1955年制作の映画「慕情」を観ました。主演は、モンゴメリー・クリフトとの共演「終着駅」で知られるジェニファー・ジョーンズと往年の人気スター、ウィリアム・ホールデン。 実は、この名画を観るのは初めて。昔の思い出話になるのですが、中学・高校時代、映画雑誌「スクリーン」を愛読していた時、この「慕情」の特集がもモノクロで紹介されていたものでした。当時の私にとっても、「慕情」というタイトルは古風に感じられたもの。
しかし、ジェニファー・ジョーンズがチャイナドレスを着て、イギリス人と中国人のハーフの女医を演じるという設定や、昔の香港の情景がクローズアップされていて、それが記憶の奥にずっとゆらめいていました。
そして、今回縁あって、四十年ぶりに初見することになったこの映画――とっても良かった! 戦後間もない香港の風景の何ともエキゾチックなこと。そして、ジョーンズ演じヒロインのハン・スーインが働く病院のレトロな感じ. まったく知らない世界に触れたようで、新鮮な驚きでした。
ハン・スーインは中国人の夫を戦争で亡くした後、「医学に情熱を捧げる」人生を生きてきたのですが、そんな彼女の前に現れたのが、アメリカ人の新聞社の特派員マーク。初めは堅苦しいまでに、マークに反発していたハン・スーインですが、徐々に彼に惹かれ始め、病院の裏手にある丘の木の下で待ち合わせをするまでになります。
と、ここまで書くと、本当に古いメロドラマみたいな筋書きになってしまうのですが、そんな甘ったるい情感を吹き飛ばしてしまうのが、ハン・スーインの奇妙な道徳観。 自分はハーフだから、マークの迷惑になるとか、いつかは中国に帰るつもりでいるため、これ以上あなたと会う訳にはいかない、とか夫が亡き後は医師としての本分をまっとうするつもりだとか、お堅いことこの上ないのですが、これはひょっとしたら現代の人間にとっての勝手な感想なのかも。
イギリスの植民地であった香港は、中国と微妙な緊張関係を持っていたはずだし、ハーフへの差別はひどいものだったのかもしれません。本国中国は、共産党が強い力を伸ばしており、古い倫理観を国外の中国人にも押しつけ、国への忠誠を強要しています。その中で、生きていくには、生真面目である必要があったのかも。事実、ハン・スーリンはマークとの関係を理由に、病院を追い出されてしまっています。
しかし、この映画の最大の魅力は、昔の香港の風景! ハン・スーリンとマークが海水浴に行ったシーンがあるかと思えば、何と少し泳いでいっただけの対岸の友人の家にたどり着いてしまうのです。病院の裏の丘から見る香港島の建物群の異国情緒あふれる感じも、心を惹きつけられてしまします。今は、どぎついネオンがキラキラしているような香港も、八十年近く前はこんな風だったのか……。 マーク達二人の背後に漢字の看板が踊り、二人が中国の占いをしたりする場面は、素晴らしく魅力的。
最後、朝鮮戦争を取材に行ったマークは、そこで爆弾に当たり死んでしまいます。その悲報を受け取ったハン・スーリンが、まっさきに向かったのは、あの丘の木の下。そこで、悲しみをこらえて、じっと佇む彼女の姿――しっとりとしていながら、切ないラストシーンでした。
私見ですが、アジア女性を演じたハリウッド女優は、ジェニファー・ジョーンズだけなのでは?
カトリーヌ・ドヌーヴがベトナムを舞台にヒロインを演じた「インドシナ」や、二十代の頃好きだったベトナム映画「青いパパイヤの香り」のシーンも、なぜか懐かしく、思い出してしまいました。
ジェニファー・ジョーンズは、チャイナ服が似合うから、ヒロインに選ばれたと父が話していました。
有名な監督と結婚したのですよね。
ジェニファー・ジョーンズとイングリッド・バーグマンの映画は、父や母がよく観ていたので、私も一緒に観ていました。弟は、映画には関心がなかったです。
「慕情」では、ウイリアム・ホールデンが、戦死した後に、手紙が届くシーンが印象的でした。そして、思い出の丘の上に駆け上がるという演出が、涙を誘います。
「終着駅」も観ているのですが、内容は忘れてしまいました。
「旅情」「逢いびき」「めぐりあい」と母が、好きで、私も中学高校のときに、一緒に観ていました。
多分、淀川長治さんの「日曜映画劇場」のときに、放映されていたのではなかったかと思います。
先日は「舞踏会の手帖」をBSプレミアムで、久しぶりに観ました。私の大好きな映画です。若き日に観て、感動しました。ロマンチックで、青春を振り返るという、私の好きなテーマで、マリー・ベルが綺麗でした。おやすみなさい。
昔の「映画評論家」と言われる方達は、小森和子さんにしろ、水野清郎さんにしろ、「本当に映画が好きで好きでたまらないんだなあ」と感じさせる人ばかりで、その熱っぽい語り方にグイグイ惹きつけられたものでした(今も、映画の批評をする方がたくさんいるのですが、昔みたいな人間臭さや温かみが感じられなくて、具体的な名前も思い浮かびません)
ルーさんのご家族もやっぱり映画がお好きなのですね。(我が家もそうです♬)
「慕情」は古い映画ですが、何ともいえないしっとりした情感が感じられて好きです。「めぐりあい」もデボラ・カーとケーリー・グラントがとても素敵で、好みのどつぼにはまってしまいました(今度、このブログで書こうと思っています)。船旅でロマンスが始まるのが、古き良き時代という感じで、大好きです。
往年のハリウッド映画は、今の若い人にはピンとこないのかもしれませんが、スターがスターらしかった時代で、画面もゆっくりと切り替わるので、余韻がいつまでも残るような気がします。だから、よけい好きなのかもしれません。
今日はクリスマス🎄。どうぞ、ルーさんもよいお年を!