故郷忌を人には言はず日暮れぬる 波郷
九月五日は我師五十崎故郷の忌日である。「袴暑し」の句に註した如く五日
は馬酔木の集金日である。残暑の街を誰にも会はず市井を駈廻りつゝ亡師を
思ふ日であつた。
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冬青き松をいつしんに見るときあり 波郷
冬青とか松とか何ら新奇はない。何事かに思ひぞ屈する故に、一本の松を偏
ら凝視するのである。俳句は要するに何事も言へないといふことを知り始め
た頃の句だ。昭和十三年。
「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より
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九月五日は我師五十崎故郷の忌日である。「袴暑し」の句に註した如く五日
は馬酔木の集金日である。残暑の街を誰にも会はず市井を駈廻りつゝ亡師を
思ふ日であつた。
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冬青き松をいつしんに見るときあり 波郷
冬青とか松とか何ら新奇はない。何事かに思ひぞ屈する故に、一本の松を偏
ら凝視するのである。俳句は要するに何事も言へないといふことを知り始め
た頃の句だ。昭和十三年。
「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より
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