間ノ岳から北岳へ 標高2200mまで降りてきた白根御池 写真右側が下ってきた急坂”草すべり”
未熟児として生まれる人類は、他者からのケアや教育なしには成熟できない。
このことは何度か述べた。
ところが近代になり国民教育が徹底される一方で、近年自然な形の教育力の源であった地域社会、そして家庭がそれを担いきれないようになってきている。
教育の担い手は、学校であり、学習塾であり、習い事と言った場所に移ってきて、不足が現れてきて児童福祉の方向からフォローが急がれている。
一方で、自然状態の子どもは、人生の土台を作りうる子どもらしいさを守られる場と時間が当然いるのである。
ところが学校はじわりじわりと新しいフェーズの入ろうとしている。
「ヒトは脳の機能を体の外に持ち出すようになった」と言ったのは、人類学者の山極寿一さんだが、学校でも全員にパソコンを配布し、持ち出した「脳」とのやり取りの練習を行うようになった。それが世界の標準であるという。
その一方で、当然維持されるべきもの、「子どもの時代の時間」とか「かけがえのない時間」と言ったりもするネイチャーとしての人間のケアや教育はどう担保されるのだろう。
急速なAI化と子どもがそだつ家庭や地域といった末梢組織に弱さが目につくようになって、実際の教育や環境づくりの方向がこれで大丈夫であると誰もが言いきれないまま進んでいる。
では、そのネイチャーとしての人間のケアや教育は、組織化された社会の仕組みの中で、醸成できるものなのだろうか。
その答えは、特別支援教育の中に、福祉的な対応の努力の中にその知恵が見出せるのかもしれない。
そんな関心で、前回まで厚生労働省の出している「保育所保育指針解説」の中から、日本の保育の理念と仕組みを学んできた。
そして、次に、この本質的な問題を世界の保育はどう捉え実践していこうとするのか、子どもの側の成長・発達の必要性に沿った各国の実践を見に行こうと思う。
この保育のあり方は、各国の保育所の理念やその形成過程にもあろうし、行政的な政策の工夫の中にもみられるかもしれない。あるいは評価や監督といった管理の面、さらには実際の担い手の育成にも表れることもあるだろう。
そしてその中には発達心理学の進展も尊重されているはずである。
こんな連立方程式を解くようにして各国がどんな取り組みをしているのかをテキストから学んでいこうと思う。
テキスト:秋田喜代美/古賀松香『世界の保育の質評価‐制度に学び、対話を開く‐』明石書店
この本の中には、9カ国の保育制度や保育の質を維持するための仕組みが紹介されている。それぞれの国情に詳しい研究者が執筆しており、充実した内容になっている。
この中から、以前に紹介したOECD Edukation2030プロジェクトでも、まとまった政策を提案していたニュージーランドの保育を最初に見に行こう。
1 ニュージーランド
ニュージーランドの保育の理念を明確にしたのは1996年のことだという。
下図がその理念をイメージした絵である。テ・ファリキという。
このニュージーランドにおいても、長年の間保育に目標は存在しなかったという。
そして「バランスのとれた発達を促すためには、子守ではなく教育が必要である」として、およそ30年前にテ・ファリキは策定された。
テ・ファリキとは、織物を意味する先住民マオリの言葉で、4つの原理と5つの領域が折り合わされる形で、保育は編まれていくという。
図の右下の4つを「原理」と言う。
カリキュラムの意思決定の土台となり、教授法と実践のすべての側面を導くものである。
・エンパワメント:乳幼児教育カリキュラムは、学びや成長する権利を子どもに与える。
・ホリスティックな発達:乳幼児教育カリキュラムは、子どもが学び、成長する全体的な方法を示す
・家庭と地域:家庭や地域といった広範な世界は、幼児教育カリキュラムに不可欠な要素である。
・関係性:子どもたちは、人や場所、物との相互的で、相恵的な関係を通して学ぶ。
原理の最初に掲げられのがエンパワーメントである。子どもに還元されることを明確にしつつ、それが子どもの全体像を見失わないようなバランスで行われることをホリスティックで表している。そして保育は家庭と地域とともにあることの確認。そして子どもたちは人、場所、物との関係性の中で相恵的に成長するものだという。
そして、右上にある5つが「領域」と呼ばれる部分である。
支援の仕方の焦点のあて方が領域である。
・ウェルビーイング:子どもの健康及び幸福が保障され育まれる。
・所属:子どもやその家族が所属意識を持つ。
・貢献:学びの機会は平等であり、一人ひとりの子どもの貢献が評価される。
・コミュニケーション:子ども自身や他の文化の言葉や表象が推進され、保護される。
・探求:環境の能動的な探求を通して、子どもは学ぶ。
原理に向かうための条件領域として、ウエルビーイングの感覚、子ども自身の所属感、受け止められている貢献の感覚、それぞれの価値観の尊重、そしてこの領域の中に「探究」を入れ、子どもの能動的な探究を歓迎しているのである。
そして、この理念が日々の保育に浸透される方法として(有名らしい)ラーニング・ストーリーという実践ツールが活用される。
