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山頭火の一句鑑賞(五)     高橋透水

2014年12月06日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
焼き捨てゝ日記の灰のこれだけか 【二】

  昭和五年四月、一人息子の健が秋田鉱山専門学校に入学してほっとした山頭火は、熊本のサキノのいる「雅楽多」に向かい、しばらく滞在した。しかしまたもや酒に失敗し、自分は乞食以外になれぬと決心して旅にでる。しかもそれまでの日記を焼き捨ててである。
  が、その年の九月十四日の日記には、早くも苦悩の内が見え隠れする。「行乞想があまりよくない、句もできない、そして追憶が乱れ雲のやうに胸中を右往左往して困る。……一刻も早くアルコールとカルモチンとを揚棄しなければならない」と綴ったあとに、自殺未遂の言い訳を述べている。
  そしてその日の乞食記には、「呪ふべき句を」と前書きして〈蝉しぐれ死に場所をさがしてゐるのか〉〈青草に寝ころぶや死を感じつゝ〉など四句を書き留めている。
 過去の清算というが、日記を焼き捨てたことは衝動的な行為だったとも考えられる。後悔したことは「熊本を出発するとき、これまでの日記や手記はすべて焼き捨ヽてしまつたが、記憶に残つた句は整理した」と記していることからも察することができる。
 ここで山頭火の精神状態を見てみたい。時おり見せる異常さで、まず早稲田大学を中退しているが、原因は神経衰弱と思われる。その後に東京の一ツ橋図書館で働いた時も,同様に衰弱状態になり,退職願いを出している。
 酒癖や自殺願望などから総合的に考えると、いわゆる一般の「内因性うつ病」や「喪失うつ病」と異なり、獨協医科大学名誉教授の大森健一氏によれば「内因反応性気分失調症」という概念に入るということだ。更に大森氏によれば、この病状には「心理的な負担が起こるとき、自律神経の失調症が起こる。つまり眠れない、ドキドキするなどの症状が起こってくる」という状態が見られるという。
  要は、山頭火は日記を焼き捨てたからといって、容易く過去が清算出来る精神の持ち主なのではないのだ。後悔しながらも自問自答と求道の旅は死まで続くことになる。


 俳誌「鷗座」2014年、12月号より転載。
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2 コメント

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あけおめ (とも)
2015-01-01 19:24:19
明けましておめでとうございます

今年もよろしくお願いいたします
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本年もよろしくお願いします。 (透水)
2015-01-02 14:12:22
今年は山頭火から三鬼の記事を中心に書きたいと考えています。
返信する

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