間ノ岳から北岳へ ゆったりとした間ノ岳山頂 奥は塩見岳、荒川岳
ヒトは未熟児として生まれ、成熟するまでの膨大な時間を共同体の中で過ごす。
共同体に備わっていた保育力がそれを担保してきたことを前回まで述べてきた。
で、近代学校ができ、都市化が進んで共同体の存在が希薄になると保育は意識してつくり上げるものにならざる得なくなった。
それはきっと発達心理学に知見を求めた保育所のノウハウにあるのではないか。
そのノウハウを担保しているのが日本の場合児童保護法である。
この法律は、戦災孤児が社会問題化していた昭和22年からスタートする。
そして、待機児童問題が話題になりだしたころの平成28年の改訂にそって、現行の「保育所保育指針」ができた(平成30年)。
生い立ちの背景も所管(厚生労働省)も異なるこの指針は、学習指導要領と趣を異にする。
これまで不勉強で触れることのなかった保育の言葉にふれてみたい。
指針の冒頭、総則から、
保育所の役割について
ア 保育所は、児童福祉法(昭和22年法律第164号) 第39条の規定に基づき、保育を必要とする子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することにもっともふさわしい生活の場でなければならない。
さすがに冒頭、散文的だが、「保育所保育指針解説」によると、
「子どもの最善の利益」については、平成元年に国際連合が採択し、平成6年に日本政府が批准した「児童の権利に関する条約」で大人の利益が優先されることへの牽制や子どもの人権を尊重することの重要性を述べているという。
また、「もっともふさわしい生活の場」とは、平成28年に改正された児童福祉法の「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活が保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」と定められたことに基づいているという。
それにしても、晴ればれと人道的で、省庁発行の解説書にして「愛され、保護され」「健やかな生徒及び発達並びにその自立」という感性や一般の道理に即して表現がされている印象を受ける。
そして、次項
イ 保育所は、その目的を達成するために、専門性を有する職員、家庭と緊密な連携の下に、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている
と踏み込む。
保育は保育者の研鑽だけでなく、家庭との連携、環境設定、そして発達過程を個に応じて見よという。
すなわち、ある時点で何かがが「できる、できない」といったことで発達を見ようとする画一的な捉え方ではなく、それぞれの子どもの育ちゆく過程の全体を大切にしようとする考えかたである。そのため「発達過程」という語を用いている。(解説から)
また、この理念の段階から早くも「養護及び教育を一体的に行うこと」が(保育所の)特性という。そのことを解説書では、
自分の存在を受け止めてもらえる。保育士等や友達との関係した関係の中で、自ら環境に関わり、興味や関心を広げ、様々な活動や遊びおいて心を動かされる豊かな体験を重ねること通して、資質・能力は育まれていく。
乳幼児期の発達の特性を踏まえて、養護と教育が一体的に展開され、保育の内容が豊かにに繰り広げられていくためには、子どもの傍にある保育士等が子どもの心を受け止め、応答的なやりとりを重ねながら、子どもの育ちを見通して援助していくことが大切である。このような保育士等の援助や関わりにより、子どもがありのままの自分を受け止めてもらえることの心地よさを味わい、保育士等への信頼を拠りどころとして、心の土台となる個性豊かな自我を形成していく。(解説から)
といっている。
そして、保育の目標、
保育所は、子どもが生涯にわたる人間形成にとって、極めて重要な時期に、その生活時間の大半を過ごす場である。このため、保育所の保育は、子どもが現在を最もよく生き、望ましい未来を作り出す力の基礎を養うために、次の目標を目指して行わなければならない。
として、そのあとに養護の6つの目標がくる。(次回、ふれます)
保育所というと託児所(子どもを預かるところ)のイメージと重なるが、もっとずっと理想が高いのである。
乳幼児期は、生涯にわたる人間形成にとって極めて重要な時期である。保育所は、この時期の子どもたちの「現在」が、心地よく、生き生きと幸せなものとなるとともに、長期的視野を持ってその「未来」を見据えたとき、生涯にわたる生きる力の基礎が養われることを目標として、保育を行う。その際、子どもの現在のありのままを受け止め、その心の安定を図りながらきめ細かく対応していこうと思い、一人一人の子どもの可能性や育つ力を認め、尊重することが重要である。
(解説から)
これも何度も読み返すべき優れた文章で補足しているのである。
以上が、保育所保育指針の総則のはじめの部分の抜粋である。
学習指導要領になれているものとしては、いかにも率直な児童福祉のありようが新鮮に感じる。また、発達心理学からの所見もふんだんにみられ、子どもの成長・発達を直視しようとする記述には共感するところが大きい。
それに比して、同じ児童期の子どもたちの通う小学校の指導要領には、特別支援教育の記述は加筆されたものの、児童期の子どもたち一般への児童福祉的な記述が極端に少ない印象が否めない。
とにかく、各論ともいえる「各教科」「特別の教科 道徳」「外国語」「総合的な学習の時間」「特別活動」の内容・方法が圧倒的で児童の側の認識については書く余裕がないといった印象をうける。
もっともナショナルカリキュラムたる指導要領が対象年齢もことなる保育指針と比較検討すること自体厳密には誤りなのだが。
さて、こうした理念に基づいて、次回は、保育の核心「養護及び教育を一体的」な保育の内容を見ていく。「各教科」をもたない保育の世界ではどんなことを「内容」とするのだろう。
※ 「保育所保育指針解説」を参考にしましたが、学校職員の中では話題になりにくいこの本が実は実用書的に参考になります。基本は定型発達の幼児を想定していますが、改めて発達の筋道を確認でき、特別支援教育の自立活動の在り方を考えるのにも有効に思います。