理念と実践をつなぐものとしてこれがどんな効果を生むのだろう。
未熟児として生まれる人類は、他者からのケアや教育なしには成熟できない。
このことは何度か述べた。
ところが近代になり国民教育が徹底される一方で、近年自然な形の教育力の源であった地域社会、そして家庭がそれを担いきれないようになってきている。
教育の担い手は、学校であり、学習塾であり、習い事と言った場所に移ってきて、不足が現れてきて児童福祉の方向からフォローが急がれている。
一方で、自然状態の子どもは、人生の土台を作りうる子どもらしいさを守られる場と時間が当然いるのである。
ところが学校はじわりじわりと新しいフェーズの入ろうとしている。
「ヒトは脳の機能を体の外に持ち出すようになった」と言ったのは、人類学者の山極寿一さんだが、学校でも全員にパソコンを配布し、持ち出した「脳」とのやり取りの練習を行うようになった。それが世界の標準であるという。
その一方で、当然維持されるべきもの、「子どもの時代の時間」とか「かけがえのない時間」と言ったりもするネイチャーとしての人間のケアや教育はどう担保されるのだろう。
急速なAI化と子どもがそだつ家庭や地域といった末梢組織に弱さが目につくようになって、実際の教育や環境づくりの方向がこれで大丈夫であると誰もが言いきれないまま進んでいる。
では、そのネイチャーとしての人間のケアや教育は、組織化された社会の仕組みの中で、醸成できるものなのだろうか。
その答えは、特別支援教育の中に、福祉的な対応の努力の中にその知恵が見出せるのかもしれない。
そんな関心で、前回まで厚生労働省の出している「保育所保育指針解説」の中から、日本の保育の理念と仕組みを学んできた。
そして、次に、この本質的な問題を世界の保育はどう捉え実践していこうとするのか、子どもの側の成長・発達の必要性に沿った各国の実践を見に行こうと思う。
この保育のあり方は、各国の保育所の理念やその形成過程にもあろうし、行政的な政策の工夫の中にもみられるかもしれない。あるいは評価や監督といった管理の面、さらには実際の担い手の育成にも表れることもあるだろう。
そしてその中には発達心理学の進展も尊重されているはずである。
こんな連立方程式を解くようにして各国がどんな取り組みをしているのかをテキストから学んでいこうと思う。
テキスト:秋田喜代美/古賀松香『世界の保育の質評価‐制度に学び、対話を開く‐』明石書店
この本の中には、9カ国の保育制度や保育の質を維持するための仕組みが紹介されている。それぞれの国情に詳しい研究者が執筆しており、充実した内容になっている。
この中から、以前に紹介したOECD Edukation2030プロジェクトでも、まとまった政策を提案していたニュージーランドの保育を最初に見に行こう。
1 ニュージーランド
ニュージーランドの保育の理念を明確にしたのは1996年のことだという。
下図がその理念をイメージした絵である。テ・ファリキという。
このニュージーランドにおいても、長年の間保育に目標は存在しなかったという。
そして「バランスのとれた発達を促すためには、子守ではなく教育が必要である」として、およそ30年前にテ・ファリキは策定された。
テ・ファリキとは、織物を意味する先住民マオリの言葉で、4つの原理と5つの領域が折り合わされる形で、保育は編まれていくという。
図の右下の4つを「原理」と言う。
カリキュラムの意思決定の土台となり、教授法と実践のすべての側面を導くものである。
・エンパワメント:乳幼児教育カリキュラムは、学びや成長する権利を子どもに与える。
・ホリスティックな発達:乳幼児教育カリキュラムは、子どもが学び、成長する全体的な方法を示す
・家庭と地域:家庭や地域といった広範な世界は、幼児教育カリキュラムに不可欠な要素である。
・関係性:子どもたちは、人や場所、物との相互的で、相恵的な関係を通して学ぶ。
原理の最初に掲げられのがエンパワーメントである。子どもに還元されることを明確にしつつ、それが子どもの全体像を見失わないようなバランスで行われることをホリスティックで表している。そして保育は家庭と地域とともにあることの確認。そして子どもたちは人、場所、物との関係性の中で相恵的に成長するものだという。
そして、右上にある5つが「領域」と呼ばれる部分である。
支援の仕方の焦点のあて方が領域である。
・ウェルビーイング:子どもの健康及び幸福が保障され育まれる。
・所属:子どもやその家族が所属意識を持つ。
・貢献:学びの機会は平等であり、一人ひとりの子どもの貢献が評価される。
・コミュニケーション:子ども自身や他の文化の言葉や表象が推進され、保護される。
・探求:環境の能動的な探求を通して、子どもは学ぶ。
原理に向かうための条件領域として、ウエルビーイングの感覚、子ども自身の所属感、受け止められている貢献の感覚、それぞれの価値観の尊重、そしてこの領域の中に「探究」を入れ、子どもの能動的な探究を歓迎しているのである。
そして、この理念が日々の保育に浸透される方法として(有名らしい)ラーニング・ストーリーという実践ツールが活用される。
理念と実践をつなぐものとしてこれがどんな効果を生むのだろう。