ロバート・F・ヤング 伊藤典夫編(河出書房新社)
《収録作品》
*特別急行がおくれた日
*河を下る旅
*エミリーと不滅の詩人たち
*神風
*たんぽぽ娘
*荒寥の地より
*主従問題
*第一次火星ミッション
*失われし時のかたみ
*最後の地球人、愛を求めて彷徨す
*11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス
*スターファインダー
*ジャンヌの弓
《この一文》
“ 妙だな、こんなにも平静に死を受け入れられるとは--ふとそんなことに気づいた。ことによるとそれは、自分がついに一度もほんとうに生きたことがなかったからなのかもしれない。”
「失われし時のかたみ」より
今年の2月に読んだ本の感想を7月に書く…。正直言って、どんなお話だったか覚えていないものもいくつかあります。あらすじを覚えている面白かったという記憶が残る作品についても、どこがどのように面白かったのか、最初の印象はすでにことごとく消え失せてしまっています。こういう状態で感想を書く意味があるのか? ふむ、あまり意味はないでしょうね。でも、せっかくだから書いておきます。2月に読んで以来、「感想を書かなくては」という思いはずっと消えはしなかったのですから。
ロバート・F・ヤングの作品は、これ以前にもいくつかのアンソロジーで読んだことがありました。それが面白かったので、この人の代表作で、有名な『たんぽぽ娘』も読んでみようと思ったのです。この本に収録された作品の雰囲気は様々で、ある場所で出会った男女のシリアスなドラマ「河を下る旅」、「たんぽぽ娘」のようにロマンチックなものもあれば、郷愁のようなものがわきおこる「第一次火星ミッション」、「スターファインダー」のように実験的というのか理解が難しいものもあります。一貫している印象としては、描写がとても鮮やかで、特に色彩が非常に美しいということでしょうか。「たんぽぽ娘」に登場する少女の着ているワンピースの色や素材感「海の泡と綿菓子と雪を混ぜて織りなしたような布」という表現は実に印象的です。
「主従問題」も洒落ていてユーモラスで気に入りましたが、やはり「たんぽぽ娘」は有名作だけあってとりわけ面白かったです。私はこの人の「時があたらしかったころ」(創元SF文庫『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』所収)という作品を先に別のアンソロジーで読んでいたのですが、どうやらこの人のロマンチックSF作品にはひとつの傾向がありますね。素敵な女の子との時空を超えたロマンス。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、主人公と女の子が出会って恋が成就するまでのいきさつの意外性とスピード感が、この人の作品の魅力なのでしょうか。まあ、なんていうか、夢もしくは妄想みたいな展開です。こんな素敵な展開があったらいいなあ! という展開です。そんな都合のいい話があるかよ! って、いいんです、それだからいいんです! あー、私もこんな女の子と恋愛がしたいわ!!
上に引用したのは「失われし時のかたみ」からの一文。「たんぽぽ娘」などに見られるほんわかした雰囲気は影を潜め、ある種の人々の人生に対する態度を皮肉を込めて描いているように感じられました。「河を下る旅」も、結末はまったく違いますが、人生をもっとほんとうに生きるべきだというメッセージを含んでいたのではないかと記憶しています(おぼろげ)。こういうシリアスな作品もなかなかいいですね。
でも、やっぱりロマンチックな作品が読みたい私は、次は「時があたらしかったころ」の長編版が創元SF文庫から出ているそうなので、そっちを読んでみたいと思います!(で、無事に読むことが出来たら、次はそのままの勢いですぐに感想を書いてしまいたい…)
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