透水の 『俳句ワールド』

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石田波郷・「波郷句自解」(三十)(三十一)       高橋透水

2014年09月26日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
兄妹の相睦みけり彼岸過       波郷

十五年春。作者は殆ど市井無頼毎晩遅く兄妹語合ふこともなかつた。お彼岸
が来たが東京のアパート暮しで何にもせぬ。然し兄妹久々に共に過し、彼岸
過ぎてもしばらく相睦み合ふのであつた


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 蛞蝓急ぎ出てゆく人ばかり    波郷

駒場の朝。緑の中を勤人が続々と出てゆく。そこらの籬根になめくぢりが道
をつけてあゆむ。別に「蛞蝓若き妻子を遺せし」の句があるが、同じ朝の作
である


「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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石田波郷・「波郷句自解」(二十八)(二十九)      高橋透水

2014年09月22日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
直走る蜥蜴追ふ吾が二三匹       波郷

松の中に角櫓の残つた明石城址での作。大阪の土山一双老と銀座で飲んで
新橋駅に見送りそのまヽ食堂車で飲続けて大阪まで行つてしまつた。序に須
磨明石に遊んで帰郷した。句にはそんな俤は無い。

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 寒椿つひに一日のふところ手      波郷

その頃新宿での酒友小沢不二夫が脚色してムーランルージュに上演された。
左卜全、外崎恵美子等が出演した。作者は脚色者の才に一驚した。


「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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石田波郷・「波郷句自解」(二十六)(二十七)      高橋透水

2014年09月17日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
悉く芝区の英霊木枯れたり       波郷

芝公園所見。蕭々たる合同葬、幾十幾百の英霊は悉く芝区出身のそれぞれあ
る。「悉く」に、季語「木枯れたり」に作者の現実に対する激しい悲しみを
人汲むや否や

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 隙間風兄妹に母の文異ふ       波郷

昭和十四年、前年夏妹真佐子が上京して共に暮した。遥かな伊予の国からの
老母の手紙、一通の封筒の中に、兄と妹に別々の便りは、めんめんとして母
情の限りを尽した。


「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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石田波郷・「波郷句自解」(二十四)(二十五)      高橋透水

2014年09月11日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
椎若葉さやぎさわぐは何念ふか     波郷

昭和十四年初夏相不変の駒場のアパート住ひ。
葛西善蔵に「椎の若葉」といふ短編が心裡に蟠つてゐた。
椎若葉の千態のきらめきもさること乍ら、作者の窮乏と愛欲に追はるゝ心の方が
ぎらぎらと油つぽく輝いて居つた。


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 日宙少女鼓隊の母となる日   波郷

昭和十四年。してみると「難解俳句」とはこの年から言はれ始めたのだ。眼
前鼓笛を鳴らし進む少女の一群、戦争、之等の少女達が母となる日は――、
暴涙な戦争は敗れ去り、然し少女達は、一人残らず健全な母とならんことを作
者は今切に祈る。

「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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石田波郷・「波郷句自解」(二十二)(二十三)       高橋透水

2014年09月06日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史

冬黝き槇電線をふりかぶり     波郷

無情の句、日頃の主情的俳句に飽き飽
きするような虚しい日、無情が心に適
ふ。然しなまじひの主情を圧倒する無
意識が迫る。この句がそれほどの力を
持つか否かは別だが――

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ジヤズ寒しそれをきゝ麺麭を焼かせをり    波郷

長い俳句。然し大した字余りではない、
中八に過ぎぬ。「それをきゝ」が叙法
上の特異点。が、内容は至つて平俗な
市井人の一些事である。「寒し」はジ
ヤズを指してゐるにではない


「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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