1年が過ぎたころ、Kさんが取り巻き連中と、自治会をつくろうと画策しているという。自治会なんて人間関係のしがらみができるだけだ。Kさんは自分が会長になり、取り巻きそれぞれに役職を与え、自分の思い通りに仕切るつもりらしい。要するにKさんは「お山の大将」になりたいのだろう。
入居者はみんな同じ立場、自由であるはず、リーダーなど必要ない。どうやらみんな反対のようだが、面と向かって反対とはいえないらしい。そこで私は自治会不要の理由を文書にしてホーム長に提示。これを全員に配布、無記名投票で賛成・反対の意見を求めたいと申し出た。ホーム長は了承してくれて、「ここでコピーしたら」と言ってくれたが公私混同はよくない。50枚のコピーは勤務先でやった。
開票集計はホームの事務員さんがやってくれた。もし賛成票が多くて自治会ができたなら、騒がせた責任をとって退所すると決めていた。だがみんなイヤだったようだ。これでKさんも自分の立ち位置が分かっただろうし、ホームの雰囲気が少しよくなったように思えた。
今の私だったら、たとえ自治会ができても入会拒否、無関心でいたかも…。だが自分の意見を言えない気の弱い人たちが、お山の大将にいいようにされるのは我慢できなかった。あの当時はまだ血の気が多かったのだろう。
そして2年が経過、私は毎日ルンルン気分。週に4~5日はバイト。親友と勤務先が一緒なので外食やショッピング、ツアーに参加してあちこちへ行った。休みの日には自転車でスイミングへ、水彩画も習いにいった。またベランダに鉢植えの花を育てた。多い時は40鉢くらいあったか、水やりが大変だった。俗世間にいたとき以上に充実した日々だった。
ある日、姿を見かけなくなった人が何人かいると耳にした。ホームにはいろいろな趣味のサークルがあるし、毎日体操の時間もあるが、参加者は少なかった。ホームの決まりさえ守ればあとは自由だから、一日中何にもしないで部屋に閉じこもっていてもだれも何も言われない。
何もせず閉じこもっていては体力、気力は衰えるし、足腰も弱るだろう。中には認知症の症状がみられる人もいるとか。たった2年の間にこんなに変わるとは…。私だって何年か先には仕事はやめて、遊ぶ元気もなくなってくる。私も同じようになるのかしら? 入居したのが早すぎたかな、と考えるようになった。
ちょうどそんなとき、勤務先の近くに建築中のアパートがあり、内部を見せてもらった。玄関が下にあり、二階へは階段で上がる。1LDKで間取りも気に入った。事務所へ行ってすぐに契約、完成しだい入居することに決めた。
退所するというとみんな驚いていた。5人ほどの親しい人がお別れの食事会を開いてくれた。そして1か月後、新築のアパートへ。3年足らずだったが、いい経験をしたと思う。
65歳で仕事を止めた。パソコンで遊び、三度三度の食事作りが仕事だ。週4回はスイミングへ、水彩画を描いたり、親友と出歩いたり、日々やることはあまり違わないが、食べたいときに食べて、寝たいときに寝るという、ほんとの自由を得た。自由は何物にも代えがたいと実感した。
そのころ、「孤独死」が年々増えていることが社会問題となった。アパートのすぐ前に大家さんが住んでおり、とてもいい人だからそんなことになって迷惑を掛けたくなかった。他人事と思えず、いろいろ考えさせられた。
ある日、ネットで売りマンションの広告をみた。海の前というのが気に入った。見に行って一発で購入を決めた。それが今住んでいるマンションで、今度こそほんとうに終の棲家だ。ここで介護ヘルパーの助けを借りながら、最期まで独り暮らしをやり抜きたいと思う。
長い拙文にお付き合いくださってありがとうございました。
パワーと行動力‼️自立した職業レデイ羨ましいなぁ
一度体験したから、もうホームへ入居しようとは思わなくなりました。十人十色、色々な人がいます。どんなにお金があろうと、しょせん姥捨て山のようなところです。やはり家で好きなように暮らすのが一番です。