(01)
食馬者不知其能千里而食也=
食(馬)者不〔知(其能千里)而食〕也⇒
(馬)食者〔(其能千里)知而食〕不也=
(馬を)食ふ者は〔(其の能の千里なるを)知りて食は〕ざるなり=
馬を飼ふ者は、必ずしも、その馬が千里の馬であることを知った上で、飼ふわけではないのだ。
然るに、
(02)
「xが伯楽である。」ならば、そのときに限って、
「xは、其の(馬yの)能(力)が千里であることを知る。」
といふ風に、「定義」する。
従って、
(01)(02)により、
(03)
③ ある千里の馬yをxが飼ふとしても、そのxは、必ずしも、伯楽であるとは、限らない。
④ 馬を飼ふ者は、必ずしも、その馬が千里の馬であることを知った上で、飼ふわけではないのだ。
に於いて、
③=④ である。
従って、
(01)(02)(03)により、
(04)
① 食馬者不知其能千里而食也。
② ~∀x{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→伯楽x}
③ ある千里の馬yを、xが飼ふとしても、そのxは、必ずしも、伯楽であるとは、限らない。
④ 馬を飼ふ者は、必ずしも、その馬が千里の馬であることを知った上で、飼ふわけではないのだ。
に於いて、
①=②=③=④ である。
然るに、
(05)
(ⅰ)
1 (1)~∀x{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→ 伯楽x} A
1 (2)∃x~{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→ 伯楽x} 1量化子の関係
3(3) ~{∃y[(千里y&馬y)&飼ay]→ 伯楽a} A
3(4) ~{~∃y[(千里y&馬y)&飼ay]∨ 伯楽a} 3含意の定義
3(5) ~~∃y[(千里y&馬y)&飼ay]&~伯楽a 4ド・モルガンの法則
3(6) ∃y[(千里y&馬y)&飼ay]&~伯楽a 5DN
3(7) ∃y[(千里y&馬y)&飼ay] 6&E
3(8) ~伯楽a 6&E
3(9) ~伯楽a&∃y[(千里y&馬y)&飼ay] 78&I
3(ア) ∃x{~伯楽x&∃y[(千里y&馬y)&飼xy]} 9EI
1 (イ) ∃x{~伯楽x&∃y[(千里y&馬y)&飼xy]} 23アEE
(ⅱ)
1 (1) ∃x{~伯楽x&∃y[(千里y&馬y)&飼xy]} A
2(2) ~伯楽a&∃y[(千里y&馬y)&飼ay] A
2(3) ~伯楽a 2&E
2(4) ∃y[(千里y&馬y)&飼ay] 2&E
2(5) ∃y[(千里y&馬y)&飼ay]&~伯楽a 34&E
2(6) ~~∃y[(千里y&馬y)&飼ay]&~伯楽a 5DN
2(7) ~{~∃y[(千里y&馬y)&飼ay]∨ 伯楽a} 6ド・モルガンの法則
2(8) ~{∃y[(千里y&馬y)&飼ay]→ 伯楽a} 7含意の定義
2(9)∃x~{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→ 伯楽x} 8EI
1 (ア)∃x~{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→ 伯楽x} 129EE
1 (イ)~∀x{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→ 伯楽x} ア量化子の関係
従って、
(05)により、
(06)
(ⅰ)~∀x{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→ 伯楽x}
(ⅱ) ∃x{~伯楽x&∃y[(千里y&馬y)&飼xy]}
に於いて、
(ⅰ)=(ⅱ) である。
従って、
(06)により、
(07)
(ⅰ)すべてのxについて、あるyが千里であって、馬であって、xがyを飼ふならば、xは伯楽である。といふわけではない。
(ⅱ)あるxは、伯楽でなく、あるyは、千里であって、馬であって、xはyを飼ふ。
に於いて、
(ⅰ)=(ⅱ) である。
然るに、
(02)(07)により、
(08)
(ⅰ)すべてのxについて、あるyが千里であって、馬であって、xがyを飼ふならば、xは伯楽である。といふわけではない。
(ⅱ)あるxは、伯楽でなく、あるyは、千里であって、馬であって、xはyを飼ふ。
であるならば、いづれにせよ、
(ⅰ)xは、其の(馬yの)能(力)が千里であることを知った上で、yを飼ふのではない。
