(国書刊行会)
《内容》
古本屋で見つけた一冊の本はキリスト生誕以来の歴史を物語る魔法の書物だった。けっして終わりまでたどりつけない不思議な本の物語「魔法の書」。
ミステリ狂の医者が自らの手で完全犯罪を成し遂げようとする。計画通りにすべてが運び、満ち足りた悦びに浸れるはずが……「将軍、見事な死体となる」。
民俗学に興味を持つ中学校の歴史教師がインディオの村から持ち帰ったのは小さな小さな人間の首だった。それを契機に浮かびあがる夫婦の愛憎劇「ツァンツァ」。
そのほか、身体がどんどん軽くなっていく男の話「身軽なペドロ」、天使を素手でつかまえようとする無謀な試みの行く末「手」、人間のようになるために魔法を禁じた妖精の国の話「決定論者の妖精」など、ユニークなアイデアと洗練された語り口で読む者を魅了する作品集。
《収録作品》
*魔法の書
*将軍、見事な死体となる
*ツァンツァ
*亡霊
*船旅
*事例
*身軽なペドロ
*空気と人間
*手
*屋根裏の犯罪
*道
*水の死
*決定論者の妖精
*授業
*ファントマ、人間を救う
*解放者パトリス・オハラ
*アレーホ・サロ、時のなかに消える
*森の女王
*ニューヨークの黄昏
《この一文》
“「いや、何もそんなに驚くことはない」とラビノビッチはひとりごちた。「すべての書物がそういうものではないのか?」言語は、それ自体としては存在しない。存在するのは、それを話す者たちである。書物についてもおなじ。何者かが読みはじめるまでは、それは記号のカオスでしかない。読み手こそが、こんがらがった文字に生命を与えるのだ。
――「魔法の書」より ”
“待てよ。俺も行く。罪というものを作っておきながら、あとでそれを抑えるなんて、文明的じゃないと思っていたんだ。
――「決定論者の妖精」より ”
思ったよりも陰鬱な物語が多かったです。「亡霊」や「授業」といった短篇では、からっとした語り口で生きることの辛さや悲しみ、死の孤独というようなことを語っているので、気持ちが沈んでしかたがありませんでした。読んでいる時、私がちょうど体調を崩していたせいもあるかもしれませんが。
しかし、全体的に幻想的、滑るような勢いのある展開で、飽きさせない一冊だったかと思います。特に表題作の「魔法の書」は傑作ですし、「将軍、見事な死体となる」もかなり面白かったです。
「将軍、見事な死体となる」は、完全犯罪を成し遂げた医師は、フェアプレー精神を発揮して、自らが犯人であることを示すような証拠などもちゃんと残したりしていたのに、謎解きが始まると期待した矢先、事態は思わぬ方向へ進んで……というトホホな感じのお話です。これはかなり面白かったです。かなり皮肉のきつい物語であったかもしれません。殺人事件の謎解きが成立するためには、ある程度その社会が成熟・安定していないとならないともいえるかもしれません。グロテスクな展開には、しかし痺れました!
ゴホゴホと咳をしながら読んだので、あまり頭に入らなかったのが残念です。調子の良い時に読んだら、もっと楽しめたんだろうになぁ。