旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

香春連峰と水炊きと九州菊と 伊田線・田川線を完乗!

2023-02-11 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

 16:31、勾金駅、画家ミヤザキ ケンスケ氏が描いた下絵に、地元の子どもたちが彩色した車両とすれ違う。
こんな車両がふるさとを走っていたら、なんだか元気をもらえそうな気がするね。

福岡での仕事を終えた金曜日の夕方から、筑豊地方を走る路線に乗って呑んできた。たった1日と少しの時間で
潰せるのだから、嘗てこ地方に網の目のように通っていた鉄路のいかに多くが廃線となったのかが実感される。

昼過ぎの直方駅に戻って来た。チンチン電車を降りた筑豊直方駅からは800mほど離れている。
ふるまち通り〜明治町商店街と2つのアーケードを歩いたけれど、やはりその殆どがシャッターを降ろしていた。
駅へと向かう女子高生たちのお喋りの声が、なんとなく感じる寂しい気持ちを紛らわしてくれる。

土曜の午後、平成筑豊鉄道の伊田線と田川線を乗り通して周防灘に抜けると、この旅の仕上げになる。
キャラクターの「ちくまる」をヘッドマーク代わりに、12:42、2225Dの400形「なのはな号」が出発。

日本各地のローカル鉄道で見かけるこの気動車は全長18.5m、旧国鉄のディーゼルカーより少々短い。
この可愛らしい気動車が只1両でコトコト走っていく情景が、現代のローカル線の代表的な風景かもしれない。

この細く小さな輸送需要に対してまったく不釣り合いなのが伊田線(直方〜田川伊田)の複線だ。
炭鉱全盛の時代には、蒸気機関車が黒煙を吐きながら、長大な貨物列車を牽いて行き来したことだろう。

「壮大なロマンに触れるふたつの鉄道旅」って1日フリーきっぷを握りしめての鈍行列車の旅。
文庫本の一冊、地酒のワンカップでもあれば、こんな旅もまた楽しい。

途中糸田線に寄り道して、金田から乗車した2番手2229Dはマルーン地に金字模様の「へいちく浪漫号」だ。
内装外装をレトロ調にまとめた車両、座席は転換クロスシートで木目調の大型テーブルを備えている。
この快適な車両で行橋まで乗り通したいけれど、ワンカップを1本楽しんだ頃合いに田川伊田で下車しよう。

『香春岳は異様な山である。けっして高い山ではないが、そのあたえる印象が異様なのだ。』
思春期に読んだ五木寛之の小説、冒頭の一節の情景がそこにあった。この風景を見るために旅に出た気がする。

香春岳を背景に屹立する赤煉瓦の煙突が2本、真っ赤に聳えるイギリス様式のバックステイ形竪坑櫓、
炭鉱住宅(復元)など、旧三井田川鉱業所の遺構は田川伊田駅裏の石炭記念公園に見ることができる。

駅前から延びるアーケードの伊田商店街を歩いた。すでに訪ねた後藤寺や直方と同様ここもシャッター通り、
3つの商店街ともに、なぜか共通して呉服屋さんが営業を続けているのは少子高齢化の証左だろうか。

緩いカーブを車体を揺らしてやって来た2231Dは目にも眩しいForest Green、なるほどLINEのラッピングね。

16:24、Forest Greenの行橋行きが田川伊田駅を発つ。すぐに彦山川橋梁を渡って田川線の旅が始まる。
ひとつ目の上伊田駅までは小倉へと抜けるJR日田彦山線と線路を共有している。

のんびり鈍行列車の旅にはどうしても欲しい1本。樽が香るちょっと贅沢なレモンサワーが美味しい。

小さなピークを越えたForest Greenは、夕日を浴びながら、周防灘へ注ぐ今川に沿って激しく車体を揺らす。
旧国鉄田川線もまた、筑豊炭を苅田港などへ運搬するために敷設された歴史を持っている。

冬の弱々しく柔らかな陽が町並みの向こうに沈むころ、Forest Greenの2231Dは行橋駅5番に終着した。
向かい側のホームからは大分へと急ぐ白い特急電車が滑り出す。こうして筑豊の鉄路を呑み潰す旅が終わる。

昔ながらの大衆酒場「百万石」は、地元の方にとても愛されているお店の様だ。
細長いコの字カウンターの長い一辺に一番乗りしたけど、10分も経たないうちに15席のカウンターが埋まる。

鯛、ブリ、ハマチ、タコと平皿にのせて “刺身盛り合わせ”、九州特有の濃口醤油でいただく。美味いね。
そういえば福岡でも食べなかったなぁと思い出して “水炊き” を。ゴロッと大きな鶏肉が柔らかい。
白菜、豆腐、キノコと一緒にポン酢に潜らせていただく、ちょっぴりレモンも絞って美味しく温まる。
さすれば日本酒っと “九州菊”、 沿線はみやこ町、林龍平酒造場の酒、地元オヤジの定番晩酌酒を楽しむ。

この店の名物は “鶏唐揚げ(骨付きの半身揚げ)” みたいだ。お尋ねの際にはぜひ試していただきたい。
賑わいを後に駅に向かう。最終の新幹線に収まるには19:25の小倉行きに乗らないといけない。
炭鉱の栄枯必衰を鉄道と町並みに感じながらの筑豊の旅、その情景と旨い酒肴に触れた週末なのだ。

平成筑豊鉄道・伊田線 直方〜田川伊田 16.1km 完乗
平成筑豊鉄道・田川線 田川伊田〜行橋 26.3km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
想い出がいっぱい 1983



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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (hide39935)
2023-02-11 21:44:50
いいですねえ。一緒に呑みたいです。
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Unknown (馬鹿も一心)
2023-02-12 09:49:43
娘は、香春(かおり)
の名前です。

青春の門から、命名しました。
姓は、菊地です。
綺麗な、氏名でしたが、
結婚して姓が変わり
残念🙍‍♀️
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Unknown (呑み人)
2023-02-12 12:08:04
@hide39935 hide様
こんにちは。九州の酒肴を堪能した旅でした。
hideさんは佐賀ですか。
お住いの地方には、どんな酒肴がおありしょうか。
祐徳稲荷と肥前浜の蔵々は訪ねたことがあります。
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Unknown (呑み人)
2023-02-12 12:14:23
馬鹿も一心様
こんにちは。コメントありがとうございます。
ステキなお名前ですね。
お嬢様を嫁がせる気持ちってどんなでしょうか。
息子しかいない私には想像がつかないです。
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Unknown (散歩人)
2023-02-12 17:15:06
行ったことのない風景ですが、青春の門の一説を思い出しました。
主人公が少年時代に過ごした筑豊の風情は、懐かしい感傷を甦らせてくれ、車窓のサワーの甘酸っぱい味がしました。
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Unknown (呑み人)
2023-02-12 23:23:56
散歩人様、こんばんは。
実は東京を発つ前に、丸善で「筑豊篇」を求めて
筑豊を巡る車中で貪り読みました。
何十年か振りに読む青春の門、新鮮でした。
コメントありがとうございます。
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