ヒトは未熟児として生まれ、成熟するまでの膨大な時間を共同体の中で過ごす。
共同体に備わっていた保育力がそれを担保してきたことを前回まで述べてきた。
で、近代学校ができ、都市化が進んで共同体の存在が希薄になると保育は意識してつくり上げるものにならざる得なくなった。
それはきっと発達心理学に知見を求めた保育所のノウハウにあるのではないか。
そのノウハウを担保しているのが日本の場合児童保護法である。
この法律は、戦災孤児が社会問題化していた昭和22年からスタートする。
そして、待機児童問題が話題になりだしたころの平成28年の改訂にそって、現行の「保育所保育指針」ができた(平成30年)。
生い立ちの背景も所管(厚生労働省)も異なるこの指針は、学習指導要領と趣を異にする。
これまで不勉強で触れることのなかった保育の言葉にふれてみたい。
指針の冒頭、総則から、
保育所の役割について
ア 保育所は、児童福祉法(昭和22年法律第164号) 第39条の規定に基づき、保育を必要とする子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することにもっともふさわしい生活の場でなければならない。
さすがに冒頭、散文的だが、「保育所保育指針解説」によると、
「子どもの最善の利益」については、平成元年に国際連合が採択し、平成6年に日本政府が批准した「児童の権利に関する条約」で大人の利益が優先されることへの牽制や子どもの人権を尊重することの重要性を述べているという。
また、「もっともふさわしい生活の場」とは、平成28年に改正された児童福祉法の「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活が保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」と定められたことに基づいているという。
それにしても、晴ればれと人道的で、省庁発行の解説書にして「愛され、保護され」「健やかな生徒及び発達並びにその自立」という感性や一般の道理に即して表現がされている印象を受ける。
そして、次項
イ 保育所は、その目的を達成するために、専門性を有する職員、家庭と緊密な連携の下に、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている
と踏み込む。
保育は保育者の研鑽だけでなく、家庭との連携、環境設定、そして発達過程を個に応じて見よという。
すなわち、ある時点で何かがが「できる、できない」といったことで発達を見ようとする画一的な捉え方ではなく、それぞれの子どもの育ちゆく過程の全体を大切にしようとする考えかたである。そのため「発達過程」という語を用いている。(解説から)
また、この理念の段階から早くも「養護及び教育を一体的に行うこと」が(保育所の)特性という。そのことを解説書では、
自分の存在を受け止めてもらえる。保育士等や友達との関係した関係の中で、自ら環境に関わり、興味や関心を広げ、様々な活動や遊びおいて心を動かされる豊かな体験を重ねること通して、資質・能力は育まれていく。
乳幼児期の発達の特性を踏まえて、養護と教育が一体的に展開され、保育の内容が豊かにに繰り広げられていくためには、子どもの傍にある保育士等が子どもの心を受け止め、応答的なやりとりを重ねながら、子どもの育ちを見通して援助していくことが大切である。このような保育士等の援助や関わりにより、子どもがありのままの自分を受け止めてもらえることの心地よさを味わい、保育士等への信頼を拠りどころとして、心の土台となる個性豊かな自我を形成していく。(解説から)
といっている。
そして、保育の目標、
保育所は、子どもが生涯にわたる人間形成にとって、極めて重要な時期に、その生活時間の大半を過ごす場である。このため、保育所の保育は、子どもが現在を最もよく生き、望ましい未来を作り出す力の基礎を養うために、次の目標を目指して行わなければならない。
として、そのあとに養護の6つの目標がくる。(次回、ふれます)
保育所というと託児所(子どもを預かるところ)のイメージと重なるが、もっとずっと理想が高いのである。
乳幼児期は、生涯にわたる人間形成にとって極めて重要な時期である。保育所は、この時期の子どもたちの「現在」が、心地よく、生き生きと幸せなものとなるとともに、長期的視野を持ってその「未来」を見据えたとき、生涯にわたる生きる力の基礎が養われることを目標として、保育を行う。その際、子どもの現在のありのままを受け止め、その心の安定を図りながらきめ細かく対応していこうと思い、一人一人の子どもの可能性や育つ力を認め、尊重することが重要である。
(解説から)
これも何度も読み返すべき優れた文章で補足しているのである。
以上が、保育所保育指針の総則のはじめの部分の抜粋である。
学習指導要領になれているものとしては、いかにも率直な児童福祉のありようが新鮮に感じる。また、発達心理学からの所見もふんだんにみられ、子どもの成長・発達を直視しようとする記述には共感するところが大きい。
それに比して、同じ児童期の子どもたちの通う小学校の指導要領には、特別支援教育の記述は加筆されたものの、児童期の子どもたち一般への児童福祉的な記述が極端に少ない印象が否めない。
とにかく、各論ともいえる「各教科」「特別の教科 道徳」「外国語」「総合的な学習の時間」「特別活動」の内容・方法が圧倒的で児童の側の認識については書く余裕がないといった印象をうける。
もっともナショナルカリキュラムたる指導要領が対象年齢もことなる保育指針と比較検討すること自体厳密には誤りなのだが。
さて、こうした理念に基づいて、次回は、保育の核心「養護及び教育を一体的」な保育の内容を見ていく。「各教科」をもたない保育の世界ではどんなことを「内容」とするのだろう。
※ 「保育所保育指針解説」を参考にしましたが、学校職員の中では話題になりにくいこの本が実は実用書的に参考になります。基本は定型発達の幼児を想定していますが、改めて発達の筋道を確認でき、特別支援教育の自立活動の在り方を考えるのにも有効に思います。