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『南極の春』

2010年10月02日 | 映像

RUSH HOUR IN ANTARCTICA/54分/フランス(2005)



《内容》
南極大陸の春。アデリーペンギンが生まれ故郷の岩場を目指していっせいにやって来る。ペンギンたちとともに岩場で繁殖するユキドリやオオトウゾクカモメとの生存競争、また広々とした南極の氷の上で子育てをするウェッデルアザラシの春から夏にかけてのドキュメンタリー。




ペンギン映像が好きなので、機会がある毎に見ていますが、このドキュメンタリーはなかなか良かったです。まず、50分強という分量がちょうどいいですし、電子っぽい落ち着いた音楽もいいし、ひたすら静かなナレーションに終始するのもいい、冒頭から繁殖地を目指して駆け足で進むアデリーの足元を執拗に撮影するカメラワークにしても最高です。これは何度も見直したいレベルの秀作ですね。

それにしても、フランス人もペンギンが好きなんだなぁ。私の見ているペンギン映像はフランス物が多し。アナトール・フランスに『ペンギンの島』という小説があるのですが、アデリーペンギンの繁殖地の岩場映像を見るたびに、私はこの小説のことを思い出します。目の不自由な聖マエールがやってきて、人間と間違えてペンギンたちに洗礼をほどこしちゃうんだ。そして素朴で無害な集団であったところのペンギンたちは、ペンギン人となって悲しみの歴史を生み出してゆくのです……

それはともかく、アデリーペンギンの生態を見るのが面白いというのは、やはり人間の生活にも近いところがあるからなんでしょうかね。限られた狭い土地(岩肌の露出している場所は南極の地ではごくわずか)で、巣作りに必要な小石(貴重品)を巡って押し合いへし合い盗み合い、石に気を取られている間に肝心の卵をトウゾクカモメに奪われたりして、もう何が何やら、混乱の極みです。実に人っぽい。


この作品で素晴らしかったのは、アデリーペンギンが広々とした海中を飛ぶように泳いでいる映像が見られたことですね。ペンギンのあの弾丸のような泳ぎを撮影したものは他のところでもよく見られますが、これは特によく撮れていました。少し離れたところから撮影された、ペンギンが群れで泳いでいる映像は非常に幻想的。冷たく厚い氷の下の海は美しい。
アデリーペンギンは繁殖期には岩場で4ヶ月の間競争を繰り広げなければなりませんが、彼らには残りの8ヶ月間、広い広い海での生活もあるのです。いつかこちらの生活を追跡したドキュメンタリーがあったら見てみたいものです。全然違う世界なんだろうなぁ。

また、今回勉強になったのは、ユキドリについて。ユキドリというのはその名の通り雪のようにクチバシと目以外は全身が真っ白い鳥なのですが、巣をめぐっての攻防戦では互いのクチバシを噛み合いながら、同時に口から油分を含んだ悪臭のする液を相手に吹きかけて、たくさん汚したほうが勝利するらしい。負けた方は黄色く汚れて追い払われます。ヒナはふわふわしていて可愛い。



動物の生態を覗いてみると、彼らは彼らの環境やルールのもとで生きたり死んだりしていて、奪ったり傷つけたりすることで多少の悲しみはあっても、正義や悪はないように私には見えます。生きたり死んだりすること自体は、別に善いことでも悪いことでもないように見えます。人間の生き死にも同じでしょうか。それとも彼らにも彼らなりの正義や、悪が、あるのでしょうか、私にはそれが見えないだけで。

ついこんなことを考えてしまいましたが、美しい動物たちの映像を見て、ただそのものを見ずに、いちいち人間の世界のことを当てはめて考えてしまう私の見方は間違っているかもしれません。学ぶところはあるけれど、ひとまずはただそのものを見たらいい。南極は南極のままで。どこか遠い世界のままであってほしい気もする。


というわけで面白かったです。アデリーペンギンは結構足が速いということも、よく分かりました。南極はいい、南極は。







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