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内藤丈草の句鑑賞 《薬の下の寒さ》      高橋透水

2014年10月20日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
はせを翁の病床に侍りて
うづくまる薬の下の寒さ哉    丈草


 芭蕉は、元禄七年十月十二日、大坂の南御堂前花屋仁右衛門の裏座敷で没した。
 前日の十一日夜、死の直前の芭蕉が、病床に馳せ参じた門人達に夜伽の句を勧めた。
 その数日前の芭蕉の言葉は、
 「今日より我が死後の句也。一字の相談を加ふべからず」(『去来抄』)とある。

 其角  〈吹井より鶴を招かん時雨かな〉
 支考  〈しかられて次の間へ出る寒さ哉〉
 去来  〈病人のあまりすゝるや冬ごもり〉


  これらは師芭蕉の病態に接し、皆は心の痛みを抑えながらも、真剣な顔で作句したことだろう。
 一人、これらの門弟から離れ、師の言葉を噛みしめている弟子がいた。丈草である。薬を煎じながらも、師の死が迫っていることは、他の弟子の誰よりも察していた。それでも丈草は師の為に薬を煎じることは止めなかった。
  寒さは部屋の寒さ、体の寒さだけでない。他の弟子があれこれ心配そうな顔を見合ったり、言葉を交わし、さては師の眼鏡に叶う一句を頭で練っているのに、丈草はうずくまって、師の言葉を反芻している。〈うづくまる薬の下の寒さ哉〉と、ため息のように言葉が口に吐かれた。芭蕉の口元が緩んだ。その場にいた皆は、師が満足げに微笑むのを見た。師の言葉は唇を破った。「丈草、でかしたり」


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