青林檎子が食ひ終る母の前 波郷
昭和十年、小川町の馬酔木発行所にゐて、毎日須田町の「萬惣」に珈琲を呑
みに出かけた。「母」が若い美しい母であつたことはいふまでもない。俳句
では斯ういふのも触目吟といふ。
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物語壁炉が照らす卓の脚
紅々と壁炉を焚くような家を訪ふ縁故は作者にはなかつた。神田の「キヤン
ドル」の如き喫茶店で作つた句だらうと思ふ。文学青年とまでもゆかぬ喫茶
青年趣味の句だ。
「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より
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