白亜のマンション群の中から、まえぶれもなくブルーグリーン3000系の車両が現れた。
無人運転で走る新交通システムの最前列席には子どもたちの笑顔にあふれ、なんだかほっこりした気分になる。
呑み人にとっては30年ぶり?東海道本線のJR住吉駅から人工島・六甲アイランドまで短い旅に出る。
わずかに東海道本線と並走した4両編成のブルーグリーンは、90°のカーブを描くと住吉川に沿って南下する。
海岸線までわずかな距離なのに結構な下り勾配になっている。神戸という街の地形を改めて実感する。
っと、呑み人はクロスシートが温まる間もなくひとつ目の魚住駅に途中下車する。
魚住駅から3分ほど住吉川を遡ると、文豪・谷崎潤一郎旧邸「倚松庵(いしょうあん)」がある。
氏は昭和11〜18年、この松によりかかる庵で、松子夫人と彼女の二人の妹と暮らしている。
庵を拝見する。食堂と応接間と二間つづきの洋室、そこから芝生の庭へと張り出したテラス。
なるほど「細雪」で描かれるシーンが思い起こされる。この旅には書棚の隅から上巻を引っ張り出してきた。
4両編成のブルーグリーンは海に向けてさらに住吉川沿いの傾斜を下って往く。
っが、素直に海を渡れない呑み人は、次の南魚住駅で二度目の途中下車となる。
南魚崎駅の駅名表示板には、大きな仕込み樽が描かれている。ここは灘五郷のうち魚住郷・御影郷に近い。
青空に「菊正宗」の赤いサインが映える。ここを降りて、白鶴、菊正宗、櫻政宗の蔵を巡るのも楽しい。
南魚崎駅を出た4両編成のブルーグリーンは、いよいよトラス式斜張橋・六甲大橋で海に出る。
海まで張り出すかのような六甲山系を背景に2本の赤い主塔が存在感を示しているね。
海面を見下ろす。なぜか貨物船が着船していない埠頭が並び、大型クレーンが寂しそうに佇んでいる。
ファッション美術館と2棟の4つ星ホテルがあるアイランドセンター駅に停まると車内は一気に空いてしまう。
わずかな乗客を運んで、4両編成のブルーグリーンは短い10分の旅を終え、アイランドパーク駅に終着する。
春休みに入っているのだろうか、大学のキャンパスに学生たちの姿は疎だ。
辺りはマンションに囲まれているけれど、こんな風の強い午後は、子どもを遊ばせる若いママたちの姿もない。
人の行き来が少ない近未来的な駅は、寂しさというより、強い孤独感を感じる。
さて、呑み人は南魚崎まで戻って櫻政宗記念館「櫻宴」を訪ねる。17:00にダイニングと呑処が開くのだ。
一枚板のカウンターにハイチェアを並べて、呑処「三杯屋」は案外洒落た空間に仕上がっている。
先ずやや辛の “特撰吟醸” を “さんま蒲焼き” を肴に、芳醇な “吟醸原酒” は “うにとうふ” を舐めながら愉しむ。
この呑処はその名の通り三杯までがお作法。粋に楽しんでサッと辞するのが美しいだろうか。
そういえば、南魚崎駅から櫻宴に向かう住吉川公園では、早咲きの桜がピンクの花弁を鮮やかに開いていた。
桜を愛でて、櫻を呑んで、六甲アイランド線の旅は終わる。明日は「こいさん」に倣って有馬へでも行こうか。
神戸新交通 六甲アイランド線 住吉〜マリンパーク 4.5km 完乗
<40年前に街で流れたJ-POP>
秘密の花園 / 松田聖子 1983
懐かしい場所です。
櫻政宗は母の同級生が経営していました。
谷崎潤一郎旧邸も近くでした。
懐かしい場所をありがとうございました。
こんにちは。メッセージありがとうございます。
海を見下ろし、六甲を見上げて、魚住は閑静ないいところですね。
健太郎様が遊んだ頃は浜があったのでしょうか?
ステキな土地に想い出をお持ちで羨ましいです。