(ⅱ)xは、其の(馬yの)能(力)が千里であることを知った上で、yを飼ふのではない。
といふ、ことになる。
従って、
(01)~(08)により、
(09)
① 食馬者不知其能千里而食也=
① 食(馬)者不〔知(其能千里)而食〕也⇒
① (馬)食者〔(其能千里)知而食〕不也=
① (馬を)食ふ者は〔(其の能の千里なるを)知りて食は〕ざるなり=
① 馬を飼ふ者は、必ずしも、その馬が千里の馬であることを知った上で、飼ふわけではないのだ。
といふ「漢文訓読」は、
② ∃x{~伯楽x&∃y[(千里y&馬y)&飼xy]}
③ ~∀x{∃y[(千里y&馬y)&飼xy]→ 伯楽x}
といふ「述語論理」に、すなはち、
② あるxは、伯楽でなく、あるyは、千里であって、馬であって、xはyを飼ふ。
③ すべてのxについて、あるyが千里であって、馬であって、xがyを飼ふならば、xは伯楽である。といふわけではない。
といふ「述語論理」に、相当する。
(10)
従って、
(10)により、
(11)
(イ)食(馬)者不〔知(其能千里)而食〕也。
(ロ)食(馬)者不〔知(其能千里)〕而食也。
(ハ)食(馬)者知(其能千里)而不(食)也。
である。
然るに、
(12)
「ド・モルガンの法則」により、
「AとBの、否定」は、
「AでなくてBであるか、BでなくてAであるか、AでもないしBでもない。」である。
従って、
(13)
「AとBの、否定」は、
「AでもないしBでもない。」ではない。
然るに、
(14)
「A=馬を養ふ。」
「B=その能の千里なるを知る。」
とすると、
「A=馬を養ふ者。」 は、当然、
「A=馬を養ふ。」
(12)(13)(14)により、
(15)
この場合の、
「AとBの、否定」は、
「AでなくてBであるか、BでなくてAであるか、AでもないしBでもない。」
といふ「3通り」の内の、
「BでなくてAである。」といふ「1通り」以外は、有り得ない。
従って、
(14)(15)により、
(16)
この場合の、
「AとBの、否定」は、
「BでなくてAである。」、すなはち、
「その能の千里なるを知らずして、馬を養ふ。」といふ、ことになる。
従って、
(11)(16)により、
(17)
(イ)不〔知(其能千里)而食〕也=其の能の千里なるを知りて食はざるなり。
(ロ)不〔知(其能千里)〕而食也=其の能の千里なるを知らずして食ふなり。
の場合は、
(イ)=(ロ) である。
然るに、
(14)により、
(18)
(ハ)知(其能千里)而不(食)也=その能の千里なる知りて、食はざるなり。
の場合は、
「BであってAでない。」といふ、ことになる。
従って、
(16)(17)(18)により、
(19)
(イ)不〔知(其能千里)而食〕也=「BでなくてAである。」
(ロ)不〔知(其能千里)〕而食也=「BでなくてAである。」
(ハ)知(其能千里)而不(食)也=「BであってAでない。」
である。
従って、
(19)により、
(20)
(イ)不〔知(其能千里)而食〕也=「BでなくてAである。」
(ロ)不〔知(其能千里)〕而食也=「BでなくてAである。」
(ハ)知(其能千里)而不(食)也=「BであってAでない。」
に於いて、
(イ)=(ロ) であるが、
(ロ)=(ハ) ではない。
従って、
(20)により、
(21)
(イ)不〔知(其能千里)而食〕也=「BでなくてAである。」
(ロ)不〔知(其能千里)〕而食也=「BでなくてAである。」
(ハ)知(其能千里)而不(食)也=「BであってAでない。」
に於いて、「それぞれ、意味が違ってくる。」といふ。わけではない。
従って、
(10)(21)により、
(22)
「中西清、漢文研究、昭和31年、292頁」にある、中西先生の「説明」は、「マチガイ」である。
従って、
(10)(21)(22)により、
(23)
(イ)下 二 一 上
(ロ)レ 二 一
といふ「返り点」は、「両方とも、正しい」。
然るに、
(24)
◆ 不下 知二 其能千里一 而食上 也 この句は、別に、
「不レ 知二 其能千里一 而食也」と返り点をつけて「その能の千里なるを知らずして食ふなり。」(=その能力が千里もあるのを知らずに養っている。)と訓読することができる。例文の場合、書き下し文だけを読むと、
「知二 其能千里一 而不レ食也」(その能力が千里もあることを知りながら養わない。)と混同するおそれがあるのでじゅうぶんに注意しなければならない(赤塚忠・遠藤哲夫、漢文の基礎、1972、156頁)。
といふ「説明」は、「正しい」。