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『島の果て』

2007年02月25日 | 読書日記ー日本
島尾敏雄 (ちくま日本文学全集 所収)

《あらすじ》
《この一文》
”むかし、世界中が戦争をしていた頃のお話なのですが―――


 トエは薔薇の中に住んでいたと言ってもよかったのです。  ”




《あらすじ》をどのように書こうかと悩みましたが、《この一文》を選んでみると、これでもう説明がつくような気がします。こういうお話でした。これは、冒頭の2つの文章ですが、私はこの最初の部分ですでに大変な衝撃を受けています。これは、すごい。この書き出しは、凄い。

総天然色という言葉を私は好きなのですが(要するにカラーということなんですけど)、このお話はとにかく色とりどりで美しいです。美しい南の島に軍隊が駐屯していて、その若い頭目の朔中尉とトエは出会います。あまりに美しい。

もう一方で、この物語があまりに悲しいのは、この島に滞在している軍人たちが、小さな船ごと体当たりして敵を攻撃するということを目的にしているということです。美しい生が輝く世界に置かれた死の集団。彼らはただひたすら死に向かって、その命令が下るのを待って生きています。

主人公の朔中尉という人は、とても孤独な人です。島尾敏雄の作品の主人公は、私が今のところ読んだところではいつも孤独な人ばかりです。いつも周囲になじむことが出来ない孤独で悲しい人物なのですが、とてつもなく美しく魅力的でもあります。独りでいると、悲しいこともあるけれども、世の中の美しいこともより鮮明に目に映るようになるのでしょうか。


この「島の果て」の前に、「格子の眼」「春の日のかげり」というのを読みました。私はこの先に収められた作品も読もうと思いましたが、「島の果て」でもう満腹です。どうしても読めません。今は。
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