とあるスナックで
コー
詐欺の第一段階はわかったと思う。では第二段階。
ここで前の話の、ママと小林君が金細工師の俺のところに金貨を借りに来る話に戻るんだ。
あの時に、俺、すなわち金細工師が金貨そのものをママや小林君に貸し出していれば、もちろん自分の金ではなく人から預かった金貨なんだけど、それは第一段階だよね。
でもあのとき俺は、いったん小林君やママに金貨を渡してすぐにそれを預かって、<預り証>を渡したんだよね。
ママ
そう、でも<預り証>をちゃんと、私に品物を売ってくれた人は受け取ってくれたんだわよね。
コー
そう<預り証>は紙幣として流通していたからね。でも場所によっては、俺の<預り証>は拒否されたかもしれない。<預り証>を受け取る相手が、<預り証>に書いてある俺の名前を見て、この人間は知らないな、またはこいつはちょっと信用ならないな、と思えば受け取りを拒否したと思うよ。
それはどういうことかといえば、ママに品物を売る人の立場で考えてみると、わかると思う。
その<預り証>を見て相手は、この<預り証>に書いてある金額の金貨はちゃんと、金細工師のところに保管してあって、この<預り証>をもっていけば、いつでも金貨と交換できると思うわけだ。
そう思えたらこそ、ママに品物を渡したんだと思うよ。たとえみんなが、<預り証>を持って金貨と交換したいと思っている人間、その全員がいっせいに交換をしにいっても、ちゃんと交換できると思っているわけだ。金細工師は人から預かった金貨をちゃんと保管してそれに手をつけたりしないだろうと思っているから、品物を相手に渡して、<預り証>を受け取るんだと思う。
でもママが持っていった<預り証>はママが俺に金貨を預けたときの<預り証>ではなくて、俺から金貨を借りたときの<預り証>なわけだ。ママは俺に金貨を預けていないんだ。逆に借りているわけだ。
品物をママに売った相手は、<預り証>を見て、その違いがわかるんだろうか。
俺、すなわち金細工師がママと小林君にお金を貸したときのことを思い出してもらいたいんだけど、あの時に俺は金貨を実際に持ってきて、その代わりに<預り証>をそれぞれママと小林君に渡したよね。
要するに金貨は見せ金なんだな。見せるだけで実際は貸し出したときに<預り証>を渡しただけなわけだ。金貨はぜんぜん減らないんだよ。いくらでも渡そうと思えば渡せるし<貸し出し>できるわけだ。
これこそ無からお金を作るということだ。新しいお金が貸出金として無から作られたということだ。
ママ
ちょっと、それって虫が良すぎない、なんかウソみたい。私だってその<預り証>を書いて発行したいわ。コーさんばかりその<預り証>を書けるわけ。ペンと紙さえあればだれだってお金を貸し出せるんじゃない?お金は見せ金なんでしょ。
コー
でもママ、その<預り証>をだれかが持ってきて、金貨と交換してくれといってきたら、ちゃんと交換しなきゃならないんだよ。交換できなかったら、当時だから殺されるかもしれないんだよ、それでもいいの。実際、まとめて<預り証>を持ってこられて金貨と交換できなかった金細工師が、殺されたことがあったみたいだよ。
ママ
そりゃそうでしょうね、当然よ。
コー
だから同じ<預り証>でも、意味が違ったということだと思う。金貨を預かってそれをちゃんと保管して一切手をつけないときの<預り証>と、その金貨を人に貸し出したときや、人にお金を貸し出したときに金貨の代わりに<預り証>を渡したときの<預り証>とは、違うということだ。
はじめの<預り証>は、いつでもしかも全員が一緒に<預り証>を持ってきても当然、私、金細工師は金貨と100%交換しますという<預り証>なわけだ。じっさいそれができる訳だ。
でも後のほうの<預り証>の意味は、多くの<預り証>がいっぺんに持ち込まれて金貨と交換をされた場合、時には後からこられた方は、金貨と交換できない場合があり、2,3日お待ちいただく場合があるかもしれません、またひょっとしたらそのまま交換できない場合があるかもしれませんのでなにとぞご了解してください、という意味の預り証だと思う。
ママ
バカな、そんな<預り証>だれが受け取るの、コーさん。
コー
そうだよね、だれもそんな<預り証>を受け取りたくないよね。不渡り小切手じゃあるまいし。
そうなんだ、この意味で金細工師の行為は、りっぱな<詐欺>だと思うな。<おれおれ詐欺>どころじゃないよ、この詐欺は。
ママ
でもそれがバレて、殺された金細工師がいたんでしょ。そしたらそんなこと止めたんじゃない?それからはないんでしょ? こんなことは。
コー
それが違うんだな。こんなうまい話、儲け話、やめなかったんだな、金細工師たちは。仲間たちで集まってどうしたらいいか、いろいろ相談したんだな。
そして現代、今の時代までつながっているわけだ。
まったく天才だよやつらは。
ママ
うそー、今はちがうんでしょ、コーさん
コー
残念だけどママ、今はもっとすごいことになっているんだ。仕掛けがあまりにも大きすぎてわからなくなっているんだ。
だれもがだまされているということが、わからなくなっているんだ。
残念だけど。
ママ
ウッソー。