北へ向かう列車の旅は、別離か感傷の情景と相場は決まっている。
さらに夜汽車となればなおさらのことだ。そんな夜行列車は全廃になって久しい。
ならば普通列車を乗り継ぐ過酷な旅は、秋田の酒肴を求め、なまはげの酒場をめざす。
奥羽本線は秋田へ青森へと、そんな夜行列車が何本も走った路線のひとつ。
今では2本のミニ新幹線が割り込んで、軌間の違いから直通する列車はない。
福島駅の5番ホームで寂しげに佇む2両編成431Mで奥羽本線の旅は始まる。
板谷峠を越える普通列車は日に上下6本づつしかないのだ。
置賜盆地は冷たい雨、米沢駅前広場の植込みも冬囲いされ、いずれ訪れる深雪に備える。
2番手の433Mは4両編成の山形行き、幸いにもロングシートの車両は空いている。
六角さんになったつもりでバックから缶ビールを取り出す。プシュって音が車内に響く。
はらはらと時雨が振る山形の街、駅から歩くこと10分「そば処 庄司屋」をめざす。
山形そば屋の隠し酒 "特別純米 五薫"、男山酒造がそば屋だけに卸す特別な酒。
ふわっふわの "厚焼き玉子" はおろし醤油で美味しいアテなのだ。
上品に揚がった地の野菜天は塩かおろしをお好みで、これまた絶好のアテになる。
山形産「でわかおり」を石臼挽きした手打ち "といちそば" の深い甘みをズズっと愉しむ。
3番手の1431Mを降りると新庄駅は雪の中。コンコースの新庄まつりの山車が鮮やかだ。
ピンクのラインがひかれた2両編成はとても残念な車両だ。
風光明媚な地方路線を走るのに無粋なオールロングシート、旅情は台無しになる。
山形から先秋田そして青森まで、このタイプの列車を繋ぐと思うと少々気が重い。
北に向かうにつれ、車窓は白に包まれていく。
4番手の2447Mは、及位(のぞき)~院内の間、まさに山形・秋田県境で停まってしまう。
正確に云うと、立ち往生した上り列車にぴったり横付けして乗客を救援するらしい。
既に駆けつけていた作業員氏らが、電車の屋根に上ってパンタグラフの雪と氷を落とす。
当然に送電は停止され、徐々に凍えていく車内に1時間と15分、でも見守るしかない。
やがて障害は除去され、電車は北へ南へと分かれ行く。 んっ、偶々複線区間で命拾い。
列車は1時間30分の遅れを背負って18:20、とっぷり暮れた秋田駅に辿りつく。
電車は弘前行きに変わり、待ちわびた通勤通学の乗客を呑み込み休む間もない。
一方、吞み人はと云うと10分後、赤々とした囲炉裏のカウンターに席を占める。
ナマハゲが睨みを利かせる「秋田長屋酒場」で、秋田の酒肴を堪能するのだ。
今宵は大仙市の酒で攻める。"刈穂 銀風" は燗良し冷良しの地元オヤジの晩酌の酒。
刺身はマグロ、いなだ、スズキを盛って、名物 "はたはた" は唐揚げでいただく。
(写真ピンボケでした)
二杯目の "やまとしずく" は、香味あざやかで軽快な純米吟醸、これは花冷え位が良いね。
"炙りしめ鯖" を肴にゆるりと呑む。呑むほどに酔うほどに心地よい秋田の夜なのだ。
明日は青森、ホタテで一杯。奥羽本線の旅は続く。
奥羽本線 福島~秋田 298.3km
安奈 / 甲斐バンド 1979