVドラマ「JIN-仁-」は現代の外科医が江戸時代にタイムスリップする話です。
観た人も多いと思いますが、今Netflixで全話観ることができます。
TVで放映されていた頃、私はエモすぎる音楽とお涙頂戴のストーリー展開についていけず、途中で見るのをやめたのですが、改めて全話観てみると、なかなか凄い話ではありませぬか。
これは、TVで回を追って少しずつ見るより、一気に見通すことでわかってくる部分が多いストーリーだと思いました。原作漫画なら一気読みといったところかな。
エモいバックミュージックもしまいには気にならなくなります(それでもあのベタさ加減はどうなんだろうと今も思うが。もうちっと何とかならんのか?)。
ともかく、現代から江戸の幕末期にタイムスリップして庶民の病気やケガを治療し、同時に当時の政変にも巻き込まれていく主人公南方仁の人生は、非常に見ごたえのあるものでした。
ドラマの中ではやっぱり坂本龍馬がいいよねえ。実際の彼がどうだったかはともかく、内野聖陽演じる坂本龍馬がいい! もう一人の主人公といってもいいほど。内野聖陽の演技が素晴らしい。
史実はともかく、南方仁は高坂新左衛門同様、たった独りで着の身着のまま突然わけもわからぬ時代に紛れ込み、そこで生きていくことを強いられる。その孤独と恐怖はいかばかりだったろうと想像できます。
現代でいえば、海難事故で一人生き残り、未開の島に漂着し、その島で現地の人たちと共に生きていく漂流譚として捉えることもできるかもしれません。
しかし、そこで彼に生きることを強いたのは彼の医者としての誇りと実力でした。高坂新左衛門の場合は剣術ですね。
人にはそれぞれ得意とするスキルがあるもので(誰にでも何らかのスキルはあります)、それを生かして生き残る、という話でもあります。
しかし、根本的に問われるのは「人間性」でしょう。
南方仁の「人を助ける」という基本的な姿勢、そして坂本龍馬の天性の楽天主義と機転の利く弁舌。
これらが相まってバディモノのような痛快な爽快感をもたらします。
人間、やはり基本が大事よね、と思う。
そして、この時代に転生して医術を通して人々を助けた南方仁は、ある意味、救世主のような人物だったのかもしれない。動乱期には救世主が現れるものなので。
脇を固める女性陣もいい。橘咲がいい、野風もいい、咲の母上も武士の妻としての誇りを貫き通して見事です。
というわけで、登場人物たちがそれぞれいいのです。
でも、結末は、あれはどうなの?とちょっと思った。
つまり、一種の「夢落ち」じゃないのか?
私なら、南方仁を再び江戸に戻して、咲と一緒になって「仁友堂」を更に発展させ、現代の医学にも影響をあたえる新たな歴史を作る、というもう一つのパラレルワールドを設定するなあ。
なぜなら、あれほどの動乱の世を生き抜いた南方仁が、この現代で果たして自分の役割に満足するだろうか。動乱の世を生き抜いた記憶は、はかない夢のように消え去ってしまうものだろうか。
それなら、いっそのこと、SFらしくもう一つの理想の世界を作ってみるのがいい、と私は思うのですがねえ。
ともかく、「JIN-仁 -」をTVで観た人ももう一度全話通して見てみるといいかもしれません。
まだの人はぜひ最初から楽しんでくださいませ。面白くて途中で止められなくなるので寝不足には注意を!